ロロアの客人
ロロアの小さく、それでいて大きな抵抗が続く。
コックピットの中央にある半円形の地図にはフォレストパークが浮かび上がり、各箇所に赤いフラグがいくつも立っていた。
全てアメルア共和国の治安維持部隊が要請したZMやマット師団の活動場所だ。
ロロアはすっかり塞ぎ込み、部屋に閉じこもる事が多くなった。
ZMを完全に駆逐するまでメルヴィアに帰れず、その使命感と裏腹に想像を絶する罪悪感がロロアを支配した。
ZMシリーズを知れば知るほど人間と近く、生活を破壊してまで得る正義に疑問を感じたからだ。
コックピットではアウルとウィングの一体が話をしていた。
「アウル様。爆撃要請が71箇所あります」
「うむ…しかし、艦長がいないと決定できないのですよ」
スズメ型ウィングが首を傾げる。
「副館長であるアウル様がお決めになられては?」
「決断するのは簡単です。しかし長期的に見れば、それは得策ではありません。なんとかロロアちゃんの心の扉を開き、戦う意志を持たせなくては…。
なぜなら我々は、ロロアちゃんの為に戦っているのですから」
「アウル様、それは」
「なんですか?」
ウィングが今まで疑問に思っていた事を聞く。
「それは・・ロロアちゃんの為ですか?それともアウル様個人の感情ですか?それとも、この主民主義の戦闘用アステロイドとしての誇りですか?それとも、ロロアちゃんとの未来を思い描いての事ですか?」
「ウィングよ」
「はい」
「あなたは賢い。全て正解ですよ。私はホワイトスペクターに入艦する前、あなた方が生まれる以前から戦ってきました。
アルムシュア。
聖帝イースの戦い。
コーディアス解放戦線。
L75包囲戦。
3.69事件。
ザムジャの乱・・。
様々な反乱分子、宗教など思想の違い。
製造型でロボ同士で摩擦が起き、そして戦い・・・。
我々はそれらを力でねじ伏せ、勝利してきました。
しかし、勝利した先に栄光はなく。
その先にあるのは“新世界”の新しい不満と、我ら主民主義国に対する要求でした。
やれ指導者を作れ、クレジットをよこせ、やれ戦火で荒廃したインフラを作れ、やれ土地をよこせ、やれ労働者をよこせと」
「・・つまり、戦いに終わりがないと?」
「そうです。それも、私達の益にはならない“戦火の起こらない戦い”です。
しかし、ある戦争で新しい兵器が投入されてから状況は一転したと言います・・それは共民主義国時代のコーディアスから始まりました」
「それはなんです??」
アウルはウィングを見て沈黙した。
ウィングはハッと驚き、ロロアの居た座敷を見る。
「“この兵器”には古くからの思想も、概念も存在しませんでした。故に使い勝手が良く、様々な戦闘に参加していたといいます。欲望に従順で、作戦に疑問も持たず、絶対的な忠誠心をもっています。敵はただ逃げ惑うだけ・・何故なら思想や教えは通用しませんから・・”子ども”だから」
「アウル様はロロアちゃんを兵器としてお使いになるおつもりですか??」
「いいえ。私はロロアちゃんに全てを任せようと思うのです────」
───────
私はベッドに横になると、天井を見ていた。
部屋にはたくさんの”女の子らしいもの“と、壁紙にはトワルドジュイの華やかな生活が描かれたオシャレな壁紙があった。
きっとメリルやユミルなら、ここに来てベッドで跳ねて喜んでくれていたかもしれない・・。
アメルア共和国をはじめとした主民主義国の国々が、贈り物を持ってきたんだって。
これを見るたびに胸に冷たい物が刺さり、一体私は何の為に戦っているのだろうと考えてしまう。
アウル曰く、私がGOサインを出さないと皆が休暇状態になるらしい・・。
もう今が何日なのか、メルヴィアや他の皆がどうなっているのか分からないし、知るのが怖かった。
私の心にはモヤがかかったまま、アメシストの披露する能を見ていた。
そんな時だった。
騒がしく廊下を足袋が擦る音がした。
そして部屋のハッチを開けると、女中が入ってきた。
「ロロア姫!!ロロア姫ーー!!!!」
「なぁに??プレゼントならいらないよ」
「ぬいぐるみが・・!!」
「アメシストさん、だからプレゼントならいらないわ・・そんな気分じゃないの」
「ロロア姫!!違うんです!!機関室で停止していた筈のぬいぐるみが消えているんです!!!!」
「え!!!なんですって!?」
私の身体からサッと電解液が引くのを感じた!
