プロローグ
…白く輝く空の上。
その”神域”では今、神族と人々の戦いが繰り広げられており、至る所で喧騒が響き渡っている。
その数は数百…いや数千にも及ぶだろうか。
そしてその戦いの中心となっている場所。
人間の女性モンクと、空に浮かんだ真っ白な天使が戦いを繰り広げていた。
女性モンクは肩まである金の髪を靡かせ、天使の持った長剣を優雅に踊るように回避していく。
そして天使が焦り大振りに剣を振り下ろした瞬間。女性モンクは回避を止め、天使が長剣を持った右手を…掌で弾く。
手を弾かれた天使は、そのまま体勢を崩し…そこに決定的な隙が生まれる。
「今よ!」
その女性モンクの声に反応したのは、弓を構えた茶髪の女性ハンター。女性モンクの声と同時に弓から放たれた矢は、風を纏い緑に光り輝きながら進む。
そしてその輝く矢は一寸のズレも無く、心臓があるであろう天使の左胸を貫いた。左胸を貫かれた天使は絶命し、そのまま地に落ち粒子の光となり消失していった。
また…その近くでは。
黄金の鎧を身につけた男性の騎士が、3匹の天使の猛攻を防いでいた。3匹の天使が両手剣・長槍・弓矢それぞれの武器で、男性騎士を攻撃する…が。
男性騎士の防御は硬く、左手に持つ大盾と右手に持つ長剣で天使達の攻撃を無傷で防ぎ切る。
途中、天使の長槍による突きが男性騎士の胴右側面を掠るが、その黄金に輝く鎧はかすり傷一つ付かない。
「次早く!」
男性騎士の大きな声が響く。
その声に反応した女性モンクと女性ハンターは、その男性騎士の元へと駆け寄る。2人が近づくことで、男性騎士は安堵した表情を見せる。
「はあ…。このままだと不味いな。明らかに味方の方が被害が大きい。もうプレイヤーの半数近くが神域から離脱しているようだ」
その会話に言葉を返すのは女性モンク。
「でも、個の力も数も向こうが上なのは、最初から分かっていた事でしょう?プレイヤーがこれだけ来てくれただけでも充分よ。それに今回は、政府プレイヤーがアメリカと日本しかまともに参加して無いじゃない」
天使達との戦いを続けながらも、男性騎士と女性モンクは会話を続ける。
「でも…出来たら今回で少しくらい結果を残したかったんだけど。うーん。まだまだ全体の底上げが必要だね」
「焦らないで行きましょう?多分、神域解放初回で神を倒せるなんて思ってるのは貴方達くらいよ」
「そうかな?僕は彼ならやりそうな気もするんだけど?」
「そ、それは否定しないけど…」
「でも僕らに出来るのは時間稼ぎと雑魚退治。悲しいねえ…っとまた天使の増援だ」
「あーもう!プレイヤーが減った分どんどん来るわね!サラ!」
女性モンクが女性ハンターへと目配せをする。
「リリー、樹のとこ行けなくてイライラしてるねー?」
女性ハンターの矢がまた天使を仕留める。
「そ、そんな事無いわよ!」
「いやーこの状況でその余裕素晴らしいね。これは貢献度一位はラグナロクで決まりかな。ギルドマスターとして鼻が高い」
「「貢献度とかどうでも良いわ!」」
気が付けは10匹以上の天使達に囲まれている三人だが、騎士が攻撃を抑え、モンクが崩し、ハンターが仕留める。
飛び抜けた3人の活躍により、天使の数も確実に減っているはずだが…プレイヤー側にはそれを上回る被害が出続けている。
そんな状況で人と神族の戦いは…まだ続いていく。
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…そこから離れた大きな神殿の前にある広場。
そこでは一人のプレイヤーと天使達が対峙していた。
そのプレイヤーはモンクの衣装を着ている黒髪の青年。その両手に装着しているナックルは…黒い禍々しい光を放っている。
今青年モンクの周りには4匹の天使が囲んでいて、天使達は各々の武器を握り締めて様子を伺っていた。
直前に行なわれた惨状に天使は攻撃する事を躊躇していた。
人など神々…いや神族の中でも最下級の天使よりも、弱く、取るに足らない存在のはずだった。
だが、目の前にいる人の青年は…天使10匹相手に囲まれても怯むどころか完全に優勢に戦った。
そして10匹居た天使の群れも…今では4匹まで減っている。これはあの青年モンク一人と戦った結果だ。それに対して青年は傷一つ負っていない。
「どうした来ないのか?それならオレから行くぞ」
青年が天使に向けてそう言い放った瞬間、青年は一匹の天使に向かって駆けた。
天使はその動きに反応して、咄嗟に長槍を突き出すが…青年はその長槍を左手で掴む。そして力任せに槍を引き、天使を地面に叩きつけ、間髪入れずに天使の胴に強打を叩き込む。
その一撃で天使の1匹は粒子の光となる。
それを見た残る3匹の天使が焦って襲い掛かってくるが…青年モンクは落ち着いて対応する。剣をナックルで弾き、矢を上体を捻り回避する。更に飛んでくる魔法には気弾を飛ばして相殺する。
防御への動きは最小限で済まし、次に来る攻撃の合間に攻撃を挟む。
そして気が付けば、3匹の天使の姿は無かった。
青年モンクは周囲を確認した後に神殿の中へと足を踏み入れる。
その神殿の中には神と呼ばれる存在が居る。本来人の力では適う筈の無い遥か上に位置する存在だ。
そのような存在に、人…プレイヤー達は勝つ事が出来るのだろうか。