ひとときの平穏と、論功の末に得たもの
翌日、僕とリリアスはあらためてゲルドラとエリナベルに面会の場を設けてもらった。ここでの会話内容は機密事項となるため会談は個室で4人のみで行われることとなった。僕は昨日の流れに沿ってダレム帝国内でこれから起こり得ることを説明し、結論として同盟を解消する必要性について説明した。
「最初に同盟解消と聞いたときは驚いたが、なるほどそのような事情であったか」
「我が国のミリス鉱がそのような兵器に転用されるのは、なんとしても避けなければなりませんね」
ゲルドラ、エリナベル両名も状況を理解したようだ。
「そう考えるとケイレスの作成した和平文書には、ウルガルナと帝国は3年間の不可侵を結ぶと記載されていましたね。報告を聞いたときは深い意味は考えませんでしたが、こうしておけばメルフェトは少なくとも3年間はミリス鉱を手に入れる手段はなくなったわけですね」
エリナベルの言う通りだ。不可侵条約を順守する限り、メルフェトはウルガルナを再び侵攻することはできない。この時点で、帝国での謀反にミリス鉱の人造兵を用いることはできなくなったわけだ。もちろんメルフェトの軍単独で条約破りをして侵攻することはできなくはないが、その場合はケイレスをはじめ、他の帝国軍は追従しないだろう。彼の軍の戦力だけでは、さすがにギーナ回廊を超えることすらできまい。
「ではナガト殿の言う通り、ウルガルナは同盟を表面上は破棄する。しかしこれからも、対ダレム帝国で共闘するという結論でよろしいな」
「私もそれで了解しました」
リリアスとゲルドラ、エリナベルが全員一致したことで、これにて両国の同盟関係は解消された。
「ところでリリアス様、今回の戦争の功労として何かお礼をという話はまだでしたね。何か決めていただけましたか?」
これも直前にリリアスと話して決めていた内容があった。ただしこれは提案してみないことには、受け入れられるかどうかは分からない
「大変恐縮なのですが……今我々が求めているのは金品の類ではなく、戦力なのです。もし両代表が了承いただけるなら、ウルガルナ軍の一部を派遣軍として、シルメアに貸与していただけないでしょうか?
口に出してみれば、とんでもない要求なのが分かる。他国侵攻のために軍を貸せなどという要求は通常なら受け入れられないところだが、彼らの反応は意外にも好意的であった。
「相分かった。我らも国防があるゆえ大きな兵力は出せぬが、ヴィラとオルグ、およびその兵2000ずつを派遣しよう」
「彼らはウルガルナの精鋭のはずですが、よろしいのですか?」
僕の問いにエリナベルが答える。
「かまいません。実は彼らも、数多の同胞を殺傷したメルフェトたちと戦いたいと希望していたのです。しかしウルガルナ軍としては不可侵条約があるのでそれは叶いません。ですので彼らを貴国に派遣し、シルメア軍所属とします。彼らに弔い合戦をさせてあげてください」
「そのような事情でしたか。分かりました。シルメア軍はウルガルナ遠征軍を快く迎え、ともにメルフェトを打倒することを約束します」
こうして僕たちはウルガルナ国からドワーフの将オルグとエルフの将ヴィラ、およびその直下兵計4000の指揮権を得ることになった。ドワーフ兵は白兵戦に優れた部隊であり、特に武器戦闘においてはシルメアの兵を凌駕する。エルフ兵は獣人たちが不得手な弓術に長けるほか、少数ではあるが魔法が使える神官兵も貸与してくれた。これらの戦力は帝国と戦う上で、大きな存在になるだろう。
僕達はウルガルナ救援の目標を達成し、シルメアへの帰路についた。しかし大陸に平和が訪れたとは言い難かった。戦争を主導するメルフェトの存在はシルメアにとっても脅威である。ダレム帝国内の彼の動向に注意するとともに、来るべき戦争に備えて、戦力を拡張する必要があるだろう。
アルジュラとジルヴァはそれぞれ自分の領地で徴兵と練兵をはじめた。これにより狼騎兵と餓狼兵も規模を大きくできる見込みだ。国王レオグルスとリリアス、それにドリトルは、以前招集した志願兵をそのまま調練し、正規軍として動かせるように組織づくりを目指していた。そしてウルガルナからの遠征軍で、一時的にシルメア軍所属となったオルグとヴィラの軍は、前線指揮こそ両名がそのまま担っているが、なんと僕が最高責任者となった。
ウルガルナの代表たちが僕の戦略眼を見込んで、ぜひ軍を任せたいとのことであった。たしかに白兵戦中心のドワーフはともかく、弓だの魔法だのといったことに長けたエルフ達は、シルメアの方々はよく分からないと言っていたから、ある意味少しでも理解できそうな僕が指揮するのは適任かもしれない。
「次の戦争が、この世界の僕の最後の戦いになるかもしれないな……」
そんな予感を抱きながら、この世界にきてはじめての戦争のない期間を僕は過ごすのであった。
第二章 -亜人の国ウルガルナ編- 完結
ウルガルナでの戦争は帝国軍の完全撤退という形に終結した。ウルガルナより、ヴィラ、オルグら両名の部隊がシルメアに貸与されることになる。ひとときの平穏にも、次なる戦争の影が……?
第二章-亜人の国ウルガルナ編-はこれにて完結です。ご愛読いただき、ありがとうございました。感想、評価等をただければ、作者の励みとなりますので幸いでございます。どうよよろしくお願いいたします。




