ロロアの反抗期
ロロアの反撃が始まる。
しかしそれは、メルヴィア国内で認可された正式な戦闘ではなかった。
ロロアは世界でも僅かの強大な軍事力をもって天空に君臨した。
“ママ”も政府関係者も知らず、破壊的な衝動は少女特有の反抗期にも似ていた。
「あはは!ふふふふ!!」
私は十二単を引きずってアウルの手を取り、ホワイトスペクターを探検した。
『和』をイメージした通路には、通路の横をなぞるように溝が掘られており、その溝には玉虫色の宝飾が成されていた。
通路の作りだけで、ここが業務用の通路ではなく客人をもてなす別の通路である事がわかる。
「この部屋は何??」
「“アニメ”を4Dでご覧になることが出来ます」
「あそこは?」
「宝物殿です・・ご覧になりますか??」
「あーー。うん。いいや(きっと荒らされてるだろうから・・)」
「あそこの通路は??」
「現在、戦闘による損傷が激しく通行する事は出来ません」
「・・・なんか、ごめんなさい」
「この部屋は??」
「スシを食べる事ができます」
「スシ!?」
「コメと言う炊いた穀物の上に、未加熱の生物の肉を乗せて、発酵させた液体を浸して食べます」
「・・それ、美味しいの??」
「美味しいです!食べてみますか?」
「うん!!」
私は古代の家屋を模した屋根と、布(暖簾)をくぐった。
「タイショウ・ヤッテルカイ」
アウルが異国の言葉で言うと、奥のカウンターから白い着物を着た調理用メカニロボの電源が入った。
「へいらっしゃい!!何にしやしょう!?」
すえた臭いと、テーブルの横のレールが動き出す。
私は全部が珍しくて、レールを指でなぞり、テーブルに座った。
アウルに聞くと、ここからスシと言う物が皿に乗って運ばれてくるらしい。
「この発酵した液体に浸して食べるのですよ」
アウルが小皿に黒い液体を垂らす。
私はテーブルに備え付けてある蛇口にボタンが付いた物で手を洗おうとした。
「ロロアちゃん!そこからは熱いお茶が出ます!」
「そうなんだ!あぶない!」
アウルは手慣れた手つきでお茶を注ぐと、テーブルからメニューを出した。
「タイショウ、ハマチとエンガワ。イカとマグロを」
「かしこまりました。キャプテン・ロロアは??」
「キャプテン・・!?」
私が驚く。
「えぇ。・・・?何か問題でも??プログラム上問題ありませんが・・?」
アウルが私にウインクする。
「えっとマグロとクジラをください」
私は少し恥ずかしくなって俯いた。
暫くすると、レールの上を寿司の乗った皿が滑走し、私達の前で止まった。
寿司を取り出し、私はしみじみ辺りを見た。
これが”ニホン”かぁ。
壁には崩した“”カンジ“”で『“”産まれてくるって大丈夫だよね“”』や『“”三本松“”』『“”魚を食べると頭が良くなる“”』と書かれており、なんでもストリームマンが筆で書いたものらしい。
なんでもニホンの”ことわざ”なのだとか。
「ショドーです」
「ショドー??」
「古代の人々が愛した記入方法です。」
「ふーん。サドーとは違うの??」
「はい。ドーは『道』と言う意味でそれを行うのに目指す道を意味しています。サは『お茶』ですから、お茶の道と言う訳です。ちなみに、ショは『記入する』を意味しています」
「なるほど・・これは書く道なのね??」
「そうです。古代人は記入と言う記号的な伝達方法の他に、その所作やタッチで『味』を伝える事に磨きをかけました。その磨きを明瞭にする事を目指すのが『道』であったのです」
「まるで芸術ね」
「そうですねストリームマンはこうした古代の美意識を探究する事で、人間を如何に支配しようとしたのか考えました。彼はキグナスの艦隊の一部では珍しく、戦いの末にある物を模索していたようです」
「戦いの末にあるもの??」
「敗北者の、絶対的な心からの服従です。反乱分子が燻っていては、本当の勝利ではありませんから」
「結局、力で支配する事には変わりないのね」
