ストリームマンの嵐
ホワイトスペクターの熱い攻防戦が幕を下ろす。
決して平坦な道ではなく・・軍人としての誇り、理想のもとに散る命があった。
その激動の渦にそれぞれの欲望が合わさり、混沌となる。
奇しくもそれは、かつて日本人が愛した『歌舞伎』と言うジャポニクスの最高峰として形を成すのであった。
「うぎゃあ!!」
ロロアがブレードマンのロケットブースターを撃ちぬき、ブレードマンは失速して墜落した。
キャノン砲で開いたクレーターに転げ落ち、泥だらけになる。
「ぐえっ!!ぐえーー!!はぁ、はぁ!まだだ!!ロロアーー!!」
幾度とない爆発と戦闘で埋没したZMが穴の表面から顔や身体を出す。
ブレードマンは、それらの破壊された残骸や野戦砲を足がかりに這い出し、地表に出るとロロアに見えた物陰をレーザーで破壊した。
身体に無数にあるレーザーではあるが、調節がままならないまま出撃したため、まともに撃てたのは右肘に付いたレーザーのみであった。
地面に食い込んだ不発のミサイルの一部が爆発し、ロロアの奇襲と勘違いして慌てて伏せる。
「ひっ!」
ブレードマンは、突撃してくるロロアに怯え、折れてそのままになった頭のハサミを四方に向けて警戒した。
破壊されて盛り上がった竹をロロアと見間違えてレーザーで破壊する。
「来い!ロロア!隠れてないで出てこい!!見えているぞ!!」
ブレードマンが熱感知レーダーと音声探知機を使う。
茶室の方から物音が聞こえるが、罠である事も十分にあり得る。
完全に崩壊した寺を確認し、可能性の低い箇所から確実にロロアが居ない事を確認する。
半壊した茶室。
そこから確かな熱源とエネルギー反応を感じた。
「やはり・・ここだったか・・ロロア」
ブレードマンが茶室の縁側にたどり着く。
そこには・・
「・・なにをしている?」
「瓦礫の奥で見つけたの。『サドー』と言ってティータイムの一種らしいの」
沸かした湯を抹茶の粉に入れて茶を立てているロロアがいた・・。
奥では座布団にちょこんと座ったぬいぐるみが茶で口を湿らせている。
「娘が思い付いたのです。ブレードマンさん。ロロアの思いつきに付き合ってあげて下さい」
「・・・!!・・・!!」
ブレードマンの演算装置がパニックを起こす。
これは和平の印か?
客人へのもてなしか?
降伏の条件か?
それとも毒薬が?
奇襲を狙っているのか?
「ここへお上がり、ブレードマン殿」
縁側にあがったブレードマンが茶器を幾重にもレーザーで分析し、やはり『毒物ではない』と言う分析にいよいよもってパニックを起こした。
「遠い遠い古の時代に『茶』で天下人を脅かした紳士がいたそうよ。彼は『センノー・リキュー』と言って、敵となりゆるかも知れない相手を茶でもてなしたらしいの。
その魅惑の『茶』で各国の王を渡り歩き、その影響力から、いつしか彼は自身に支えていた王である『タイコー・トヨトーミ・ヒデオス』に恐れられ、処刑されてしまった」
「・・・」
ロロアが立てた抹茶を誰も座っていない座布団の前に置く。
ブレードマンが縁側の礎に乗った瞬間、足の側面についたロケットブースターが破壊されてオイルを流している事に気付いた。
半壊して畳がボロボロではあるが、これでは座敷を汚してしまう。
ロロアはすぐに気がつき座り直すと、縁側に立てた茶を置いた。
しかし、シールドやブレードを装着できる磁力ユニットになっており、肝心の『手の平』は無くなっていた。
それだけではない・・。
いつしか口も幾多の改造のうちになくなり、喉の奥にある発声器から音を出していた。
ブレードマンには、飲食によるエネルギー補給は必要なく。
破壊されても交換が容易なように発声器がつけられていたのだ。
ズズズ・・。
ブレードマンが疑っていると思ったのか、ロロアが自分の為に茶を立てて呑み始める。
そして、なぜか置いてあるイチゴジャムサンドのクラッカーを食べながら笑って言った。
「美味しい!抹茶に合う!」
それはブレードマンに対する皮肉か?
