エース攻略戦
ロロアの従軍するアメルア軍がエースを包囲する。
そこに居るのはマットナンバーズであり、メルヴィアの負の部分を処分するアステロイド『ミスバーニング』だ。
個々の理由でクレジットをかけられず、苦しむアメルア兵。
ロロアは幾万と溢れるアメルアの兵士達の汗と死臭と瓦礫の中で、メルヴィアの平和を願っていた・・。
ついに私たちは『エース』の前方に迫った。
『エース』の前は地面すら見えない広大なスクラップ置き場になっていて建物部分はオニヤンマの爆撃で倒壊していた。
倒壊した建物の前に地下処理施設に入る大小様々な入り口とコンベアが舌を出すように口を開けており、シャベル型メカニロボの残骸が、かつてその口にガラクタを放り込んでいた事を物語っていた。
度重なる空爆がある中、ミスバーニングの手助けもあってZMの多くが地下施設に生き残っていると言う・・。
第一部隊を押し返したZM達は兵士達を追撃せずエースの防衛の強化に尽力した。
それを知った軍事AI『ジャック』は第二部隊の全てを投入して『エース』を包囲。
航空支援ができないため、巨大な地下処理施設に続く一本道をヘラクレスとキラービーで砲撃して、潜んでいるZMと地雷の除去を始めた。
────
日が沈むにつれて気温が一気に下がる。
私達は、エースの周囲にあるガラクタの塹壕に入って待機していた。
ヘラクレス達が砲撃し、私達が突入する道を拓く。
ガラクタの山々に炸裂し、地雷や兵器に誘爆して大地が白く明るくなる。
光の後に爆発音が遅れて聞こえ、キラービーが何度も飛来してお尻から小型の爆弾を飛ばす。
ZM達も負けじと機関砲や野戦砲を浴びせた。
飛び交う両軍のバスターが、冷たい夜空をキラキラと駆け抜け不謹慎にも綺麗だと思う。
ヴーーーン…。
と言う野戦砲の独特なバスターの飛ぶ音がして慌てて伏せ。
ドカン!!
と言うバスターの炸裂と一緒に
キュイーーン!
パーーン!
チューーン!
と言う不気味な音がした。
兵士は不気味な音を出しながら飛んでくる瓦礫の破片に恐怖し、その音に突然気がふれてしまう兵士も居た。
私は脱落していく兵士達を何人か見た。
私が助けようとするとシード達に止められ、気がふれて虚しくフラフラと彷徨う兵士を私達は何度も見送った。
バルバ曰く、こうした彼らを『なろう』と言って。
死後に行く事ができる"女神から全能の力が貰える異世界"を夢みて、歩き出してしまうんだって…。
さっき歩いて行った『なろう』は、奇跡的に地雷原を越え、フラフラとガラクタの山の影に入るとヘラクレスの砲撃が直撃してガラクタの山ごと消し飛んでしまった。
シード:「また"なろう”か」
シードが塹壕でコーヒーを飲みながら言う。
アモンも特に気にする事なくアーマーの耐寒用のエアバックの手入れをしている。
「“また”って・・ああ言う人達には何もできないの??シードは誰も見捨てないんじゃなかったの??」
と私が聞くと、シードが答えた。
シード:「アメルアは個人が尊重される国だ。自分の道を決めるのは自分だ。それが異世界なら・・誰にも止める権限は無いんだ」
「でも、異世界なんて存在しないわ。彼らのやっていることは自殺よ?」
シード:「たとえ自殺だとしても自分の選択である事は変わりない。戦闘不適合者とは訳が違うんだ。もちろん挫けそうになった奴を俺は励ますけどな・・」
マイキー:「本当にあそこに異世界があるならどんなに良いか」
「マイキー?異世界なんて無いよ」
マイキー:「夢が無いな。ロロアは」
「こんだけ科学が進歩してるのに異次元の存在が証明されてないんだから無いわよ。人間ってすぐに存在しない理想郷を追うよね」
