コメウマー村に忍び寄るもの ー 幼馴染ミナコ(男)の悩み
新章始まるにあたって簡単な人物紹介
主人公デンダツヨシ……万能工具持ち。召喚勇者。
レーン……恋人、大人しい性格。
フォー……恋人、明るいネコミミ。
パエリア……女神大好き女剣士。
ビビンバ……戦いが好きなムキムキの女重剣士。
ガパオ……小柄な女盗賊。器用な人が好き。
ミナコ……主人公の幼馴染。「拳闘特化」持ち。女だったけど召喚されるにあたり女神に男にされた。召喚勇者。
カナコ……戦艦で見つけたロボット。つよい。
ライズ王国領
コメウマー村
近くの【森】
「目標……逃走中。
フィフス、ナインズ、囲め。」
「はあっ、はあっ、……クソがっ!」
逃げる「人影」と追う「影」
草に足を取られながらなんとか走り続けるその「人影」が木々の上を飛び交う「影」に捕まるのはすぐだった。
「ぐぇっ! クソッ……死にたくな……!」
その人影は突如、真っ赤な炎に包まれた。
その炎を見てため息をつく影達。
「あー、証拠隠滅しちゃったか。」
「捕まりかけただけなのに殺しちゃう?」
「厳しい組織だねぇ。どこの組織か知らんけど。」
その炎が消えた後には骨のカケラ1つ残っていなかった。
「フィフス、ナインスは周辺を捜索。何らかの【儀式】の痕跡。それを探せ。」
「あー、やだな。探し物系は【フォー先輩】が1番得意なのに。先輩、帰ってこないかな。」
「あら、知らないの? 【フォー先輩】見つかったらしいよ。でも部隊放免になったんだって!」
「えー! なんでなんで!? 何で放免?」
任務中だと言うのにキャワキャワしているフィフスとナインスに副隊長のトゥエスが叱りつける。
「気を抜くな。目標はこの通り消失し地道な捜索となるだろうが此度の事案は重要度が高い。【謎の儀式】は必ず突き止める必要がある。」
ライズ王国情報部に与えられた今回の任務は国境付近のこの森で【謎の儀式】を行う者の調査。
暇な隠匿賢者のただの気まぐれな実験であれば良かったのにこうもしっかりと「証拠隠滅」を図られては逆に怪しさが深まった。
この隠密部隊の副隊長トゥエスも地道な探し物が得意なフォーが戻ってきたらなと考えながらフォーの影響でフィフス以降の後輩がだらしなくなってしまった事に複雑な気持ちを抱くのであった。
ーー
「うめー、これ、うめー!」
「本当にビッグボアの肉なのだ?
美味いのだ!」
今日は幼馴染のミナコが料理屋の「試作品」を持ってきてくれたのでレーン達と一緒に試食会。
ミナコが持ってきたのは「トンカツ」だ。
肉はダンジョンのビッグボア。脂は美味いが硬くてあまり食べるのには好まれない肉をミナコはすごく美味しく調理した。
「硬い肉も柔らかくするコツがあるんだよ。」
さすがミナコ。
俺も、トンカツうめー!
「ん……ミナコは食べないの?」
そういやミナコは食べていない。
「いや、俺は食べるのを見ているだけでいいよ。」
そうか。
「ん……ミナコはデンの方をずっと見てる。……はっ! まさか。……ゴクリ。」
えっ?
「はっ! ミナコはお兄さんの事を……ゴクリ。」
お前らゴクリすんな。
ミナコは【男】だぞ。
確かにこの世界に来る前、
ミナコは【女】だったけど。
な? 別に俺をみてたのはなんでも無いよな?
「べべ、別にデンちゃんの事をずっと見てたわけじゃねーし! 好きとかじゃねーし。」
ミナコも落ち着けよ。
てかトンカツだったら「米」と一緒に食いたいな。町で流通している穀物はほとんどが「麦」で米が無い。
「米? それなら地元で作ってるぜ。」
ビビンバだ。
「でもあれパサパサして好きじゃ無いのだ。パンの方が美味しいのだ。」
ビビンバとガパオの地元で米を作っているらしい。【コメウマー村】という村。でも地産地消のためこの港町に米は流通していないんだとか。
うーん、米、食べたいなあ。
今度、商会のパパスに相談してみるか。
ーー
仕事の合間にミナコと「銭湯」に行った。
男同士なのでもちろん男湯だ。
俺もそこそこ筋肉がある方だがミナコの体は俺と比較してかなり筋肉がある。男としての敗北感が少し。
「ふいー。この町って住みやすいな。デンちゃん。」
そうだろう、そうだろう。
この町は大衆向けの風呂屋や洗濯サービスなんかが充実している。食は海の幸や山の幸、ダンジョンで採れる「ダンジョンの幸」もあってそれぞれ中々に美味しい。
住む分にはとても良い町。
で、2人で肩を並べて湯に浸かっていたら、
ミナコがポツポツと喋り出した。
「聞いたよ。レーンのために王女や騎士にケンカ売ったんだって?」
まあ、あれはカッとなっちゃって。今はもう少しやりようがあったと少し後悔している。
「でも、好きな女のために動くデンちゃんは素直にかっこいいと思ったよ。少し羨ましい。」
そうか。そう言われると照れるな。
「……なあ、ちょっと悩みがあるんだ。」
ほう。なんだ。
「ちょっとした悩みなんだがよ。」
もったいぶらずに言えよ。
「……貸して欲しいんだ。」
おう。何を?
「……ヶ…ッ。」
……え? なんて言った?
俺は難聴系主人公じゃないけどマジで聞き取れなかったからもう一回はっきり言ってくれ。
「……デンちゃんは良いよな。
彼女が2人もいてさ。」
お、おう。そうだけど。
「でも、俺にはそういうのがいない。」
うん、まあ、それはがんばれとしか。
「俺の性自認って何だと思う?」
セイジニン? 政治……、いや「性」のほうか。
ミナコは元々【女】だけどこの世界に来て【男】になって。実際の所はどうなんだろう?
「なんとなく気づいていると思うけど俺、デンちゃんの事……。」
ミナコに見つめられる。
えっ。まさか……。
「……試しに一回どうだ?」
は? 何を?
「一回というか一発。」
一発。
ここまで言われると、
さすがに俺も察した。
……それはお断りします。
「なんでだよ?」
なんでもなにも俺はそういうのはNOなの。
「何事も経験じゃん?」
いや、そうとも限らないじゃんよ。
「な? 騙されたと思って一発?」
だから嫌だっつってんだろ。
いい加減怒るぞ。おい。
なんてやりとりをミナコとしていたら……
「こりゃーー! まだ昼から何言っとるんじゃ! ここはそういう場所じゃないぞ!」
風呂屋の常連さんに怒られた。
俺達は謝りながら風呂屋を後にした。
ーー
あーっ、びっくりした。
ミナコがあんな事を考えていたなんて。
でもよく考えたらミナコも異世界に無理矢理連れてこられて「女から男」にされてるんだもんな。その辺を考えるとミナコに少し同情する。
だからって俺の貞操を渡す気は無いけど。
でもこの問題は早々になんとかしないといけない。だって俺は狙われているのだ。どうすれば……、
そうだ、ミナコ。【教会】に行こう。
「教会? 何しに行くんだ?」
女神関連の事は「女神メーコ様」に相談だ。