「酔っぱらったウィングが電池を近づけたら、ぬいぐるみが最後の力を温存していたみたいでそれを奪って!!」
「それで!?」
「ウィングは深く反省して、座敷牢に自ら入っています!!」
「そっちじゃないわ!!!!ママはそれからどうしたの!?」
私のベッドの横にあったヘッドギアのライフコアが黄色くなる。
「た、大変!!」
慌ててヘッドギアの電源を切ると、ママが私の頭脳から同機して私が何処にいるか割り出そうとしはじめた!!
「どうしよ!?どうしよ!?ママが来る!何かできないのアメシスト!?」
「バンガシラやガーディアンスピリッツを手配しましょうか!?」
「そんな物騒な事・・!!お願い!!」
「モニターを出しますね!!」
アメシストが天井からモニターを引っ張り出すと、横のダイヤルでチャンネルを合わせた。
私はベットに座りながらクッションを抱いてそれを観る・・。
要請されたバンガシラが転がりながら廊下を抜け、その後ろにガーディアンスピリッツがボードゲームの駒のように滑るように走って行った。
途中で何も知らないウィングや宝石で出来た他の女中達とすれ違い、ギョッと驚く。
機関室まで行くとバンガシラが頭から幾つものレーザーを照射し、生体反応や機械の可動がないか調べている。
ガーディアンスピリッツは周囲の警戒を固めている。
しばらくするとバンガシラがモニターの前で手を振った。
「いないみたいですね・・」
「いないって・・通風口は調べてみた?」
「あ、そうですね・・あぁ、きっとバンガシラじゃ無理ですね・・」
私がモニターを見ているとアメシストが意を決したように手拭いを頭に巻き、部屋にある仕掛けの壁を押して巨大な薙刀を出した。
「ちょっと!何をしているの!?」
「ロロア姫を危険に晒してはいけませんから、私が調べて参ります!」
「大丈夫!?」
「ご心配なく!!宝石の侍女達も連れてきますから!!」
「ありが───」
アメシストは私が言い終わる前に部屋から飛び出してしまった。
複数の足袋の擦れる音がし、宝石の侍女達が機関室に向かったのだと理解が出来た。
モニターには侍女達が太鼓を打ち鳴らしてママを追い立て、天井を見て回っていた。
私はクッションを抱きながらそれを観ていて、やがてうつ伏せになり・・そのまま眠ってしまっていた。
───────
いつしか照明がリフレッシュモードの薄暗い青色に変わり、心地よいイオンガスが部屋を満たしていた。
その薄暗がりで女中の誰かが私を呼ぶ。
「・・ロロアちゃん・・ロロアちゃん・・」
「ううん・・ママの様子は??」
「私は大丈夫よ。ロロアちゃんは??怪我はない?」
「私は・・眠いだけ」
「そ・・良かった。ゴメンね、迎えに来てあげられなくて」
「ううん・・」
私はアメシストより先に寝てしまった事を悔いながら
向き直った。
照明を点けたら、そこにはぬいぐるみのママが居た!
「・・・!!!!ママ!!」
その時、ハッチが思い切り開いた!!
ドガァ!!
「見つけた!!!!出合え!!出合えーい!!!」
「わーー!!」
ブォンと、アメシストの薙刀が私の頭を掠めた!!
「ロロアちゃん!!」
「ロロア姫!!」
「「お逃げください(逃げなさい)!!」」
ママが壁を走り、アメシストの薙刀が振り下ろされた!!
ママは素早く交わすと、強力なドロップキックをお見舞いする!
アメシストはそれを薙刀の柄で受けると、素早く回転する。
手拭いが取れ、アメシストの線状の長い髪が美しく反射した。
「2人ともやめて!!」
ママが側転しながら素早く動き、ドロップキックの期を伺う。
「はっ!!させない!!」
私は突撃するママの胴体を素早く身体で受け止め、アメシストの薙刀を思い切り掴んだ!
