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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
亜人の国ウルガルナ編
33/72

連合軍の成立

「ウルガルナ軍はダレム帝国との国境であるギーナ回廊で帝国軍を食い止めていたのだが……つい先ほど、回廊守備軍が敗退したとの報が入ってきた。帝国軍は強力な魔術師たちを従えており、敵の魔法攻撃で多数の兵が戦死したようだ。さらに回廊の内側にも大規模な別動隊も確認されたとのことだ。こうなってはもはや帝国に抗う術はなく……降伏の話すら出ていたところだ」


 危惧していた状況はすでに始まっていた。ゲルドラの話では、ウルガルナに侵攻してきた帝国軍には、魔術師と呼ばれる者達が追従しているようだ。今まで僕たちと相対したことがない連中だけに、注意が必要だ。それに大規模な別動隊というのは、おそらく僕たちとシルメア国内で戦闘していた軍団だろう。帝国領内に帰還せずに東へ進路をとったというアルジュラの報告とも合致している。ギーナ回廊の外と内からの二段構えの攻勢で、守備隊は敗退してしまったというところだろう。


「状況は深刻なようですが、まだ可能性がないわけではありません。私たちは既に5000の兵を郊外に待機させてあり、ただちに参戦させることが可能です。それについ先日まで私たちも帝国軍の侵攻を受けましたが、こちらにいるナガト様の知恵をお借りしてこれを撃退しました」


重い空気で語るゲルドラに対し、リリアスは凛とした態度で応えた。


「なんと、すでに帝国軍を退けたと! あの大規模な帝国軍を一体どのようにして……」


 驚いた反応を見せるゲルドラに、先のシルメアでの戦闘の経緯について、概要を説明した。その後ゲルドラらから、ギーナ回廊での戦闘の詳細について教えてもらうこととした。特に今回の帝国軍に参加しているという魔術師達の使用する魔法について詳しい情報が必要だ。





 ギーナ回廊の戦いで帝国軍魔術師が使用した魔法は、まずは炎を前方に放射する炎魔法ブリズというものだそうだ。炎魔法ブリズはまともにくらえばひとたまりもないが、この魔法はエルフ神官兵達の使用する水魔障壁ペトラウォルスで相殺できたらしい。問題は敵の指揮官級の魔術師が使用した高位炎魔法ベヒトブリズだ。高位炎魔法ベヒトブリズは、炎魔法ブリズとは比較にならないほど広範囲を爆炎で焼き尽くす魔法のようだ。エリナベルが言うには、高位魔法はウルガルナのいかなる魔法でも対抗できないとのことである。いかに僕たちシルメア軍が精強であっても、高位魔法を受ければ一撃で壊滅してしまうだろう。


「敵の炎への対策を打たねばなりませんね。アルジュラ、何かいい案はありませんか?」


リリアスは戦術、戦闘ともに経験豊富なアルジュラに意見を求めた。


「そうですね……とりあえず敵の魔術師の使用する炎魔法ブリズであれば、なんとかなりそうです」


アルジュラはすでに炎魔法ブリズの性質を見抜き、対策を講じられるという。一同が彼女の発言に注目する。


「話を聞いたところ、敵の炎魔法ブリズは術者の正面から放射状に放たれるとのことですね。要点は、弓矢のように放物線状ではなく、術者から直線的にしか撃てないということです。つまり炎魔法ブリズは後衛から撃つことはできず、使用するときは最前列に出る必要があります」


「なるほど! であれは魔術師達が前列に出てきたところを弓矢や投げ斧で攻撃すれば、炎魔法ブリズの発動は防げそうだな!」


「左様ですゲルドラ閣下。とはいえ私たちシルメア軍は飛び道具の扱いは得意ではないので、ウルガルナ軍に対処していただくことになるかと存じます」


「分かりました。エルフの弓兵隊には、闇雲に撃たずに、敵の魔術師が前列に出てく機会を狙うよう指示しておきます」


 エリナベルの計らいで、シルメア軍部隊の中にも、弓が扱えるエルフ兵を配属するよう手配してくれるようになった。これである程度敵の炎魔法ブリズを牽制できるだろう。残るは最大の問題の、敵の高位魔法への対処だ。基本的に発動させないことを念頭に置きたいが、魔法発動中は矢が燃え尽きるほど高温の障壁が正面に展開されていたとのことである。単純に弓矢で狙撃しても無駄となるだろう。


 アルジュラも高位魔法については、範囲も射程距離も桁違いなため防ぐのは困難だという見解を示している。何か手はないのか。その場の皆がしばらく沈黙に陥っている。そのような停滞する場のなか、僕は別の方向性からの思考に気が付いた。


「そもそも帝国軍のウルガルナ侵攻の目的は何なのでしょうか?」


シルメア侵攻についても、最終的な帝国の目的こそ分からなかったが、少なくとも彼らは街などの拠点はできるだけ無傷で占領しようとしていた。戦争が終わった後はダレム帝国が統治して支配するつもりだったのかもしれない。