「それがクライアントの要望なのです。私達は、その期待に応えなければいけない。どんな手を使ってでも」
「それはクレジットの為?それとも名誉の為?」
「どちらもです。私達は───」
「あくまで戦闘用アステロイドって訳ね」
「そうです」
私は箸でマグロを掴むと、口に運んだ。
合成培養肉は、鉄分の味がして大豆を発酵させた液体と絡んで美味しかった。
きっとずっとずっと昔に、大海原を泳いで回ったのだろう。
この鉄分はヘモグロビンであり、絶えず身体に栄養を送っていた生物のはずだ。
これも彼らの味覚を満足させるべく追求されたリアリティーであり、戦争経済を回す事で生まれた贅沢品の産物だ。
アウルはハマチを食べる。
嘴に乗った寿司はするりと呑み込まれ、アウルはゴクンと喉越しを楽しんだ。
その箸を使う指にも高価な指輪は嵌められており、アウルの会話には必ず“クレジット”と言う言葉が発せられた。
「・・・これがオトナと言う物なの??」
「・・ん?」
「アウル、貴方はクレジットの事しか無いの??」
「私は・・」
「確かに貴方は戦闘用アステロイドだよ。でも・・その先にあるものって仲間の残骸と、お金だけじゃない。それを疑問には思わないの??」
「思いませんね」
「そう・・・・・これ、美味しい」
私はクジラを食べた。
暫くアウルと艦内を探検した。
先ほどから防護服を着たウィングが歩き回っている。
私のカノンバスターから出た結晶を剥がしているのだという・・。
「ロロアちゃん。あなたは戦争を”愚かな行為”だと思いますか?」
「思うよ。でも、愚かな行為だと認めてしまうと私の行為も愚かだと言う事になる。・・マナツさん達の犠牲も・・」
「ロロアちゃん。でも、あなたは私達の戦いの最中にも悩まれていたようですが・・」
「それは・・悩んでいたよ。ZMから食べ物を貰い、一緒に踊った時から、私達は戦い意外の方法があるんじゃないかって何度も思った」
「・・・」
「でも私はロボ達に微笑むしか和解の方法を持ち合わせていなかった。それすら出来ないと悟った時、私はロボ達のプログラム内で『攻略は不可能』だと諦めるまで戦い抜く決意をしたの」
「”ママ”と相談なさったのですか?機関室のぬいぐるみは“自身はロロアのママである”と言っていますが・・」
アウルが私を見下ろしながら聞く。
私は床を見ながら言った。
「・・今は、ママには会いたくない。そのまま閉じ込めておいて」
「・・・。承知しました」
「あ、ロロアちゃん」
「何?」
「そうすると、ママの充電が切れてしまいますが・・」
「なら、電池を置いておいてあげて」
「承知しました」
私はアウルと廊下を歩いた。
時よりウィングが通りかかり、私と同じ背丈まで膝を曲げて挨拶をしてくれる。
ママには私のしようとしている事を見せる訳にはいかない・・。
これはあくまで、私の独断の判断なのだから。
───────
それから数日経った。
ママは機関室でウィングからの電池を拒否したらしい。
私が艦長をしている事を説明しても信じず、ダクトの配管を叩いて私にモールス信号を送っているらしい。
2・5・2
これは、万が一私とママがはぐれてしまった時の信号だ。
通信を遮断しても私の生体反応のネットワークは残っているので、もしかしたら私がどこかに捕らえていると思っているのかもしれない。
「ロロアちゃん、フォレストパークに到着します。偵察機を派遣したいので、隊員達に挨拶を・・」
「はい」
朝日が昇る。
ホワイトスペクターの甲板には既に数機のストライクホークスが並べられ、隊員達が整列していた。
皆、今まで私が撃破したウィング達より、どことなく落ち着きや貫禄がなく、指輪などの宝飾品が少ない。
「ロロアちゃん、申し遅れましたが今いるウィング達は”スズメ型”と言って戦闘経験があまりありません。
艦長として脱出用のブースターをチェックして、肩を叩いてあげてください」
