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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
亜人の国ウルガルナ編
30/72

ギーナ回廊防衛戦 激突する魔法の力

 ギーナ回廊に布陣するウルガルナ軍はドワーフを前列、エルフを後列に配置した戦列を組んでいた。軍の指揮官として、ドワーフ突撃隊長のオルグとエルフ戦士長のヴィラが、それぞれの部隊を率いていた。


 ドワーフの兵たちは背丈こそ人間の成人男性より低いものの、筋骨隆々とした屈強な体躯をしており、ドワーフたちの優れた製造技術で作られた鉄鎧に身を包んでいた。ドワーフの将オルグも彼らと同様の外見であるが、ドワーフ達の中では年長で白髪をなびかせている。彼の配下のドワーフ兵は武器として利き腕には採掘道具を加工したハンマーや棍棒を、もう片方の腕には重厚な盾を装備していた。


 後衛に控えるエルフの兵達は、弓矢でドワーフ兵を支援する配置である。さらにそれぞれが片手剣を腰に携えており、近接戦闘になってもぬかりはない。エルフ達を統括するヴィラは見た目こそ若い女性であるものの、実年齢は齢80を超えている。エルフ達は長命であるため、外見上の老いの早さが人間種とは違っていた。


 またエルフ神官兵と呼ばれる魔法を使える者たちが部隊の合間に配置されており、部隊全体を援護していた。エルフ神官兵は水と風の属性魔法に長けており、魔法の力を持たない帝国兵にとっては脅威となっていた。またウルガルナ軍を率いる二人は、オルグが武芸、ヴィラは魔法に長けており、部隊指揮能力と本人の実力も兼ね備えた良将であった。


「我らが軍はよく戦ってくれておりますわい。連日の戦闘になりますが、ヴィラ殿の兵も疲れは出ておりませんかな?」


オルグはヴィラに兵の状態を確認する。


「問題ありません。それよりも帝国軍の攻めがあまりにも単調過ぎます。このまま消耗戦を続けるつもりとは思えません。何か仕掛けてくるつもりでしょうか?」


 開戦以来、帝国軍は歩兵による攻めのみを行っていたことは、ウルガルナ軍側にも見て取れていた。魔道旅団は後方に温存されていたため、彼らが戦線に投入されるタイミングが、ウルガルナ軍にとっての正念場となるだろう。


「帝国軍先鋒、前進してきます!」


伝令兵がオルグ達に敵軍来襲の報を告げる。


「きおったな! 全軍迎撃態勢じゃ!」


オルグは前列を守るドワーフ兵に檄を飛ばす。ドワーフ兵たちもそれぞれがオルグの号令に呼応し、戦場は両軍の猛々しい叫び声に包まれた。


「オルグ、見てください! 帝国軍の盾兵の後ろ! 魔術師らしき一団がいます!」


ヴィラの指摘した通り、最前列の盾兵は前日と同じであるものの、そのすぐ後ろに魔術師が随伴していた。魔術師たちはすでに魔法の詠唱を始めており、いままさに攻撃魔法が放たれようとしていた。


「なんじゃとお!? みんな敵の魔法に備えろ! 撃ってきおるぞ!」


「神官兵! 水魔障壁ペトラウォルスを準備! 敵の攻撃魔法に合わせて展開してください!」


ドワーフ兵は盾を構えて姿勢を低くし、敵の魔法攻撃に備えた。ヴィラの号令でエルフ神官兵はただちに水魔障壁ペトラウォルスの詠唱を開始。一瞬の判断であったが、この対応がウルガルナ軍を救うこととなる。





「頃合いだな。魔術師達よ、攻撃開始せよ!」


フェリアルは前衛の魔術師達に攻撃開始を指示した。この号令にて本日のギーナ回廊の戦いの火蓋が切って落とされた。同時に帝国の最前列の盾兵が一歩下がり、詠唱を終えた魔術師達がウルガルナ軍の正面に姿を現した。


炎魔法ブリズ!」


魔術師達が一斉に魔法の銘を叫んだ瞬間、手にした杖の先から放射状の炎が放たれ、ドワーフ兵たちに迫ってきた。


水魔障壁ペトラウォルス!」


エルフ神官兵達も一呼吸後に、水の防御魔法を発動させた。ドワーフたちの目の前に水流の壁が出現する。帝国の魔術師から放たれた炎と水流の壁が接触した瞬間、爆発にも匹敵するような水の蒸発する音が発生し、あたり一帯が濃い水蒸気で包まれた。炎によって一瞬で蒸発した水が高温の蒸気となり、地に伏せるドワーフたちに襲い掛かった。高熱の蒸気は容赦なくドワーフたちの肌を焼き付けていく。


「皆息を吸うな! 神官兵、風魔法ウィルドを!」


ヴィラはエルフ神官兵に風魔法ウィルドの発動を命じた。神官兵はただちに魔法の詠唱を開始する。


風魔法ウィルド!」


魔法の発動と同時に帝国兵に向けて強風が発生し、高熱の蒸気は帝国軍側に流れていくこととなった。その事態に慌てた魔術師たちは盾兵の後ろに再び下がり、盾兵が吹き付けられる蒸気を浴びることとなった。しかし空気中をただよう蒸気の温度は、風に流されたことによって幾分低下していた。ウルガルナ軍、帝国軍ともに前衛が高熱の蒸気を浴びることとなったが、両軍ともに致命傷に至ることはなく、蒸気は四散して消えていくこととなった。


「たすかりましたぞヴィラ殿。あやうく兵達がまる焦げにされるところでしたわい」


水魔法ペトラの応用で相殺したので、大量の水蒸気が発生してしまいました。兵達は平気ですか?」


「少々熱い湯けむりを浴びたようじゃが……儂の兵はそれくらいでやられるほど脆弱ではない! それに見てみよ! 霧に乗じてとっくに敵軍との距離を詰めておるぞ!」


ドワーフ部隊はお互いの視界が霧によって遮られている間に、白兵戦に持ち込むべく一気に帝国軍に接近していた。


「それ突撃じゃ! 敵は逃げ遅れた魔術師たちぞ! 根こそぎ刈り取ってやれ!」


オルグの号令のもと、ドワーフ部隊は前線に姿をさらしたままの魔術師たちに襲い掛かる。魔術師達は近接戦闘用の装備はしておらず、その肉体もきわめて脆弱である。突然眼前に現れたドワーフ達の強襲に指揮系統も混乱。組織的に後退することも叶わぬまま、次々と屠られていった。


魔道旅団がついにウルガルナ軍に攻撃を開始。エルフ神官兵の巧みな魔法の運用により、緒戦はウルガルナ軍が制する。対する帝国軍の出方は……? 次回に続きます。

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