73.プロテア防衛戦 7
その後、女神スルーズのノックバックに対して数回チャレンジを試みるが見事に失敗。現状では打つ手なし。
けれどノックバックに対して一つだけ分かった事がある。それはノックバックを発生させているスキルが、パッシブスキルではなくアクティブスキルという事だ。
スルーズがノックバックスキルを使用した瞬間、効果範囲内のプレイヤーがノックバックする。これは残影で突っ込んだ時に吹き飛ばされるまでの時間にバラツキがあったため分かった事だ。
「はあ…あの超反応速度だけ何とかなれば行けそうなんだけどな…」
「タイミングをズラしてもダメ、横からでもダメ。…打つ手ないから素直に待とうよ。流石に10回以上するとちょっと疲れてきた…」
「リリーごめん。佐山さん達との合流までもうすこし頑張ろう」
「はーい……」
リリーと二人でそう呟きながら、オレ達はそのまま時間稼ぎをしている。目的は佐山さん達との合流待ちだ。
合流組は補給は終えてこちらに向かってきている最中で、もう一人助っ人を呼んできてもらっている。
今スルーズで時間稼ぎをしているのは、オレと並木さん、並木さん、リリーの三人だけ。
トマホークによる遠距離攻撃を並木さんが捌いて、オレとリリーで意識を少しでもこちらに向けている。これだけなのだが、スルーズによる他プレイヤーの被害は大幅に減っているように見える。
だがそろそろ時間稼ぎに気付いて、スルーズが動きだすかもしれない。
『もう少しで着く。彼女も一緒に来ている』
合流組の佐山さんからの連絡が入った。…何とか間に合ったようだ。
そして合流すると人数は最初の三人合わせて七人。
佐山さん親子、サラ、そして応援を依頼したもう一人は…アメリカのプレイヤーシンディ。彼女は銃による狙撃で遠距離攻撃を得意とする。
「良く分からないけど、倒すには私が必要なんだろ?今回だけ協力してやるよ。ただ、貸し一つ」
(…貸しってシンディさんも政府プレイヤーじゃないか!)
…そう思ったが、関係者以外も居たので苦笑いするしか出来なかった。
瞬間に距離を詰めれる近距離3人、そして遠距離が二人。不安な要素はあるがこれで作戦を実行する。
スルーズの方を見ると…思ったように被害が出せずに明らかに苛立っている様子だ。
そして周りのプレイヤー対天使や巨人の状況もプレイヤー優勢へと傾いてきている。
オレは斧を抑えている並木さんを除き、話を始める。
「よし、揃ったところで作戦を伝える」
オレは出来る限り分かりやすく作戦を伝えた…つもり。
「……という事だけど、理解できたかな?」
けれどメンバーの顔を見ると、ゲームに疎い佐山さん親子は理解出来なかったようで。
「…えーと。佐山さんはカウントダウン後にスキルで距離を詰めて突撃、鈴さんは後衛のサポート」
二人は詳細は分かっていないようだったが、指示は分かったようで頷いた。
「よーし、作戦開始だ」
「並木さんありがとうございました。後は作戦通りに」
オレは並木さんの少し後ろに立って声を掛ける。
「ふー、何とかなったね。MPがギリギリだったよ。後衛の防御は引き続き任せて」
そう言いながらも並木さんは表情を変えずにスルーズの動きに注意し盾を構え続ける。
配置は遠距離を押える並木さんを先頭に、オレと佐山さんとリリー、その後ろに鈴さんとサラとシンディ。
「さあ、いこうか」
ふいに昔のバスケ漫画のシーンが浮かんだが、オレは頭を振って消し去る。
オレはそのまま周囲に聞こえる声でカウントダウンを始める。
「5……4……3……2……1……GO」
その瞬間、距離を一瞬で詰めるスキルを持つ前衛三人が姿を消してスルーズの前へと姿を表す。
(前衛のタイミングは完璧だ…後衛は!?)
けれど前と同じように、次の瞬間にはスルーズの超反応により前衛の三人は後方へ吹き飛ばされる。
(ダメか!…けど、これで良い!)
前衛が吹き飛ばされた瞬間、サラとシンディによる、矢と弾がスルーズに着弾する。スルーズはそれに反応する事ができず、二人の攻撃により鎧の一部を破損した。
(よし!)
オレは吹き飛ばされながらもガッツポーズをする。スルーズに初めてまともな攻撃が通った。
(やっぱりスルーズは防御魔法とノックバックは同時に出来ない!)
前衛が立て直してからもう一度同じ作戦を実行する。
「5…4…3…2…1…GO」
二回目の攻撃はスルーズが身構えていた為、前衛が飛ばされた後すぐ魔法による防御に切り替えられ、攻撃は通らなかった。
だがやっとこれでスルーズの防御を崩す希望が見えてきていた。
オレの提案した作戦は”スパイク”や”フォーカス”と呼ばれる対人ゲームの作戦の一つ。
これは対人ゲームでバラバラに攻撃をしても、回復魔法により体力を回復されて相手を倒し切る事ができない時に使用する作戦で、複数人が同じ相手に同タイミングで攻撃を放つ事で、回復される前に体力を削りきり倒してしまう……というもの。
そのゲームではトップギルドのスパイクの精度は素晴らしく、並みのプレイヤーでは回復するために反応する前に倒されている。
スルーズのノックバックスキルも遠距離防御もアクティブスキルの為に同時に使用が出来ない…それなら。
スパイクを行って、前衛と遠距離の攻撃が同タイミングで来た場合は?前衛か後衛の攻撃をどちらか一方防御出来なくなるという算段だ。
ただしスルーズは反射神経も判断力も桁外れている。
ほんのコンマ数秒、前衛組みと遠距離攻撃がズレてしまうだけで、オレ達の攻撃は防御されてしまう。
サラとシンディには調整をお願いしているが、即席パーティーでどこまで精度が出せるのか。
(けど、ここに居るのはRDOトップクラスのプレイヤーだ。必ず成功出来るはずだ!)
試行錯誤は続き…次で8回目のスパイク。
7回目のスパイクでは、サラとシンディの調整により最初1秒程のズレがコンマ数秒のズレにまで縮まっていた。
「…次は成功させよう。3……2……1……GO」