バルバ:「ロロア?それはアステロイドとして見解か??」
「サイフォノイスの貴方には分からないでしょうけど私の経験上の話よ。アルムシュアの戦いでは聖地を・・コーディアスでは理想ばかり掲げて、結局は誰も幸せにはならず、あるのは死体とロボ達の残骸だと言うのに」
マイキー:「確かに理想をかけて戦争するのは愚かだけど、異世界は辛い現実を忘れさせてくれるんだ。こんなクソみたいなバスターが降ってくる世の中だぜ??少しは現実から目を逸らしたいよ」
「でも無いわ」
マイキー:「目で見たものが全てじゃ無いんだよロロア」
私は塹壕にいる他の兵士を見た。
談笑する兵士達の中に、ヘッドギアのバイザーを目深に付けてポカンとしている兵士が何人かいた。
きっと彼も、バイザーで『なろう』を読み、束の間の現実逃避をしているのだろう。
他の兵士がガムを勧めるも頑なに拒否をして読んでいる・・。
シード:「さぁ、マイキー坊や“なろう”だ。本場、バハムスカのコーヒーが君を緑の楽園へ誘ってくれる・・」
マイキー:「ありがとう」
シードが淹れたばかりのコーヒーを配る。
アモン:「あぁ。いい匂い。故郷が恋しい…美しい山々を思い出す…」
バルバ:「アモン、故郷は?」
アモン:「テルミア」
バルバ:「山なんかねーじゃねーか」
アモン:「うるせえサイフォノイス。VRで見たんだよ」
アモンがそこらへんのガラクタをバルバに投げつけ、一悶着ある。
そこらへんの小競り合いは日常茶飯事で、激しく殴り合わなければ基本的に誰も止めたりはしない・・。
マイキーはコーヒーを見ながらも、よく見たら手が震え、それを片方の手で支えていた。
マイキー:「本当に楽園があるなら行きたい・・すごく・・」
私はコーヒーに自分を映す。
空が照明弾で明るくなり、バスターが空を駆けた。
マイキー:「コーディアスの呪縛から解放されたくて足掻いたら、さらに地獄が待ってたよ・・残忍凶悪なバグズと、爆音と悪臭が支配する無限地獄に・・」
バルバ:「ようこそ地獄へ」
マイキー:「うるせーバカ」
バルバが無責任な発言をし、流石に私もバルバを言う。
「マイキーがせっかくシリアスな気持ちになってるんだから邪魔しないでよバルバ」
マイキー:「ロロア、確かに俺はシリアスな気持ちになってるが辞めろよそう言うの」
「マイキー」
マイキー:「いや・・そうやって“シリアスな気持ちになってる”とか、冷静に分析するなって言いたいんだよ!少し黙っていてくれ!」
「黙ってられないよ!あんな『なろう』にマイキーがなったらどうするの?だったら私だってバルバみたいに口が悪くなるし、否定だってするよ!戦友だもん」
マイキー:「あ、ありがとうロロア。すこし元気が出た」
シード:「俺たちは?」
マイキー:「ウーアー!分かってるよシード」
アモン:「マイキーにウーアー。どうせ長丁場なんだ。気楽に行かないと死ぬぞ?」
凍てつく寒さの中、兵士達は『体温調整剤』と言う中折れするオレンジ色のジャムを口にする。
マーマレドは心臓の動きを良くし、毛細血管の働きを強くした。
兵士達のヘッドギアやアーマーが空気を蓄え、耐寒用の熱を発する。
私はアステロイドなので必要ないけど、生身の人間には相当堪えるようだ。
バシュン!
バシュン!
タタタタタ!
タタタタタ!
ヴーーーーン…ズドン!!
相変わらず野戦砲と銃撃の音。
向こう側の兵士が双眼鏡を構えてZMの動向を伺ってる。
パキュン!
双眼鏡を構えている兵士の頭が光り、ヘルメットがバスターを弾いた残像が残る。
兵士が驚いた顔をして、バスターが当たった頭を摩る。
(おい、ラッキーだったな…!)
(気をつけろよ…?)
