8.リリー
会話多めです。
モンクギルドを目指してプロテアを歩いていると、多くのプレイヤーの姿が見られるようになっていた。
片手剣と盾を持ったプレイヤーが多く、騎士志望だろうか。
少ないが片手杖や打撃武器のメイスを持ったプレイヤーはプリーストだろうし…。
(モンク不人気だなぁ。アイシャさんが必至になるのも分かる)
騎士団の建物に入り、モンクギルドの部屋への扉を開く。
(お、受付にプレイヤーがいる)
部屋に入ると、白人と思われる女性プレイヤーが受付でアイシャさんの説明を受けていた。
その女性プレイヤーの腰にはナックルが括り付けられている。
「モンクは強い職なので是非!戦闘から回復までなんでもござれ!今なら強化魔法も付いてきます!」
アイシャさんがモンクの押し売りしている。
強化魔法は元々ある。サービスじゃない。
(暫く掛かりそうだし…挨拶は後にするか)
そのまま後奥の部屋へ行こうとすると、オレに気がついた女性プレイヤーから声を掛けられた。
「あのっ!すみません。モンクの方ですか?」
いきなり話しかけられたので、内心驚きながら顔を合わせる。
言葉が日本語に聞こえるのは、言語変換機能のおかげだろう。
(美人だ…)
一瞬見た雰囲気だけでそう思った。
日本人では無く…ヨーロッパ系の人だろうか。
身長はオレより少し低い165cmくらいだと思う。
細身ながらも女性らしいスタイルをしている。
綺麗な金髪でプラチナブロンドって言うのかな?
それをポニーテールにしていて、肩の辺りまでの長さがある。
少し幼さも残っているが目鼻立ちは完璧で、男性なら間違いなく振り返ってしまうだろう。
そして一番目を引くのは、その綺麗な緑の瞳。
オレも目を合わせただけで…見とれてボーッとしてしまう。
「…あの、どうしました?」
女性が不思議そうに首を傾げる。
「ああ!すいません!いきなりで驚いてしまって…。確かにモンクなりたてですが…」
「あっ驚かせてごめんなさい!名前見えてるかもしれませんが、私、リリーと言います。」
リリーと名乗った女性が丁寧にお辞儀をして挨拶をしてくる。
「オレは樹です、よろしく。で、リリーさんどうしました?」
オレもお辞儀を返しながら返事をする。
「実は職業で迷っていまして。出来たら樹さんにモンクについて教えて頂けないかと…」
リリーさんは少し申し訳無さそうにしている。
「うーん…実はオレもまだスキルを取って無いんですよね。ただ今クエストの報告をすればスキル取得出来るので、試すついでで見てみます?」
オレの言葉にリリーさんの顔がぱあっと明るくなる。
「お願いします!」
すると今まで黙っていたアイシャさんが口を開く。
「それはいいですね!先輩の方にモンクの素晴らしさを教えていただくのも有りだと思います!」
アイシャさんはそう嬉しそうに話しているが…。
(受付のアイシャさんが上手くモンクの強い点を説明できればそれで済むんじゃー…)
そう思いながらも声には出さない。
「そうですね。樹さんが優しい人で良かったです」
アイシャさんと話すリリーさんもニコニコしている。
タイプの違う美人二人。眼福。
「と、取り敢えずクエストの報告をしてきます」
オレは逃げるように急ぎ足でガンターさんの居る奥の部屋へ向かう。
(これだけ女の子と話すのなんて…小学生以来だよ…緊張で変な顔してなかったかな…)
饒舌に喋れない自分が悔しい…少しだけね。
奥の部屋への扉をノックした後、挨拶をしながら足を踏み入れる。
「失礼しまーす」
「おう!上野樹!」
ガンターさんの声は相変わらず大きい。
大声に精神的ダメージをもらいながらも、スキルクエストの報告。
報告だけで済んだので問題無かった。
リリーさんとアイシャさんの所へ戻る。
「…ただいまー…」
オレの声に反応したリリーさんが顔を向ける。
「…おかえり?」
そして首を傾げながら、美人がおかえり。
彼女居ない暦いこーる年齢のオレには破壊力抜群ですよ。
もう一生オレの味噌汁を作ってくれ。
(現実だったら絶対に顔真っ赤になってるわ…)
オレは恥ずかしいのを誤魔化すように、身体をほぐすフリをする。
「ま、まあ、モンクになれば分かるよ…」
「ふーん?」
「アイシャさん、この辺でスキルの練習が出来そうな所って有りますか?」
アイシャさんが手をぽんっと叩く。
「それなら丁度良いところが!騎士団の建物裏に訓練場があります。上野さんが正規のモンクですし、使っても問題無い筈です」
「そこにしますか」
「了解です」
「アイシャさんありがとうございました。それではまた」
「はーい。怪我には気をつけて下さいねー。リリーさんもモンクをぜひぜひ宜しくお願いしますね!」
アイシャさんが手を振る。
オレとリリーさんは笑顔で手を振り返す。
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…オレとリリーさんが去り、静かになったモンクギルド。
「はぁ…プレイヤーって羨ましいな…」
アイシャさんがカウンターの上に身を投げ出しながら…そう呟いた。
そしてその状態をガンターさんに見つかり、アイシャさんが怒られるのは樹が知ることはない。