破滅の歌(終)
戦場を舞うロロア。
どうやら本当にロボット達は撤退したようだ。
フラフラと発電所へ歩き出していた。
歩ける者達も後ろから来ているようだ。
日が西に傾き、夕方になる。
皆ボサボサの頭にボロボロの制服で、そこら辺の屍と変わらなかった・・。
「うぅ。」
強い悪臭がしてダーパがえずく。
悲しい事に出す物もない。
『屍は積みて山を成し。その血は流れて川を成す。』とは、本当に良く言ったものだ。
掃き出された沢山の隊員達の残骸が山になって積み重なり、放置されたロボット達のパラボナビームや対軍用の巨大なりゅう弾砲が夕日に光っていた。
ロボ達の強大な軍事力を前に俺らは生かされていたに過ぎなかったのだと痛感する。
飲みかけのA缶や、手入れされて分解されたままのスパークライフルが撤退命令の突然さと今までの余裕さを表していた。
意図的に破壊されたバード型の戦闘機や二足歩行兵器もあり、これは反乱したストリームマンの手土産だろう。
どうやらここで軍と衝突した後、ゆくゆくは本格的な軍需工場にする予定だったのかもしれない。
既に施設が更地になり、区画整理された所もあった。
空には撤退してゆくロボットの大艦隊が見える。
悲しい事にメルヴィア国内を探しても追撃する軍事力は残っていないだろう・・。
しばらくしたら無線が鳴った。
『伝令です。救護隊と増援。カイン博士が本陣に到着しました。救護隊曰く『胃が驚くので、液体食料を採れ』との事です。』
「ありがとう!後で貰いにいく。」
無線を切り、さらに進む。
すると・・。
しばらくして一台のゴツゴツした車がやってきた。
カイン博士のサポートカーだ。
「真夏君!テリンコさん!ここにいたか!!」
「カイン博士!」
「『ロロアを回復させたら戻る』と言ったのに、戻れなくてすまない!液体食料を持って来た!」
「ありがとうございます!ご足労かけます・・!」
サポートカーの後ろが開き、さりげなく乗っていたダーパが皆に液体食料を出し始めた。
「ダーパさん、みんなに食料をお願いします!僕は娘に会いに行きます!」
「わかった。かならずや!」
カイン博士はサポートカーを降りると、歩き出した。
俺も液体食料を飲み干すと、すぐに博士を追った。
テリンコも頑張って2個目を流し込みながら走る。
胃がビクン、ビクンと痙攣する。
液体食料のビタミン味が全身から足先まで駆け巡った。
どことなく頬に張りが出た気がする。
ビタミン、ミネラル、ナイアシン。
高麗人参も入っている。
「真夏君、テリンコさん。ゆっくり休んでいたらいいのに!」
「大丈夫です。ロロアちゃんを助けましょう!」
ニュートリノ発電所に近付くにつれて凄惨さが増す。
時より、履ききれなかった外骨格やロボのパーツの一部が落ちていて。
たまに白い珊瑚のような一部が、踏んでジャリジャリと崩れる。
「ウェーブで討ち死にした仲間の骨ね・・」
テリンコが呟く。
よく米の事をシャリと言ったり、仏の遺骨を仏捨利と言うが、まさにこの状態を言うのだろう。
オレンジ色に輝いたニュートリノ発電所が見えた。
そして・・。
「おぉお・・おぉ!」
俺は膝をついてしまった。
「真夏、これ以上行くと危ないわ!」
「わかってる・・!行けっこないだろ・・!!」
「皆も近づかないように!娘の体から高レベルのエネルギーが検出されている!・・ロロアが正気を取り戻すまで待っていてくれ!」
テリンコもフラフラと倒れて四つん這いになる。
熱風がワッと顔を撫でた。
ニュートリノ発電所の残骸達が燃え、折り重なったロボ達のライフコアが誤動作を起こして大地をキラキラと平原のように照らす。
灼熱の火炎の中で赤い影が舞を舞っているのが見えた。
時より火炎が下から巻き上がり、火災旋風となってゴウゴウと巻き上がる。
ロロアちゃんは明王の炎のように気高く、カクズチの炎のように獰猛で、般若のような哀しみを称えて舞っていた。
若者のやり場のない怒りをぶつけるような強い怒号のような声に聞こえるし。
最愛の者が死んだ時のような、強い悲しみに満ちた声のようにも聞こえた。
それは、迷子になった痛いげな少女の泣き声に聞こえ。
それは、女戦士の猛々しい咆哮に聞こえた。
灼熱の業火がそれにこたえ、幾千の屍が燃えたぎる。
彼女はきっと『目的を果たした』のだろう。
しかしその先にあったのは何だったのだろうか・・。
「ロロアちゃんが泣いている・・」
「ロロアちゃん!」
「ロロアちゃん!!」
皆がロロアちゃんに向かって叫んだ。
「ロロア!駄目だ・・すっかり我を忘れている!」
カイン博士も地団駄を踏んだ。
俺は、ただただ恐怖で全身に震えが走り、その神々しさに泣いていた。
他の者達も呆然と見ていたり拝んでいたり様々だった・・。
「ロロアちゃんが敵にまわったらメルヴィア最大の驚異になるな・・。」
と、俺が言うと。
テリンコは
「真夏、ロロアちゃんは人の痛みが分かる優しい女の子です。力の使い方を分からないだけ。私達で支えてあげましょう」
と小さく言った。
ロロアちゃんは朝まで『鎮魂の舞』を舞って・・。
ようやく沈黙した。
「ロロアちゃーん!!ママぁー!」
博士が瓦礫を探す。
ロロアちゃんがバルブを閉めたようで人間が入れるようになり、内部が明らかになってゆく・・。
テリンコの案内で、しゃがみこんだ状態の井上隊長の鎧が見つかった。
内部は熱で溶けて鎧だけになっているが、最後を悟った井上隊長はサーベルで腹を貫いて自決したようだ。
解釈した部下も部隊と共に玉砕したようだ。
幾つものロボ達の残骸。
破壊された防御シャッター。
力づくてもぎ取った首や腹部の内部機関が転がり、屍をさらす。
ニュートリノジェネレータには下半身まで突っ込んだパワーマンがいた。
わずかに足が動いている。
強化外骨格が命を繋ぎ止めているのだろう。
「・・どうします?」
「・・残念だが、どうする事もできない。暴走もしていないようだし。このまま壁で囲う事しか出来ないんだ。」
カイン博士はパワーマンの足の商標を見た。
「ZMシリーズを軍事用に違法に強化している。メルヴィアの優秀な科学者でも、ここまでロボットの尊厳を無視して冷酷に改造できる科学者は少ないだろう・・。」
「一体誰が・・?」
「マット博士・・?」
「え!?」
「カイン博士!!ロロアちゃんが見つかりましたー!!」
俺とカイン博士はビクリとした。
テリンコが向こう側のフロアから手を降って俺らを呼ぶ。
「娘は無事か!?」
「ロロアちゃん・・!」
そこは、ニュートリノジェネレータを監視するモニタールームだった。
破壊されて見る影もないが・・いたる所に青緑の剥げた部品が付いている。
その部屋の真ん中でロロアちゃんは横向きに倒れていた。
「ロロア!」
「カイン博士、静かに・・!」
テリンコに言われ、博士はロロアの口元に耳を向けた。
「寝息を立てている。寝ているだけだ。」
体の装甲にビビや破損があり、それが白く再生した部分があった。
ロロアちゃんの顔は戦いがあったとは思えないくらい綺麗で。
ぬいぐるみのクマを抱いてスヤスヤと眠っていた。