修羅の国
ロロアは修理の為にホワイトスペクターに籠る。
その間フォレストパークの気候は目まぐるしく変化し、ZMシリーズとマット師団。
そしてアメルア兵達の戦いが繰り返されていた。
混沌の中でロロアは父と喧嘩しメルヴィアの外側を知り、絶望することになるのだ。
ZMー1877が双眼鏡の倍率を高くした。
風で荒れ狂う竹林の中に、オオジヌシの率いるZMが狂ったように雄叫びを上げながら仲間達を鼓舞していた。
怒りと憎しみで外骨格の殆どが脱落し、露出した内部機関に泥を塗りあっている。
(うわーー居たぞ居たぞ・・)
(勇ましいな・・)
(あれは何してるんだ??)
(これから来る大戦の為の戦闘化粧じゃろ・・)
(おっかねえな・・)
ZM達は山の上から双眼鏡で奪い合うように覗き込み、オオジヌシを始めとする百姓ロボの変わりように戦慄した。
レッドキラーチーフは、アメルア軍の野営地がある少し先の山の渓谷にある洞窟に陣をはり、コウモリ型を飛ばして小まめに偵察をしながら襲撃の機を覗っていた。
マット師団達も双眼鏡を見ながらZMに模型を作らせる。
野営地は十字の太い道路に沿うように様々な施設があり、その真ん中には司令部らしき4坪2階建くらいの12面体の建物があった。
その真後ろに高濃度バリアーを照射できる二足歩行のタワー型メカニロボ(バリアータワー)が正座しており。
少なくとも野営地の要は防御できる配置になっていた。
グリーンキラーが解説した。
「兵舎が10棟と、増援部隊の為に建設途中の兵舎がさらに10棟。滑走路にはスズメバチヘリが待機しています。バリアーが一基。高角砲に、塹壕と見張り台。そして地雷原…
「守りが固いな。スズメバチも飛ばれると厄介だ。オオジヌシはどうするんだろうか?」
「オオジヌシも特に大きな動きはありません。しかし彼らの性格とたむろしてる場所からして、おそらく───」
「正面から突撃するつもりか?」
「はい」
「無茶苦茶だ…!一体どうするんだ??全滅するぞ?」
「どうしますか?」
「迂闊にオオジヌシを援護したら、バリアーで守られている上、増援を呼ばれて全滅だ。しかしオオジヌシを説得し、攻略に時間をかけては増援が到着して不利になって全滅する。どうすればいいのだ…?」
それから数日間、オオジヌシは動かなかった。
2日間の雨と濃霧。
霧の時はスズメバチが近くをスキャニングしながら飛行するのでロボ達は本陣のある洞窟に身を潜めた。
ヴヴヴヴヴ……。
「上にいるぞ・・・」
スズメバチヘリが独特の羽音を出しながら渓谷をなめるように飛行する。
濃霧の中、全体的にパッと黄色く光るのはスズメバチがパルスを地面に照射しているからだ。
翌日、快晴。
スズメバチヘリが数回飛行し、他の機体も羽根を動かしながら離陸の準備をしていた。
アメルアの空軍がスズメバチヘリに乗り込み、次から次へと飛び立つ。
それに合わせて、ヘラクレスを始めとする戦車と、その周りを警戒する随伴歩兵の分隊が出発。
(ヒュルル〜ってのはスズメバチヘリのミサイルの音かもな)と、ZMー1514が呟いた。
オオジヌシ、動かず。
数体のZM、オオジヌシ達の電解液の残量を心配す。
あくる日、快晴。
野営地にこれと言った動きなし。
不動のオオジヌシ。
ZM達の間で、遣いを送ろうか提案もあるも即却下。
電解液節約のため、休眠状態に入るよう命令を下す。
3日目。
タワー型メカニロボ(バリアータワー)が、足がしびれたのか正座をやめて胡座になる。
増援部隊の兵舎が完成。
不動のオオジヌシ。
4日目。
15時。
アメルア軍の基地に動きありとの偵察していたZMの報告。
(動きあり・・!動きあり・・!)
(ありゃ、何をやってんだ??)
