49.高級料理店 4
オレの答えは勿論YESだ。
偶然巻き込まれた形になってしまったが、オレは情報を知ってしまった。
もし断ったとしても、気になって後悔する事になるだろう。
オレはYESの意味で頷く。
同様に並木さんも頷いている。
「良かった。君達はとても影響力のあるプレイヤーだから絶対に手伝ってもらいたかったんだ。まあもっとも上野君の方は、何となく察したようだから、NOと言っても手伝ってもらっていたけどね」
トムさんが笑っているが、オレには笑えないんですけどー。
オレに逃げ場は無いってことは…もしかして監禁コースだったのだろうか。全身鳥肌がたった。
「よし…それでは話そう。事の発端は、2年程前にアメリカの政府と、とある存在が一つの賭けを交わしたことから始まる。それで、その約束とはゲームで神と人の仮想戦争。そこで人間達に価値が無いと判断すれば、現実世界の人間社会を崩壊させる…というものだ
。それが嫌なら、ある存在の設定した神々に、勝ってみろというふざけたお話さ」
トムさんは話を続ける。
「で、それが今回発売されたRDOという訳だ。アメリカ政府は、RDOに優秀な人材を多く集めるため、ありとあらゆる手を尽くして宣伝した。リアルマネー交換の件もそうだね。それに加え、RDOで優秀な人材を引き抜いて、内情を知ったお抱え達の中で出来るだけこの件を処理したい思惑もある。この件が世界中の人々に知られたら、どれだけの騒動になるか想像出来ないからね」
(それでプレイヤー側の動きが遅いのか…。でも騒動を恐れているのは分かるけど、それは現状マイナスに動いているよなあ…)
「そこでRDOで影響力を持つ君達二人に依頼だ。この戦いでプレイヤー達をうまく先導し、何としてでも神々たちに打ち勝ってほしい」
そこで並木さんが手を上げ、質問する。
「その神なんですが、プレイヤーが倒す事は可能なんでしょうか」
「…可能だと思うよ。上野君が僅かだけれど可能性を見せてくれたよ」
並木さんがこちらを見る。
どうやらトムさんはネプチューンとの戦いを見ていたようだ。
「確かにオレは神の中でも上位と思われる、ネプチューンと戦って一撃を与えられそうでした。今後レベルが上がって、強くなっていけば戦うのも不可能では無いと思います」
話を続ける。
「ですが、現状ではプレイヤー側が不利すぎます。つい先程ヴァルキリーが本気で襲ってきたんですが、避けるのに精一杯でとても勝てる見込みはありませんでした。ヴァルキリーは神話でも神の使い程度で、神に力は劣るはずですよね」
「か、上野君…また神と戦ったのか…」
並木さんが驚いた表情を見せる。
「並木君は知らないようなので言っておこう。神々は既にプレイヤー側の戦力を削ぐために動き出している。上野君がたまたま、その内の一つを潰す事ができたが…こちら側は圧倒的に不利だ。既に強い神側に比べ、プレイヤー達は全く育っていない。現状じゃどうしても後手に回って守りに入るしかない」
トムさんは話を続ける。
「だがそれでもプレイヤーは勝たなければならない。もしこの戦いで負けたら、現実世界に多くの被害が出ることになるからだ」
トムさんの話に、オレが割ってはいる。
「ヴァルキリーは現実世界に神を作り出す、と言っていました。トムさん。ある存在とは、そんなありえない話を実現出来る存在なのでしょうか?」
「……そこまで知っているとは、予想外だったよ。その問いに答えるのなら、恐らくYESだ。ある存在は、私達が想像出来ないような事もやってのけてしまえる存在だ」
「分かりました」
どうやらオレの突拍子もない考えが、本当に有り得る話だったようだ。
RDOで神が勝てば…現実世界に神が現れ、恐らく人に敵対する。
現実世界でどうなるかは分からないが、人類に大きな被害が出るのは間違いないだろう。
並木さんが質問をする。
「ちょっと考えが追いつかなくなってきたよ…。ある存在の事は置いておいて…RDOで神とプレイヤーが戦って神が勝った場合には、現実世界で大きな被害が出てしまう。それを防ぐ為に、私と上野君はプレイヤー側が少しでも強くなるように力を尽くしてほしい。そういう認識合っていますか?」
並木さんの質問に、トムさんが答える。
「それで合っているよ。勿論君達だけではなく、政府や運営側でも可能な限り力を尽くす。それに様々な国が他の有力なプレイヤーに声を掛けている。君達にはプレイヤー達が勝つ可能性を、0.1%でも良いから上げて欲しいんだ」
「分かりました。可能な限り力を尽くしましょう」
そこでオレが手を上げて質問する。
「…ちょっと質問が何点か。何故この賭けがあるにも関わらず、RDOの初回購入を一般の人が出来たのでしょうか?政府が優秀なプレイヤーを集めるなら、人を選んだ方が良いんじゃ?それとRDOは他のゲームと比べてプログラムが優秀過ぎます。もしかして…RDOの製作自体にある存在が絡んでいますか?」
トムさんが答える。
「上野君は鋭いね…そこまで考えているとは。流石MMOでサーバートップクラスのプレイヤーをしていただけの事はあるかな」
「それを知っていると言う事は……RDOの初回購入者は、ある程度選別されていたという事ですか?並木さんも動画の影響力を考えれば、当然候補に入るでしょうし」
「そういう事だよ。RDO初回購入者は、政府の関係者や信用に値する者。それと別枠で他ゲームで優秀なプレイヤーや、他の部分で大きな影響力を持っている人が選ばれている。もっとも売ってしまった人も多くて悲しいけどね」
「それと上野君が言っていた、RDOのプログラムについてだが……正解だ。RDOはある存在の作り出したデータをベースにして作ったものだ。我々はそのデータを”神の意思”そう呼んでいる。そして、”神の意思”はRDOを勝手に進化させている。その進化がこの先どうなっていくかは我々には分からない」
トムさんはため息をつき、話を続ける。
「ただ一つ言えるのは、データは公平に作られており、神側に有利な設定は入っていなかった。それは一年掛けて、政府とゲーム会社で徹底的に調べあげたので間違いない。ただデータ根本となる部分の改竄は不可能で、プレイヤーを有利にする事も出来なかった。精々強さに影響を与えない、クエストを混ぜる事が限度だったね」
オレはそこで、一つの事が頭によぎる。
「…もしかして恋のキューピッドって、その中の一つですか」
「あはは!その通りだよ!僕は男のプレイヤーが取ってしまって、残念だったのだけれど。上野君と話して、今では君があの称号を取ってくれたことに感謝しているよ」
「という事は、称号はあれ以外には無いんでしょうか」
この後のトムさんの返事に、オレのRDO人生が掛かっている。
「無いよ!称号をクエストに混ぜたのはあれだけだ!神の意思によって作り出されていなければ他の称号は存在しない」
ああ、オレのRDO人生はどうやら、恋のキューピッドと離れられないらしい。
まあ…それ以上に大事な依頼が来たので、嘆いても居られないのだが。
嬉しそうに話すトムさんの話を、抜け殻のような状態で聴いているオレ。
高級料理店の一室。まだ話は続く。




