キリカルテの戦い
ロロアが上陸する数ヶ月前。
アメルア兵と、ZMとマット師団の連合軍は、フォレストパークをかけて戦っていた。
「人間って死ぬと、どうして臭いがするんだろうか?」
「あ?ああ、考えた事も無かったな」
ZM達はスパークライフルのレンズや刀を磨きながら考えた。
あたりは、フォレストパークの気候変動で露出した地表が沼になって湿原になり。
もともと存在した巨大な樹木のかわりにタケ亜科の植物が進出して高さを成し、下には笹が鬱蒼と茂っていた。
ZM達は、荒野からナルキリアの湿原までの地帯を利用して稲作を中心とした村を形成しており、アメルア軍は村を占拠して拠点を作ると、そこから進軍していた。
「アメルアは、襲撃に備えてシールドをはるだろう。その前が勝負だな」
年季の入ったZMー*893が言う。
「その後はどうするんだ??」
笹の傘を被ったZ Mー1877が聞く。
「どうするって、占拠したら爆弾を置いてずらかるのよ。占拠できたとして、アメルアは翌日になると爆撃と、倍の兵力をよこしてくる。その前に撤退して、また反撃の期を伺う。アメルアの兵卒は、口先だけ達者の合理主義者のあつまりだ。合理的な作戦しか考えられない以上、俺たちが安易と村を明け渡すとは考えない」
「ふむ」
「でな?そんな中、あっさりと明け渡しちまう。するとどうなると思う??」
Z Mー1877が目をパチパチと点滅させる。
「・・・?どうなるんだ??」
「俺たちの不可解な行動は、アメルアの司令塔のAIは計算できない。やがてアメルア軍の一兵卒はA Iの導き出した予想が大きく外れていることに気がつくんだ。
そんなAIに命預けれると思うか??信じれるか??」
「・・うーん。チンプンカンプンな指示出されたら嫌気はさすわな」
「そこを狙うのよ!」
「うーーん。利口なんだか、なんだかよく分からねえな・・」
「大丈夫。俺も分かってねーから!俺らが分かってないんだから相手も分かってねーよ・・あ!!」
2体が会話をする最中、笹が大きく風で靡いた。
Z Mー*893らZ Mー1877ら潜伏していた一個師団が露出し、彼らは一斉に、小高い岩山に立っている1体を見た。
「大地主様だ。間違いねえ」
「大地主様!?」
「キィエエエエエーーー!!」
大地主は、2振の青白く光る刀を持って咆哮した。
ZM-1877は双眼鏡で確認すると、布かと思われた白い布は振り乱した葬列の為の着物であり。
赤黒い模様は、血液のそれだった。
はだけた着物の衿や、走って削れた脚からは内部機関が露出し。
欠損して向こう側が見えた日には誰しもが死神を彷彿とさせた。
「やや。おっかないな・・」
「あ、あの方は?」
「ナルキリアから少し離れた村を統治していた大地主様よ。村を破壊され、仲間を失った怨みをエネルギーにして駆動してるらしいぜ。だから電解液すら飲まないんだと・・」
「ひぇえ」
「キェエエエエーーー!!!!」
大地主が再び咆哮する。
「キェエエーーー!!」
「キェエエーーーー!!」
それに続けて、他の草むらから声がする。
そして鍬や鎌や鉞や目抜き大切りを持って武装したZ M達がゾロゾロと現れた。
「みんな、そこらへんの村の百姓たちだ。フォレストパークの決起にも参加せず、武装したZMに理解を示し、人間との和平の道を探してはいたが・・アメルア共和国の侵攻で仲間を殺されて目を覚ましたらしい」
「なぜスパークライフルを取らない?」
「それが百姓の生き様だからよ。手に馴染んだ職人道具で人間を叩き潰す。もしかしたら俺らより深い恨みを持っているかもな・・仲間を殺され、村を焼かれているんだから。あんまり目を合わすなよ??俺らだって斬られかねんからな。前も、従わなかったブラックアイを斬ったらしい・・それからと言うもののマット師団も見て見ぬふりで知らぬ存ぜぬを貫いてるって話だ」
