ストリームマンステージ(4)
ロボの死
チームガンバの死は確実にロロアの精神を消耗してゆく・・。
そして、すっかり戦意を消失するロロア。
ストリームマンの艦隊の攻撃が続く中、ロロアは戦場で啜り泣く。
私は鬼の顔の足場で、ぼーっとしながら足をブラブラさせた。
下を向いて唾を垂らすと、ボンヤリと霧かかった雲に吸い込まれ夜の闇に消えてしまう…。
分子結合で作ったキューブを口に運び、噛まずに紅茶で流し込む。
キューブは私の食道にぶつかりながらコロコロ回転し、胃の中にストンと落ちて紅茶と合わさるのを感じた。
「マナツ・・さん」
足下にある雲が鈍く光り、山脈が燃えているのだとわかる。
この下で、たくさんのロボットやチームガンバの隊員達が燃えているのだ。
「ロロアちゃん、そろそろ作戦を行いたいけど。もしもロロアちゃんの調子が出ないなら・・ハルミオ小学校の登校時間と合わせるけど・・」
「でも・・そうしたら明るくなって、鳥達に見つかってしまうでしょ?」
「そうだけど・・ロロアちゃんのメンタルを維持するのも立派な作戦のうちだわ」
「・・すこし考えさせて・・ふぅ・・」
私は落ち着きなく鬼の眉間に座ると、鼻の付け根を踵で叩いた。
回転する鬼の角を眺めたり、足を投げ出して大の字で寝たりもした。
・・もちろん私だってこのままではいけないことは分かっている。
でも、心のコアが燃焼をしない・・。
怖いわけではないし、メルヴィアだって守りたい・・。
でも・・。
──────
ツェッツの命により出撃した120機の攻撃隊は、海上で合流し大編隊となって上空を覆った。
巨大なクジラ型連絡船が逃げるように大気圏を駆けぬけ、アメルア共和国の遊撃隊がこれを観測してメルヴィアに報告した。
大編隊は夜景で美しく照らされる海上施設を抜け、メルヴィアの主要の湾であるエルジア湾に襲来。
エルジア港にいるメルヴィア湾岸防衛隊によるミサイル攻撃と、パラボナビームの強烈な閃光が上空を駆け抜けて戦闘が始まった。
すぐさま湾の海上に付けられたレールを滑りながら、巨大なすり鉢型の天体望遠鏡が編隊の方角に向けらた。
そして虹色の光輪を放ちながらウィング達に浴びせかけた。
これは宇宙が最初に作られた際に発生した原初のダークマターを観察する為に用いられる特殊な望遠鏡で、特殊波長を宇宙に照射してその跳ね返りを可視化する特殊な望遠鏡だった。
この銀河の果てまで届く高出力の波動を破棄された衛生コロニーに飛ばして跳ね返し、重複させる。
これは兵器ではないため、アルムシュア条約に反するものでは無いが・・その反面、未知数の後遺症と、死ぬこと許さぬ残忍性を秘めていた。
ウィング達は戦闘を回避するために上昇。
謎の波長を浴びたウィングは、しだいに強烈な悪寒と吐き気に襲われ自分の格納している翼をむしりながらコックピットを叩いて発狂した。
そしてミサイルやブーストジェネレータを自ら破棄し、苦しみから逃れるように海に墜落してゆく・・。
メルヴィア湾岸防衛隊は、特殊波長に喘ぐウィング達に容赦なくパラボナビームの一斉射撃を行った。
一糸乱れず放たれるビームは巨大な横線に見え、ウィング達は謎の電波とビームから逃れるように高高度を目指した。
*1『こちらストライク17!!メルヴィアの防衛が厚い!!撤退するか!?』
*2『方位角45度で上昇せよ!!無駄な応戦を避け、散開した後、立て直せ!!』
*3『こちらストライク3!!だめだ!!上昇出来ない!!熱い!!熱い!!空中分解する───』
*4『体の様子がおかしい!!メーデーメーデー!!』
混乱したストライクホークスが港へ墜落する。
墜落すれすれで持ち返すも、パラボナビームが直撃して破片が港に降り注ぐ。
荷上げ用のクレーンが変形し、巨大なガスタンクが炎上する。
飛ぶ鳥をも落とすメルヴィア湾岸防衛隊の防衛網を潜り抜け、ストライクイーグルスは必死に進軍した。
『こちらストライク17から各機!!みんな無事か!?』
『40機が戦線を離脱した!同士討ちもあったようだ・・“メルヴィアの呪い”を感じたら戦線から離脱するように!!』
『ラジャー!』
───────
夜の暗闇を引きずりながら薄ら明るい早朝のメルヴィアの市街地。