備蓄庫が盛大に開け放たれ、賑やかな音楽も聞こえる。
アメルア兵、任務を忘れて飲酒する者多数。
翌日に増援部隊到着の気配あり。
されどオオジヌシ動かず。
オオジヌシ怖気付いたかと言い出すものあり。
────
洞窟内陣地。
「・・どうしますか??このままアメルア兵を野放しにしていては、増援と合流されて総攻撃が来るぞ??」
ZMー1877がレッドキラーチーフに言う。
チーフは折り畳みの椅子に座ると、前屈みになって唸り、偵察に出ていたZMに何度も聞いた。
「・・・うーむ。オオジヌシは??」
「───はっ。依然として動きなしとの事です」
「うむむ・・」
我慢ができなくなったレッドキラーがチーフに言う。
「我々でアメルア兵に攻撃を仕掛けましょう!この兵力ならいけるはずです!我々には地の利と、爆撃に強いキリカルテもあります。野戦砲で攻撃をし、撤退を繰り返す。そうすれば兵力が分散し、戦いやすくたりましょう?」
「増援部隊には、ヘラクレスやグスタフもあるだろう。キリカルテに籠城しても、何時までもつか・・。むしろ私達がキリカルテに殺到すれば討伐しやすくなるだろう・・キリカルテでの籠城戦はなんとしても避けたい・・!」
野戦砲の砲長を務めるグリーンキラーがチーフに提案する。
「では、野戦砲で襲撃を!幸いな事にバリヤーは張られていません。敵の隙を付いて砲撃し、一気に攻めましょう?」
チーフはCPUに熱を持たせながら言う。
「アメルア兵もバカではない。野戦砲が着弾した途端に分厚いバリヤーが張られ、スズメバチが飛んでくる筈だ。・・そして我々が手こずっている間に、野戦砲は瞬く間に破壊され、兵士を乗せたヘラクレスが飛んでくるだろう・・」
「それでは何をしても負けるではありませんか!!」
「───報告します!」
伝令のZMが跪いて報告する。
「オオジヌシ、我々にメッセージを赤外線で照射!『全員起動させて、明朝まで待て』との事!!」
「なんだと!?」
「始まるな・・!!」
ロボ達はスパークライフルを持って準備しだす。
チーフは至って冷静だ。
「“明朝まで待て”だ。オオジヌシの為に待とうじゃないか」
────
アメルア兵達の宴は深夜まで続き、兵士達の中には車両に荷物を積んで、帰国の支度をする者達も見えた。
「兵士や備蓄庫の一斉入れ替えの前に、身軽にしておこうと魂胆だろ・・」
「馬鹿だな・・馬鹿だな・・」
一度、上空を偵察していたコウモリ型メカニロボ(後のコードネーム:バットン)がアメルア兵に撃ち落とされる事件があったが。
酒に酔ったアメルア兵の腕試しと見えて、特に大事にはならなかった。
ZM達は鉢巻を硬く締め、襷をバツ印に締めると、スパークライフルの先端に銃剣を付けた。
突入したら混戦になるのは間違いなく、野戦砲による誤爆やオオジヌシ達による同士討ちを防ぐためだ。
深夜になり湿地帯が凍りつく。
薄暗がりの竹林の山林をレッドキラーを先頭にZM達が降りてゆく。
野営地に続く一本道の平地で蠢いているのはオオジヌシ達だ。
「ひっ・・!」
地面には昔に破壊されたZM達が埋まった状態で死んでいた。
おそらく、アメルアの野営地も小さな集落で、ここら辺も田んぼが広がっていたのだろう。
ZMー1877の奥で何かが沸々と込み上げる。
「やはり正面突破をしたいらしい・・」
「しかし、このままでは門が開く前に全滅するぞ??」
そこで極めて不気味な現象が起きた。
「正面の門が開いたぞ・・!?」
「一体どうやって?」
薄暗がりの中で正面の門がひらく。
辺りはサーチライトは置いてあるばかりで機能はしておらず、塹壕や即席の櫓の兵士は呑気に談笑をしていた。
その何とも異様な状態で、オオジヌシ達は身構える事なく、つい今し方偵察から帰ってきたようにスタスタと基地の中に入ってゆく。
特に急ぐ事なく、ゆっくりとだ。
ZMー1877も続こうと立ち上がった瞬間、ZMー1514に止められる。
「何か秘密があるみたいだ。少し様子を見ようじゃないの」
───────
その時、なぜZMシリーズが入れたのかは後に発覚する事なのだがアメルア軍の生存率が極めて低かったため、暫くは謎だった。
ロボカバリーチャンネルにおいてモルドモンド・アメルはこう分析した。
『これはマット師団の底力ではなく、アメルア兵達の虚栄心と盲目的なAI信仰による人災でしょう。アメルア兵の上官達はAIによる統計分析に頼り、また彼らは結果に安心しきっていました』
***『そんなにアメルア兵はAIを信頼していたのでしょうか?』
『信頼していたのです。そして翌日には増援が来て、国に帰れると期待する者もいました。
彼らの意識は既に故郷に向かい、皮肉にもAIの導き出したデータに安心していたのです』
***『(考え込む聞き手)』
『例えば、あなたもAIによって今日の天気を観ますよね?
