鉱山都市キルゴス救出戦 魔狼の奮戦
翌朝、連合軍はメルフェト軍と相対しており、今まさに戦闘が始まろうとしていた。メルフェト軍は昨日の戦いで魔道将軍フェリアルとその部下多数を失った他、ジルヴァらの攻勢で計2000の兵を討ち取られていた。とはいえ残存戦力は約18000であり、未だ数的優勢を保っている。一方連合軍は昨日の戦闘で500の兵を失い、7500の戦力を有していた。
「……以上が軍の状況です。戦力差はおよそ2倍強。方針は昨日お伝えした通りです。厳しい戦いですが、皆様よろしくお願いします」
「承知しました」
アルジュラ、イゼル、ジルヴァが持ち場へ向かう。ジルヴァら餓狼兵は本日も主力攻撃部隊として中央前面に配置された。アルジュラたちは鉱山都市キルゴスの救援に向かうため、戦場の西端に配置された。ジルヴァらの中央攻撃に敵戦力が集中した隙に、敵陣の横を突破するねらいだ。したがって本日の連合軍は、狼騎兵の戦力抜きにメルフェト軍と戦わなければならない。
「さて、今日こそ奴らを屠ってくれようか……」
敵を眼前にしたジルヴァの眼が、獲物を見る眼に変わる。
「皆ゆくぞ! 敵を蹂躙せよ!」
鉱山都市キルゴス防衛戦の2日目が開始された。まずはジルヴァらを先頭にした連合軍がメルフェト軍に突撃した。
「きたな"魔狼"、昨日のようにはいかんぞ! 槍兵構えよ! 敵を寄せ付けるな!」
ギークスは歩兵に槍衾をつくらせ、これに対抗した。初日と違い最初から正面を向いて布陣した帝国兵達は統制のとれた動きをしていた。ドワーフ兵やエルフ兵は開幕から勢いを殺され、消耗戦にもつれこんでいた。
「やるではないか……だが笑止! 我らの進撃は止められんぞ!」
連合軍が苦戦する一方で、中央のジルヴァらはメルフェト軍の第一陣を粉砕し、敵陣に切り込んでいった。帝国兵は勇気を震わせて餓狼兵に相対するも、槍は折られ、鎧は砕かれ、次々と屠られていった。
「ジルヴァ将軍が道を切り開いてくれたぞ! 皆続け!」
帝国の陣形の中央が崩れたのをみて、連合軍歩兵もこれに続いた。
「あわてるな! この程度押し込まれるのは想定内だ。突出した敵を包囲せよ! 側面から攻撃するのだ!」
ギークスは中央突破をはかる連合軍に対し、左右より囲い込むよう兵を動かした。戦力に勝る帝国軍は凹の陣形を形成し、3方向より苛烈な攻撃を加えはじめた。
「アルジュラ様、頃合いです」
「さすがだジルヴァ将軍。今度は我らの番だな」
「狼騎兵でます! 全軍前進!」
メルフェト軍の全戦力がジルヴァらに集中するのを、アルジュラらは待っていた。このタイミングで戦場の端で待機していた狼騎兵は、全速力で敵陣の横を疾走し、鉱山都市キルゴスへの道を突破した。
「ギークス様、狼の騎兵隊の狙いは我らではありません! キルゴスへ向かっているようです!」
「なんだと!? 連中の狙いは……バルディアの軍か!」
「ただちにあとを追わせますか?」
ギークス配下の将校の提案に、メルフェトが言葉を遮る。
「ならん! やつらは昨日フェリアルを討った隊のようだが……400程度の数ではキルゴスに向かっても何もできまい。それより正面の敵に対処せよ! 昨日のように本陣に迫られる失態は許されんぞ!」
「承知しました……」
ギークスはメルフェトの叱咤をうけたためアルジュラらの追撃を諦め、まずは正面の連合軍の対応に集中した。
「狼騎兵、敵陣の突破に成功したようです! ジルヴァ将軍は……敵に包囲されながらも、奮戦しています!」
「よくやってくれました。これで最初の目標は達成です」
報告を聞いたリリアスは、わずかながら安堵した様子を見せる。
「敵の人造兵が出た気配はありますか?」
僕は前線の様子を確認した。
「今のところ……人造兵の出現は確認されていないとのことです!」
やはり帝国軍は人造兵を出し惜しんでいるように見える。昨日も初手から人造兵を投入すれば、おそらくキルゴスは陥落していただろう。ところが都市の攻撃は通常の歩兵のみに任せていた。いざ人造兵を起動させたのは、自軍本陣が追い詰められてからとのことである。今日も未だに人造兵を出してこないところを見ると、あくまで温存しておきたいのだろう。
「相手の意図は分かりかねますが、人造兵を投入してこないのであれば好都合です。餓狼兵を主力にして、このまま正面の敵を撃破します」
「味方は包囲されつつありますが、大丈夫ですか?」
「正直、ジルヴァ様ら餓狼兵の武力に頼らざるを得ない状況です。ですが敵軍は側面より攻撃は加えていますが……退路を断つまでには至っていません。敵がもし人造兵を出してくれば、すみやかに退くように将軍には伝えています」
もとより連合軍は急遽結成された軍であり、お互いに綿密な動きを打ち合わせる猶予はなかった。したがって細かな軍の動きを求めても、指示通りに動くのは困難である。であれば逆に、指示内容はきわめて単純なものにしておいた。すなわち進むか、退くか、この2点のみである。基本的には餓狼兵を主攻として突撃し、もし人造兵が投入されたり、その他不測の事態が生じたりすれば後退する。事前の決め事はこれだけである。
難しいことを考えずに、ただひたすら敵を屠り続ける餓狼兵をみると、それが彼らの強みを最も活かす作戦であったのだと確信できた。
キルゴスの南部にて二日目の戦いが開始される。敵の注意を一手に引き受けたジルヴァ、そして側面突破に成功した狼騎兵。彼らの活躍でキルゴス救援は成るか……? 次回に続きます。