「おっかねえ、おっかねえ・・」
オオジヌシは師団を睨みつけると、巨大な一団を連れて潜伏している道を横断し、そのまま藪を降りて行った。
「レッドキラー・・」
「・・・」
「レッドキラー!!」
「かはっ!!」
マット師団のレッドキラー達が呆気に取られる。
ZMー*893:「おいおい大丈夫か!?」
ZMー1877:「息して無かっただろ??」
「・・大丈夫だ。問題はない」
レッドキラーの弱気の態度に、レッドキラーチーフが小突いて釘を刺す。
「弱いところを見せるな。士気が下がるだろ」
「す、すいませんチーフ」
「それでレッドキラーチーフ殿、これからどうするでありますか?」
「大地主の突撃に乗じて後方支援を行う。向かう先は同じだからな」
「流石はチーフ」
「流石です」
「流石です」
レッドキラーチーフの計画に他のレッドキラーが誉める。
「では、作戦に移るぞ。攻撃準備をしろ・・内部無線を切っておけよ。傍受されるからな」
レッドキラーチーフが人差し指を挙げて大きく回し、大地主の一団を指差す。
レッドキラー達が手を挙げて応え、ZM達は頷くと武器の手入れを辞めて進軍を始めた。
しばらく歩くと水を張ったままの沼畑が広がる場所についた。
巨大な稲作車が煙を吐きながら放置されおり、バスターの掃射を受けたのか、畦道でZMやウサギ型メカニロボが数体死んでいた。
ボン…!
ドパン!!
パラパラ…。
遠くの森林で何かの破裂音を確認した瞬間、ヒュルル!!
と言う風切り音の後に真横の田んぼに炸裂した!
「敵襲!!敵襲ー!!」
全部隊が慌てて地面に伏せる。
ヒュルル!
風切り音がし、遠くが炸裂したと思えば、水柱と泥を巻き上げながらZMのパーツが飛び散った!
「散開して反撃しろ!!野戦砲はあるか!?」
レッドキラーチーフが叫ぶと、それを皮切りに味方のスパークライフルが飛び交い、姿の分からぬ向こう側の竹林を粉砕しながら炸裂する。
「攻撃!浴びせたれや!!早く!!」
前で伏せていたZMがZMー1877に叫ぶ。
「と言ったって敵は確認できたんですか!?」
「分からへん!とにかく撃ったらええんや!!撃て撃て!」
ZM-1877は瞳に付いた泥を拭うと、皆に合わせるように竹林を撃った。
確実に何かが居るが、確認できない。
ヴーーン!!
ZM-1877の上を不気味な飛行音と共に野戦砲のバスターが飛び、竹林が爆発する。
果たしてそれが効果があるのか分からないが進軍しなければ。
砲撃で穴が開いて水溜りになった部分を泳いで、稲作車の影に身を隠す。
稲作車には数体のZMが半分泥に浸かりながら身を寄せ合い、竹林に射撃して牽制していた。
「敵は見えるか??」
「いんや。ここからじゃ見えない」
「もうちょっと先に進むから援護してくれ!」
「あいよ!!まかせな!!」
ZMー1877が稲作車から向こう側を覗き込み、更に先に居るZM達に手を振る。
あそこも窪みになっているらしく、安全そうだ。
「よし!!行くぞ!!」
「おう!!1877を援護せい!!」
「ワイも行くで!!」
「おれも!!」
ZMー1877が飛び出し、後方から援護射撃が始まる。
「おわ!!敵サン────!!」
ZMー1877の後ろを走っていたZMの頭が吹き飛ぶ!
他のZM達が慌てて伏せ、ZMー1877もスパークライフルを構えて田んぼに伏せた。
「くるぞ!」
ZMの誰かが叫び。
遂にアメルア兵達が竹林の間から姿を現した!
*「ワァァ!」
*「フラッシュ!!」
*「フラッシュ!ファイヤ!」
やっぱり居たのだ。
3点バーストの銃声。
青い閃光。
耳まである頑丈そうなヘルメットと、胸と脛に装甲を付け・・。
アメルア兵はそれぞれに着こなし、弾丸ベルトを付けてみたり願掛けの御守りを付けてみたり様々だった。
それらが鬼火のようにスパークライフルを撃ちながら、竹林全体から出てくる。
ヴーーーン…!!
