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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
亜人の国ウルガルナ編
42/72

鉱山都市キルゴス救出戦 都市へ辿り着く狼騎兵

 戦闘開始より二日目においても、鉱山都市キルゴスではオルグとヴィラがバルディア軍の猛攻に耐え忍んでいた。しかしメルフェト軍が南進したとはいえ、戦力は依然として帝国軍優位である。バルディア軍は数で勝る上に練度においてもウルガルナ軍よりも優れており、着実にウルガルナ軍を押し込んでいた。


「オルグ様、ドワーフ隊の防陣が限界です!」


「昨日にも増して厳しい攻めじゃな。かくなる上は街の中まで後退して、市街戦に持ち込むか」


「一般住民にも被害が及ぶ可能性がありますので、できれば避けたい選択ですね……」


 オルグは市外戦に持ち込めば、帝国軍を消耗戦に引きずり込めると提案するが、ヴィラは民間人への被害を危惧してそれをためらった。とはいえ前線の守備隊が崩壊すれば、どの道帝国軍が都市内部になだれ込んでくるのは避けられない。であれば戦力を消耗する前に市街戦に移行するのは、選択肢として考えられる。身を切る思いで後退の決断を下そうとしたとき、バルディア軍の動きに異変が起こる。





「バルディア様、南方に敵影! あの部隊は……シルメアで戦った"穿ち姫"の部隊です!」


敵増援出現の報に、バルディア軍の将校達に緊張が走る。


「まいったな。ここであの部隊が出てくるとは……バルディア様、あの部隊の攻撃力は計り知れません。背面を突かれるのは危険ですので、私が転進して対処します」


ケイレスが自ら軍を率いて抑え込むことを申し出た。


「よかろう。兵力はいかほど必要か?」


「4000……いや、5000の兵をお借りしてよろしいでしょうか?」


先の戦いで狼騎兵ルプリオスの実力を知るバルディアらは、400程度の規模の隊とはいえその存在を軽視していなかった。加えてケイレスはアルジュラの武力についても把握しており、彼女の一点突破も警戒していた。


「ケイレスにしては慎重ではないか。しかし貴公らはシルメアの戦いで、実際にあの部隊と戦っていたな。昨日はメルフェト軍の将もやつら討たれたと聞いている……用心に越したことはあるまい」


「私もケイレス殿の判断に同意します。"穿ち姫"を確実に止めるには妥当な兵力かと存じます」


バルディア軍は狼騎兵ルプリオスが背面に現れた以上、相応の兵力を割いて対処せざるを得ないという結論で一致した。


「では行ってまいります。それからジェノン君、兵力が足りなければ無理して攻めることはないぞ。無駄に部下を死なせないことだ」


「心得ております。ケイレス殿も、ご武運を……」


 ケイレスは兵5000をキルゴス攻撃の部隊から引き抜き、背面から迫る狼騎兵ルプリオスへ備えるために移動させた。兵の動きは素早く、アルジュラらが迫ったときには既に陣形が完成しており、背面からの急襲は成立しそうになかった。




「どれほど釣れた? イゼル」


「5000ほどかと……見たところ、敵方はすでに配置転換を終えているようです」


「さすがにあれに突撃するのは無謀だな」


「敵の約三分の一を釘付けにできたと考えれば、上出来ではないでしょうか」


「そうだな。なんとか活路を開いてやりたいが、私たちにできるのはここまでか。あとはキルゴスの守備隊の奮戦に期待するしかあるまい」


 配置転換したケイレスの軍と狼騎兵ルプリオスは、両軍仕掛けないまま睨みあうことになった。ケイレスの軍は数に勝るものの、歩兵中心の帝国軍から仕掛けても機動力の差で逃げられることは分かっていた。アルジュラらもキルゴス攻撃部隊の一部を釣り上げるという目標は達成しており、無謀な攻撃を行うことはしなかった。結果として5000の兵を背後に引き抜かれたためにバルディア軍のキルゴス攻撃の勢いは弱まり、都市を守るウルガルナ軍は息を吹き返すこととなった。





 戦闘が開始されて数刻が経過し、最初に形勢が変わったのはメルフェトとジルヴァらが激突する戦場であった。半包囲陣形をとって攻撃を加えていたメルフェト軍であったが、餓狼兵ウェアウルフの苛烈な攻勢により、ついにメルフェト軍中央の陣形が崩壊した。メルフェト軍は大きく分断されることとなり、また本陣も餓狼兵ウェアウルフの牙が届く寸前の距離まで迫っていた。


「やつら化け物か……!」


指揮をとっていたギークスも、規格外の攻撃力をもったジルヴァらの中央突破を許してしまった。目視距離に迫った餓狼兵ウェアウルフをみて、メルフェトらが狼狽しはじめる。


「ええい何をしておるか! 魔術師隊、炎魔法ブリズで獣どもを撃退せんか!」


「無理です、戦場は混戦になっていて、味方にも当たります!」


「かくなる上はもういちど人造兵ガルガントを出すしかないか……。アルフォン、人造兵ガルガントの起動は可能か?」


「昨夜の魔力充填では、稼働時間は一刻程度です」


「それだけしかもたんのか!? しかし今起動させなければ、ここに敵がくるのも時間の問題だな……」


決断を渋るメルフェトらに、話を聞いていたギークスが提案する。


「元帥殿、私も戦局をみれば。いま人造兵ガルガントを投入するべきかと考えます。しかしお話から察すると、長時間は戦えない兵器なのですな。であれば全て起動させるのではなく、段階的に動かすのがよろしいかと思われます。50体のうち10体の起動でとどめれば、交代で動かせば半日は戦えます。敵の脅威は正面の"魔狼"たちだけです。少数を起動し、ぶつけるだけでも十分対処できましょう」


「そ、そうであるな。貴公に指摘されるまで失念していたわ。よし、人造兵ガルガントを10体起動して前線に投入せよ!」


「はっ、直ちに!」





 アルフォンは10体の人造兵ガルガントを起動させた。敵本陣から動き出す巨大な石像はジルヴァらの目にもとまり、進撃の動きを止めた。


「やはり追い詰められてから、切り札を出してきおったな!」


「ジルヴァ様、どうされますか?」


人造兵ガルガントが出れば後退せよとナガト殿より方針を承っておる。あと一歩のところで口惜しいが……ここは退くぞ」


「了解しました!」


 ジルヴァらは人造兵ガルガントとの交戦は避け、全軍で後退した。あらかじめ方針が兵に伝えられていたことと、背後は包囲されていなかったため、軽微な損害は出しながらも後退は成功した。帝国軍も追撃を試みたかったが部隊の損耗が激しく、一度軍の整理をするために連合軍と距離をとった。そのため戦闘は一時中断することとなり、兵士たちはひと時の休息を得た。



キルゴスに到着した狼騎兵ルプリオスに対し、ケイレスは大部隊をもって対処する。一方、ジルヴァらの猛攻に耐え兼ね、再び人造兵ガルガントを投入したメルフェト軍。各々の奮戦でキルゴスは救援できるか? 次回に続きます。

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