街は静けさに包まれ、車の一台も通っていなかった。
ジメジメとした湿気に包まれ、清掃ロボが放たれ道路を掃除する。
路面バスのロータリーの掲示板には『緊急避難指示 発令中!!市民の皆さんは指定の場所へ避難してください』と言う表示が出されていた。
その中、カイトは息をきらしながら自転車をこいでいた。
腕時計型通信機には寝癖だらけのメリルが叫んでいた。
『リクトぉ!何処に居るの!?避難指示が出てるよ??』
「大丈夫!!すぐに戻る!!うわっ!!」
道路からホログラムが照射され、作業服の男が登場する。
*「避難指示が出ています。私の指示に従って避難してください」
「うるさい!!」
神社を抜け、自転車の通ってはいけない歩道帯を駆ける。
そしてハルミオ小学校の校庭の門まで来た。
門にもホログラムで作業員が映し出される。
*『現在、校庭は“第一種攻撃推定地”になっているので登校は許可されていません』
「くそっ!」
リクトは自転車を横付けすると校庭横の壁からよじ登ろうとする。
『リクト!!ウィングの戦闘機が向かってるって!!何処に行ってるの!?』
「先生を助けに行くんだ!!」
『先生を!?』
「そうだよ!先生を助けにいくんだ!!」
「リクトーー!!」
「ダイチ!!カイセイ!!トモヤ!!」
「リクト!!起きたら居なくなってたから心配したぜ!!先生を助けに来たのか!?」
「うん!!ロロアちゃんが頑張ってるのに!先生を見過ごせるか!!」
「そうだよな!!」
「リクトは凄いぜ!!」
「俺らも手伝う!!」
カイセイとトモヤとダイチがリクトを褒める。
「先生を回収して早く避難しよう!!」
そして自転車を立て掛け、4人でよじ登る。
誰もいない校庭は不気味で、ロロアが出撃した滑走路の名残がそのまま残されていた・・。
高角砲は解体され、測量の跡が残るばかりだ。
どうやらメルヴィア音楽堂や政府関係地に配属されたようだ・・。
「はやく、はやく!!」
4人の忙しい足音が校庭に木霊する。
「・・でも、どうやって校舎に入るんだ!?」
リクトは学生証を昇降口にあるコントロールパネルにかざした。
しかしすぐに赤い表示がでる。
「ダメじゃん!!リクト!!」
「いや!これでいいんだよ!!みんなもかざして!!」
「えーっ!?」
4人が交互に学生証をかざす。
コントロールパネルは赤い表示を点滅させ続けた。
ビーーーッ!!ビーーーーッ!!ビーーーーッ!!
コントロールパネルが異常を表示して『!』がでる。
「やったぁ!!」
リクトは思わずガッツポーズをした。
「おいおい!!大丈夫なのか!?これじゃあ先生が来ちゃうんじゃ・・あっ!!」
「そう!!先生が来ちゃうんだ!!それも担任の先生が!!」
職員室の電気が点きカーテンが開く。
そして窓からアステロイドが外を覗いた。
そしてアッ!!と言う声をあげると慌てて電気が点いて廊下から昇降口の電気が点く。
先生は白のポリカードネードのボディーに、デフォルメされたロングスカートをスルスル動かして滑るようにやってきた。
髪を慌てて後ろに縛り直し、顔は蒼白だ。
「リクト君!!ダイチ君!!カイセイ君!!トモヤ君!!一体ここで何をしているの!?」
「先生!!みんなで迎えに来ました!!開けてください!!」
「えっ!!私の家はここですよ!?」
「でも、ここはウィング達の爆撃予想対象になっているんでしょう!?僕らと地下に避難しましょう!!」
「でも!!私は教師型アステロイドだし・・!!先生はみんなの命が心配です!!・・あっ!」
学校の大気いっぱいにブースターの轟く音が響いた。
遠くの街でパラボナビームの光線が断続的に空の彼方に放たれ、時間差で音が聞こえた。
最低限の灯りが灯る街中にサーチライトの光が上空に伸びる。
「・・とにかく先生は大丈夫だから、避難指示に従ってください!」
「嫌です!」
「リクト君!!」
「先生も立派な市民です!ロロアちゃんは僕らの為に戦ってくれているんです!!クラスメイトが僕らの為に戦ってくれているのに、先生を見殺しに逃げれません!!」
「リクト君!!」
「先生!!俺も先生と逃げます!!」
「俺も!!」
「俺も!!」
「僕も!!」
「ダイチ君!トモヤ君!カイセイ君!!」
アーーー!!
