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シルメア戦記  作者: 大和ムサシ
獣人の国シルメア編
13/72

生死のカギは穴掘りにあり 決戦の時迫る

 イーリスの丘は王都リラから北へ半日ほど行軍したところにある、なだらかな丘陵である。戦場全体の見通しはよく、遮蔽物も見当たらない。大軍を展開するには適した場所だ。王都を出立したシルメア軍はイーリスの丘に到着した。帝国軍の姿は見えず、計画通り先に戦場に到着することにまずは成功したのだった。国王は到着した部隊に陣地作成を指示していく。


「ただちに壕の作成にとりかかるのだ。できるだけ深く、長く穴を掘るように。掘り出した土は前面に盛って、そのまま土塁とせよ」


国王の命のもと、シルメア軍は丘を中心とした壕の作成にとりかかった。義勇軍の若者達はそれぞれに支給された掘削道具を使って、どんどん穴を掘り進んでいく。獣人種の特徴として人間種より身体能力が高いためか、作業は予想以上の早さですすんだ。特にジルヴァ配下の餓狼種の方々は、発達した手足を使って高速で土砂をかき出しており、陣地作成に大きく貢献することとなった。日没の時刻には、一列目の壕はすでに成人男性がすっぽりおさまる深さになっていた。





「形になってきましたね。敵の弓矢を防ぐには、これで十分機能すると思います」


 完成しつつある壕を見て、僕はシルメアの獣人達の作業速度に感心した。現場を監督するドリトルが、僕を見つけて話しかけてきた。


「見事なものでしょう。もうすこし最前列の壕は掘り下げて、餓狼兵ウェアウルフが伏せておけるようにした方がよろしいですかな?」


「それが理想的ですね。ですが、帝国軍がいつ襲来するかわかりません。あまり夜通しの作業はせず、夜間は皆さんに休んでいただいた方が良いと思います」


本日は幸運なことに、帝国軍はイーリスの丘に到達することはなかった。しかし帝国軍も王都リラを目指して進軍を続けているはずだ。今後いつ戦闘になってもおかしくないだろう。不眠不休の作業の末、疲弊した状態で会敵する事態は避けたい。


「ナガト様、後は私が監督しておきます故、先に天幕にお戻りください。王都から半日行軍してきただけでも、今日はお疲れでしょう」


「お言葉に甘えさせていただきます。皆さん凄い体力ですね。僕は普段身体を動かさないもので、お恥ずかしい限りです」


 僕は天幕に戻って休むことにした。寝所は丘の頂にあり、あたり一帯を見渡せる場所だった。高所から見下ろすことで、眼前の草原がいっそう広大に感じる。ここまで見晴らしがよければ、帝国軍にふいに接近されることもないだろう。遥か遠方の山の間に日が沈んでいく。空が夕焼けで真っ赤に染まっていく様は、僕の故郷と同じで心が落ち着く。


「戦争が終わったら、ゆっくり世界を見て回ってみたいな……」


僕は率直な気持ちをつぶやき、寝床についた。






「帝国軍出現! 北の方角から進軍してきます!」


 まだあたりはうす暗く、完全に夜も明けていない暁の時、シルメアの見張り兵が帝国の軍勢を発見した。僕もあたりのざわめきを感じて目をさまして天幕を出て、迫りくる帝国軍を確認した。数は先日よりもかなり多いように見える。情報通り、帝国の本隊20000の軍勢が王都リラを目指して進軍してきたようだ。いよいよ帝国軍との決戦がはじまる。僕は気持ちを引き締めて司令部へ向かった。


司令部は丘の頂上から少し下ったところに設置されており、戦場全体を見渡すには申し分ない場所だ。司令部にはすでに国王とドリトルら家臣たち、そしてリリアスが到着している。


「おはようございます。ナガト様」


リリアスが僕に挨拶をくれる。


「おはようございます。いよいよ帝国軍との決戦ですね。なんとしても勝ちましょう」


「望むところです」


リリアスの返事は勇ましい。リリアスは以前と同じく甲冑を着て帯剣しており、戦士の出で立ちだ。


「兵達はナガト様の提案通りの配置に向かわせました。壕にはジルヴァ将軍と餓狼兵ウェアウルフを伏せてあります」


王は中腹に築かれた壕を指しながら説明した。司令部から見下ろすと、壕は3列目まで掘りすすむに至っていた。結局僕が寝所に向かった後も、しばらく作業が続けられていたようだ。


「皆さん穴掘りは、思いのほか楽しかったとおっしゃっていましたわ」


リリアスが説明する。穴掘りがシルメアの方々の本能に火をつけたのだろうか。昨日みていた範囲でも物凄く作業効率が良かったので、穴掘りの適正が高いのかもしれない。


「穴に入りきれない義勇軍は、壕の後方に待機させています。接近戦になれば彼らも戦闘に参加してもらいます」


こちらに飛び道具があれば、壕の中から撃ち続けるのが最も効率的なのだが……あいにくとシルメア軍に飛び道具はない。壕はあくまで敵の弓矢を防ぐ目的のみで使用し、近接戦闘に持ち込むことを狙うしかないだろう。


「そしてアルジュラ様の狼騎兵ルプリオスは2軍に分けて壕の両端に配置しました。右翼はアルジュラ様が、左翼はイゼル様が率いています」


壕の長さは丘全体に延ばすにはとても時間が足りなかったため、壕の両端には小規模の部隊が通れる程度の隙が残っている。そこを敵が突いてくることは想像に難くない。作戦会議での方針通り、ここにアルジュラの強力な部隊を配置するのが最善だろう。こうしてシルメア軍は部隊の配置を終え、迫りくる帝国軍と相対するのであった。


無事帝国軍の先を越し、イーリスの丘に布陣したシルメア軍。襲来した帝国軍のとる戦術とは? 次回に続きます。

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