鉱山都市キルゴス救出戦 ひとときの酒宴
「オルグ様、帝国軍後退していきます! こちらの守備隊は……なんとか健在です!」
鉱山都市キルゴスを守備していたウルガルナ軍は、日没にあわせて撤退していくバルディア軍をみて安堵した。
「ようし、みなよくやってくれた!」
「南方より現れた一団が、敵の兵力を相当数引き受けてくれたおかげです。感謝ですね」
激戦を経てキルゴスを守り切った安堵感で、兵達も表情がほころんでいた。
「おい、あの狼の騎兵隊を街に招き入れろ! もてなす準備じゃ。我々の救世主じゃぞ!」
帝国軍が引き上げたため、オルグらは街の門を開いた。その様子はアルジュラ達からも確認できた。
「アルジュラ様、どうやら我々を招き入れてくれるようです」
「ありがたい。今からリリアス様の元へは戻るのは少し骨だ。好意に甘えさせてもらおうか」
狼騎兵は鉱山都市キルゴスに入った。門をくぐると、エルフとドワーフの兵達が両側から出迎えてくれている。英雄が凱旋するかの如く、兵士たちは歓喜している様子であった。ほどなくすすむと、オルグとヴィラがアルジュラたちを待っていた。
「お初にお目にかかります。ウルガルナ軍の将軍オルグじゃ」
「同じくヴィラと申します。この度は救援感謝しております」
「こちらこそ、歓迎感謝する。私はシルメア軍将軍アルジュラだ」
「アルジュラ様配下のイゼルと申します。お見知りおきください」
「伝者からシルメアの援軍が来てくれていると聞いておったが、まさかこのような淡麗な方がおみえになるとは! さあ長い話は抜きにして……食事と酒の準備ができとりますので、どうぞこちらへ!」
「さ、酒でございますか? アルジュラ様、よいのでしょうか? 戦いはまだ終わったわけではありませんが……」
「ドワーフの御仁は客人を料理と酒でもてなすのが礼儀と聞いたことがある。明日に引きずらなければ問題なかろう。私はいただくとしよう」
「で、ではご一緒します……」
アルジュラらはオルグらの案内で、キルゴスの集会所に案内された。すでにウルガルナの兵達は卓についている。アルジュラとイゼルがその場に現れると、皆がどっと沸き立った。特にドワーフの男性達は、二人の容姿に見惚れている者もいるようだ。
「今日の英雄をお連れした。シルメアのアルジュラ殿、イゼル殿、それに隊員の皆様じゃ!彼女らがいなければ、今頃キルゴスは帝国軍の手に堕ちていただろう。ひとときの勝利であるが……今日は存分に羽を伸ばしてくれ! 乾杯!」
オルグの挨拶のあと、すぐさま歓談が始まった。ウルガルナの料理は山菜を多く使っているものの、メイン料理の中心にはしっかりと焼けた肉塊が存在感を放っていた。
「これはなかなか……」
「シルメアの肉料理よりも上品な味付けですね。どんどん食べたくなります」
「おお! 姉さんたち良いたべっぷりじゃなあ! どんどん追加を持ってこい!」
アルジュラ、イゼル両名ともにウルガルナの郷土料理を堪能する。料理とともに提供された酒は大変度数が強いもののようだが、料理に実によく合っており、お互いの旨味を引き立てていた。会食がすすむにつれて皆が次第に打ち解けていき、それどころか一部では完全に酔っ払いの絡み酒状態となっていた。
「お嬢さんえらくお綺麗じゃが、歳はいくつなんじゃあ!?」
オルグもほぼ酩酊状態である。獣人の若い女性というだけでウルガルナでは大変珍しいらしく、様々な質問をアルジュラに尋ねていた。
「えーと、たしか29ですが……」
アルジュラもかなり酒が入っているが、普段とそれほど変わらない様子で数々の質問をさばいている。
「そうかい!? もうええ年頃じゃのおう! ご結婚はされとるんか!?」
「いえ、まだ……なにぶん忙しい身分でして」
「ちょっとおじさん! 失礼なことを聞きすぎですよ!」
オルグのからみに、これまた泥酔状態のイゼルが割って入る。
「なんじゃあ!? 娘っ子にはまだ酒は早いんじゃねえか!?」
「失礼ですけど! 私はもう19歳です!」
「やっぱり早いじゃねえか!」
「シルメアでは15歳で成人なんです!!」
「あらあら皆さんお若いようですね。私は今年で83だったかしら……」
ヴィラもその場の雰囲気に流されて年齢を明かしている。人間の感覚だともはや高齢者であるが、エルフ族は他種族より非常に長命なので、これでも成人女性相当である。この吹っ切れた勢いの宴は深夜まで続いた。
キルゴスに駆けつけた狼騎兵はオルグたちに大いに歓迎される。兵士たちは戦いの疲れを癒すのであった。他方、帝国軍の野営地では、ただならぬ空気で軍議が行われているとか……次回に続きます。