野戦砲が飛び、アメルア兵達に直撃する。
数名が吹き飛ばされるも、アメルア兵達は叫び、区画された田んぼの畦道を律儀に一直線に走っている。
「ワハハ馬鹿が。服を汚れるのを恐れて畦道を通ってやがるわ!」
ZM達がスパークライフルを浴びせ、アメルア兵達が次々と倒れてゆく。
「ギャアアッ!!」
アメルア兵が痛みのあまりバンザイし、そのまま無様に田んぼに倒れる。
横のアメルア兵は顔を撃たれ、その衝撃でヘルメットが吹き飛んだ。
味方の死体を跨いだり躓いたりしながら兵士達は進軍を続け、怪我をして敗走する兵士達とぶつかって小競り合いをし、2人仲良くバスターが貫通して田んぼに沈み込んだ。
「いやはや、面白いくらいに当たる」
ZMー1877はK-1スパークライフルのコッキングハンドルを素早く引くとジェネレータを装填し。
アメルア兵に狙いを定めた。
ZMシリーズのCPUには精密機械を扱う為の軌道修正モードと、グリッド線の補助機能が内臓されており、皮肉にもそれが遠方射撃において威力を発揮した。
バシュン!
引き金を引くと、肩に反動を感じ、バスターが射出される。
ハットのようなデザインのヘルメットをしたアメルア兵の兵長にあたり、血煙が上がると苦悶の表情をしたまま崩れ落ちた。
吐血し、何かを叫ぶも、ZMー1877の次の一撃で眉間を撃ち抜かれて倒れた。
*「一旦撤退しろ!!」
*「ヘラクレスを呼べ!!敵が強い!!」
アメルア兵達がたまらず撤退を始める。
「撃ち方辞め!!」
「撃ち方辞めい!!」
レッドキラーチーフが号令すると射撃を辞める。
激しい攻撃と砲撃で、泥の霧と磯のような臭いが立ち込める。
その霧の中で死に損ないのアメルア兵の呻き声が響いた。
「負傷者を回収と損害報告!」
「あい、わかった」
ZM達が負傷したロボ達を急いで担ぐ。
ZMー*893は竹林を警戒しながらZMー1877の元に駆けた。
ZMー*893:「どうだ?動きはあったか?」
ZMー1877:「いいや」
「追いかけてみようかと思うんだが・・」
「単体でか??」
「時に敵の意表を突く事も大事だ。敵は、まさか俺らが単体で追いかけてくるとは思わないだろう」
「しかし・・・待ち伏せしているかも知れないし・・」
ZMー1877が進軍しようかこまねいている中、レッドキラーの数体が盾を持って走り出した。
「あっ!アイツら!」
「手柄を先にとるつもりだな?」
ZMー1877が負けじと走り出した瞬間、先に向かっていたレッドキラーの身体が不自然に持ち上がった。
「うわぁあ!!」
「ヘラクレスが茂みに隠れているぞー!!」
竹林が乱暴に押し倒され、レッドキラーを挟んだ状態で巨大なヘラクレスオオカブト型の戦車が出現した!
巨大な鉤爪と分厚い装甲。
そしてバスターや爆風を受け流す流線型ボディーと、角と角の間にポッカリと空いた大砲の穴。
そして大砲の右には機関銃と、分厚い装甲の前羽に守られて血に飢えたアメルア兵が搭乗していた。
「ぎゃああ!!」
ブチブチと音がしてレッドキラーは両断され、羽を広げた隙間からアメルア兵の重スパークライフルが飛んできた。
他のレッドキラー達も次々と倒れ、圧倒的な火力と共にアメルア兵が鬨の声と共に進撃してきた。
「撤退だ!!撤退しろ!!」
「こりゃたまらん!!」
「うわぁーー!!」
巨大兵器には為す術がなく潔く撤退を決めるレッドキラーチーフ。
レッドキラーチーフは敗走し、ZMー1877が足の先端のネジすら震え上がる事態が起きた。
「ヘラクレス!!もう1両!!」
「な、なんだって!?」
さらにもう1両のヘラクレスが登場し、負けじとマッド師団の野戦砲のバスターが撃たれる。
しかし、バスターは流線型のボディーに流され奥の竹林に炸裂した。
ZM達は恐怖のあまり腰を抜かす者も現れた。
アメルア兵の怒号と、ヘラクレスの気門から高圧的な熱気が排出される。
その圧倒的さに、ZMー1877とZMー*893は震え上がった。
「ヤツの弱点は・・!?」
「腹だな・・!!」
「そんなの無理じゃねーか!」
「そうだな!!」
「俺らもう────!」
田んぼをバスターの掃射が駆け抜け、ZMー*893のが破壊される。
吹き飛んだ上半身がZMー1877にぶつかると、そのまま2体同時に倒れ込んで泥に沈んだ。
逃げ遅れた野戦砲が爆発し、背中が燃えたZMが撃たれて絶命する。
アメルア兵の掃討が始まる・・。
*「進軍しろ!!」
*「バグズを1人残らず破壊するんだ!!」
*「いけいけいけ!!」
ZMー1877と仲間達の死体をよそにアメルア兵達の畦道を駆ける足音と、武器が擦れる音が駆け巡り。
ヘラクレスは前羽に乗せた兵士を下ろすと、周囲の警戒を解いて進撃に向かわせた。
ZMー*893の死体が沈みZMー1877が仰向けの状態であらわになる。
額のライフコアは泥で隠れ・・生存しているかは確認できない。
ドォン!!
