万能工具を持つと集中力が増す ー ナビロボットを直そう③
ロボットの後頭部を開けると出てきたのは基盤だった。
しかも板状ではなく3D構造の基盤で家のパソコンを分解した時とかに見るのより部品が100倍細かいし電線もすごく細い。
またとんでもなく複雑そうな基盤だがこの基盤のどこが壊れているかは「デジカメ」の効果でわかる。頭に思い描かれる図面上では「ヒューズ」の部分が赤くなっていた。
ヒューズとは。
ヒューズは基盤を過電流から保護するためのものだ。過電流が流れると基盤が壊れる代わりにヒューズがはじけとぶ。
おそらく胸の配線が切れまくっていたから俺が感電したあの配線がこの基盤につながる配線にふれて過電流が流れたものと考えられる。
実際に基盤を見るとヒューズがあるべき所に無いし、よく見るとその部分が薄っすらと黒く焦げている。
という事でこのヒューズをなんとかしよう。万能工具は圧着端子も出せたし消耗品としてヒューズも出せるか? と思ったらやっぱり出せた。
この基盤に合うヒューズが。
万能工具は「消耗品」は無限に出せる所が良いな。
で、手に取ったこのヒューズはすごく小さい。サイズが2mmくらい。米粒くらいの大きさのヒューズだ。
そしてこのヒューズを基盤に取り付けるには……「はんだごて」が必要だ。はんだごてで「はんだ」という通電金属を溶かしてヒューズを基盤にくっつける。
でもこんなにサイズが小さくて上手くできるだろうか? ……まあ、でもやるしか無い。俺ははんだごてをイメージした。
すると「保護メガネ」と「保護マスク」「保護手袋」を勝手に装備していて、手には万能工具の「はんだごて」が現れた。
このはんだごてはどうやら「はんだ(基盤の接着に使う溶ける金属)」が自動で先っちょから出てくる構造みたいだ。必要な手が減ってちょっと安心。
さて素手でヒューズを押さえつつはんだごてを近づける。
ジュー。
はんだが溶けてヒューズが基盤とつながる。万能工具を持っているとやり方がわかるし少し神経が落ち着いて集中力が増す。体の震えも抑制できて精密な作業がなんとかこなせる。
さすが万能工具。
ー
「ふー、これで全部のヒューズをつけた。」
計5個のヒューズを直した。
「あとは……そうだ。この基盤の焦げはとっておいた方が良いな。」
焦げた部分が通電して基盤を壊すかもしれない。しっかりとっておこう。俺は消耗品として「ウェス」を出して基盤を掃除した。
ウェスは布の切れ端みたいなので掃除に使ったりする。基本的に使い捨てのヤツだ。
おっ、さすが万能工具のウェスだ。焦げがツルっととれてピカピカになる。これが終われば作業完了だ。と、調子に乗っていたら……
「……あばっ!」
ウェスで拭いてたらちょっと感電した。
そうだ。基盤上も電気がのっている箇所があるしウェスみたいな布も通電するんだった。調子に乗らず気を付けて慎重にならねばそれで故障させたりしたら話にならない。
俺は自戒しつつ気をつけて作業した。
ー
「おし、ピカピカ。」
油断せず作業したから次は感電しなかった。
これで問題のある所は全て直した。
この基盤の図面を見ていてわかったことだが後はこのロボットのうなじ部分にある「リセットボタン」を長押しすると起動できそうだ。
と、その前に「ディップスイッチ」も操作しておくことにする。ディップスイッチは基盤にあるスイッチで特定の操作をすると基盤の状態を変化させられる。
8個ディップスイッチが並んでいる。ディップスイッチを何にもせずにリセットボタンを押すとただ再起動するだけ。
1番目から4番目をONにしたままリセットボタンを押すと「工場出荷時まで初期化」をする。
5番目から8番目をONにしたままリセットボタンを押すと「管理者初期化」をする。
ここは「管理者初期化」をしとこう。俺はディップスイッチを爪で5〜8番目までをONにした。
そして後頭部と胸のフタを取り付けておく。胸のフタは1本ネジが足りないけど3本有れば良いだろう。
そして俺はリセットボタンを押す。
ブーンと音がしてロボットが動き出した。
「やった! 動いた!」
苦労した甲斐があった。
倒れていたロボットがゆっくり動き出して自動で直立の姿勢をとった。かなり動きが滑らかだ。
「……初めまして、管理者様。管理者様の初期設定を開始します。」
ロボットが女性の声で喋った。