空襲警報のサイレンが鳴り、先生が慌てて生徒達を校舎に入れる。
「敵が近くまで迫って来ています!」
「先生、小型機なら偵察機じゃ?」
「いいえ!ストリームマンは、戦闘機による空襲を始めるという声明をだしました!きっとこの学校を狙ってくるでしょう!」
「どうして!?」
「ここはロロアちゃんが出撃した、チームガンバの基地であるからです!!彼らの報復の標的になっているのでしょう!」
「えーーっ!!」
「ブレインコントロールルーム!!あそこなら生存確率が高くなります!!みんな!急いで逃げましょう!!きゃあ!!」
「うわぁ!!」
「キュアーーーーー!!」
そこで巨大な猛禽類の鳴き声が大気いっぱいに聞こえ、爆音と建物が崩れ落ちる音が轟いた!
そして猛烈なジェットが駆け抜け、ソニックブームが後を追うよう校舎内を揺らした。
その猛烈な振動が、廊下に貼ってある生徒達の作品を揺らし、机がガタガタと不気味に音を立てた。
「近い!!窓から離れて!!早く!!」
先生が誘導し、慌てて走る!
大きく旋回する巨大なジェットの音が聞こえ、次の接近でバスターを掃射するシーケンスに入った事が分かった。
「一機じゃない!!俺らの学校を一思いに破壊するつもりだ!!」
「もうだめだ!!」
「みんな!!諦めないで!!今、助かる方法を検索してる!!大丈夫だから!!」
「キュアーーーー!!」
猛禽類の鳴き声と共に急旋回する音が聞こえる!!
「来る!来る!来るぞ!!」
ダイチが叫び、先生が『生存方法』を算出する!
「みんな!!1箇所にしゃがみなさい!!」
「えっ!?」
「いいから早く!!」
先生はリクトやダイチ達を廊下の一箇所に集めるとロングスカートを思い切り広げて包み込んだ。
「わ!!先生!何を・・っ!?」
奥の通路が爆発し、連鎖するように廊下や教室を破壊する!!
瞬時にスカートは対衝撃性の特殊防御シールドに変わり、生徒を包み込むと、青く透明に輝いた。
その透けたスカートの先に、先生が生徒を優しく見守る。
「先生!!こんな事しても、先生は助かりませんよ!!」
リクトが叫び、廊下が崩れ、瓦礫が降り注ぐ!
その最中でも、先生は静かに微笑んでいた。
「リクト君、ダイチ君、トモヤ君、カイセイ君。
先生は思いやりのある生徒を育む事が出来て嬉しいです・・」
「「「先生!!!!」」」」
「先生は頑丈に出来て居ますから大丈夫です。どうかメルヴィアがこの先・・どの様な未来になっても・・その優しさを決して忘れないで下さい。それがあなた達人間の強い心になるからです」
瓦礫がレイズに降り注ぎ、頭に当たり、肩が壊れる。
「先生!!」
───────
メルヴィア空襲の報はすぐさまウエストドラゴのチームガンバの中継基地に届けられ、ママに映像付きで届けられた。
『・・ママさん。メルヴィアが空襲に合い、ハルミオ小学校が攻撃されました。ロロアちゃんに伝えますか??』
「いえ・・少し考えさせて下さい。デリケートな事ですので・・ちなみに犠牲者は・・?