ヒュルルルルル・・
ヘラクレスは畦道に大きく脚をつけると、角を拡げて主砲を放ち、兵士達を支援する。
触覚は閉じ、通信に耳を傾けて主砲の細かい軌道を修正する。
「今が・・好機・・」
ZMー1877がゆっくり起きると、水音を立てないようにゆっくりと泳ぐ。
あくまで死体を演じ、たまたまバスターの衝撃でヘラクレスの近くまで流れ着いたように演出する。
ドォン!!
ヒュルルルル・・!!
次の発射音に乗じて立ち上がり、素早くヘラクレスの背中に回る。
ヘラクレスは前羽を広げたまま背中を露出し、比較的装甲の浅い交換用のエネルギーユニットと乗組員用のハッチが確認できた。
ZMー1877がどうするか考え、意を決して腰に磁力で付けた脇差を掴んで構えると、ハッチをガンガンとノックした。
「あの・・ごめんください!ごめんください!!」
しばらくすると内部から放送が入った。
*『おい!作戦中だぞ!?どうした?』
「・・・」
*『合言葉は!?』
「・・・」
暫く何か会話する声が聞こえ、ZMー1877は脇差を構えながらハッチが開くのを待った。
少しでもいい・・内側から開けばいいのだ。
余計な事を言ってはすぐさまバレてしまうだろう。
しかし、言わなくても疑われるかもしれない。
後ろから新たな増援が来るかもしれない。
意を決して、もう一度ハッチを叩いてみる。
「ごめんください!」
*「わかったわかった!うるせーな。今開ける」
ハッチのハンドルが回転する感覚があり、アメルア兵の工兵が気だるそうに言った。
*「おい。合言葉を忘れたのか?・・あ」
ZMー1877が脇差しでコメカミを突き刺す。
工兵は驚いた顔をしたまま白眼を剥き、脇差が抜けたと同時に黒い血を流しながら運転席に倒れ込んだ。
*「何だこれ!!どうした!!」
他の運転席の悲鳴にZM−1877が我に帰り、流れるように入り込む。
*「うぎゃああ!!バグズだ!!!」
*「ふざけんな!!クソ野郎!!俺の戦車から出ていけ!!」
ZMー1877はもう1人の工兵の胸を貫くと、壁に置いてあったスパークピストルで更に1人の工兵の頭蓋を吹き飛ばした。
常人ではその凄惨さに耐えられないであろうヘラクレスの車内でZMー1877は言葉を絞り出した。
「・・なんぼの・・もんじゃい!!」
ZMー1877はモニターを観ながら、バスターや機関銃の操作を探した。
モニターにはアメルア兵達が無防備にも背中を晒し、もう1両のヘラクレスも兵士を乗せたまま背を向け、ZM達にバスターを放っていた。
見事に敵の背面を取り、興奮と残酷な衝動に武者震いがおき、身体を循環しているオイルが湧き立つのを感じる。
「見てろよ・・相棒を撃ちやがってこの野郎!!」
敵のヘラクレスの背面をロックオンする。
ヘラクレスが地面に踏ん張り、いつでも射撃する準備が整う。
ドォン!!!!
