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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
決戦の地ダレム帝国編
58/72

ランディア大平原の決戦 雌雄を分かつ総力戦

 シルメア軍とバルディア軍から成る同盟軍は、ジェノンの案内のもとランディア大平原に到達した。確認するまでもなく、メルフェト軍が帝都ベルザを背に布陣し待ち構えているのが見える。


「やはりメルフェト軍はここランディア大平原で決戦を挑む気のようですが……敵軍の規模から察するにセスメントの軍はまだ到着していなさそうです」


 ジェノンの偵察隊が確認したところ、目の前の軍は多く見積もっても50000程度であった。帝都ベルザからいくらか兵を補充したのだろうが、同規模と聞いているセスメントの軍勢と合流している様子はなかった。


「急いで追いかけてきたかいがあったではないか。さっそく叩いてくれよう」


メルフェト軍を前にしてバルディアはたぎっているようだ。しかしメルフェト軍の最前列には、人造兵ガルガントが整列して配置されており、起動を待っているようだった。


「バルディア将軍の言う通りすぐにでも攻めたいところですが……厄介なことに、人造兵ガルガントが前列に配置されているようです。ケイレス将軍はあれを穴に落として、爆薬で吹き飛ばして撃破したのですよね?」


「ああ。魔力で動いているだけで、あくまで石の塊だった。強い衝撃で砕けないことはないはずだ。ただし、ここランディア大平原ではイリューガルのときのような下準備はない。何か策はあるかね?」


「先のキルゴスでの戦いでは稼働限界まで引っかきまわしてやりましたが、今それをやる時間はありません。もたもたしていると、セスメント軍が帰ってきて合流されてしまいます。やはり少々強引にでも、このまま攻める他ないと思います」


 人造兵ガルガントは鈍足であるもののその堅牢さは特筆すべで、今の状況のように防衛に用いられると最も対処が難しい。まして敵の増援が迫っているとなれば、魔力切れを待つこともできそうにない。


「幸いにして、イリューガルでの戦いで多くの人造兵ガルガントが撃破されているため、残りの数はみたところ50体程度のようです。止むを得ませんが、ある程度の被害を覚悟で強行突破を図るしかないと思います」


僕はこの盤面で最も優先すべきであるのは時間であるという結論を説明した。将校らの同意は得られ、ただちに攻撃を開始することとなった。


「ナガト殿の方針に従おう。ただ数を減らしているとはいえ、あの性能は脅威だ。人造兵ガルガントを少しでも分散させるように、我が騎兵隊を率いて側面からけん制しよう。上手くいけば人造兵ガルガントも何体か誘導できるかもしれん」


ケイレスはジェノンとともに騎兵隊で敵の側面に回り込み、正面をかためる人造兵ガルガントを分散させる策を提案した。


「その作戦でいきましょう。シルメア軍も、アルジュラ様とイゼル様に反対側の側面にまわってもらいます。無理に交戦しなくても大丈夫ですので、お願いできますか?」


「了解した。できるだけ敵を引き付けよう」


作戦の申し合わせ通り、同盟軍も全軍が配置についた。戦場の右端にはケイレス、ジェノンらの騎兵隊、中央右にはバルディア軍、中央左側にはシルメア軍本隊、左端には狼騎兵ルプリオスが配置され、メルフェト軍に向かって前進を開始した。






「敵軍前進してきます! バルディア軍は左方向から、シルメア軍は右方向から向かってくるようです!」


「考えなしの平押しのつもりか? 返り討ちにしてくれるわ! アルフォン、全ての人造兵ガルガントを起動せよ!」


 メルフェト軍は前列に配置した人造兵ガルガントを起動させた。50体もの石の巨像が隊列を組み、迫りくる同盟軍を威圧した。同盟軍はこの動きに対し、まず両翼から騎兵隊が回り込むように移動した。


「メルフェト様、再び同じ手のようです。ケイレスたちの騎兵が左側面に回り込んできました。さらに右からもシルメア軍の狼の騎兵隊が迫ってきているようです。あの部隊はフェルアルを屠った非常に危険な敵です。歩兵だけでは不安ですので、人造兵ガルガントの一部を側面に回して守りを固めましょう。


アルフォンは騎兵の側面攻撃を防ぐため、人造兵ガルガントを用いた守備硬めを提案した。


「うむ。10体ずつ正面から人造兵ガルガントを引き抜いて側面へ回せ。敵騎兵の突入を許してはならん!」


メルフェト軍は正面で隊列を組んでいた人造兵ガルガントの一部を側面防衛のため移動させた。これにより僕の見込んだ通り、正面の人造兵ガルガントの密度はさらに薄くなった。





「さあ我らも出陣するか。弓隊構えよ。敵前列へ向けて射撃開始!」


 バルディア軍の弓隊が、メルフェト軍兵士に矢を浴びせ始めた。矢の応酬はやはりバルディア軍が優勢で、しだいにメルフェト軍の被害が広がりはじめる。弓隊の射撃に対しメルフェト軍は、人造兵ガルガントの背後にまわって矢をやり過ごそうとした。人造兵の背後にまわれた者はその陰で矢をやり過ごすことができたが、そうではない者はやはり先の戦い同様、大いに矢の被害を受けた。