「うん」
私は右端から5体のウィングに向かい合う。
「ロロア姫!行ってまいります!」
「お願いします。どうか無事に戻ってきてね」
「はっ!」
脱出用のブースターがきちんと背負われ、胸のバックルに付いているのを確認する。
「・・よし!」
私は肩を叩いて、次の隊員に近付いた。
「あの・・失礼します」
「・・・!」
次のウィングは黙ったままだ。
落ち着きが無く、よく見たら宝飾品が小刻みに震えていた。
嘴からは、緊張の為か言葉すら出ないようだ。
「自分の命を第一にね。私もホワイトスペクターを攻略する時、怖かった・・。でも、今では貴方達は私の力強い味方よ。貴方達の戦いぶりは尊敬にあたいするわ」
「・・御意!」
ウィングが敬礼し、私は頷いて肩を叩いた。
次のウィングだ。
「ロロアちゃん、先の戦いでは見事でした」
「ありがとう」
「あなたは1人で突撃し、ストリームマンを倒しました。一軍人として、あなたの側に付きたいと心から願い、志願いたしました」
「ありがとう。あなたの忠誠心は私の宝よ。励んできてね!」
「はっ!」
──────
5体のウィング達のチェックが終わり、ストライクホークスが鳴き声をあげた。
ウィングは背中のハッチを開けて搭乗し、滑走路に歩き出した。
「頑張ってこいよー!」
「うりゃー!」
「たっしゃでなー!」
他のウィング達に見守られ、ストライクホークスが羽ばたく。
そして
「キュアアアッ!」
と言う鳴き声をあげ、胴体にある上昇ユニットで上空に飛び上がると、尾羽にあるジェットで一気に前進した!
その途端、空気を破るような破裂音と強烈なジェットの音が大気に響き、ソニックブームが体を揺らした。
───────
数日後。
艦長室兼コックピットに、ホログラムでフォレストパークの全容が表示された。
「ロロアちゃん、報告致します。偵察に出たウィング達の報告によるとアメルア共和国の大艦隊がフォレストパークの島に上陸。
制空権が満足に受けれずマッド師団に苦戦しているようです」
「・・・ねえアウル?」
「なんでしょう?」
「そもそもフォレストパークって何??」
「は?」
アウルがペンを落とし、他の制御をしていたウィングが固まった。
「あ・・そうですね。ロロアちゃんは小学生だから、そもそもフォレストパークの地理や歴史を学んでいませんでしたね」
「うん」
ホログラムが変わり、フォレストパークの成り立ちについて説明がはいる。
「ホワイトスペクター。ロロアちゃんにフォレストパークの説明を・・」
『わかりました。』
『フォレストパーク。それは巨大な大陸であり、メルヴィアの国土の半分を占めた人工森林群です。
フォレストパークはメルヴィアの環境先進国としての試みの墓場とも言われており、かつてメルヴィアが共民主義の政権に傾いた時、メルヴィアは原生林の全てを伐採し、コーディアス製のソーラーパネルが大陸を埋め尽くていました』
目の前のホログラムが変わり、大地いっぱいにドリルの螺旋状のソーラーパネルが木のように敷き詰められていた。
『しかしソーラーパネルは経年劣化と火災に弱く、スペースコロニーの墜落が火種となって火災に包まれました。時を同じくしてメルヴィアの政権が変わり、主民主義が台頭して行きます。
電力はニュートリノ発電所に変わり、フォレストパークは主民主義による個人事業の・・ひいてはメルヴィアの生産性を著しく下げる現象である『天候への影響』を受けるための受け皿としての役目を果たすようになります。
フォレストパークは“ガイア”と呼ばれる巨大な重力制御ユニットで地形を変え、世界に及ぶ嵐を一手に受ける混沌とした大陸となりました。
やがて温室効果ガスを吸収し、酸素エネルギーを精製する人工樹木を植える試みが試され、今日に至ります。人工樹木は世界の汚染物質を吸い込みながら瞬く間に大陸を覆い隠しフォレストパークを成しました』