新たなる挑戦状か。
疑う反面、メルヴィアが力による抑圧で正定できるとはブレードマンも思っては居なかった。
しかし、何故かロロアは停戦のような事を申し出て、いつの間にか自分は『会食』と言う和平に必要不可欠なツールを、ロロアと言うメルヴィアに住まう市民にすら与えずに自ら捨て去ってしまったのだ。
“ロロアを破壊する”そうした は破滅的な使命感に囚われ、身体を醜く改造し、心配するZM達を結局は破滅に招いていたのである。
そしてブレードマンは、考えてはいけない結論に達しようとしていた。
────こうして復活できているのはロロアが情けをかけていたからじゃなかろうか?────
「あ・・あ・・ああーーーー」
イチゴクラッカーと抹茶が美味しかったのか、湯を沸かし始めるロロア。
ブレードマンは縁側から滑るように崩れ落ち、いつしか“自分の存在の意味”を深く計算し直し始めた・・。
それは無限に有する計算を必要とし、時に自己否定を伴った。
しかし時間は有限であり、計らずともメルヴィア攻略と言う巨大な任務がある。
ブレードマンが自己を分析する時間すら、非精算的で無用であり、それが膨大な自己否定としてブレードマンの内部データを切り裂いた。
そして、縁側の縁に自分の落とし、ロロアが改良した刀がある事に気がついた。
すがるように刀を拾い上げ、砂利の敷いてある園庭に膝をついた。
「ロロア・・私に情けなどいらぬ。私の・・負けだ」
ブレードマンが刀を逆手に持つと一気に腹に突き刺した。
「あっ!!」
ロロアが驚き、茶碗が倒れた。
抹茶が流れ、茶器の見事な曜変天目のそれは、茶道の深さと大宇宙のような底知れぬ可能性を秘めていた。
しかし、その曜変天目の星々のような煌めきの中に恒星を見つけたら。
それは全てを照らす陽の光のような暖かさで、それすなわち戦い抜いたロロアから出る、大いなる優しさのそれであったのだ。
ブレードマンは、流れ出る抹茶のようにロロアの優しさに応えた。
それは皮肉にも、ブレードマンの有り余る電算能力の賜物であり、少女ならではの無邪気さがブレードマンと言う『憎悪の塊』を包み込んで浄化してしまったのである。
「ぐ・・ぐぬっ・・くくぅーーー!!」
ブレードマンが腹を一文字に切り裂く。
腹から内部機関が溢れ出し、ライフゲージの急激な低下を確認する。
「ブレードマンっ!!」
「ロ・・ロ・・ア・・?」
「ブレードマン・・。私の相手を何度もして、辛かったでしょう・・」
「・・な・・いて・・いるの・・か?」
ブレードマンが見上げると、そこには涙を流すロロアがいた。
涙は怒りの熱と悲しみで冷やされて結晶化し、地面にポロポロと落ちる。
「あなたは最高の敵だった・・。あなたは強かった・・ありがとう」
「・・・」
ロロアの声を聞きながら、ブレードマンの瞳の色が消える。
「突撃ー!!ブレードマンを助けろー!!」
程なくして、武装した軍団がブレードマンを囲む。
「常にプレッシャーを与え続けろ!!」
「ヤァーー!!ホァーー!」
ZMの4体がスパークライフルをロロアに向けて威嚇し、残りのロボ達がブレードマンの様子を見る。
「こりゃ、たまげた!!ウィング様っ!」
赤い鉢巻をしたZMが、サーベルを持ったウィングを呼ぶ。