「「ロロアちゃん!どうして止めるの!?(のですか!?)」」
「全部説明するから、落ち着いて聞いて!ママ!もう大丈夫だから!アメシスト、ロボ達を退かせて!」
ママとアメシストが暫く睨み合い。
「ロロア姫がそう仰るなら・・」
と、アメシストは大きく息をしながら薙刀を部屋に収納する。
ママもファイティングポーズを解いて私に向き直った。
「アメシスト、ママを“客人”に変更して」
「・・いいのですか??ロロア姫」
「ええ」
「かしこまりました」
「少しママと話がしたいの。少しの間2人にさせて貰っていい??」
「・・かしこまりました」
アメシストは深々とお辞儀をするとハッチを閉めた。
私がホッと一息ついた瞬間、ママが話し出した。
「ロロアちゃん、いつから拘束が解けたの!?・・それより大変な事があったの!ホワイトスペクターの艦隊が進路を変えて、アメルア共和国の治安維持部隊が展開するフォレストパークに向かったの!!」
「・・ママ」
「それだけじゃないわ!!敵の砦を破壊した後、あろう事か”原初の火”をナルキリアに使ったのよ!!
チームガンバのアベルの話だけど、あっ、まだ推測ではあるけれど、ロロアちゃんが指揮したって言うの!!そうだとしたら、メルヴィアのアルムシュア条約に関わる大変な事をした事になるわ!!ここに居てはロロアちゃんの潔白を証明できない!!」
「・・ママ」
「今すぐ脱出ポットで逃げましょう?早くしないと、あなたがイレギュラーとして国際手配されてしまうわ!!」
「ママ・・原初の火は私がアウルに頼んだの。ストリームマンは私が破壊して・・今、私が艦長をやらせて貰ってる」
「うんうん。そう言う事なの。じゃあ早く脱出を・・・・えっ!?」
ママは私の顔をポカンとしながら固まった。
「私がストリームマンをCXで爆破して、副艦のアウルにお願いして原初の火を投下したの」
「・・・!!」
ママはショックのあまり機能停止すると、ぐにゃりと倒れ、地面にすれすれの所で体勢を立て直した。
「な・・!!なんですって!?えっ!!ロロアちゃんは何処まで関与を・・!!えっ!!えっ!!」
私は包み隠さず話そうと同機するために手を差し出した。
「いやよ!!ロロアちゃん!!貴女が投下したと言うの!?そんな・・!!」
私はママの手を強引に引くと、無理やりデータを流し込んだ。
ママの目がカラフルに光り、直立不動のまま私のデータを受け止めていた。
───────
同機が終わり、ママはしばらくベットの隅で項垂れ、時に机に頭をつけた。
暫くの沈黙。
「・・・ロロアちゃん、いつからストリームマン単体を討つ計画を立てていたの?」
「ブルーシグナルズを全滅させた時から」
「なんで私に黙っていたの!?最初から計画していたなら、なんで私に・・!」
「だって、ママに言ったら止められると思ったからよ!!きっとママはストリームマンを倒すよりリスクの低いホワイトスペクターを撃ち落とすと考える筈だもん!私の言い分も聞かないで、勝手に作戦を決めるのがあなたたちじゃない!」
「私がいつロロアちゃんの意見を聞かないで出撃した事があった!?ブルーシグナルズと戦う時、私は真っ先にロロアちゃんの気持ちを優先してマナツさんに言ったわ!
今回あなたは、反対されるとわかって心にしまっておいただけ!自分の力に慢心し、私やメルヴィアを危険に晒したの!!あなたの失敗は、メルヴィアの敗北を意味しているのに!」
「うるさい!!」
私の腕がバスターに変わり、天井に付いていたモニターを撃ち抜いた!
モニターが暗くなり、電気を発しながら真ん中に穴があく。
ママはそれに動じず、私の胸ぐらを掴む勢いで叫んだ。
「それだけじゃないわ!あなたは私怨で”原初の火”を投下したの!私がもっとロロアちゃんの横にいればこんな事にならずに済んだのに!!」
「ママがいなくても作戦は遂行できた!!私だってできるもん!!」
「いいえ!できなかったわ!あなたは暴走寸前だった!!あなたのカノンバスターに結晶が含まれていたわよね!?あれは、バスターのエネルギーが感情と交わった時の負の副産物なのよ!!
あなたはニュートリノ発電所の時のように腕のバスターに”取り込まれかけていた”の!
