ランディア大平原の決戦 戦場を走る雷光
イゼルが危惧した通り、シルメア軍右翼には多数の敵が迫り、激戦の最中であった。オルグの隊の連携でなんとか数体の人造兵を撃破したものの、戦線全体は押されつつあった。その流れを変えたのは、魔獣兵を撃退してそのまま右翼の戦場に突入した餓狼兵たちであった。
「あれは、ジルヴァ将軍か! 将軍がこちらに来られたということは……左の方の敵は撃退できたのだな。それ、皆ふんばりどころじゃ!」
オルグが味方を激励した。狼騎兵の援軍に右側を守るシルメア軍はなんとか息を吹き返した。
しかし戦況は決して芳しくなかった。右翼の防衛にジルヴァらの隊も加わり、それでもやっと拮抗といったところであった。とてもではないが、戦線を押し返すまでには至っていない。その理由は、餓狼兵は先の魔獣兵との交戦で負傷している者が多く、その動きが鈍かったためだ。
一方メルフェト軍内に切り込んでいるアルジュラらが戦う戦場では、アルジュラを先頭に突撃する狼騎兵を止めようと兵達が殺到していた。
「こいつが"穿ち姫"か、なんとしても止めなければ、メルフェト様が危うい!」
アルジュラたちは次々と帝国兵を屠っていたが、その物量に苦戦し、進軍の足を止めていた。
「アルジュラ様! ナガト様より、新兵器での攻撃を行うので一度退避してくださいとのことです」
「新兵器? 聞いてはいないが……巻き添えを食いかねないということか。分かった。一度後退する」
アルジュラは戦闘を解いて左方向に移動した。するとそこには、メルフェト軍へ突撃の構えをとった魔鉱人造兵の姿があった。
「これは……シルメアも人造兵を開発していたのか。ナガト殿もやるではないか」
「アルジュラ様! お待たせしてしまって申し訳ありません」
アルジュラのもとに狼騎兵本隊を率いたイゼルが合流した。イゼルはジルヴァと分かれた後、ただちに本陣に突入したアルジュラを追っていた。その途中で味方本陣より魔鉱人造兵の攻撃軌道から退避するよう通達をうけ、同じく退避するアルジュラと同じく戦場左端方向へ部隊を移動させたのであった。
「まもなく攻撃が開始されるそうだ。こいつが突っ込めば、帝国軍も大打撃だろう。しかし上手く利用すれば、私たちも……」
アルジュラとイゼルは小声で方針を打ち合わせた。
「ナガト様! すべての味方の後退が完了しました!」
「分かりました。ヴィラ様、魔鉱人造兵に再び突撃命令を! 目標はメルフェト軍本陣です!」
ヴィラたち神官兵が再び魔力をこめると、魔鉱人造兵は再び稼働し、メルフェト軍に向かって猛進した。立ちはだかる兵達はことごとく挽き倒され、瞬く間に魔鉱人造兵はメルフェト軍本陣の眼前に迫った。
「メルフェト様、敵が人造兵らしきものをこちらに向けて突撃させてきます! 味方の被害甚大です!」
「我々の技術を模倣されるとは、不愉快な! しかし奴らは魔力核の技術を持っていない以上、自律行動しているのではなく、あくまで魔力で操作されているだけのはずだ……ここは私に任せよ! 兵たちは敵の人造兵の動線からは退避するのだ!」
メルフェトの指示で、帝国兵が魔鉱人造兵の正面から退避した。それにより、メルフェトの元へ通じる道ができた。ここが好機とみて魔鉱人造兵はメルフェトのもとに迫るが、メルフェトを視界にとらえたところで、彼の持つ杖が青く光る。
「雷魔法!」
瞬間、激しい電流がメルフェトの手から放射され、魔鉱人造兵を襲った。電流は魔鉱人造兵のなかを流れ、魔力の伝導を遮断した。電撃を浴びたことですべての魔鉱人造兵の足は止まり、その速度の勢い余って地面に激突した。
「これで奥の手は尽きたであろう。あとは本陣をなぶるだけよ……!」
メルフェトは余裕の言葉を放ったのもつかの間、彼はたちまち表情を変えた。動きをとめた魔鉱人造兵の背後から、アルジュラたち狼騎兵が姿を現したのである。
「こいつらがただ突進しただけだと思ったか? 利用しない手はない!」
狼騎兵は突進する魔鉱人造兵の背後に潜り込むこみ盾とすることで、メルフェト軍の喉元まで迫ることに成功した。
「うわああ、"穿ち姫"だ……!」
「あわてるな、大した数ではない! ものども討ち取れ。!」
メルフェトは本陣の兵力を集中させ、アルジュラたちにぶつけた。狼騎兵にとってはここ一番のふんばり所であるが、メルフェト軍の決死の抵抗によって最後の進軍を阻まれた。
「焦らせおって……たしかこやつらがシルメア軍の主力のはず。どうやらここまでのようだな……!」
しかし再度メルフェトに危機が迫る。逆方向からジェノンとケイレスの部隊が切り込んできたのである。対シルメア軍に戦力を集中させすぎた結果、バルディア軍の騎兵が突入する隙を作ってしまっていたのだ。
「いやはやシルメア軍もすごい兵器を開発したものだ。だいぶ注意を引いてくれて助かったよ」
「ケイレス殿、もはやメルフェトの首は目前! ただちに討ち取りましょう!」
「ついにここまで来たなジェノン君……バルディア殿に最高の手土産ができそうだな!」
バルディアは自らはセスメントの軍をけん制しつつも、ケイレスとジェノンら騎兵隊をメルフェト軍の周囲に張り付けていた。彼らは魔鉱人造兵の攻撃とアルジュラの攻勢で崩れかかっているメルフェト本陣にとどめを刺すべく、騎兵隊を突撃させた。メルフェト軍はわずかな守備隊が応戦をはじめるも、無残にも敗退。本陣陥落は目前であった。
メルフェト本陣にアルジュラら狼騎兵とケイレス、ジェノンらの騎兵隊が迫る。このまま本陣陥落は成るか……? 次回に続きます。




