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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
決戦の地ダレム帝国編
53/72

ドワーフの強者、エルフの智者

 シルメア軍はウルガルナでの戦い以降、きたるべき戦争に備えて軍事力を拡張していた。僕は自分の直轄となったウルガルナ遠征軍の練兵に注力していた。駐在武官として来ているオルグとヴィラとの関係も良好で、彼らからドワーフやエルフの種族特性を教えてもらった。


「我らドワーフの本領は白兵戦ですな。兵たちには手斧か棍棒を装備させておりまする。戦場歩兵といえば槍や刀剣が一般的なのでしょうが、あんな細い棒きれでは、1、2人も斬れば折れるかナマクラになりますな。その点我らの武器は長さでは劣りますが、同じ獲物でどれだけでも敵を屠れますぞ!」


オルグらのドワーフ隊の攻撃力は、シルメアの精鋭部隊にひけをとらない。しかし武器の射程が短いので、平野での単純な野戦よりは、乱戦時の奇襲部隊として用いるのが最も効果的だろう。


「私たちエルフは非力ですが、弓矢の扱いに長けています。また魔法が使える神官兵も50名ほど連れてきていますので、お役立てください」


シルメアの兵は弓矢が扱えないので、飛び道具が使える部隊の存在は非常にありがたい。また魔法の特性についてヴィラからできる限りの情報を得た。


「私たちの神官兵が得意とする魔法は水と風の魔法です。それぞれ水魔法ペトラ風魔法ウィルドですね。帝国軍魔術師がつかっていた炎魔法ブリズは、私のほか数名しか使える者がいないので、戦術的に利用するのは難しいと思います」


「なるほど。先の戦いでは敵の炎魔法ブリズ水魔法ペトラで防いだのでしたっけ」


「はい。水魔法ペトラの応用、水魔障壁ペトラウォルスですね。水流を放射するのではなく、壁のように展開する魔法です。ただ口惜しいことに、敵の高位魔法、あの高位炎魔法ベヒトブリズのような規格外の魔法の前には無力です」


「高位魔法の使い手はアルジュラが討ち取ったようですから、今後使い手が現れないことを祈るばかりです」


「ほかに聞きたいことはございますか?」


「えっと、その他に魔法ってあるんでしょうか? たとえば帝国軍が使いそうなものは」


「そうですね……私たちの国には使い手がいませんが、雷魔法ダルクという属性魔法も存在すると聞いたことがあります。あとは魔法そのものではありませんが、例えば先の戦いでメルフェトたちが用いたという人造兵ガルガントですね。あれは魔力そのものを物質に伝導させて自律行動させているはずです」


さしずめ電力のかわりに魔力を動力として動く石像といったところだな。そして先の戦いの教訓で、人造兵ガルガントの稼働時間が長くないことも分かっている。魔力切れになるまで逃げ回れば、交戦せずに稼働停止するはずだ。


「オルグ様、ヴィラ様、今度の戦いは帝国兵だけでなく、敵の人造兵ガルガントを無力化する必要があります。とりあえず動きが鈍重で長続きしないことは分かっていますので、発見したら交戦せず落ち着いて……」


僕が言葉を続けようとしたところで、オルグがさえぎる。


「おうおう! そんな逃げ腰でどうするんじゃ! 馬鹿でかい石像の兵が出たとは聞いておる! そやつらを叩き潰すためにドでかいハンマーを作らせておるところよ!」


「オルグ、そんな単純な発想でなんとかなりますか?」


ヴィラはオルグの勢いに疑問を呈した。


「もちろんじゃ! まかせておいてもらう。炭鉱掘るのはドワーフの本業よ! 石を砕くのには慣れておるわ!」


たしかにジルヴァ達の爪や牙は人造兵を傷つけたものの、撃破には至らなかった。しかし打撃武器ならもしかすると通じるかもしれない。案外悪くない発想だ。


「できる準備はすべてやっておくべきでしょう。オルグ様の大槌部隊、期待していますよ」


「まかせておけぇ!」


「それからヴィラ様、実は試してみたい計画があるのですが……」


「なんでしょうか? 何なりとお申し付けください」


「実はミリス鉱を使いたいのです。それをこうして……」


僕はヴィラとオルグに、とある秘策についての打ち合わせを始めた。


ウルガルナの戦力を得て、着実に実力を伸ばすシルメア軍。次回はいよいよ、帝国からの使者が訪れる……

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