「どうした!?」
「ブレードマン様がお亡くなりになった・・!!ご自害された!!」
「な!!なんだと!?」
ウィングはブレードマンの様子を見てハッと息を呑む。
「撤退だ・・」
「へ?」
「皆!撤退せよ!作戦は終了だ!コード337!繰り返す!コード337」
ロロアに対峙したZM達がスパークライフルやピストルを棄て、他のロボ達もロロアに一礼して撤退を始める。
ウィングは負傷したロボを探した後、ブレードマンとロロアにサーベルを下げて一礼し、踵を返して走りだした。
「な、なに?どうしたの?」
「コード337。多分、マット師団が発令した撤退命令よ」
「ストリームマンとは違うの?」
「ロロアちゃん。戦争と言う物は一つの個体が行う物ではないの。たくさんの個体が集まった者同士がぶつかり合うのが戦争なのよ。私達が戦っている間、ストリームマンの権力は失墜したようだわ。ニュートリノ発電所のパワーマンを見たでしょう?彼はあなたの活躍で信用を失い、名前と大義ばかりの存在となり、やがては奥のフィールドで一部の側近達とトランプに興じていた」
「・・・私も・・」
「ん?」
「私もその個体の一つなの・・?」
「・・そうよ。でも、貴女が正しいと思うならそれは正しい事なのよ。私もロロアちゃんが正しいと思っているわ。そしてチームガンバも。さぁ、ホワイトスペクターを破壊しましょう!」
「うん・・うん」
私は破棄されたK1スパークライフルを拾いあげると薬室にジェネレータが装填されているか確認した。
破壊したZMから弾帯を剥がし身体に装着する。
「ブレードマン・・借りて行くよ」
私はブレードマンの腹に刺さった刀を引き抜く。
至近距離ならライフルやバスターより刀の方が早いだろう。
刀は腰に内蔵されている特殊なマグネットでピタリとくっついた。
カキカキカキ・・。
まず扉を開け、ライフルを構えたまま一直線の廊下を進んでゆく。
廊下には負傷して衰弱死したZMが転がっていた。
「ねぇ、ずっと気になっていたのだけど。この一直線の廊下って何か意味はあるの?」
「いい質問だねロロアちゃん。ずっとずっと昔に、こんな感じのゲームがあって、敵が居るフロアからボスが居るフロアを行き来する場面が何度もあったの。私達が考えられないほどの低スペックのゲームで、全てのステージを構築するには多大なデータが必要だったのよ」
「ん?」
「それで考え出されたのはこの長廊下なの。プレイヤーが廊下を進んでいる間にボスの居るステージを構築する。そうすれば、プレイヤーはロード時間を“進む”と言う動作で紛らわす事が出来る。とても大切な廊下なのよ」
「へえ・・(よくわかんない)」
向かいのドアまでたどり着き、私はしゃがんでスパークライフルを構えた。
ママは扉のスイッチに手をかけて私を見る。
「・・行くよ!ロロアちゃん」
カキカキカキ!
「・・・!!」
そこには3門の野戦砲が私達に向けられたまま放置されていた。
奥には『ロロア対策本部』と書かれた即席の手術台が置かれ、私が破壊したパーツが積み上がっている。
「ここで修理して出撃させていたみたいね」
「うん」
「はっ!!」
トゥーン!!
トゥーン!
トゥーン!
