表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
亜人の国ウルガルナ編
29/72

魔道旅団の将校たち

 ウルガルナとダレム帝国の国境線は、広大な森林地帯が続いている。原生林とでも言うべき森林は高い木々が密に生い茂っており、大軍が通行できる地形ではない。ただ一か所、ギ-ナ回廊と呼ばれる平原地帯が存在しており、この部分のみがウルガルナとダレム帝国が交通できる広い地形が広がっている。ウルガルナにとってこのギーナ回廊は、国防上の最重要拠点である。


 バルディアらがシルメアに侵攻を開始した後ほどなくして、ウルガルナ方面では魔道元帥メルフェト率いる帝国軍南東方面軍がギーナ回廊に侵攻を開始していた。メルフェトらの戦力は帝国軍歩兵20000、騎兵1500に加えて、魔道旅団と呼ばれる魔術師たちが随伴していた。


 これに対しウルガルナは国内の戦力をギーナ回廊に集結させ、迎え撃つ体制をとった。ウルガルナ側の戦力はドワーフ達で構成される遊撃隊9000と、エルフ達で構成される戦士隊6000の連合軍であった。戦闘が開始されて数日、両軍は前衛部隊に損害が出ていたものの、お互い決定打を欠いている戦況であった。





 戦闘開始より5日目の夕刻、帝国軍の野営地では、初老とみられる魔術師風の男性メルフェトの元に将校達が集まり状況を報告していた。


「本日も前線は一進一退です。ウルガルナ兵は防戦に徹しており、なかなか突破の隙がありません。戦い方もドワーフ達が前衛を務め、後衛のエルフ達が弓や魔法で援護するという理にかなった戦法をとっております。このまま単純な平押しで回廊を抜くのは困難かと思われます」


メルフェトに報告している壮年期の軍人の男は、ダレム帝国将軍のギークスであった。ギークスは本来バルディアと同様に方面軍団を任せられる将軍だが、今回のウルガルナ攻略軍の最高指揮官はメルフェトとなっており、ギークスに全軍を動かす権限は与えられていなかった。


「存外に使えぬ兵達だな。ギークス将軍、何か作戦はあるか?」


メルフェトは自分が統括する魔道旅団は前線に出さずに温存し、ギークスの帝国兵のみで敵陣を突破させようとしていた。戦況が思い通りにいかずに苛立った様子で、ギークスに状況を打破するよう要求した。


「おそれながら、フェリアル様の魔道旅団を支援に投入していただきたく存じます。彼らがエルフ達の後衛部隊を叩いてくだされば、敵陣を崩す活路が見えます」


「魔術師達を前線に晒すのは気がすすまぬが……フェリアルはどう思う?」


メルフェトが意見を求めたのは、魔道旅団のうち属性魔法に長けた魔術師達を統括する魔道将軍フェリアルだ。フェリアルは外見こそメルフェトよりいくらか若く見える男性であるものの、ダレム帝国内でも属性魔法において右に出るものはいないほどの人物だ。将軍という肩書こそあるが、彼はもともとは研究職であった。メルフェトの軍が正式に帝国軍の組織として認められた際に、魔道将軍という地位を与えられたのだ。フェリアルはメルフェトの問いに答えていく。


「私たちとしては、そろそろ後方待機も退屈になってきましたので、望むところですよ。このフェリアルの隊を指名したギークス殿は、なかなか慧眼でいらっしゃるようだ。他の魔道将軍の部隊は未だ実戦投入できる段階ではないですからね」


フェリアルの発言を聞いて眉をひそめたのは、同じく席に座っていた魔道将軍アルフォンとオルトルだ。研究職時代にアルフォンは物質に魔力を伝導させて動かす研究を、オルトルは魔力を用いて人工生物を創る研究をおこなっていた。今回の魔道旅団設立にあたって、彼らも魔道将軍の地位を与えられていた。二人ともフェリアルと同年代とみられる男性で、華奢なインテリ学者といった雰囲気の外見である。研究職時代にもフェリアル、アルフォン、オルトルの3名はお互い面識があり、それぞれの研究成果を競う関係であった。


「フェリアル殿がそのように言うなら、やってみれば良いだろう。ご指摘の通り、私の部隊は動かさぬ。せいぜい流れ矢を食らわないようにな」


アルフォンが敵意を前面に出して、フェリアルの発言に返した。


「亜人達を焼き払うのは、フェリアル殿の炎魔法ブリズが適しているでしょう。後ろから敵の焼け死ぬ様を見物させてもらいますよ」


オルトルもフェリアル達の出陣には合意しているものの、快くは思っていない返答であった。


「それでは決まりですね。明日は私の魔術師隊も前線に出ます。よろしいですか閣下?」


フェリアルがメルフェトにも同意を求めた。魔道旅団の消耗は避けたかったものの、ここで侵攻を止められ続けるわけにもいかないため、出撃の許可を出した。


「よかろう。魔道旅団の力、亜人共に見せつけてやるがよい。ただしいたずらに魔術師たちを失ってはならん。魔法で敵の統制を崩したら、後処理はギークスの兵に任せるのだ」


「仰せの通りに!」


フェリアルは己の力を誇示する機会を得て満悦している。一方メルフェトは快く出撃を許したわけではない。なぜならこの戦場は魔道旅団を温存したまま突破する算段をしていたからだ。


メルフェトはシルメア方面のバルディア軍団に対し、すみやかにシルメアを攻略し、もし数日以内に王都リラが陥落できていない場合は、ウルガルナ方面へ転進するよう指示を出していた。バルディアへの書面は皇帝リオルドによる勅命かのように見繕っていたが、その実すべてを画策していたのはこのメルフェトである。


ウルガルナは帝国との国境のギーナ回廊こそ強固であるものの、シルメアとウルガルナの国境は特に防衛線はひかれていない。メルフェトはシルメア国内より迂回してウルガルナ領に侵入すれば、ギーナ回廊の防衛線を突破せずともウルガルナを攻め落とせることを皇帝に説いていた。皇帝も難攻不落なギーナ回廊を無視できるならと考え、メルフェトの案を認めたのであった。


 これまでギーナ回廊の戦闘に本腰を入れてこなかったのも、バルディア軍がウルガルナ国内に攻め入れば、ウルガルナ軍はおのずとギーナ回廊を放棄せざるを得ないからである。とはいえこの戦略は、情報が漏洩してしまうとシルメアとウルガルナの国境も固められてしまう可能性がある。それゆえ作戦の全貌を知るのは皇帝とメルフェトのみで、配下の魔道将軍たちにも具体的には伝えられていなかった。それにバルディア達が想定通りの動きをしてウルガルナ領に攻め入ってくれるかは不確定な事項であるし、そもそもバルディア軍が獣人の国相手に壊滅させられてしまっていれば、この戦略は破綻するのだ。来るかどうか分からない援軍に過度に期待してしまっても困るため、あえてこの情報は伏せられていたのだ。


 もっともメルフェト自身はバルディアの性格や軍の力を十分に熟知しており、援軍として現れる方に賭けていた。フェリアル達の出撃は許可したものの、乱戦に持ち込まれるリスクは避けて慎重に立ち回るよう厳命した。


「では明日の先鋒はフェリアル達に任命する。我ら魔道旅団の力を存分に見せつけるがよい」


メルフェトが軍議をまとめ、将校達はそれぞれの天幕に戻っていった。


ついに姿が明かされた魔道元帥メルフェト、およびその配下の将校たち。ウルガルナ軍は彼らの侵攻から国を守ることができるのか? 次回に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