48.高級料理店 3
ナミキーさんに何を話そうか迷っていると…逆に並木さんの方から話しかけてきた。
「やあ初めまして。僕は動画配信をしている並木 礼司と言うんだ。上野君って、RDO生放送をしているあの上野君かな?」
「は、初めまして。並木さんの言う通り、RDO生放送をしている上野 樹です。ナミキーさんの動画をいつも、見ています。今日は会えて…とても嬉しいです」
うまく喋れない。
だがいつも動画を見ている相手が目の前に居る。
有名芸能人に会ったように嬉しいのは本当だ。
「おお良かった、実は僕も上野君に会いたいと思っていたんだよ。日本のRDO動画でぶっちぎり一位を取るつもりだったのに、凄い勢いのライバルが居て驚いてたんだ。それも調べたら高校生だし」
「ラ、ライバルだなんて恐れ多いです!並木さんは、オレの憧れです。オレは生放送の人気があった訳じゃなくて、たまたまRDO動画だつたから注目を浴びただけです。運がいいだけですよ」
「いやいや、運だけで2日続けてあれだけ視聴者が来る事はないよ。悔しいけどRDOでは、上野君の方が上手だと思ってたんだ」
ま、まさかナミキーさんがオレの事を知っていて、更にライバルだなんて!嘘でもそう言って貰えたのは嬉しい。
あ、そういえば舞い上がってて、間宮防衛大臣の事を完全に隅に置いていた!
オレは恐る恐る間宮防衛大臣の様子を伺うが、特に気にした様子もなく、逆に微笑ましくこちらを見ていた。よかった。
オレと並木さんでRDOの話題を続けていると。
どうやら頼んでいた料理が出来たようで、店員の入室を確認する声と共に料理が運ばれてきた。
オレと並木さんの前に寿司や数品の料理が並ぶ。
寿司を見ると大トロ、イクラ、うに、他…これ一体幾らするんだろう。イクラだけに。
(ちょ…調子に乗って寿司とか頼んでよかったんだろうか!?ここは遠慮すべきだったんじゃ…?)
そして同じ料理が来た並木さんも表情が明るくなる。
反応を見ている限りこういう店に慣れてる?
(ま、まあそれもそうか。月数百万は稼ぐ人だし…)
そのようすをみていた、間宮防衛大臣が口を開く。
「さあ、遠慮せずに食べてくれ。ここは私がもつよ」
「流石間宮防衛大臣。この店高くって、僕も来たこと無いんですよね。遠慮無くいただきます。」
並木さんはそういうと食べ始めるが…。
こんな見るからに超高級料理、遠慮するなと言われても無理がある。
オレには値段が想像できない。
「ご、ご馳走になります。では、失礼して…」
オレはイクラを手で取り…口に入れる。
すると口の中に今まで食べた事が無い、濃厚な味が口の中に広がる。
たまに食べる醤油漬けとは別物だ。
味に感動していると、間宮防衛大臣が口を開く。
「さて、食事は続けて貰っていて構わない。そのまま私の話を聞いて欲しい。先程上野君にも言ったのだが、君達がしているRDOというゲームで頼みがあってここへ来て頂いた」
間宮防衛大臣はそう言うと、鈴木さんに目配りをする。
すると鈴木さんが持ってきたのは、開いた状態のノートパソコンで、そこにはビデオチャットが開かれていた。
そのビデオチャットに映っているのは、一人の中年の外人男性。
何かと思っていたが、間宮防衛大臣は話を続ける。
「まずはこの方の紹介をしよう。ビデオチャットが繋がっているのはアメリカのマウスエンター社で、RDOのチーフプロデューサーをしているトムさんだ。ああ、それと自動翻訳が付いているので、日本語に聞こえるが英語だぞ」
紹介された人物にオレは目を見開く。
並木さんも動きが止まっている事から、同様に驚いているのだと思う。
MMOゲームのチーフプロデューサーと言えば、担当しているMMOの全権限を持っているに等しい立場だ。
しかも全世界でこれだけ話題になっているRDO。
(そんな人がどうして日本の防衛大臣やただのプレイヤーと会う?だが、これはオレにも好都合かもしれない。ヴァルキリーさんの言っていた情報が、これで確かめられる)
ビデオチャットのトムさんが話を始める。
「初めまして。私はRDOのチーフプロデューサーをしているトム・ワナーと言う。ああ、食事は続けてね。気楽に聞いてもらって構わないから。でも今から言う事は日本の、いや国際連盟の機密事項だ。他言するとすぐに捕まってしまうからね?絶対に周囲に言わないように頼むよ」
ちょっと待て、突っ込みどころが多すぎる。
今から国連の機密事項を喋るとか、それを気楽に聞けとか。
なんだそれ無理すぎるだろ。
そう思うオレを置いて、トムさんは話を続ける。
「君達がプレイしている、RDOというゲームなんだが…実は裏で大変な事になっていてね。その話がゲーム内だけでは無く、現実の世界にも影響するかもしれないんだ。それで、プレイヤーの中でも突出しているプレイヤーに、その裏の話に関する頼みをしている」
(…ここまで聞けば分かる。信じられないが、ヴァルキリーさんの情報は本当の事なのか?)
トムさんは話を続ける。
「…ここから先の話を聞くと、機密事項の関係で君達はもう後戻りできないよ。もしかしたら監視される事になるかもしれない。ただ現状では、これ以上の話はする事が出来ない。もし受けないのであれば、食事を終えたら退出して欲しい」
ただのゲームで国連の機密事項で監視される可能性?
更にヴァルキリーさんの情報の信憑性が出てきた。
となれば、オレは既に引き返せない所に居るのでは?
どちらにせよ、依頼を受けるかどうかなんて決まっている。