「ナガト様、我々もそろそろ弓の射程に入ります」


 シルメア軍本隊もメルフェト軍との交戦距離に入った。僕は直轄のエルフ弓兵隊に射撃開始を命じた。メルフェト軍も負けるまいと撃ち返す。こちらの弓矢の戦いは互角といったところで、人造兵ガルガントをうまく盾にしているため決定的な損害は与えられずにいた。シルメア軍で弓矢を扱えるのはナガト直轄のエルフ部隊のみであるため、どうしても射線の数が劣っていたのだ。


「頃あいです。エルフ神官兵の方々、水魔法ペトラ人造兵ガルガントの頭部めがけて撃ってください」


僕はヴィラを通して、人造兵ガルガントに魔法攻撃をおこなうよう指示を出した。


「石の巨像に水流をぶつけても、撃破は望めませんよ?」


ヴィラは水魔法ペトラでは人造兵ガルガントに有効打は与えられないと返事をする。


「結構です。なるべく集中砲火してください」


「分かりました……ナガト様を信じます! 神官兵、水魔法ペトラ人造兵ガルガントの頭部めがけて撃て!」


ヴィラの号令とともに神官兵たちは、水魔法ペトラで人造兵を攻撃した。




「ほう、ウルガルナの神官どもも来ているのか。しかし水魔法ペトラだと? ばかめ! 人造兵ガルガントにそのようなものが効くものか!」


 アルフォンの叫びとは裏腹に、水魔法ペトラを放った結果はすぐに訪れた。頭部に高圧水流を集中して受けた人造兵ガルガントは、その圧に耐え切れずに背後に転倒したのである。人造兵ガルガントの背後には矢を避けるべく多くの歩兵が集まっていたため、彼らはその下敷きとなった。


「撃破目的ではなかったのですね! 敵の前列が崩れました。今が好機です!」


矢の撃ちあいを続けても、数に劣るシルメア軍が不利である。ヴィラの言う通り、人造兵ガルガントが再び起き上がる前に敵軍との距離を詰めるべきだろう。


「先鋒は当然、我らがいただくぞ!」


ジルヴァが牙を光らせている。


「お願いします!」


ジルヴァら餓狼兵ウェアウルフを先頭にして、シルメア軍本隊はメルフェト軍に突入した。


「僕たちもいきましょう。先鋒はオルグ将軍におまかせします」


「おうとも待ちわびたわ! ものどもいくぞ! 今度は我らが攻めるじゃ!」


 オルグを先頭にドワーフ隊も敵に突っ込んでいった。餓狼兵ウェアウルフとドワーフ隊の突撃は、隊列の乱れたメルフェト軍を大いに屠った。しかし乱戦のさなか、体勢を崩していた人造兵ガルガントが起き上がり、シルメア軍歩兵にその拳を振りぬいた。人造兵ガルガントの一振りで幾人もの歩兵が吹き飛んでいく。その尋常ならざる人造兵ガルガントの怪力は、シルメア軍を震え上がらせた。


「起き上がった人造兵ガルガントにもういちど水魔法ペトラを! 味方は周囲から遠ざけてください!」


 ヴィラの指示で、エルフ神官兵が再び水魔法ペトラを放ち、人造兵ガルガントを攻撃する。しかし集中砲火をおこなえた最初と違い、今は配置が入り乱れている。そのせいで射角が安定せず、人造兵ガルガントを後ろに転倒させるまでは至らなかった。


「すみません、動きを鈍らせるがやっとで、転ばせるのは困難です」


「問題ない! 石造りの像ごときにひるむな! こちとら鉱山掘って生活しとるんじゃ! 石砕くのは得意中の得意よ!」


オルグは大槌を装備した部隊を人造兵ガルガントに向かわせた。彼らは人造兵ガルガントの下半身を集中的に殴打し、その身体を砕いていった。バランスを保てなくなった人造兵ガルガントはその場から動けなくなり、その拳は空を切っていた。


「とどめじゃあ!」


オルグが自ら大槌をふるい、動けなくなった人造兵ガルガントの頭部を破壊した。破壊された頭部のなかから、鈍い赤色に発行する球体が露出する。これが魔力を充填する、人造兵ガルガントの核なのだろう。オルグは再び大槌にてその球体を粉々に砕いた。そうすることでうごめいていた人造兵ガルガントは完全に動作を停止させた。


「オルグ隊が人造兵ガルガントを1体撃破しました!」


これまで正攻法では撃破困難であった人造兵ガルガント撃破の報に、シルメア軍は歓声をあげる。


「その調子です。 水魔法ペトラで動きをとめてドワーフ隊で仕留めていきましょう!」


僕はエルフ神官兵とドワーフ隊で人造兵ガルガントの共同撃破を狙うように通達した。


「どんどんまかしとけ! 次じゃ次!」


 人造兵ガルガント撃破によってシルメア軍の士気は上がったものの、あくまで50体いるうちの1体をつぶしただけに過ぎない。依然ほかの人造兵ガルガントたちは前線で剛腕を振るっており、全体をみれば両軍の損害は5分といったところであった。


ランディア大平原における戦いがついに幕を開ける。開幕では双方損害を出しながらも、およそ互角の展開に。次回に続きます。

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