背後から何とも言えない不気味な音がして、ブレードマンの居た場所から玉状の光りが溢れ、やがて跡形もなく消し去ってしまうのが見えた。
「・・なっ・・ブレードマンが・・!」
「ブレードマンは非公認のアステロイドよ。敗北したとなれば、敵に渡る前に跡形もなく抹消される。きっと特殊な爆薬がブレードマンを内側から抹消されたのね」
「敗北したら記憶から消される・・」
「ええ。それだけじゃないわ。敗北したら敗北者は“悪”として後世の記録に残り続ける。それは私達の歴史が多く物語っているわ・・」
「敗北の・・歴史」
「感傷に浸る暇はないわ!ロロアちゃん、クリア。ムーヴ!」
ひらけた通路になると、ママが先に歩いて安全を確認する。
私は後方を確認しながら素早くママの元へ歩く。
次に私が角から確認しながらママは後方を警戒する。
私はクリアリングしながら、この戦争の後の歴史を考えていた・・。
「・・!!ロロアちゃん!!」
「はっ!」
目の前を浮遊担架を持ったウィング達が通路の随所にあるガラスを破って、展示物を奪っていた。
私に気付き、展示物を見せて武器を持っていない事をアピールする。
「・・本当はこんな事したくは無かったんだ。恨むならストリームマンを恨みな。我々は雇われただけだ」
私が撃たない事を確認すると、略奪を続ける。
さらに進むと、他のロボ達も大きな風呂敷を持って集めているのが見えた。
ウィング達に指示されているみたい。
みんなどこかあっさりしていて、私に対して敵意も無かった。
多分、お互いに疲れていたのかもね。
「それは壊れやすい!梱包して2体で持ちたまえ!」
「はい!」
「ホラ!お前らも、はやく詰めないか!これは上モノだ!錦の着物だ!知らないか?」
「へぇー、知りませんでした」
「これは見事な首飾りですねー」
「バカ言え、それは無価値に等しい。ZMにくれてやるわい」
私は通路を進みながら略奪されてゆく宝物の数々を見ていた。
きっとこの宝物も、このホワイトスペクターのクルー達やストリームマンの戦利品か何かなのだろう。
古の時代の宝物、時の権力者が作られた宝飾品、現代の推を集めたテクノロジーの結晶、AIでは再現できない斬新で芸術的な絵画や彫刻。
ウィングがアレやコレやと指示し、ひとまわり小さなZMが走り回る。
時にウィング達が口論をし嘴で突きあい、即席の競が始まる。
私は何だか拍子抜けしながら略奪で賑わう通路を進んで行った。
「ロロアちゃん、この先が機関室よ」
「うん・・クリア」
ママが扉を開け、階段の下を覗き込む。
火災が起きた時のエントツ現象を防ぐためか、機関室に続く階段には扉が付けられており、今いる階を踊り場にして、上に続く階段も扉で区切られていた。
「ママ?この上は??」
「おそらく展望室ね。五重塔があったでしょ??その真裏に出るみたい」
「それって・・ストリームマンの居る屋敷がある場所??」
「そういう事になるね。さぁ、いきましょうロロアちゃん・・!」
ママが階段を降り、私も続く。
・・しかし、ママが先に行った瞬間、私は素早く階段を駆け上ると扉を閉めてしまった。
『ちょっと!!どう言うつもり!?ロロアちゃん!!』
ママが扉に付いている小窓からピョンピョンさせながら聞く。
「ゴメンねママ!私、ストリームマンと決着を付けたいの!!」
『えええ!!ロロアちゃん!私たちの目的はホワイトスペクターの破壊よ!!そんな高リスクな作戦の変更は賛成できないわ!!』
「大丈夫!!必ず決着つけるから!!ブレードマンの為にも、散ったロボ達の為にもそうしてあげたいの!!これは戦士として、必ずやらなければならない使命な気がするの!!」
『そんな!!もしもロロアちゃんが負けたらメルヴィアはお終いよ!!それでもいいの!?ロロアちゃん!!』
「ごめんなさい!!ママ!!」
私は扉のコントロールパネルをバスターで破壊すると刀を持って駆け出した。
──────
静まり返った本陣。
巨大な五重塔の下にある屋敷に蝋燭が灯る。
既に門番もいなくなり、機銃も撤去され。