ヒュルルルルル・・。
操作するZMー1877の右後ろで巨大なジェネレータが新しく装填される音がする。
カッ!!
強い閃光。
敵のヘラクレスがバスターの衝撃で前のめりに倒れ、程なくして黒煙と、火花の柱が立て始める。
時間差でバリバリと尋常ではない音が大地に響く。
そして強い閃光の後、ヘラクレスが大爆発し。
時間を置いてステンレスをぶちまけたような爆発音が響いた。
前羽が散らばり、炎上するヘラクレス。
その後ろで黒焦げになったアメルアの兵士達が倒れる。
前を歩いていたアメルア兵達は一斉にこちらを振り向き、程なくして通信が入った。
*「こちら第787歩兵連隊!!お前が撃ったのは味方のヘラクレスだ!!どうなっている?オーバー」
ZMー1877は通信の答えを機関銃で返した。
通信をしていたアメルア兵が血の放物線をかきながら吹き飛び、他の兵士達も右往左往と逃げ惑う。
やがてZM達の声が湧き上がり、勝利を確信し、潜伏していた場所から飛び出して来ているのがわかる。
そして、いよいよアメルア兵達の敗走が始まった。
背面を次々と撃たれ、遂には降伏したり、スパークライフルを破棄して両手をあげて逃げ出す兵士も現れた。
ヘラクレスの横をアメルア兵達が恨めしそうな顔をしながら敗走し、ZMやマッド師団がそれを追いかける。
そしてヘラクレスの前まで来るとモニターの前で大きく手を上げた。
“我々の勝利だ”と。
ZMー1877がハッチを開けて勝利の咆哮をする。
レッドキラーやZMがそれに応えて叫ぶ。
「エイカ、エイカ!」
「オーー!!!!」
「エイカ、エイカ!!」
「オーーー!!!」
勝利の雄叫び。
死んだふりが見つかり、射殺されるアメルア兵達。
「追いかけるか?」
「日没が近い。落武者狩りに遭うか、凍死するか、野垂れ死ぬだろう。放っておけ」
太陽が西に傾く。
トンドドドド…。
竹の内部の空間を、伝った雨水や空気中の水が溜まって音がする。
日が陰り、竹林に水が滴り、雨が降る。
ガイヤコアの失ったフォレストパークの気温は夕方から深夜にかけて25度から−5度まで急落する。
アメルア兵は合理主義者なので、夜に奇襲してくる事は滅多にない。
ヘラクレスの使えそうな部品を外し、爆破する。
勝利した余韻を残しつつ、ZMとマッド師団は進軍を続ける。
「おい、見てみろよ」
「何も見えないが」
「ブラックライトモードにしてみな」
「あぁ」
ZMー1877は仲間に促されてブラックライトモードにした。
すると雨で薄くはなっているが、笹が生い茂る所々に緑の蛍光が見られた。
「血か」
「そうだ。人間は尿や糞とか証拠を残すからな」
トンドドドド…。
暫くするとショルダーアーマーや脛当ての一部が落ちていた。
先ほどの戦いで泥水に浸かったのか、所々に泥が付着している。
関節が軋むのは関節部のシリコンが固くなっているからだろう。
トンドドドドド・・。
マット師団とZMが忍び足で進軍する。
地面には真新しいアメルア軍の軍靴の跡が残り、3人居る事を示していた。
蛍光した血は、円の形でポタリと垂れ、小さな尾を引いている。
つまり負傷した兵士が居て、足並みは早くはないようだ。
レッドキラーが手を挙げ2体来るように指示を出す。
ZMー1877とZMー1514がスパークピストルを持って頷く。
トンドドドド・・ドドドドド・・。
雨が霙になり地面がシャリシャリと音を立てる。
笹の藪を抜けた朽木の巨木の下に3人のアメルア兵が倒れていた。
朽木はかろうじで形成層(木の皮の部分)から小さな光りを放ち。
僅かに照らされた2人は何処かを向き、すでに死んでいるのがわかる。
1人は右腕を負傷しながら、ヘルメットに付いた無線機で連絡を取っていた。
*「メーデー!!こちら787歩兵連隊!!囲まれている!!負傷をしており動けない!!救助と火力要請を!!メーデ!!こちら787連隊!!」
