ランディア大平原の決戦 起動する魔鉱人造兵
「至急です! 左の戦場に異形の魔獣が多数現れました! 我ら狼騎兵の槍では歯が立たず、イゼル様は一時後退するとのことです」
僕とリリアスのもとに、魔獣兵出現について火急の報が飛び込んできた。
「まだメルフェト軍は、私たちの知らない兵器を隠していたということか……魔獣たちは一旦イゼル様が引き付けてくれているのですね?」
僕は状況について確認した。
「幸い魔獣たちの脚はそれほど早くないと。しかしその攻撃力は驚異的です。さらに生命力も尋常ではなく、我らの槍で急所を貫いても、ものともしませんでした」
シルメアが誇る狼騎兵の攻撃でも効果がないとなると、事態は深刻である。リリアスも戦況を理解した上で、僕に問いかけてくる。
「分かりました。魔獣の対策も必要ですが、イゼルたちが離脱した今、こちらの左側ががら空きですね。敵は間違いなく狙ってくるはず……ナガト様、どうなさいますか?」
「ほとんどの戦力を前線に集中さえていますので、あまりこちらの本陣に余力はありませんが……奥の手は敵だけではありません。こちらも切り札を出します」
「ナガト様が以前構想を話してくださったあれですか? 動かせるのですか?」
「いきなりの実戦試験になりますが、やるしかないでしょう……! 補給部隊から例のものを運んでください。それから、前線からヴィラたち神官兵を呼び戻してください!」
シルメア軍は後方の物資に忍ばせていた、とある兵器を本陣の前面に運び込んだ。僕の着想とヴィラの魔力、オルグの加工技術の集大成だ。開幕での使用をためらったのは可動試験が済んでおらず、思い通りに動くか分からなかったからだ。しかし本陣に危機が迫っている状況だ。試作品でも何でも使えるものは使う。本陣前面に巨大な布が被さった物体が全部で3体並べられた。ヴィラが数名のエルフ神官兵を連れて前線より帰還し、その布がかぶさった物体の近くに寄った。
「ナガト様、こちらを目指して敵が迫ってきます! 先頭には人造兵が、10体です!」
「きましたね。やるしかありません……ヴィラ様、お願いします!」
「かしこまりました。魔鉱人造兵起動します!」
ヴィラ達が魔力をこめると、布の中から姿を現したのは人造兵であった。しかし帝国軍の石造りの人造兵と異なり、全身に銀色に光る金属の光沢があた。
「ナガト様、これはまさか……!?」
「僕たちは魔力で石の像を動かす人造兵をみて、同じ原理が再現できるかヴィラ達と研究していました。魔力で物質を操作するのは、実は早い段階で再現できました。さすがに帝国のように人型の像を歩かすのは難しかったので、僕たちの作ったものは4足にしています。そして腕はなく、できるのは体当たりだけですので、それに特化した構造にしました」
帝国の人造兵は人型だが、魔鉱人造兵はどちらかというと甲虫のような姿をしていた。
「魔鉱人造兵の基本材質はドワーフたちが加工しやすい鉄にしました。特筆すべきは、魔力伝導を良くするためにミリス鉱を溶かし込んでいる点です。これにより作動性や稼働時間が飛躍的に改善しました。あとは動いてくれるかですが……ヴィラ様、いけそうですか?」
「細かい操作は難しいですが……とにかく敵に突っ込めば良いですよね。私の視界内であれば、ある程度操作できそうです。あとは……ご命令を!」
「分かりました。では命じます。魔鉱人造兵出撃!」
ヴィラたち魔力をこめて念じ、3体の魔鉱人造兵を起動させた。
「迫りくる帝国軍に突撃せよっ!」
魔鉱人造兵はヴィラたちの号令に呼応し、その4足脚で動き出した。魔鉱人造兵はしだいに速度を上げ、そのまま本陣に迫る帝国軍に突進した。
魔鉱人造兵に迫られた帝国軍は驚愕した。まさか自分たちの魔道兵器を敵が使ってくるとは思いもしていなかったのだ。魔鉱人造兵は帝国軍の隊列に接触し、その衝撃で帝国兵士たちを吹き飛ばしていった。中には無残にも踏みつぶされた者もおり、シルメア本陣を攻撃しようとしていた帝国軍は大混乱に陥った。
さらに1体の魔鉱人造兵が帝国の人造兵に突撃し、その胴体を粉砕した。おそらく材質の違いと、正面の突進に特化させた構造の差が出たのだろう。頼みの綱の人造兵も砕かれると分かった帝国兵は士気も消沈し、進軍を停止させた。人造兵は帝国軍の陣形を貫通し、その痕には踏みつぶされたおびただしい数の帝国兵が横たわっていた。
「魔鉱人造兵の突進、効果絶大です!」
「魔鉱人造兵はこのまま反転させて、メルフェト軍本陣へ向けて突撃させましょう。それから……前線からジルヴァ将軍たち餓狼兵も本陣に戻してください。イゼル様が引き付けている異形の魔獣は、いずれこちらを狙ってくるでしょう。続けて魔獣たちもなんとかしなければ……」
全体の流れが同盟軍に傾くなか、危惧していた事態が訪れる。ランディア大平原の南東方面より大規模な軍勢が姿を現したのである。
「バルディア様、後方より敵の増援です!」
「セスメントの軍か……数はいかほどか?」
「およそ20000から25000と思われます」
「セスメント軍は50000の規模のはずだが、半数程度か」
セスメントはメルフェト軍と合流するべく、。全軍で帝都ベルザに引き返していた。しかしギークス軍がこれに食らいついて執拗に攻撃を加えており、行軍もままならなかった。そこでセスメントは軍の半数を殿としてギークス軍にあて、残り半数で帝都ベルザに向かったのであった。
「このままでは挟撃されます! いかがなさいますか?」
「放置するわけにはいくまい。致し方ないが、我々は反転してセスメント軍を討つ! ジェノンとケイレスはそのままシルメア軍を援護させろ。幸いシルメア軍は優勢のようだ。彼らの奮戦に期待しよう」
バルディア軍はメルフェト軍との戦闘から離脱して後退、そのまま反転して南東から迫りくるセスメント軍と対峙した。
本陣の窮地に対し、ナガトは秘匿していた兵器、魔鉱人造兵を投入して迫りくる軍勢を攻撃。メルフェトの放った攻撃隊を退けた。一方、懸念されていた敵増援のセスメント軍が戦場に現れる。息のつく暇もない戦闘の行方は……? 次回に続きます。