他の兵士達に肩を叩かれ、自分の命が繋がった事を喜んだ。
───数時間後────
兵士達の吐く息が塹壕のそこらじゅうから見える。
ダルチと呼ばれるカードゲームに興じる者もいるが、殆ど会話はない。
シードが私の隣にドカッと腰をかけ、ZMのいる方向を用心深く見て私の肩を叩いた。
シード:「ロロア、突入に向けて少しは休んだらどうだ?」
「私は十分休んでるわ?」
シード:「そうか…マーマレドの消費ばかりで兵士達の不満が溜まってる。怒りの矛先を通信兵に向けて、最悪な空気だよ」
「……今は静かだけど?」
シード:「静かになったんだ。マーマレドだってタダじゃない。購入は自己責任だ」
私は塹壕の坂道を降りると通路に降りた。
横になっている兵士の数人からは息もなく、肩も動いていなかった。
あそこの兵士は野戦砲の破片が直撃したのか、頭が無く。
他の兵士が装備を物色していた。
私は嫌な予感がしてマイキーの居る所まで歩く。
アモンとマイキーは、お互いを見るようにして横になっていた。
「マイキー?マイキー!」
私は呼びかけながら肩を摩った。
マイキー:「ん?ん!?なんだ」
「ゴメン、死んでるのかと思って」
マイキー:「おい、せっかく寝ていたのにそれはないぜ」
「私のマーマレドをあげるからゴメンね」
マイキー:「本当か?それは助かるぜ…!でも、ロロアは?」
「私はアステロイドだから」
マイキー:「そうか…!借りができちまったな」
「はい、マイキー」
私がマーマレドを渡すと、マイキーがすがるように口に当ててプチっと折った。
マイキーの頬から血の気が戻り、白い息を吐く。
どうやら思っていた以上に危険な状態だったようだ・・。
見れば見るほど学生連合のマイキーにソックリで、共民主義時代のクローン技術を感じさせた・・。
「マイキー、ご両親は?」
マイキー:「ゾーン4の共同住宅そのものだよ。主民主義が広まって、コーディアスもすっかり変わって恋愛や結婚が男女で出来るようになったんだ。共同住宅そのものが解体されているから俺が産まれた制度そのものは、もう無いかもな」
「昔のコーディアスは恋愛もできなかったの??」
私はトオルとママ(カナコ)の事を思い出す・・。
マイキーはさも当たり前のように言った。
マイキー:「共同住宅の部屋で製造されるんだから、そもそも恋愛なんて必要ないだろ?」
「恋をしちゃいけないなんてそんな法律、共民主義時代でもないでしょ?」
マイキー:「だって恋愛なんてしなくていいじゃないか」
「なんで??」
マイキー:「だって生殖しなくて良いんだから・・!あっ」
マイキーが少し顔を赤らめるも、私は聞く。
「生殖と恋愛ってセットなの?」
マイキー:「当たり前だろ??男女が恋愛したら生殖したくなるに決まってる・・!」
「私にも人口の子宮はあるけど、生殖したいとは思わないよ?」
マイキー:「それは恋愛を知らないからだよ」
「マイキーは知ってるの?」
マイキー:「お、俺!?」
マイキーは塹壕から身体を起こすとスパークライフルを抱きしめて考えた。
アモンは寝返りをうって変わらずに眠っている・・。
マイキー:「恋愛と言う恋愛はした事ないよ。人間らしい事をするには、はやく戦闘を終わらせる事だ」
私が(ちゃんとした恋愛ができるとイイネ)と口を開こうとしたその時、塹壕の上を見ていた兵士が叫んだ!
兵士:「バグズだ!!!!バグズが居るぞ!!!!」
私があまりの事に飛び上がり、マイキーが抱きしめたライフルを落としそうになる。
その瞬間、ガラクタの大地を揺るがすような太鼓の音と割れんばかりのZMの鬨の声が襲いかかった!!
シード:「みんな武器を取れ!!」
アモン:「くそ!!!良い夢見てたのに!!見張りは何をしているんだ!!」
ZMが驚くべきスピードで塹壕の上に迫り、額のライフコアが見えた頃にはKー1スパークライフルの絞りを入れていない図太いバスターが飛んできた!
私の前に居た兵士達が次々と吹き飛び、血煙が舞い、顔や腕が千切れる。
完全に油断し、ライフルからシリンダーを抜いていた兵士が慌てて装填しようとするも、強烈なバスターに肩を撃ち抜かれて吹き飛んでしまう。
兵士は反撃しようと立ちあがろうとするも、足をジタバタさせてもがくにとどまり、激痛のあまり悲鳴をあげて壮絶な顔をして死んでしまった。
誰とも分からない悲鳴と敵襲を知らせる警報が鳴り、ZMが銃剣を装着して塹壕を下り降りて突撃してくる!