ホワイトスペクターの白鳥の首に付いた主砲もストリームマンの一声を待って、かろうじで解体を逃れていた。
そこでフクロウ型アステロイドのアウルと、ニワトリ型アステロイドのストリームマンが日本酒をお猪口に入れたまま自分を写していた。
しばしの沈黙。
その中で、床の間に置かれたカラクリ時計が静かに時を刻んでいた。
「いかがするおつもりですか??」
アウルがストリームマンに聞く。
「ブレードマンが自害した今・・ロロアを止められる者はいませんよ?」
ストリームマンは静かに日本酒を煽った。
そして淡々とした口調で言った。
「ブレードマンが止められなくとも、ZMの野戦砲連隊が居る・・」
「ストリームマン様、野戦砲連隊はブレードマンの自害を持って解散しました」
「では、ガードロボのバンガシラが居るだろう??それをすぐさま向かわせて・・」
「ホワイトスペクター内の動けるガードロボは壊滅しました。また、待機中のガードロボは全て回収されています。」
「ウィング達が居るはずだ。彼らを奮い立たせれば・・」
「我々の指揮は地に堕ちています。これほどまでに損害を被った私たちに誰が従いましょう?」
「ならば、スズメ型ウィングをたくさん連れてこい。スズメ型は若く、疑いをせずに従順だ。そうだ・・!」
アウルはお猪口を握りしめながら瞳の中に赤い憤りを燃やした。
「そうだ・・!!最初から世に従順な者に指示すればよかったのだ!!ある時はツェッツに、ある時はマット師団に、ある時はロボ全体の怠慢で、私の指示は蔑ろにされてきたのだ!!ロロアを撃破したら世とアウルでメルヴィアに王国を作ろう!」
「わかりました・・!すぐにミーさんに指示してスズメ型を徴収させます!!」
「して、今はロロアを誰が止めているのだ?」
────「ぎゃあっ!!」───
アウルとストリームマンが会話する最中、屋敷の外側で物が倒れる音と悲鳴が聞こえた。
しかし、すぐに静かになり、2体は“ミーさんか誰かがふざけているのだろう”と一瞬思った。
「ミーさんですか??」
アウルが烏帽子を被り直すと障子越しから聞く。
「いいえ。ストリームマン様を探しています。貴方がストリームマン様ですか??」
不意に聞こえる少女の声。
「なに?」
その異様さと不気味さにアウルがストリームマンを見る。
ストリームマンの手は震え、手に持ったお猪口から日本酒が溢れた。
ドーン。
ドーン。
何処からともなく大太鼓の音が聞こえ、蝋燭の火が揺れた。
ピンと張り詰めた緊張の中で障子がスルッ、スルスルスルと開いてゆく。
「失礼いたします。ここにストリームマン様が居ると聞き、メルヴィアよりお迎えにあがりました」
「・・・!!」
そこには緑青色の外骨格を纏ったブロンドの少女が座って深々とお辞儀をした。
「申し遅れました。私の名前は────」
「ロロア・フローラウス・メリアスだな!!!!」
ロロアは左手に置いてあった刀を逆手に持つと、アウルの喉元を切り裂いた!!
ドーン!!
大太鼓が鳴り。
アウルは悲痛な呼吸音を気管からあげたあと、とめどなく溢れる電解液を噴き出しながら倒れ込んだ!
ドーン!!
大太鼓の音を皮切りにストリームマンが奥の襖を蹴破って逃げ出した!
「ひゃああーーー!!!!助けてくれ!!!」
ドーン!
ドーン!!
ドーン!!!!
「助けてくれ!!誰でも良い!!出合え!!出合えい!!」
ストリームマンが本陣から、五重塔に続く花道を袴を振り乱しながら駆ける!
花道の両脇にはたくさんのウィングやロボ達が拍手喝采で迎えた!
“”ロロアが負けるところが見れるぞ!!“”
“そら見たか!ストリームマンは腰抜けだ!“”
と、双方譲らず囃し立てた。
能管が狂ったように鳴り響き、ストリームマンは開いた奈落に引っ込んだ。
そして、それを後押しするように
タン!
タン!
タン!
タン!
と、はやし木が打ち鳴らされ、その後を追うようにロロアが駆け出して花道の中央で足踏みした。
ロロアがたたらを踏み、髪を振り乱すと大蛇のように観客を睨みつけた!