降水確率10%の予報で傘をさすでしょうか?
そう言う事です』
───────
オオジヌシが巨大な岩にドカッと座り、持っていた三味線が弦を縦に引っ掻く。
その瞬間を待っていたのか、冷たい霧雨が降り出した。
アメルア兵達は外套を目深に被り、塹壕の奥にひっこむ。
アメルア軍の野営地のセンサーが辺りを入念に探し、田んぼに熱源がないか入念に探した。
ツッチャカランチャチャカランチャッチャ、ツッチャカランチャチャカランチャッチャ、チャカランチャッチャチャカランチャッチャ
オオジヌシが狂ったように三味線をひき、横にいるZMがさチャッパと呼ばる小型のシンバルのような鐘で囃し立てるように鳴らした。
そのセンサーの中を、鍬やら武器を持った百姓達が三味線の音色に合わせてサラサラ、サラサラと入ってゆく。
あるで内部器官の細い管を、メンテナンス用のケーブルカメラが入って行くように。
さりげなく、大胆に。
侵入した百姓達が野営地の壁沿いに進む。
「わっ・・・!」
途中で見回り中のアメルア兵に見つかるも、複数体に囲まれて制圧されてしまった。
百姓達はそのままバーの裏手に侵入し、酒が入っている缶に酔い潰れて眠っている兵長の上に立ち塞がった。
「な、なんだ貴様!もが!!」
兵長の口を押さえつけると、他の百姓達が鍬や鋤を振り下ろす。
立て続けに数人を殺めたあたりで、闇の中をヘビースパークライフルの銃声が鳴り響いた。
百姓の誰かが見つかり、アメルア兵の誰かが空に撃ったのだ。
「敵襲!!敵襲!!!」
一斉に鳴るサイレン。
その中で、百姓が咆哮した。
─────
戦いの火蓋が切って落とされた。
他の百姓達が鬨の声と共に野営地に雪崩れ込み、塹壕を守っていたアメルア兵がギョッとしてヘビースパークライフルを向けた。
しかし赤い血煙と共にアメルア兵の頭が吹き飛び、ZMの誰かが撃ったのを知った。
その瞬間、明らかにその場の勢いでマット師団達も駆け出し、レッドキラーの鬨の声がなる頃には全ロボットが暗黒の塹壕がある平原に駆け出していた!
「うおお行くぞ!!」
「それいけ!!!!」
「うわおおおお!!」
ZM-1877も場の空気に押されて駆け出し、ZM-1514と共に我先に1番首を取れるか競走になった。
「うわぁあああ!ウワーー!」
ZM−1877が銃剣を前に出し突撃する。
真横で迫撃砲や地雷が炸裂し、畑を何度も転げ回り、スパークライフルを掴むと脇目もふらず前進した。
「うぎゃあ!!」
前を走っていたZMが倒れる。
倒れたZMを跨ぎ、アメルア兵の撃ち出すターナ574の銃声が響いた。
その音でロボ達は萎縮するどころか奮い立ち、アメルア兵は狂ったように指をさしながら射出に指示をしている。
ターナ574はヘビースパークライフルの中でも大口径であり、固定式の銃座が無ければマズルが上に跳ね上がる性質があった。
アメルア兵達は暴れ狂うターナ574の銃身を必死に土嚢で抑えながら、死をも恐れず突撃してくるロボ達に
浴びせた。
「うがやっ!」
サーベルを持ったZMが被弾し、その陰から別のZMが銃剣を突き出した。
ターナ574を撃っていたアメルア兵がついに眉間を貫かれ、他のロボ達が一斉に群がってアメルア兵達の腹を銃剣で刺した。
指示していた兵士もサーベルを抜いて抵抗するもスパークライフルをまともに受けて、虚しく空をからぶったって倒れた。
スパークライフルの一斉射撃、時に野戦砲のバスターの音が頭上を駆けた。
