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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
獣人の国シルメア編
16/72

イーリスの丘迎撃戦 激化する両翼の戦い

「各前線で戦闘が開始されました! 右翼はアルジュラ将軍が敵陣に切り込んでいますが、敵が守りに徹しているせいで決定打が与えられていません。中央の敵は弓矢の攻撃を続けてきていますが、こちらにほとんど被害は出ておりません。左翼では、イゼル様の部隊が敵と交戦しています。両軍前衛の力は拮抗しており……こちらが最も激戦になっています」


前線からの報告が次々とびこんでくる。司令部から見ている範囲でも、概ねその通りの戦況のようだ。シルメア軍はよく戦ってくれている。特に最も多勢の敵中央軍が前進してこれていないのが大きい。


「敵の中央軍は効果のない射撃を続けておりますが……何か意図があるのでしょうか?」


リリアスが敵軍の動きを聞いてつぶやいた。塁と壕を張り巡らせた陣地に、考えなしに突っ込んでくる相手であれば容易く撃退できると思っていたが……相対する敵はそうでないことは明らかだ。そうすると無意味な射撃を続ける目的はおのずと見えてくる。


「敵中央軍は、僕達が両翼に増援を送れないようにするために、矢を撃ち続けてこちらの中央の部隊を釘付けにするつもりなのでしょう。正面突破が困難と判断した敵は、両翼に精強な部隊を展開して崩しにきています。両翼には騎兵がくると考えていましたが、狼騎兵ルプリオスの突撃をさせないために重装兵を出してきました。かなり手ごわい相手のようです」


僕の説明を聞いて、ドリトルらが焦りを見せる。


「両翼のアルジュラ様、イゼル様の部隊は奮戦しておりますが、相手との戦力差は倍以上です。どこまでもちこたえられるか……」





 中央軍は陣地を形勢して防戦しているため、寡兵でもある程度もちこたえられているが、左右の軍はほぼ同条件の地形で戦っている。ドリトルの言うとおり、左右の軍は戦力差に圧倒されて抜かれる可能性はあるだろう。今こちらがとれる手段は、中央後方に控えている義勇兵5000をどう動かすかだ。


 敵が中央突破を試みない理由は、壕を抜けた後に戦列を組むこの5000の兵が見えているからだ。この部隊を両翼に振り分ける動きをみせれば、敵中央軍は接近戦に切り替えて突破をはかってくるかもしれない。左右の軍に増援を送るかどうか、この判断は非常に重要だ。よく状況を考えなければ……。





 アルジュラの戦う右翼では、狼騎兵ルプリオスの突撃の勢いこそ殺されたものの、狼騎兵ルプリオスの突撃に続いた歩兵隊も戦闘に参加し、大混戦となっていた。両軍の声と武器の交わる音、それにおびたたしい量の血が飛び交うなか、アルジュラの槍は帝国重装兵を次々と貫いていた。


「なかなか訓練された部隊のようだが、私の敵ではないな」


串刺しにされている帝国軍兵士の横で、武器を失った重装兵が震えている。


「な、なぜこんなに簡単にやられるのだ……」


「守りに専念する敵を穿つのは私とて簡単でないが……指揮官の私が前に出ることで、諸君らは私の首を取ろうと躍起になっている。武器を振るう瞬間は、盾に隙が生まれるだろう? 私はその隙を突いているだけだ」


「化け物め……!」


その言葉を最後に、帝国兵は喉を貫かれて絶命した。


「化け物で結構だが、一応私も女でな。言動には気をつけたほうが身のためだぞ?」


 アルジュラ配下の歩兵も彼女に続いて奮戦し、帝国軍前列の重装兵は数を減らしつつあった。混戦に持ち込むことにより、重装兵の戦列は乱れて大盾による防御列が機能しなくなってきていた。激しい戦闘の末、シルメア軍右翼は重装兵の約半数を殲滅することに成功していた。しかし未だジェノンの部隊は3000近い戦力を保有しており、高い士気を保ったまま絶え間なく攻撃してくる。ジェノンの部隊を配置転換する能力も高く、重装兵が崩れたからといって瓦解しない組織力を見せていた。





 さらに激戦となっているのは、イゼルの率いる左翼部隊である。こちらでもマルキア歩兵部隊が重装兵達を押し始めていた。イゼルは複数の歩兵で連携して重装兵を殺傷することを徹底させ、効率良く敵をすり減らしていた。ある歩兵が敵の攻撃を受け止め、その隙を別の歩兵が突く。重装兵を倒す方法は、イゼルもアルジュラと同じ結論を出していた。


「相手の指揮官は、先の戦闘で狼の騎兵部隊を指揮していた人物のようです」


帝国兵がケイレスに報告する。


「さすがに手強い、バルディア殿に借りた兵がかなりやられてしまったな。相手の騎兵はまだ出てこないのか?」


「後方にて待機しているように見えます」


「主戦力を温存したままか……。あとあと不意突かれては面倒だ。こちらから動いて釣り出してやるか!」


ケイレスは後方待機している帝国軍騎兵隊に指示を出した。


「敵歩兵の側面に向けて突撃せよ! ただし深く入りすぎるな。狼の騎兵が出てきたら無理せず退くんだ」


ケイレスの命令を受諾し、帝国軍騎兵は先の戦闘の雪辱を果たそうとシルメア歩兵の隊列の側面に突撃した。側面攻撃を受けた歩兵達は次々と討ち取られていく。帝国重装兵も騎兵の援護を受けて士気を取り戻し、反転攻勢に出た。


「そう一方的にはさせません! こちらも主力を出しましょう」


イゼルは後方待機している狼騎兵ルプリオスに、敵騎兵への突撃を命じた。狼騎兵ルプリオスが、シルメア歩兵を攻撃する敵騎兵の側面に襲い掛かる。


「出てきたな! 騎兵は一旦下げろ!」


ケイレスはさらに騎兵隊に指示を出す。時間差によって数十騎の騎兵が討ち取られたものの、狼騎兵ルプリオスの強襲から離脱することに成功する。


「つづけて後列の歩兵隊も前進させろ。狼の騎兵をからめとれ」


後退する騎兵を守る形で、帝国軍歩兵の後列が狼騎兵ルプリオスとの戦闘に突入する。戦場は苛烈さを増していき、両軍の血飛沫が辺りを塗りつくしていった。



戦場の両翼ではアルジュラとジェノン、イゼルとケイレスがそれぞれ一進一退の激戦を繰り広げています。戦場と鍵となる両翼の戦い、流れはどちらに……

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