その眼光は凄まじく、左手に持った刀を肩に構え、右手を前に出し、キッとストリームマンの方を睨みつけると観客席から「いよっ!!ロロアー!!」
と歓声が響いた。
三味線の音が鳴り響き。
腹を決めたのか、ストリームマンが競り上がった奈落から姿を表し、左手には軍配と右手にはサーベルがギラリと光った。
顔は絹で隠され窺い知る事が出来なかった。
「ストリームマン!!!!この太刀の持ち主は私に幾度も立ち向かい散って行った!!私と舞い、食事をくれた者、負けるとわかって勇敢に立ち向かった者!仲間を信じて軍配を握ったまま散った者!!その全てのロボ達に、私は最大限の敬意を払い戦ってきた!!その御霊に悔いぬよう、全力でお相手致せ!!」
「ならば参れぇ!!ロロア!!」
勢いよく絹が外され、ストリームマンの顔に青黒い隈取りの化粧が浮かび上がった!
琵琶と大太鼓が騒ぎ立て、その顔には軍人としての名誉を傷つけられた憎悪と、全ての野望を打ち砕かれた怒りの形相が刻まれていた。
「お命ーーー、頂戴!!」
ロロアが構え、まるで古の時代の祭りのそれのように三味線と小太鼓の囃子が始まった。
ストリームマンが小型のミサイルを放ち、ロロアが刀で斬り伏せる。
無煙ミサイルは大太鼓の音と共に斬られ、三味線と小太鼓がロロアの軽快な足捌きを表現した。
「おのれぃい!!ロロアーー!!」
琵琶の音と共にストリームマンがポーズをとり、サーベルを右へ左へ振り回して地団駄を踏む。
刀を軍配で受け止め、サーベルの鋭い突きをロロアが交わすと客席から心配するような悲鳴が起きた。
ストリームマンのサーベルをロロアが素早くしゃがんで交わし、さらに下から上に振り上げた一撃をロロアはステップを踏んで交わす。
ヒュン!
「わーー!」
ヒュン!!
「わーーー!」
ロロアが刀を咥え、観客に手を上げ、余裕をみせて挑発する。
ストリームマンは地団駄を踏み、サーベルを振り回すも蝶のように交わした。
「ロロア!ロロア!ロロア!ロロア!!わーーー!!」
いつしか交わす事にロロアコールが始まり、交わす度に歓声がおきた!
───「こらっ!ロロアの声援をやめないか!敵の味方をする奴があるか!!」
囃子のスズメ型ウィングがZMの頭を叩きながら注意する。
「だって見てくだせえロロアちゃんを!!彼女は身一つで突撃し、猛攻を交わし、油まみれになりながら孤独に戦って来たのです。これほどの猛勇を応援しないロボが何処にいましょうか??」
「ぐぬ・・それはしかなり・・」
───────
───『Electrolyte down』────
私の瞳に電解液不足の表示が出る。
幾度とない戦いとバスターの照射で電解する部分が限界に達しているのだろう。
頭かクラクラして、太鼓や笛の音が遠くに聞こえる。
・・私はロボ達の異様な熱狂の中でストリームマンとの一騎打ちをしていた。
サーベルが耳を掠めると観客から歓声が起き、私は手を振って応えた。
私を応援してくれているZMは“田園の舞い”に参加してくれたロボ達だろう。
「ええい!!お前ら、どちらの味方なのだ!!許せん!!」
ストリームマンがサーベルをふり、私もサーベルで突いた隙を見計らって刀を振る。
ストリームマンは影分身をすると、間合いを詰めてサーベル攻撃が来た。
バスターを撃てるほど隙は無く、お互いに近接戦闘をしたまま、こう着状態が続く。
サクッ!
「わーーー!!」
ストリームマンの肉髭が脱落する!
