表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
亜人の国ウルガルナ編
37/72

鉱山都市キルゴス救出戦 炎を穿つ槍

「アルジュラ様、見えました! 敵の魔術師らしき一団が先頭にいます!」


 丘陵に向かうフェリアルと彼を護衛するギークスの隊を、ついにアルジュラら狼騎兵ルプリオスが補足した。


「奴らの中に高位魔法の使い手がいるのだな。すぐにでも討ち取りたいところだが……そう簡単にはいかないようだ」


狼騎兵ルプリオスを視認したギークスは、隊列の向きを変えてアルジュラたちの進路を阻むように、素早く横陣を敷いていた。


「良い兵の動きだ、手練れと見える。ここは強行突破するしかないようだな。ゆくぞイゼル!」


「はい! アルジュラ様!」


 アルジュラの号令のもと、狼騎兵ルプリオスはギークスの隊に突撃し、交戦開始した。初撃の突進で多数の帝国兵を討ち取ったものの、ギークスの兵は粘り強くその場を死守し、突進の勢いを殺すことに成功した。彼の率いてきた隊はギークス直下の親衛隊で、アルジュラの見立て通り、他の部隊とは練度が段違いであった。





「ほう、ギークスもやるではないか。おかげで敵をだいぶ引き離したぞ」


 フェリアルらは十数名の魔術師とともに丘陵の最高地点へ到着した。そこからは戦場全体を見渡すことができ、メルフェト軍とシルメア・ウルガルナ連合軍が交戦している場所もすべて高位炎魔法ベヒトブリズの射程圏内に収められた。


「獣どもと亜人が手を組むなど、目障り極まりない。いまに全てを焼き払ってくれよう」


フェリアルは狙いを連合軍の中心にあわせ、高位炎魔法ベヒトブリズの詠唱準備に入る。


アルジュラからもその状況は視認できていた。


「アルジュラ様、敵魔術師が高位魔法と思われる術を発動させようとしています!」


「撃たせるわけにはいかないな。このままでは埒が明かん。イゼル! 部隊の指揮を任せる!」


「アルジュラ様!? どうなさるのですか!?」


「敵陣に突貫する!」


アルジュラは自ら先頭に立ち、ギークスの守備陣へ突入していく。彼女の振るう槍さばきは凄まじく、次々と帝国兵を貫いていく。





「自ら先陣で戦う敵将……こいつが"穿ち姫"か! 華々しい強さだな……しかしこのギークス、武人の誇りにかけてここは通さぬぞ。盾兵を集めよ! 徹底守備だ!」


 ギークスはアルジュラの突撃に対し、盾兵を集合させて対抗した。激戦の最中、フェリアルがついに魔法陣の展開をはじめ、あたりの空気が圧縮されていく。


「これまでだな貴様ら! ギーナ回廊の同胞とおなじく、消し炭になるがよい!」


まさにフェリアルが高位炎魔法ベヒトブリズを放とうとしたそのとき、彼の側近が異変を察する。


「フェリアル様、て、敵襲です! 背後に伏兵がいた模様!」


「なんだとお!?」





 全員が丘陵より戦場側に集中していたその瞬間をねらい、シルメア軍の兵が背後からフェリアルらに襲い掛かった。


「馬鹿な! いつの間に回り込まれていたのだ!?」


 フェリアルらは突如出現した伏兵の攻撃に混乱した。シルメア軍の伏兵は寡兵であったが、完全に虚を突くことに成功した。彼らが回り込むのにフェリアルらが感付かないのも無理はない。伏兵はシルメア軍が戦場に到着した直後、フェリアルらが丘陵に向かう以前から丘の背後に向かっていたのだ。シルメア軍は戦場の地形をみて高位炎魔法ベヒトブリズを発動するなら丘陵の頂点からであることを看破し、先手を打つことに成功した。


「ええい近寄らせるな! ものども、炎魔法ブリズで応戦しろ!」


魔術師たちが、襲い掛かるシルメア兵に次々と炎を発射する。さらにフェリアルは正面に張っていた高熱の障壁を、伏兵側に向かって再展開した。


「ぐわああ!」


シルメア兵にとっても、魔法攻撃を目にするのは初めてである。彼らは動物の本能からか特に炎に恐怖心を抱いており、一斉に放射された炎で攻めの足を止めることとなった。


「獣風情が調子に乗り追って! そこでもがいておれ! 戦場を焼き払ったあとでゆっくり料理してやる!」


フェリアルは再び戦場側に向き直り、高位炎魔法ベヒトブリズを発射しようとする。そのとき、彼の眼前には居るはずのない人物が立ちはだかっていた。


「き、貴様は!? ぐげあ」


言葉を発する途中、彼の喉を返り血で深紅に染まった槍が貫いた。


「獣風情とは言ってくれたな……無残に転がって狼の餌になるがいい」


アルジュラは喉から槍を引き抜き、さらに腰の剣を抜いてフェリアルの首を刎ねた。


「敵将討ち取った。伏兵の諸君は……ナガト殿の采配でここに来てくれたのだな。奮戦感謝するぞ」


フェリアルの首が落とされたのをみて、配下の魔術師たちは事態を受け入れられず硬直した。


「馬鹿な! 正面はギークスが守っているはずでは!?」


事態を呑み込めない魔術師たちにアルジュラは告げる。


「あの男の軍は強かったぞ……今も奮戦中だ。素直に槍衾やりぶすまを構えておけば、私も抜くのは難しかった」


「どういうことだ!?」


「私の前に盾兵が集まってきたのを利用させてもらった。貴公らの馬ではこうもいかんだろうが、あいにく我々は獣風情なのでな」


アルジュラの騎乗する狼は密集した盾兵を逆に利用し、盾を踏み台にして敵兵の頭上を駆け抜けたのである。


「さて、貴公らの投降を認めよう。さもなくば狼の餌になってもらうが、どうする?」


アルジュラの騎乗する狼が冷たい瞳で魔術師たちを睨みつける。もはや選択の余地はなく、フェリアル配下の魔術師たちはシルメア軍の捕虜となった。


高位炎魔法ベヒトブリズ発動の寸前に、フェリアルを討つことに成功したシルメア軍。彼の死亡が戦況に与える影響は……? 次回に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