シルメア遠征軍 ウルガルナの首都セレナへ
ギーナ回廊の戦いより数日前、僕はリリアスらと共にシルメアの王都リラを出立し、ウルガルナ国の首都セレナへと向かっていた。リリアスは外国交渉の後にただちに戦闘に参加できるよう、軍勢を従えたまま移動することを提案していたため、王都リラで補給を済ませた部隊はそのままウルガルナへ向かうこととなっていた。アルジュラとジルヴァは王都に集結しつつあった自らの領兵を補充し、いくらかの戦力を拡張することができた。遠征軍はアルジュラの狼騎兵400と歩兵4100、ジルヴァの餓狼兵500から成る精鋭部隊となった。遠征部隊は歩兵達にも荷車が与えられ、高速で移動することが可能であった。揺れる荷車の中で、僕はリリアスにウルガルナについての話を聞いていた。
「エルフ達とドワーフ達が共存するウルガルナは、国土こそシルメアより小さいですが、製造業がとても盛んです。彼らはもの作りにとても長けた民族なのですよ」
「どういったものが作られているのですか?」
「そうですね……ドワーフ達は豊富な鉱産資源から、様々な製品を作っているそうです。建築材から工具などの日用品、それに金属細工も有名ですね。それに武器、防具の製造も大陸一の腕前と聞きます」
「それは凄いですね。エルフ達はどんなものを作っているのですか?」
「エルフ達は絹製品や木工細工などの製造が得意です。お互いの種族がそれぞれの特産品を交換して国が栄えているみたいですね」
「良い国ですね。ちなみにシルメアとウルガルナは国交が盛んなのですか?」
「普段は貿易相手といった程度ですね。シルメアは農業、畜産業、林業が盛んですので、そういった物資をウルガルナに提供してきました。ですが、やはりお互い異なる民族ですので、必要以上に距離を縮めることはしてきませんでした」
「そうですか。ですが今回のような有事となると、お互いの理解が深められる機会かもしれませんね」
「はい。是非とも国同士の繋がりが強くなることを目指さないとですね」
遠征軍の荷車は数日に渡って走り続け、ついにウルガルナの首都セレナに到達した。遠征軍は一旦セレナから離れた平地に待機させ、僕とリリアス、それにアルジュラとイゼルがシルメアからの特使としてウルガルナの国家首脳部に面会を申し込んだ。ジルヴァも軍の代表として同行することも考えたが、指揮官全員が不在になるのもまずかろうと思い、彼は軍とともに待機となった。それにジルヴァの風貌は知らぬ者からすれば怪物そのものであり、同盟交渉の場にはいささか刺激が強すぎるかもしれなかったからだ。
僕らの訪問は事前通知なしであったため、しばらくセレナの入り口で待たされることとなった。しかしリリアス自らシルメアの特使として参ったとの報を受けて、ただちに謁見の間へと通されることとなった。
謁見の間ではエルフ族の女性とドワーフの男性が座席に座っていた。
「ようこそおいで下さいました。私はエルフ族の長エリナベルです。お見知りおきをお願いします」
先に自己紹介をしてくれたのは、エルフの女性だ。風貌は金髪の長髪で、いかにも王侯貴族といった豪華な服を纏っている。金髪からはみ出るように長い耳はエルフ族に特有のものらしい。一族の長という割には30歳代くらいの若さに見えるが、実際のところはどうなんだろうか。
「儂はドワーフ族の代表ゲルドラという」
続けてドワーフの男性が口を開く。こちらは僕と変わらない程度の身の丈でありながら、その衣服の間からは筋骨隆々とした肉体が見える。立派な髭を携え、重厚な声色は一族の長としての貫禄がある。
「私はシルメアの王女リリアスです。今回は火急の件あって、私自ら謁見に伺いました。事前連絡もせぬまま無礼をお許しください」
「かまいませぬ。むしろ王女様自らご足労いただいたのに、たいしたもてなしもできなくて申し訳ありません。して……早速ですが、どういったご要件なのでしょうか?」
「はい。では率直に申し上げます。今我らシルメア国はダレム帝国と戦争状態にあります。そして貴国ウルガルナにも帝国軍の軍勢が向かったと、私たちの得た情報から判断しております。しかし帝国の力は強大で、単独の国の力では立ち向かえません。そこで我らシルメアとウルガルナが正式に軍事同盟を締結し、ダレム帝国に対抗したいと考えております」
「儂らと盟を結ぶことを望まれるか。ウルガルナの状況を考えればありがたい提案だ。だがリリアス公の期待に応えられるかどうかは保障できぬ。実は……」
ゲルドラは重い口調で帝国軍との現在の戦況を説明し始める。
ウルガルナの首都セレナに到着した遠征軍。ドワーフの長ゲルドラから現在の戦況が語られる……。次回に続きます。