「一本とったり!!一本とったり!!!!」
観客のZMが叫び、明らかな動揺をストリームマンは示した。
サクッ!!
「わーーーー!!!」
やった!!
ストリームマンの腹に刀が入る!
「これで勝ったと思うな!!ロロア!!」
刀は胴体を2尺ほどばかし切り裂いたものの急所を外し、ストリームマンは刀が刺さったまま私を思い切り抱きしめた!!
「ストリームマン様!!“地球落とし”をなさる気か!!」
ウィングが叫ぶのを聞いた瞬間、ストリームマンの翼に搭載されたロケットブースターが火を噴き、一気に急上昇する!!
「きゃああああーー!!!!!」
音速の壁が出来き、五重塔を一気に駆け登り、ホワイトスペクターが一気に小さくなる!!
とてつもないGが私の首にかかり、ミシミシと外骨格が軋む。
私は振り落とされまいと必死に両手で刀を握ってストリームマンの身体に食い込ませた!
刀が命に届くか、私が上空から地面に叩きつけられるか究極の二択だ!!
“”ロロア!!最期に聞いてやろう!!なぜ我らの邪魔をする!?同じロボであるお前が、なぜ理想の邪魔をするのだ!?“”
ストリームマンから突然の通信が入る。
私は刀を握ったまま答えた。
“”あなた方の理想はわからない!でも暴力で変化や革命を起こすなら、私は立ち向かう!!私は戦いの神メルヴィア!!暴力を殲滅し、真の平和をもたらす者!!“”
“”我らの理想に従わないなら死んでもらう!!このまま地面に叩きつけられて死ぬがいい!!“”
大気圏に突入した私達の上昇が止まり、一気に下降が始まった!!
どうしよう!!どうしよう!!
このままだと地面に叩きつけられる!!
でも、バッテリー液が不足しているからか不意に私は冷静になった。
なぜだか私を抱きしめるストリームマンが、とても哀れな存在だと思ったのだ。
“ストリームマン”“
”なんだ!?命乞いでもしたくなったか!?“”
“ううん。ただ、とても可哀想だなって”“
”なんだと!?“”
私とストリームマンは大気の摩擦熱で一筋の光になる。
それでも私の頭は冷たいままだ。
“だってそう思わない・・?舞台であなたが必死に戦っても誰も助けてくれるロボは居なかった・・それどころか、ここに来るまでの間、略奪するロボも沢山いたわ。あなたはそんなロボ達の為に私と運命を共にしようとしている・・”“
”そ・・それは・・“”
“ストリームマン・・あなたはパワーマンの時と同様、孤独だったんじゃないかしら・・パワーマンも最期は孤独だった”“
”やめろ!!世を成り上がりのロボと一緒にするな!!“”
“同情するわ・・”“
”やめろ!!同情なんて必要ない!!我々は・・!!“”
私はストリームマンを抱きしめると、嘴に口を近づけた。
“な!!何をするのだ!!ロロア!!”“
”親鳥って、こうして伝えるんだよね・・“
”な!!何を!?“
“いいからスピードを緩めて・・身を任せて・・”
私は自分の口で嘴を開けるとストリームマンの頭を抱きしめた。
そして心いっぱいに弾けそうになった怒りを胃に集中させた!!
“さよなら!!ストリームマン!!天空の藻屑と消えるがいいわ!!”“
”う!!うわーーー!!!!“
私は”人間の胃に当たる部分“に力を入れると、呑み込んだCX爆弾が喉の奥から出て来るのが分かった。
大きくて太いCX爆弾の塊が私の口からストリームマンの口に移されてゆく。
私は頭を抑えながらストリームマンの体内にCX爆弾を送り込んでゆく。
・・そして。
「ストリームマン!!さようなら!!サンダーブレイク!!!!」
「ロロア!!うぎゃああーーーー!!!!」
刺さった刀を雷管にしてサンダーブレイクを放った!!
バン!!と言う音と共に手から離れ、ストリームマンが大気中に放り出された!!