その全てが悪夢で、銃剣とサーベルや刀の不気味な青い光と黒い塊が兵士達を包む光景は地獄そのものだった。
サーベルの光りが何度も見え隠れするのは兵士に突き刺しているからだ・・。
そう思うと身体が硬直し、目の前で行われている惨劇に私はデータを処理するのに時間がかかった。
シード:「ロロア!!見てないで戦え!!」
「うん!!」
私の前に飛びかかってきたZMを撃ち、火花を散らしながら死んだ兵士の山に倒れる。
アモンはスパークライフルに装填しそびれ、ライフルを小脇に抱えるとスパークピストルを抜いて応戦する。
シードもZMを次々と撃ち
アモン:「ロロア!!リロード!!」
「うん!!」
アモンがしゃがみ、私はアモンの向こうから降りてきたZMを射殺した。
アモンがスパークピストルのシリンダーに6発のジェネレータを素早く装填すると、すぐに立ち上がってZMを撃った。
ZM達は溢れるように塹壕から降りてきて、兵士
「マイキー!!」
マイキー:「分かってるよ!!」
マイキーもすぐにライフルを掴んでZMを狙うも、手が震えて大きくブレた。
しかし“バカでも当たる”で評判のC−1スパークライフルの精度は良く、3点バーストの1発目を味方兵士の死体に当てると、2発のバスターでZMの胸を撃ち抜いた。
「やるじゃないマイキー!」
マイキー:「おう!!」
「その調子!!ジェネレータの絞りを小さくしなさいね!!」
マイキー:「言われなくてもやるって!」
バルバ:「投てき!!サン・ニ・イチ!」
バルバが手榴弾を投げて、塹壕の向こう側で炸裂する。
そして塹壕から身を乗り出して、ZMにバスターを
撃つ。
「バルバ!!そんなに身を乗り出したら────」
キュン!!
と言う音がしてバルバのヘルメットにバスターが当たって倒れこむ。
尽かさずマイキーが援護して、私はバルバに駆け寄った。
「バルバ!!大丈夫!?かなりの物が当たったけど!」
バスターはヘルメットに当たって直撃は防げたものの、かなりの高威力な物が当たった。
バルバは呆けたように驚いた顔をして私を見る。
そして怒りの表情に変わるとすぐに立ち上がった。
バルバ:「どけ!!俺はロボットを一体でも多く殺したいんだ!!」
「なんでそんなにロボットを憎むの!?」
バルバ:「お前に説明する必要なんてない!!」
バルバが落ちたライフルを掴むので慌てて腕を掴む。
「もう一回同じ所から頭を出したら確実に死ぬよ!!ここはZMを塹壕の下まで引き寄せて確実に撃破しましょう!!」
兵士:「手榴弾ッッ!!」
突然、向こう側の兵士の周りの空間がグニャリと歪み、私とバルバはそれを見ながら呆気に取られた。
その空間は照明弾すら照らす事のできない異空間を作り出し、その高密度の空間は一瞬にして元に戻ろうと引っ込んだ。
光の残像が放射状に見えたと思ったら、物凄い爆発音と綺麗に円形に抉れた塹壕と兵士が残った。
バルバ:「分かっただろ!?ああなるから何が何でも押し返せ!!」
「分かったわ!!」
私とバルバが歯を食いしばりながら塹壕からライフルだけを出してZMを撃つ。
何処にいるか分からないけど私たちはZMがいるであろう場所にスパークライフルを撃ち続けた。
野戦砲が炸裂し、肉片とガラクタが降り注ぐも私とバルバは撃ち続けた。
そして…。
不意にZMの攻撃がピタリと止んだ・・。
ZM:(・・なんてゆうかアレだね。ちゃけばぶち込んで、カチこんでもダメだわ)
ZM:(モノホンの気持ちじゃなきゃ、べぇってコレ。終いだわ!終い!!)
ZMの突撃が止み、バルバが塹壕から頭を出してエースの方向を見る。
私も恐る恐る顔を出すと、沢山のZMの死骸と撤退する後ろ姿があった。
シード:「バグズが逃げて行くぞーーー!!」
アモン:「クソッタレ共!!2度と来るんじゃねー!!」
兵士:「おおおおお!!!!!」
兵士:「思い知ったかこの野郎ーー!!」
兵士達が勝利の雄叫びをあげて撤退するZMを威嚇する。
私は安堵しながら塹壕の斜面にもたれるとバルバを見た。
「バルバ、さっきは────」
私が言いかけるとバルバが塹壕の斜面を下って他の兵士の中に消えてしまった。
そして兵士達と何かを話しながら私の方を見る。
その目には明らかな敵対心と、軽蔑が込められていた・・。




