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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
亜人の国ウルガルナ編
36/72

鉱山都市キルゴス救出戦 連合軍の猛攻

「リリアス様、鉱山都市キルゴスが見えました! すでに帝国軍と交戦中のようです!」


首都セレナを出立したシルメア、ウルガルナ連合軍は、強行軍を経て鉱山都市キルゴスの南部に到着した。周囲を偵察していたアルジュラ配下の狼騎兵ルプリオスより、状況が伝えられた。


「戦況はきわめて劣勢! 都市周囲の防衛線が崩壊しかかっている様子です!」


かろうじて都市は陥落していないようだが、時は一刻を争う状況だ。


「ナガト殿、敵方は都市攻撃に夢中なようで、後方が手薄に見える。慌てて配置を変えているようだが、隊列が乱れているようだ。この機を逃す手はない。ただちに突撃を!」


敵を目の前にして血気盛んになったジルヴァがただちに攻撃開始を提案する。僕も同じ結論だ。


「リリアス様、よろしいですね?」


「もちろんです。全軍に攻撃を命じます! 眼前の帝国軍を撃破して、キルゴスを救援してください!」


「承った! ゆくぞ同胞達よ! 先陣は我ら餓狼兵ウェアウルフがもらいうける!」


ジルヴァの号令とともに、餓狼兵ウェアウルフがメルフェト軍の背面より襲い掛かった。次々と帝国兵達が爪と牙に引き裂かれていく。慌ただしい配置転換の最中に強襲をうけたため、メルフェト軍は大混乱に陥った。さらにシルメア兵とウルガルナ本国軍もジルヴァらに続き、帝国軍と交戦開始した。


「まずは初撃が成功したようですね。さすがジルヴァです」


ひとまず安堵するリリアスに、僕は続く展開を進言する。


「このまま押し切れれば良いのですが……そう簡単にはいかないでしょう。敵は盤面を覆すために、魔術師隊を出してくるはずです」


「事前の想定通りだな。私たちも出よう。イゼル、敵の魔術師隊を炙り出す!」


「準備はできております。狼騎兵ルプリオス、出撃!」


イゼルの号令のもと、狼騎兵ルプリオスも敵陣に突撃していく。


「あまり深く入りすぎないように! 敵魔術師隊を駆逐するのが、私たちの役目です。敵軍の動きを見逃さないようにしてください」


シルメア・ウルガルナ連合軍はメルフェト軍後背の部隊を薙ぎ倒していく。シルメア軍と交戦経験のないメルフェト達にとって、その圧倒的な攻撃力は想定外の脅威であった。





「ギークス様、敵軍の勢い止まりません! このままでは……ここ司令部も危ういです!」


「分かっている。あれはウルガルナ軍だけではないな……ケイレスが言っていた"魔狼"、それに"穿ち姫"も来ているのか。半端な戦力では彼らを止められまい。メルフェト殿に、半数ではなく都市を攻撃中の全部隊を転進させ、背後から迫る軍にぶつけるよう進言してくる。それまで各戦線は耐えてくれ!」


ギークスはいち早く事態に対応するため、全軍をもって背後の軍にあたるよう、メルフェトに具申した。しかしメルフェトの反応はギークスの期待するものではなかった。





「ならん。都市攻撃はそのまま続行させよ」


「メルフェト様! 南方より現れた軍は強力です! 現在の守備戦力では、突破されるのも時間の問題なのですぞ!」


「うるさい獣共も混じっているようだが、まとめて始末すればよい。フェリアル、貴公の高位炎魔法ベヒトブリズを使うときだ。占領する必要のある都市に向けては撃てぬが……南の平野部なら問題なかろう」


「仰せの通りに。ウルガルナ軍同様、やつらも消し炭にしてご覧にいれましょう」


フェリアルは本陣から配下部隊を連れて出撃し、南西の丘陵へ向かった。


「遺憾ではあるが……都市攻撃軍を動かせない以上、戦況を変えるにはフェリアル殿に頼らざるを得ないか。やむをえまい。歩兵1000ついてこい! フェリアル殿を護衛する!」


 ギークス率いる親衛隊もフェリアルを追って丘陵地帯へ兵をすすめた。高位魔法を使うためにフェリアルを守ることは合理的な判断だと思われたが、1000の本陣の兵を動かしたことにより、この動きがアルジュラ達に感知されることとなる。




「アルジュラ様、敵本陣から中規模の隊が、西の丘陵地帯へ向かっているのを確認しました!」


「さっそく本命を動かしてきたな。イゼル、いちど狼騎兵ルプリオスをひかせて集合させよ。敵の別動隊を攻撃する」


「承知しました。狼騎兵ルプリオスはただちに戦闘終了し、アルジュラ様に続け!」


アルジュラ達は前線を離れ、丘陵地帯へ向かうギークスの隊を補足するべく移動を開始した。




一方ギークスが別動隊として前線を離脱したため、オルトルとアルフォンが南から迫るジルヴァら餓狼兵ウェアウルフに当たることになった。彼らは魔術師としては優秀であるが、戦闘指揮官としてはほぼ素人同然である。有効な采配はおこなえず、各地で帝国兵が敗走していた。


「オルトル様だめです! 敵の勢い止まりません!」


「ええいなにをしておるか! 何としても敵を食い止めるだ! 守備隊長はどうした!?」


「敵軍正面にて自ら奮闘されていたのですが……先ほど敵の巨大な狼に討ち取られてしまいました。兵達は混乱しており、防戦もままなりません」


「使えぬ者どもめ! アルフォン、かくなる上は貴公の人造兵ガルガントを投入するしかあるまい! あれは後方の荷馬車部隊に忍ばせてあるのであったな?」


「しかし人造兵ガルガントをメルフェト様の許可なく出すわけには……」


判断をためらうアルフォンの言葉をオルトルが遮る。


「かまうものか! このままでは私も貴公も討ち死にだ! メルフェト様には何か思惑があるのであろうが、命には代えられまい」


「しょ、承知した。至急前線へ手配させる故、しばし時間を稼いでくれ」


「急ぐのだ! 敵はもうそこまで来ているのだぞ!」


アルフォンは自らの補給部隊の方へ駆けていき、一時戦場を離れた。


敵軍の背後を突くことに成功し、メルフェト軍に大打撃を与えた連合軍。メルフェト軍は戦況を覆すべく、フェリアルを動かす。一方不穏な動きを見せ始めたアルフォン。果たして戦場の行方は……? 次回に続きます。

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