照明弾が打ち上がる音と共に、ロボ達は塹壕に飛び込み、アメルア兵の死体が敷き詰められた通路を威嚇しながら進んだ。
ZMー1877がコッキングハンドルを引いてジェネレータを装填し、
「こいつぅ!!生きてやがんぞ!!」
前を歩いていたZMが叫び、仲間のアメルア兵の下敷きになっていた兵士が悲鳴をあげた。
「そら!!こいつ!!そらっ!!」
ZMが倒れた兵士もろとも銃剣で突き刺し、他のロボ達も駆けつけると一斉に突き刺した。
兵士は苦悶の表情をしたまま壁に寄りかかり、最後の絶叫をすると死んでしまった。
「ハァ、ハァ。どんなもんだい!恐るるに足らん奴らよ!!」
「そうだな!ご苦労さん!」
ZMー1877が労うと、先に進む。
まだまだやらなきゃならん事がたくさんある。
壁が爆破され、開いた壁の内部にロボ達が突入する。
施設に可燃性グレネードが投げ込まれ、瞬く間に高温のオレンジ色に発光して燃焼する。
逃げ出すアメルア兵達を刀や農具を持った百姓達が追いかけ回していた。
燃えあがる兵士。
向こうでは縄で捕らえられ、百姓に鍬で打たれている。
あそこでは超強化外骨格を着た体格の良いアメルア兵が必死に抵抗していた。
スパークライフルは通じず、片手で百姓を吹き飛ばしてしまう。
5体の百姓は素早く強化兵を取り囲むと、1体が掴みかかった。
なんのこれしきと、強化兵は百姓の首根っこを掴んだ瞬間、後ろに隠れていた百姓がギィエエ!と叫んで電光刀で水平に薙ぎ払った。
「うぎゃあーー!!!!」
強化兵は装甲が薄い首の部分を数秒かけて斬り伏せられ、身体から首が分離した瞬間、電撃の光りと共に飛んで行ってしまった。
飛んだ頭が、呆けていたZM-1877の方に飛ぶと、ライフルにガブリと噛みつく。
「ひぃいー!!」
その反動で引き金を引いてしまい、撃った先に座っていたアメルア側のロボットが両手を上にあげてドタリと倒れた。
救助用の衛生ロボだった。
バスターの反動で頭が地面に落ち、壮絶な顔が照明弾で照らされる。
ZM-1877は悟った。
ここは地獄。百姓達は地獄の亡者だ。
ここでは”情”が命取りになるのだ。
地獄を終わらせられるのは亡者だけ。
それもまたこの世界の理なら、しばしの間地獄の蓋を覗きにいこうじゃないの。
「各分隊は、非武装の仲間を保護!!すぐさま展開し、防衛体制をとれ!!」
アメルアの兵員輸送用のホバー式トラックが停まり荷台を飛び越えて兵士が降りてくる。
ZM-1877は怖気付く事なくトラックに突撃すると、兵士の顔にスパークライフルを撃った。
肉片が飛び散り、突然懐に現れた敵に皆が驚いて固まる。
「わっ!!」
その刹那、アメルア兵は3尺3寸3分(およそ1メートル)ほどのC-1スパークライフルをZM-1877に向けるべく首にかけたスリングから慌てて構えようとする。
脳が考え、ライフルを構え、引き金を引く。
その瞬間には、ZM-1877の銃剣がアメルア兵の腹を捉えていた。
アメルア兵の絶叫がくぐもって聴こえる。
ZM-1877はスパークライフルのストックを右肩に当てたまま左手で持ち、右のホルスターからスパークピストルを素早く抜くと、刺さった兵士の眉間を撃ち抜いた。
バスターが眉間から後頭部に抜け、ヘルメットの中で留まり、火花となってはじける。
そして力無く吹き飛ぶと、返り血を浴びたアメルア兵が飛びかかってきた。
所持していたK-1スパークライフルが引ったくられ、ZM-1877が吹き飛び、その反動で持っていたスパークピストルを撃つ。
カンッ!!