あのようになっていた時点であなたは冷静さを欠き、まさに鬼神のそれになっていたの!
私がいなければあなたはとっくに───」
「うるさい!!」
「話を聞きなさい!!だから私がいるのよ!わからないの!?大いなる力を持ったあなたが、負の感情で満たされ、究極の選択をしないように維持するのは私の役目!!それが母である私の───」
「あなたは私のお母さんじゃないじゃない!!知っているんだから!!」
「え!?」
ママが固まり、私は言ってしまった事を少しばかり後悔した。
しかし、ストリームマンとの戦いが終わった今、言うしかない。
「あなたは”カナコさん”でしょ!?全部知ってるんだよ!!だから指図しないで!!!!」
「それはブルーシグナルズのトオルに吹き込まれて・・」
「いいえ!!トオルさんは、私が決定付けるのを手伝っただけよ!本当のママは歌手で、料理が得意だった!でも、カナコさんのデータをトオルさんから貰って確信に変わったの!あなたはママになりすましたカナコよ!!」
「ロロアちゃん・・!!」
ママは胸を押さえて悲痛に叫ぶ。
「あなたは料理が出来ないのをビストロトミーのせいにして、会えない事を仕事が忙しい理由にしたの!!本当は会えなかったのよ!!だってあなたはカナコさんだもの!!会える筈ないもの!!」
「もうその名を口にしないで!!あぁあ!あああ!────!!────!!」
ママは絶句しながら口を塞ぐと壁にもたれかかり、苦しそうに胸をおさえながら呼吸した。
そしてドアを開けようと手を伸ばす。
ショックの為か、ぬいぐるみが真っ白に変わり、一気にくたびれた白熊になる。
「少し・・時間を下さい・・。パパと相談させて下さい・・データが壊れてしまう」
燃え尽きた灰のように真っ白になった白熊は、擦れる声でそう言うと何処かに歩いて行ってしまった。
「んんああああーーーー!!!!!」
私は頭に来てバスターに切り替えると、ベッドにバスターを2000発撃ち込んだ!!
ベッドが爆発し、私の貢物が吹き飛ぶ!!
金のサークレットや髪飾り、ジルコニアの美しい首飾りや美しい人形。
バトルドームやボードゲームがあっと言う間に木っ端微塵になり破片になる。
「サンダァアァアブレイク!!」
地面に手をつけて電撃を流すと、飲み物が出てくる大理石のカウンターが割れ、美味しい飲み物が並んだ棚が吹き飛んだ!!
「ポイズンバレットーー!!」
極小のバスターが部屋を駆け回り照明を破壊して壁を跳ね返る!
「ショットガン!!」
高温の結晶が撒き散らされ、壁に蜂の巣のような穴が開く!
「シャドー!!!」
しかしバスターは熱を持ちながら何の変哲もなかった。
身体に陽炎のような揺らめきがあり、輪郭がぼやける。
「・・あれ!?」
私は突然覚えた技に驚いたが、その瞬間ポイズンバレットが跳ね返って私に向かってきた。
そして私の胸に入ると、何事も無かったかのように反対側の壁に着弾した。
身体が元に戻り、貫通した胸をさする。
「シャドーは弾を無効化できるのね・・」
「スッキリしましたか?ロロアちゃん」
見ると扉にアウルが立っていた。
その後ろにお盆で顔を隠して怯えたアメシストがいる。
「どうかその破壊的な衝動を正義の為にお使いください。私とクルー達はそれを実現させる事ができる。さぁ、ロロアちゃん指示を・・みんなが待っています」
後ろでは消火装置が作動し、強烈な風で炎を消し飛ばしてしまった。
私は髪を靡かせながらアウルを見つめ唇を噛んだ。
頬を涙が伝い、私は泣いているのだと初めて理解した。
「・・でもママが」
「全てを終えた時、きっとママも考えが変わるでしょう。ZMやマッド師団の残党が残っており、フォレストマンの行方が掴めていません。ロロアちゃん、まだ仕事は残っているのですよ」
私はアウルを見た。
「うん・・行こうアウル。この戦争を終わらせよう?」
「仰せのままにロロアちゃん」
「ロロア姫・・?」
「なに?アメシスト」
「ママはどうしましょう?」
「・・・放っておきなさい。どうせパパしか頼れないんだから」
私はアウルの手を取ってコックピットに向かった。




