鉱山都市キルゴス救出戦 帝国軍の連携
アルジュラが単身でフェリアルの元へ駆け抜けた後も、ギークスの部隊とイゼル率いる狼騎兵との激戦が続いていた。ギークスはアルジュラを追撃させたがったが、正面からの攻撃が激しく、兵を転進させることができなかった。そしてフェリアル討ち死にの報を受けて、単身とはいえ敵の突破を許したギークスは憤りを覚えた。
「フェリアル殿が討たれるとは。これでは高位魔法で戦場の流れを変えられん。なんという失態だ……」
そして次の展開は、ギークスにとっても危機迫る状況であった。丘陵の伏兵と合流したアルジュラが、次はギークスを討ち取らんと、寡兵ながら逆落としを仕掛けたのである。ギークスの隊は前後から挟撃される形となり、これまで粘り強く戦っていた兵達も、しだいに押され始めた。
「なんという攻撃力だ! これは厳しいな……」
「ギークス様! 後方より増援です! あの部隊は……ジェノン将軍です!」
丘陵よりの北方からジェノン率いる兵3000が姿を現した。ジェノンの救援により、ギークス軍は九死に一生を得る形となった。バルディアはシルメア・ウルガルナ連合軍が戦場に到着するのを確認すると、ただちにジェノンらを援軍として向かわせており、この判断の早さが功を奏したのだ。
「全軍ただちに戦線離脱! 援軍と合流して立て直すぞ!」
ギークスはすばやく軍を動かし、ジェノンらの軍と合流をはかった。
「あれは……イーリスの丘でやりあった相手だな。今度こそ仕留めたいが、今の我々の戦力では手に余るな」
アルジュラの側にも帝国軍増援の到着は確認できた。500騎足らずの狼騎兵でギークスとジェノンの両軍と戦うのはさすがに荷が重いと判断した。
「アルジュラ様! ご無事ですか!?」
ギークスの隊が離脱したため、一時戦闘を中断したイゼルらがアルジュラと合流した。
「イゼルか、私はこの通り無事だ。敵魔術師の将は討ち取った。もうひとりの将は逃がしてしまったが……こちらの戦力ではあの軍には対抗できん。ここらが潮時と思っていたところだ」
「さすがはアルジュラ様! 敵将を討ち取れただけでも十分です。これで帝国軍は戦略級の魔法攻撃の手段を失ったはず……みたところリリアス様たちの本隊は優勢のようですし、我々も一旦下がりましょう」
アルジュラたちも狼騎兵をまとめ、本陣に帰還をはじめた。
フェリアルが討ち取られたことはメルフェトにも伝わり、訃報を聞いたメルフェトは激高した。
「なんたる失態だ! 護衛に向かったギークスは何をしていたのだ!? このような戦場で我ら魔道旅団の将を失ってしまうとは……」
「メルフェト様、今は目の前に迫る敵をなんとかしなければ! 南方の敵の勢いが止まりません! オルトル様、アルフォン様のところに間もなく接敵します!」
「フェリアルを討ち取ったのはシルメアの部隊と申したな。奴ら絶対に許さん! 高位魔法による戦局逆転を狙えぬ以上、物量で押しつぶす他あるまい。かくなるうえは、都市を攻めている全部隊を転進させ、獣人どもを血祭りに上げるのだ!」
「かしこまりました。ただちに都市攻撃中の部隊に指示します。それから先ほどアルフォン様が、人造兵も前線に投入するよう命じたようです」
後半の報告を聞いてメルフェトの眉が動く。
「な、なんじゃとお!? 人造兵は私の指示なく動かすなと厳命していたはずだ! アルフォンめ、勝手なことを……」
「ど、どうなさいますか!? 命令を取り消されますか!?」
「人造兵は間もなく前線に到着するのだろう? 今から引き返せといっても、かえって状況は混乱するだけよ。こうなれば我ら魔道旅団の総力を挙げて敵を叩くしかあるまい……」
かくしてメルフェト軍は都市を攻撃していたすべての部隊を南方に転進させ、全戦力をもって連合軍と向かい合う形となった。さらにメルフェト帝国軍の後方補給部隊から、魔力を帯びた布で隠蔽された謎の物資も、アルフォンの元に到着した。
キルゴスを攻めていた帝国軍のうちメルフェトらが転進したため、半数の敵兵がいなくなったことになる。陥落間際と思われた鉱山都市キルゴスだが、間一髪のところで踏みとどまる形となった。
「オルグ様、都市南方の帝国軍が退いていきます!」
「援軍が奮戦してくれているのだな。状況が少しは好転してきたか!」
しかしバルディア軍による苛烈な攻めは続いており、多少好転したとはいえ、いまだ倍近い戦力差がまだある。オルグとヴィラは南方の守備隊を引き抜き、バルディア軍を食い止めるべく守備を厚くした。
フェリアルを討ったアルジュラは返す刀でギークスの首も狙うが、ジェノンの援軍により阻まれる。都市南方ではようやくメルフェト軍が全部隊にて連合軍の前に立ちはだかる。目まぐるしく動く戦況はどちらに傾くのか? 次回に続きます。