と言う音と共にアメルア兵のヘルメットに弾かれ、兵士が慌てて引き金を引いた。
が・・
「あ、あれ!?」
エネルギーを解放したスパークライフルはコッキングハンドルを引かなかったため発射が出来ず、ZMー1877が素早く起き上がるとアメルア兵を押し倒し、腰に付けていた脇差しを兵士の喉に突きつけた。
兵士はたまらず両手を見せ降伏した。
「ちょっとまて!助けてくれ!!明日には故郷に帰れるんだ!!俺には家族もいるんだ!!やめてくれ!!」
体重をかけた脇差が不気味に光りながら首元を進んでゆく。
ZMー1877は容赦しなかった。
「やめてくれ・・!!ごえ・・!!たすけ・・」
脇差が沈み、首の骨に到達すると腱を斬る。
やがて頭がグラグラしだし、ZMー1877が討ち取った首からヘルメットを外して、髪を掴んで掲げて見せた。
「ウオーーーーー!!!!!!」
ZMー1877が咆哮し、百姓も狂ったように叫ぶ。
アメルア兵達は大勢を整える暇すら与えられずに次々に撃破され、やがて兵士達が武器を棄てて敗走を始めた。
その敗走した兵士を百姓達が罵り、兵法を無視して斬り伏せてゆく。
残りのアメルア兵はマザーAIがある中心の12面体の司令部の前で、バリアータワーに守られながら必死の抵抗をしていた。
建物に入れなかったアメルア兵が互いに押し合い、なんとか建物内に入ろうと身体をねじる。
司令部内にあるマザーAIは突然の襲撃に対処できず、建物の四方の中央にある円形のレンズには『作戦思案中』を意味する“グルグル”がいつまで経っても表示されていた。
アメルア兵達は必死にマザーAIに呼びかけながら、まるで神の神託を聞く敬虔な信者のように言葉を待っていた。
レッドキラーの盾が施設をぐりと囲み、バリアーの内部に侵入を試みる。
その後ろにグリーンキラーが立ち、軽量化されたヘビースパークライフル(プレーナ)を構えていた。
弾板を連結させ次から次へと給弾されるジェネレータ。
ヘビースパークライフルの口径としては小さいそれは、固まったアメルア兵を水平に薙ぎ払って葬り去るには十分の代物だった。
マザーAIは、この不測の事態を回避するべく計算する。
主民主義国の数々の戦いでアメルア兵達は幾度となくこうした事態に直面し、AIは数々の成功と失敗をその情報に納めてきた。
円形のレンズが光り、何かを指示する。
バリアータワーがそれに反応し、バリアーを解除した。
アメルア兵の体内に入っているナノマシンに直接信号を送る。
アメルア兵達は信じられなさそうにマザーAIを見て、お互いを見た。
そしてそこに居合わせたアメルア兵の中で一番地位の高い兵士を代表者として選び、包囲するマット師団に向き直った。
兵士が諦めたようにCー1スパークライフルを中折れし、内部のシリンダーに入っているジェネレータを見せて放り棄てる。
他の兵士達もおずおずとそれに続く。
やがてアメルア兵達は両手を上げて跪き、降伏の姿勢をとった。
「マット師団よ。我々はアルムシュア条約に則り、武器を棄てて降伏する。そこで取引をしよう。・・君達の中のリーダーを教えて欲しい。極めて有効な・・君達に優位な取引をしたい・・どうだ??」
レッドキラーが盾を持って互いを見つめ。
グリーンキラー達も話し合う。
そして暫くの後に、レッドキラーの包囲の間から、レッドキラーチーフがやってきた。
レッドキラーチーフは盾を構えたまま、アメルア兵の交渉を聞いた。
アメルア兵が尋ねる。
「君がここを束ねているロボットか?」
「そうだ」
「どうだ?取引をしないか??マザーAIの情報によると、もうじきここにホワイトスペクターのウィングが攻撃にやってくる。君達も命が惜しいだろう?私達の指示で、爆撃を止める事もできるのだ。
そればかりではない・・これから朝日が昇る頃には、我々の増援部隊が大挙してここに押し寄せてくる。君達に勝ち目はない・・!!どうだ??」
「君達は勝ち目はない・・どうだぁ!?」
チーフは戯けるように首を傾げる。
「ぬわっはっはっはっはっは!!!!」
「うひひひひひひひひひひ!!」
「ふははははははは!!!!!」
レッドキラー達をはじめとするロボが笑う。
ZMー1514は不安げに空を見た。
空はやや明みが出ていた。
兵士の言った事が確かなら本当は危ないんじゃないのかや?
