6.鼓膜破壊兵器
モンクギルドへ行きアイシャさんへ条件達成したことを報告する。
「確かに、スケルトンの骨10個を確認致しました!上野 樹さんはモンクへの転職条件満たしました。これが最終確認ですが、モンクへの転職を行ってよろしいですが?」
「お願いします」
「では、登録書にサインをお願いします」
アイシャさんはそう言いながら、オレに紙を一枚差し出す。
(妙にリアルな転職だな…)
そう思いながらも登録書にサインする。
「おめでとうございます。これで上野 樹さんは下級のモンクとして認められました。記念すべきプレイヤー1人目のモンクです!これから人々の為に、その力を使っていただけることを願います!」
目の前にモンクへ転職しました。とシステムメッセージが表示される。
その後に取得可能スキルが増えました、とも表示された。
そしてプレイヤー1人目のモンクという事実が嬉しかった。
「アイシャさんありがとうございます。これから頑張るので、宜しくお願いします」
オレがそう言うとアイシャさんは優しく微笑む。
「こちらこそ宜しくお願い致します。それと…奥の部屋にモンクの教官がいるので、色々聞いてみると良いですよ。現在のランクのモンクスキルも教えてくれるはずです」
「じゃあすぐに行ってみますね。…あ、そうだ!アイシャさん!モンクのランクを上げるにはどうすれば?」
「レベルが一定のラインに達していることと、教会関係のクエストを達成していく事でランクアップクエストを受けることが出来ます。目安としてレベル40と教会関係クエスト5個達成で、中級試験クエストを受けることが出来ます」
「分かりました。ありがとうございます」
次の目標が分かったことで、アイシャさんに挨拶して奥の部屋に向かう。
教官はどんな人だろう。
部屋の扉を開けるとそこには、ハゲ頭で身長2mはある筋肉ムキムキのおっさんが居た。
目つきは鋭く、ギロリと睨み付けられながら見下ろされる。
その圧倒的な威圧感に、オレはたじろぐ。
…扉を閉めて見なかったことにしたい。
「はじめまして…先程モンクになった、上野 樹です。モンクについて…、教えてください…」
おっさんの見た目が怖いので、上手に喋る事ができない。
そして驚いたのはその後だ。
「おう!!!プレイヤー1人目のモンクか!!そう硬くなるな!ワシはモンクの教官をしとる、モンクの副長ガンターという!歓迎するぞ!!!!」
やばい!おっさん声でかい!鼓膜がビリビリする!
慌てて耳を塞ぐも、時すでに遅し。
「…ガンターさんですか。よろしくお願いします」
耳を塞ぎながら苦笑いを浮かべ、オレはそう挨拶を返すのが精一杯だった。もうやだ帰りたい。
「早速モンクについて教えよう!モンクはナックルや!キックによる!打撃攻撃を得意とする近接職だ!己の肉体が武器となる!」
耳を塞いでいても貫通して来る、声。
減らされる精神力。
「そして!他の近接職と違うのは!祝福魔法の一部が使える!それにより強化や回復も出来る!すばらしい職だ!ただし!祝福や回復魔法の専門であるプリーストには効果は劣るがな!」
どうやら強化魔法や回復魔法も出来るようだ。
少しでもポーションを節約したいので、回復魔法で節約出来るのは大きい。
結構ソロ性能が高い職かもしれない。
そのまま声による攻撃を耐え、スキルの説明を受ける。
まとめると。
下級モンクで扱えるのは、ナックルやキックに攻撃補正を掛けるパッシブスキル。
敵の防御を一部貫通する掌底や、一撃で数発のパンチを繰り出すアクティブスキル。
STRやAGIを上げる強化魔法。
某有名ゲームのリジェネ的な、持続回復魔法。
思ったよりも使えそうなスキルが多く、オレの戦闘スタイルにも合っている。
範囲攻撃に乏しいのと、器用貧乏感があるのがネックだろうか?
その後スキルクエストを受けれるだけ受けて、ガンターさんに別れを告げる。
さて、スキル習得の為にもうひと頑張りするか。
オレはモンクギルドを後にし、狩場へ向かっていく。
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場所は変わり、ここはアメリカにあるRDO開発会社マウス・エンター社の一室。
二人の人物が薄暗い部屋にて、RDOのサーバー内の様子を観察していた。
「RDOは問題なくスタートしたようね。一安心といった所かしら?トムチーフプロデューサー?」
トムと呼ばれた男性に話し掛けるのは一人の金髪女性。
胸に着けられた名札にはジェリーと書かれている。
「そうだねジェリー。取り敢えずは、といった所かな。
本当にここまで来るのに時間が掛かったよ。ようやくスタートラインに立とうとしてる」
男性はコーヒーの入ったカップを取り、口に運ぶ。
そして話を続ける。
「リアルマネートレードが、実際は人々の興味を引く為だけの手段でしか無いなんて…誰が思うだろうね」
「そうね、でも話題性は抜群だったわ。反響が大きすぎて協力会社からは嬉しい悲鳴だらけよ。うちの株価も右肩上がりで上層部も嬉しそうだわ」
ジェリーと呼ばれた女性は笑いながら会話を続ける。
「トム。RDO…いや現実世界は、どうなっていくのかしら…不安だわ」
「ジェリー…。プレイヤー達を信じるしかない」
トムはジェリーの肩に手を置き、会話を続ける。
「RDOが始まった時点で、賽は投げられた。この先の未来を切り開けるかどうかはプレイヤー達次第だ。後私たちにできるのは、細々とした支援だけだ」
「…そうね。二人で出来る限りのことをしましょう」
ジェリーはとても不安そうに、トムは決意したような眼差しで…RDOの世界が映された画面を見つめる。
「「人類の未来に、光あらんことを…」」