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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
獣人の国シルメア編
4/72

兵力は分散させず、作戦は単純に

「部隊の配置の案なのですが……」


ドリトルが図面に駒を並べていく。


「王都守備部隊はあえて囮として城門の外に配置いたします。敵軍がこの部隊に突撃してくるのを誘います。交戦がはじまったら、城門内に伏せたアルジュラ様の狼騎兵ルプリオスが突撃するという作戦はいかがでしょう?」


なるほど。上手くいけば効率的に敵を減らせそうな案だが、果たして想定通りに敵が動いてくるだろうか。


「ふむ……私もその布陣は妥当と考えるが、ナガト殿の考えはどうかな?」


国王が僕に意見を求める。ドリトルの作戦の脆弱さを指摘するべきだろう。


「そうですね。僕が考えますに、ドリトル様の作戦には不安要素がいくつかあります」


一同が僕の発言に耳を傾ける。


「まずアルジュラ様の狼騎兵ルプリオスが入城していることは、敵軍にもすでに知られているのではないでしょうか」


その質問に対しては、アルジュラの副官イゼルが答える。


「そうですね。我々も早さを重視した故、忍んで王都に入ったわけではありません。敵の斥候に部隊を確認されている可能性は高いでしょう」


「イゼル様のおっしゃるとおり、500の狼騎兵ルプリオスが入城しているのは、敵軍にも把握されていると想定するべきです。したがって、狼騎兵ルプリオスの攻勢は敵軍も十分に警戒しているはずです。虚をついた奇襲はおそらく成立しないでしょう」


「なるほど。つまり狼騎兵ルプリオスを伏せておくことは、理にかなっておらぬか」


国王とドリトルも僕の意見を受け入れてくれているようだ。続けて問題点を指摘しよう。


「さらにこの案が問題なのは、最初の敵騎兵2000の攻勢を500の近衛兵で受け止められるかという点です。眼前の帝国騎兵はシルメア攻めの一番槍を任せられた部隊です。士気も練度も高いとみるできでしょう。狼騎兵ルプリオスが戦闘に参加するまでに、近衛兵が壊走してしまう可能性が高いです。そもそも我々は寡兵ですので、持ちうる戦力をさらに分散させるのは得策ではありません」


「ナガト殿の意見は、いくさの定石を考慮しても理にかなっています。布陣の再考が必要でしょう」


アルジュラも僕の意見に同調してくれている。上手く僕の考えをこの場に示せたようだ。


「ではナガト殿は、どのような布陣で臨むのが最善と考える?」


国王が再度、僕に意見を求めている。


「最善とまでは保証しかねますが、今ある戦力を最も活かせる布陣を示します」


僕が考える配置を駒に並べていく。





「まずアルジュラ様の狼騎兵ルプリオスは、前衛中央に配置します。そして開幕に全力で突撃していただいて、敵軍の陣形を揺さぶります。近衛兵の皆さんは狼騎兵ルプリオスの両脇を固めるように配置します」


「我々に先陣を任せていただき光栄だ。餓騎兵ルプリオスは、近年私とイゼルが考案して編成した部隊だ。故に帝国軍は我ら狼騎兵ルプリオスと交戦した経験はない。私たちの攻撃力で、敵を震え上がらせる自信はあるぞ」


「アルジュラ様たちの活躍に大いに期待します。さてそうすると、敵軍は多勢ゆえ、両翼の部隊で狼騎兵ルプリオスを包囲し、勢いを殺しにかかるでしょう。それを妨害するのが、近衛兵の皆様の役割です。無理に攻勢に出る必要はありませんが、敵騎兵が狼騎兵ルプリオスの側面にまわろうとするのを阻止してください」


「中央の機動戦力で攻勢をかけ、両翼は守備硬めといった方針であるな。シンプルな作戦だが、勝算はどうかアルジュラ殿」


「陛下の近衛兵が我々の脇を固めてくれれば、全力をもって攻勢に出られます。それに私の部隊と陛下の兵は、合同訓練は行っておりません。実戦で細かい戦術を想定されても、その通り動くのは困難かと思われます。作戦は単純な方が良いでしょう」


「なるほど。細かい連携はかえって混乱を招く可能性もあるというわけだな。ドリトルもこの作戦でよいか?」


「異論はございませぬ」


こうして一同の合意を得て、軍の配置は決定された。


「作戦開始はいつがよいか?」


「現時刻は日没が迫っているようです。夜間戦闘は敵味方が入り乱れる状況になりやすいので、攻撃側もリスクを伴います。攻撃開始は夜明けを待って、早朝がよろしいかと思います」


「私たちもその方がありがたい。早足で駆けてきた故、狼と兵達に休息をとらせねばなりませんので」


「分かった。では攻撃開始は明日早朝、日の出の時刻とする。それまで各々は十分に準備を整え、万全を期してほしい」


 国王の力強い号令によって、軍議が終わった。未知の状況への遭遇から、流れに身を任せてこの国の人達に協力するようになった。自分はこの世界でいうところの人間種、この国の人達とは人種が違う。その上、獣人と人間種の隔たりは歴史的にも大きいようだ。そんな状況のなか、自分が皆に受け入れられているのは、ひとえにリリアスの召喚した英雄という立場だからなのだろう。何の力もない自分だが、期待に応えるには先程の会議のように作戦を述べるしかない……。とはいえ自分の提案で国の存亡がかかっているのだ。のしかかる重圧は小さいものではない。真面目な会議なんて経験したこともない僕は、正直疲れ切っていた。


 攻撃開始は明日朝と言ったのは、戦闘の合理性もあるのだが、何より自分が少し休みたかったという理由もあった。僕の疲れを察したのか、リリアスが声をかけてくる。


「ナガト様、今日はお疲れ様でした。召喚に応じてくださり、ろくに休息もとらないままの軍議でしたものね。いまから寝所へご案内します。どうぞこちらです」


 リリアスの案内に従い、僕は会議室を後にした。廊下をすすみ、客室と思われる部屋へと案内される。室内は質素な内装であるが、清潔感はきっちりと感じ取れるし、ベッドや洋服タンスをはじめ、ひととおりの家具はそろっている。クローゼットの中には男性用の衣服も用意されている。僕の身の丈と大きくは変わらないので、使用させてもらっても問題なさそうだ。


「こちらがナガト様に使用していただく部屋です。何か必要なものがございましたら、何でもお申しつけくださいませ」


「色々よくしてもらってすみません。とっても良いお部屋ですね。不自由なく過ごせそうです」


「それはよかったです。本日は、ごゆっくりお休みください」


 挨拶をしてリリアスは部屋を後にした。窓を眺めると、ちょうど時刻は日の入りの時刻のようだ。目の前に広がる広大な風景に、赤く映える夕日の眺めは、僕のもともといた町の風景よりもるかに美しい。


「今日はもう休むか」


そうひとりでつぶやき、僕はベッドに潜り込んだ。


ナガトの案は帝国軍打倒に有効なのか!? 次回は帝国軍視点が描かれます。

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