レッドキラーチーフは暫く笑い、そしてアメルア兵の代表者に言った。
「お前は毎回負けると、こうして我々に無益な交渉をするのかね??我々は君達有機物と違って死を恐れないと言うのに??」
チーフは右手を上げると、他のロボ達が兵士に狙いを定めた。
他の兵士達がざわめき、交渉の決裂を察する。
彼らメルヴィアのロボ達には、アルムシュア条約と言った兵士達の人権や命を守る法律など皆無なのだ。
「か・・や、、、やめろ・・!!やめてくれ・・!!」
「撃て」
レッドキラーチーフが右手を下ろし、プレーナーが一斉にバスターを吐いた。
「うわぁああああ!!!!!!」
野営地を揺るがすほどの絶叫とプレーナーの特徴ある
銃撃音が響く。
代表の兵士が叫び、被っていたヘルメットを吹き飛ばし、頭がハチャメチャになり、その真横をバスターが駆け抜けた。
1人の兵士が破棄した手榴弾を掴もうとした瞬間、腕が吹き飛び、バスターが全身を貫き、後ろの兵士の身体を貫いた。
前列に居た兵士が激痛のあまり伸び上がると後方に倒れ、後ろの兵士がバスターの直撃を受けて絶叫する。
ある者は歯を食いしばって歯の間から鮮血を出し、ある者は倒れた拍子に顎から頭までをバスターが貫通し、一際大きな血の煙を出した。
苦悶の表情を作っていた顔すら吹き飛び、時より噴き出る血の柱がバスターの威力の凄まじさを物語る。
後方の兵士も力無く大地に崩れ落ち、さらに先のマザーAIのある部屋に次々と風穴を開ける。
信号を出すレンズが割れ、内部の照明が割れる。
そして壁面が破壊され、所々で爆発がおきた。
「撃ち方やめい!!!!」
チーフが号令し、バリアータワーを残して僅か数分で凄惨な残骸の山が出来上がった。
レッドキラー達は盾を構えたまま包囲を詰め、僅かに聴こえる虫の息に向かってZMの銃剣がトドメをさした。
「生体反応なし。全滅を確認」
レッドキラーが呟き、あたりの警戒が解除される。
チーフは破壊されたマザーAIのもとに向かうと、すがる死体を引き剥がして、天井ほどにもある巨大で無骨な機械に刃物を入れ始めた。
マザーAIは、ボロボロになりながらもアラートを光らせ、脇差しから逃れるように身体を動かす。
しかし巨大な機械であるが故に意味はなく、あっという間に内部機関に穴を開けられてしまった。
マザーAIは声にならない叫びをあげながら電源を落とす。
その断末魔はロボ達を一時的に通信障害を起こさせ、終わるころには野営地を静寂が支配していた。
「何をしているのです?」
「玉滴晶だ。極めて高純度の、エネルギーの集合体だよ」
「レフリア…」
それは直径2尺(30cm)ほどの球状の結晶だった。
周囲を分厚い結晶で覆われ、内部を覗くと長波長域の青い光が金剛光沢に輝きながら渦巻いている。
「これは、ブルーレフリアだな。内部を満たしている物がでないように硬い物質で覆われているんだ。
この一個だけで小型の宇宙船くらいは動かせるだろう。
我々が充電したり、ジェネレータにエネルギーを充填する必要もない。
永遠にエネルギーを創り出す無限大の力の源だ。
主民主義国のサイクノイドが創り出した叡智と言う噂もある。人間にはとうてい作れない」
「美しいですね」
周りのロボ達は、代わる代わるにブルーレフリアを見て、その美しさに息を呑んだ。
返り血やバスターで汚れた身体に、その美しさが不気味に際立った。
チーフは皆に丁寧に説明しながら見せてまわると、風呂敷に包んで岡持ちの中に収納した。
「さぁ、みんな作戦終了!!キリカルテに撤退するぞ!!」
夜が明け、日が大地を照らす頃には野営地の惨状が嫌でも目についた。
「うわーーーー!!!!」
「さっさと行けコラ!!」
ZM達は両手両足を電気拘束具で縛ったアメルア兵達を一本の棒で吊るすと2人1組でキリカルテに運び出した。
他にも戦闘スズメバチ型ヘリを分解し、蟻のように列をなしてキリカルテに運んでゆく。
百姓達は野営地の資材に目もくれず、捕虜となったアメルア兵を並ばせて首を刎ねていた。
オオジヌシは許可しているのかは不明だが、見当たらなかった。
ZM-1877がオオジヌシに感謝を伝えようと、百姓に話かけようとしてチーフに止められる。
「・・やめたほうがいい。撤退しよう」
キュアアアアーーー!!!!!