ホログラムには鬱蒼としげる森林と、それを囲むように分厚いアルミの雲があった。
『“ガイアコア”をフォレストマンに奪われた今、フォレストパークの秩序が失われつつあります。まずはアメルア共和国の進軍を援護し、ガイアコアを傷つける事なくコアを“ガイア”の中枢に戻してください』
「そうすれば、戦争が終わる?」
私は照らされたホログラムを見ながら言った。
アウルがホログラムから顔を出してホワイトスペクターの変わりに応える。
「はい。ホワイトスペクターの主砲を使えば可能でしょう。私にお任せを、ロロアちゃん」
アウルが言い、私は腕組みをして頷いた。
それから数時間後。
『ザーーー・・ザザ・・』
しばらくすると通信が入った。
『キャプテン・ロロア。アメルア共和国、上陸部隊からの通信です繋ぎますか?』
アウルが頷き。
「お願いします」
と私は言った。
『こちら、アメルア共和国のPX5だ!!味方が衛星軌道砲を撃ってくれる筈なのだが、ご覧の通り、アルミの嵐で十分な支援が受けられない!君達は敵ではないようだが判断を仰ぎたい!』
「こちらホワイトスペクター、私は艦長のロロア・フローラウス・メリアスです。あなた方のいる場所を教えて下さい」
『・・あ?随分と声が若いな。すまないが、友軍依頼を求める』
「わかりました」
私はアウルに従って自分のプロフィールを送る。
『ホッホー!!その声は、メルヴィアで戦う女の子型アステロイドか!!噂には聞いているぜお嬢ちゃん!!』
「ど、どうも」
『それで、敵からブンどった戦闘機で仕返しに来たって訳か!!OK!俺は全然構わないぜ!!』
「・・・」
私は通信相手の軽いノリに困ってアウルを見た。
アウルは瞳を上に向けて戯けてみせる。
私はこんな軽いノリの人達の手助けをしないといけないのか・・。
「PX5、PX5。聴こえますか?こちらホワイトスペクターの副艦長のアウルだ」
『よろしくアウル。さしずめ“ミミエの友達”(*アメルア共和国内で読まれている童話)と言った所か』
「そう言った所だ。PX5、私はロロア・フローラウス・メリアスの命に従い、アメルア共和国の軍事活動に参加する事を表明する。PX5、君達の部隊は何処に展開していますか?」
『・・・?目の前だが??』
私とアウルが前方のコックピットを見た。
コックピットはホワイトスペクターの白鳥の頭から全てを見渡して映像を映し出しているのだけど・・。
「これが・・アメルア共和国の軍事力・・!!」
そこには海岸やその水平線の全てを覆い尽くすかのように上陸船団が埋め尽くしていた・・!!
アルミの嵐が放電しながら漂い、海岸や、その先の砂漠を守るように所々に六角形を重ねたような砦が形成されていた。
その砦や、海岸を沿うようにビームが狂ったように放射され、上陸した兵士や車両を容赦なく撃っている。
アメルア共和国のサソリのような形の地上兵器、人型のウォーマシーンが飛び交うビームを掻い潜りながら反撃し、その背後に沢山の兵士達が突撃の気配を窺っていた。
ホワイトスペクターか海岸に近づくにつれて通信が多くなる。
#1『ザザーーー!!ロロアちゃん!今、座標を送る!!こっちは囲まれて壊滅状態だ!!今すぐ火力支援をしてくれ!!』
#2『ターゲッティングスモークを投げる!!ロロアだかなんだか知らんが爆撃をしてくれ!!』
#3『ZMに地獄を見せてやれ!!ロロア!仲間の為にも!!』
モニターの様々な施設や巨大な兵器にマーカーが付く。
中には赤い煙が戦場の随所に立ち上り、私たちの爆撃を待っているようだ。
「ロロアちゃん、アメルア共和国の火力支援要請が160件届いています。ご決断を・・」
「ええ・・」
「では・・ロロアちゃん。戦闘に参加するのですね?」
「うん」
私は頷くと右手を上げた。
「「「はっ!!!!プリンセス・ロロア・フローラウス・メリアスの為に!!!」」」
ウィング達が私の号令に応えた。