「レッドキラー殿、どうするでありますか?」
ZMー1877が聞く。
「トドメを刺そうぜ!?おらぁ、コイツらに仲間殺されたんだ!!仲間の為にも放っておけねえ!」
横にいたZM−1514がスパークピストルで狙う。
「いや、たった1人の為に増援が来るとは思えない。どうせ夜だ。放っておいても死ぬだろう」
「はぁあ?そんなんでいいんですかい!?」
レッドキラーとZMー1514が話し、ZMー1877がふと奥を見た。
「しっ!!静かにしろ!」
「はえ?・・うわっ」
ロボ達は沈黙し、竹藪の奥を凝視した。
レッドキラーが静かに盾を構える。
しかし盾はカタカタと震え、明らかに動揺している事が分かった。
「(刺激するなよ・・)」
レッドキラーがZMー1514の肩に触れて囁く。
アメルア兵は気がつかないのか、半乱狂で騒いでいる。
*「メーデー!!こちら787歩兵連隊!!囲まれているんだ!!負傷をしていて動けないんだよ!!いいから早く救助を寄越せこのクソ野郎!!病院ついたら訴えてやるから覚悟しとけよクソ!!!!こっちに来るな!!この虫ケラ共が!!!!」
そこには3つの光る点があった。
小刻みに動いているので、樹木が放つ光ではない事は確かだ。
「(あそこにもあるぞ・・)」
「(あそこもだ・・)」
ロボ達が囁く。
だんだん3つの灯りが近くなり、それがZMシリーズの瞳と額のライフコアである事に気がつく。
普段は敵に悟られぬように額を鉢巻や、瞳をシールドで隠すのだが・・。
「ぐうう!」
視界が赤くなり、軽いデータ障害で頭痛がする。
そして空気が重くなり、“奴ら”が仲間の間で途方もないデータをやり取りしている事に気がついた。
「テンニオワシマス マザアカナサマ アリガタヤアリガタヤ」
「ヤッテハイケナイネキモチノイイコトジャナイネ オオジヌシサマノイウコトダカラシカタガナイネ」
「コノテワガテニハアラズツキノテングウニイマスオオメガミサマノミギテナリコノテニテネンズレバアラユウヤマイモキエルトイウコトナシ」
解析しても緊急性のない意味がわからないデータの羅列だ。
“奴らは”アメルア兵に探知されるのを知っていて、ひたすら意味不明なデータのやり取りを行なっているのだ。
レッドキラーにバンバンと叩かれZMー1877達が地面に武器を置いて平伏すように促す。
ロボ達は武装や盾を目の前に置くと、そのまま正座して悪夢が去るのを待っていた。
「ココニアラズヤニンゲンカヤ カワウソウヤネ」
「カワウソウヤネ カワウソウヤネ」
「モッテイコウソウシヨウ モッテイコウソウシヨウ モッテイコウソウシヨウ」
「ハナイチモンメハナイチモンメハナイチモンメ」
*「うぎゃーー!!何だお前!!」
生臭い臭いが立ち込め、アメルア兵の頬を何かが触る。
徐々に生臭さが増し、他の死体も複数の手が動き、持ち去られる。
ロボ達は平伏すと、事が終わるのを待っていた。
*「やめろ!!やめてくれ!!」
「オオジヌシサマノ イウコトダカラシカタガナイネ オオジヌシサマノイウコトダカラ ヤダネ」
*「やめろって!!お前のやっている事は捕虜に対する暴行だぞ!?離せって!!あーー!!」
ガサガサガサ・・!
と言う人の引き摺る音がしたと思うと、悲鳴が遠くの暗闇から聞こえた。
沈黙。
ドン・・ドドドドド。
竹の音で林に音が戻っているのを実感する。
いつしか雨は止み、人が居た窪みと血が残されていた。
「あぁあ。おっかねぇ!おっかねぇなオイ!大地主様がいたな!!おっかねぇーなぁー!」
ZMー1514が身震いし、レッドキラーの肩を叩く。
レッドキラーは立ち尽くしたまま放心状態だ。
「俺はアイツらになりかけた…ああなっちゃお終いだな・・」
ZMー1877は暗闇を見ながら静かに呟いた。