上空で鳴き声がしてロボ達が一斉に伏せる。
「…こっちだ!こっち!」
逃げ惑うZMをレッドキラーが建物の陰に引き寄せる。
上空を見ようとしたが、万が一目があうとバスターが飛んで来る。
グリーンキラー達は屈みながら、捕獲したターナ574を構えた。
プレーナーのバスターで届かなくとも、ターナ574の大口径なら少なからず届く可能性があるからだ。
「ストライクホークスだ」
「誰か目を合わせたか!?」
「大丈夫だ!」
百姓達もこれには驚き、その隙にアメルア兵が逃げ出した。
両手を縛られたアメルア兵は何度も躓きながら野営地をかけ、チーフは特に動じる事なく上空を見ていた。
ストライクホークスは何かを発見すると、空気の壁を作って一気に上昇する。
「急降下爆撃のシークエンスに入った!!みんな動くなよーー!」
チーフが叫び、盾を構える。
この動きをされては対空砲はおろか、ホーミングミサイルも当たらない。
キュアアアアーーー!!!
そして一気に下降すると、ストライクホークスの足にバスターのエネルギーがチャージされて行くのが見えた。
野営地から少し離れた作戦区域外に幾重にも火柱が立ち、大地を揺るがす程の爆音が轟いた。
竹林地帯が爆発し、一気に燃え上がる。
ストライクホークスは凄まじい速さで旋回すると、グルリとまわって頭の左右についた機関砲で田園地帯にバスターを撃った。
(違う違う!俺らは…!!ぎゃあ!)
逃げ出したアメルア兵達が次々と倒れ、追いかけた百姓達もろとも木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
ストライクホークスはZMの追撃を警戒するように田園地帯の道を破壊すると飛び去ってしまった。
────
破壊されたアメルア軍の野営地にロボ達の列ができる。
殺戮の限りを尽くした百姓達もいなくなり、マット師団達も、余った武器やヘラクレスなどの兵器を手榴弾で破壊してゆく。
マット師団やZM達が撤退し、アメルア兵の死体や、形見としてメモリーを抜かれたZMの残骸に、ハゲワシ型のメカニロボが舞い降りた。
やがて浮遊型トレーラーに乗ったスカベンジャーがやってきて、使えそうなクズを回収してゆく。
雇用がなくなって廃棄されたロボと浮浪者で構成された彼らが、膨張して腐敗を始めたアメルア兵の身体から軍靴やアーマーを剥ぎ取ってゆく。
スカベンジャー達は時に争い、小競り合いをしながら死臭とセルロースが焼ける煙を目印に集まってくる。
「ウキ!ウキ!!テウアラウペ!!」
「スドゥン!スドゥン!!」
言葉は難解で、顔は手拭いや手作りのお面を付けていて伺い知る事はできない。
服装もロボ達の外骨格を繋ぎ合わせたものを着ており、その上から建築資材などで使う断熱用の灰色の気密シートをローブのように纏っていた。
スパークライフルも手製で、Kー1スパークライフルの銃身を槍のように長くした物を使っており、しばし小競り合いでお互いを打ち据えたり、殺すなどして
いた。
「スドゥン!!スドゥン!!」
「アーーーキーー!アキ!!」
スカベンジャー達が慌てふためき、個々に乗ってきた浮遊型トレーラーに乗り込む。
乗り遅れたスカベンジャー達は右往左往し、仲間のスカベンジャーの足をスパークピストルで撃つと、一時的な囮にした。
「アキーーー!!!アキ!!!」
撃たれたスカベンジャーが叫び、それと同時にヘラクレスがバスターを撃ちながら飛来した。スズメバチがパルスを照射しながら駆け抜け、兵士を乗せた装甲車が次々と到着する。
「あたりを掃討!!!損害報告を急げ!!」
「生存者とブラックボックスを確認しろ!!」
「いけいけいけーー!!」
スカベンジャーとアメルア兵の銃撃戦が始まる。
「アアヤ!!!!!」
スカベンジャーが倒れ、慌てて煙の出るグレネードを投げる。
他のスカベンジャーが我先に逃げ出し、アメルア兵が追いかけた。