「ウルガルナ国内の地図を見せてください。ここ首都セレナ以外に、帝国軍が戦略的目標にしそうな場所はありますか?」


「ふむ。用意させよう」


ゲルドラは家臣に国内の地図を用意するよう指示した。ほどなく家臣達が地図を用意し、僕たちの前に大きく広げられた。


「簡単に説明させていただきます。我が国の重要な拠点は、まず最北で帝国との国境に位置するギーナ回廊です。ここは先の戦闘で帝国に占領されてしまいました。つづいて南下いたしますと、鉱山都市キルゴスがあります。こちらはミリス鉱の採掘と加工が盛んな工業都市です。さらに南には商業都市イルミアがあります。この都市はウルガルナの物流の中心部となりますし、周囲は食料の主要な生産拠点にもなっています。そして最南には、ここ王都セレナがございます」


家臣達が示してくれたウルガルナの地図とその説明を聞いて、僕は敵の高位魔法を防ぐ術と、これからの軍の動き方について閃くことになる。


「皆様、確証はありませんが、敵の高位魔法を防ぐ方法はあると思います」


「!!」


僕の発言に一同がざわめく。


「なんと! いかなる魔法でも相殺できぬ強力な魔法を、一体どのように……」


「まず現在ギーナ回廊を守備していた防衛軍は後退中とのことですが、全軍を鉱山都市キルゴスに集結させてください」


「キルゴスか? あそこは武具の生産も盛んだが、戦闘を想定した街ではない故それほど防衛力はないのだが……」


ゲルドラは疑問の意を呈した。鉱山都市キルゴスは、ミリス鉱と呼ばれる魔法銀の採掘場に隣接する、ドワーフ達の拠点とのことであるとのことだ。この街は軍事拠点ではないものの都市そのものに武器防具などの製造工場があり、軍が籠ってしまえばそのまま迎撃拠点として活用できるであろうという考えがあった。さらに鉱山都市キルゴスを占領されてしまえば、ほとんどの軍需物資の製造が止まってしまうことになるため、事実上の絶対防衛しなければならない拠点であると強調した。


「さらにここからが重要なのですが……帝国軍はこの鉱山都市キルゴスの採掘場や加工施設などを、おそらく占領して利用したいはずです。その目的を逆手にとって、ウルガルナ軍は街に入ってしまいましょう。街に籠る軍に対して広範囲な魔法を使用してしまうと、設備を吹き飛ばしてしまいますので、敵は高位魔法を撃てないはずです」


「なるほど! 魔法を相殺したり発動を止めたりするのを狙わず、そもそも使用できない状況で戦おうということじゃな! 素晴らしい作戦ではないか。早速後退中のオルグ達に、鉱山都市キルゴスに集結するよう命じよ!」


 これで少なくとも一方的に焼き払われる戦いは避けられるだろう。その場にいる全員がこの方針に同意した。しかし都市に籠る守備軍に対し、帝国軍は包囲陣をしいてくる可能性も考えられる。僕たちシルメア軍がキルゴスに到着するころには、すでに帝国軍は都市への道を封鎖しているだろう。すなわち僕たちは都市を盾にすることができないため、高位魔法の脅威にさらされることになる。これに対し、何らかの打開策は用意していかなければならない。しかし現時点では具体的な方策は思いつかなかった。


「さてリリアス公、ギーナ回廊守備軍は鉱山都市キルゴスに籠って戦うとして、ここにいる首都セレナ守備隊もキルゴスに向かい、貴軍と協力して帝国軍を撃破すべきかと存じます。現状ウルガルナの主力軍はほとんどギーナ回廊に配置されていたので、私たちの動かせる軍は3000が限界です。明朝には出立できる見通しですが……シルメア軍はいかがですか?」


エリナベルの話によると、首都セレナから出撃できるウルガルナ軍は3000とのことだ。ウルガルナの地理を考えると、戦力のほとんどをギーナ回廊に配置していたというのは頷ける。とはいえウルガルナ軍と合流したことで、僕たちの戦力は8000になる。戦力が少しでも増えたのは幸いだし、なによりウルガルナ軍の弓隊や神官兵が追従してくれるのは、戦術の幅が広がるため非常にありがたい。


「私たちも明朝出発で問題ありません。本日はウルガルナで休息をとらせていただき、明日キルゴスへ進軍いたしましょう」


こうしてウルガルナ防衛戦は鉱山都市キルゴスを決戦の場として設定し、ウルガルナ王都軍とシルメア遠征軍から成る連合軍が、明朝に首都セレナより出立することとなった。


シルメア軍、ウルガルナ軍の連合軍がここに成立する。そしてナガトの案により、敵の高位炎魔法ベヒトブリズは攻略できるのか? 次回に続きます。

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