────わかりました」
しかし、ニュートリノ発電所や、カイン博士の暴力などのロロアの暴走があった為、こうした情報の取扱いには細心の注意がはらわれた。
ロロアのママは、時にロロアを鼓舞し、時に紅茶や菓子を与えながらロロアの底知れぬ攻撃力を抑制していた。
もちろん敵の勢力も脅威ではあったが、なにより一番の脅威はロロアが自分の憎しみや、怒りの思うままに”“癇癪”“を起こし、暴走化する事だった。
その暴走自体をチームガンバやママは提言した事も、問題として指摘した事もしていない・・。
しかしロロアの“癇癪”は一番の懸念材料であり。
ホワイトスペクターがロロアもろとも堕ちた場合は、それ即ち作戦の失敗を意味していた。
『ママさん、くれぐれもお願いします・・。ひとつ宜しくお願いしますね』
「わかりました。お任せください」
ママは深呼吸すると、体についたオイルを拭いているロロアに向き合った。
「なに?」
「ロロアちゃん、データを送ります」
「うん。何のデータかな」
ママがロロアと手を合わせ、データの共有をする。
沈黙。
「・・・・・!!・・・・・・!!!!」
ロロアの青い瞳が見開き、みるみるうちに亜麻色の髪が逆立つ!
ママは咄嗟に鎮痛剤を手に忍ばせる。
娘には戦闘を鼓舞しなければならない・・しかし暴走させてはいけない。
ママはその瀬戸際で戦っていた。
「くっ・・ふぅ!!くっ!!」
ママは静かにロロアの内なる爆発を見ていた。
ロロアが土下座するように、しゃがみ込み。
祈るように顔を手の平で覆うと、静かになる。
しかし、数秒もしないうちにスクッと立ち上がると、自分の髪をゆいだした。
「ロロアちゃん??」
「ふぅ・・!!・・・くく!!」
“大丈夫??”“とママが質問しようとした瞬間、ロロアの瞳から熱い涙が湯気を出しながら溢れる。
そして、おもむろにCX爆弾を千切ると口の中に入れて咀嚼した。
「ロロアちゃん・・!一体何を!?あぁあ!」
そして鼻で深呼吸して顎を上げると、一思いにゴクリと呑み込んでしまった。
「・・ママ、行こ??」
「ロロアちゃん・・!?」
「もしも私が危なくなったら、私がCX爆弾そのモノになるよ。片道の燃料でマナツさん達は戦いに来てくれたのだもの・・それくらいはしなくちゃ・・」
ロロアの決心にママは全身の毛細回路が泡立つような気持ちになった。
「・・・ロロアちゃんは凄いわ・・!でも、作戦が終わったら直ぐに吐き出すのよ??」
「うん。ありがとうママ・・それじゃあ、行くよ?」
「うん。このまま足場が回収されるのを・・ってロロアちゃん!?」
ロロアはママを持ち上げてリュックに入れる。
「そんなの待ってられないよ!大丈夫!さっきから考えてたの!私に任せて!」
「な!!何をするの!?ロロアちゃん!!」
ロロアが上を向き、バスターをチャージしだす。
「待って!!ロロアちゃん!!こんなところでバスターを放ったら!!すぐに見つかって蜂の巣にされてしまうわ!!」
「大丈夫だから!」
ロロアの内なる高エネルギー反応を感知したのか、一機のスズメバチ型ガンナーが向かってくる!
「行くよ!!ママ!!」
「え!?きゃあ!!」
「ロロア!!ハイパーカノンバスター!!!!」
ドォゴア!!
ロロアが後ろに向き直ってバスターを放つと、今まで滞在していた鬼の足場が吹き飛んだ!!
鬼が驚きの顔をしたまま吹き飛び、ロロア達を上空へ押し出す!!
その破壊力と跳躍力は凄まじく、ホワイトスペクターの五重塔を一気に飛び越えてしまった!!
ロロアが必死に手を伸ばすも、五重塔が遠のいて空中を彷徨う。
「ロロアちゃん!このまま行くと飛び越えて、落っこちちゃう!!」
「この後、どうしよう!?」
「えーー!!どうしようと思ったの!?」
「五重塔のシャチホコまで飛ぼうと思ったんだけど!!飛びすぎちゃった!!」
「えーー!!とりあえず再チャージ!!ホワイトスペクターの腹が見えたら、もう一度空中に放って、なんとしてもホワイトスペクターにしがみついて!!」
「わかった!!やってみる!!」
ロロアは空中で輝きながら必死に頭を空にしてバスターをチャージした。
その間も失速した身体は降下を初め、数名のZMシリーズが『なんじゃいな??』と窓や展望台からロロアを見ていた。
そしてギョッとして、目を擦って、今一度凝視すると、慌てて黒い受話器を耳に当てる。
すぐさま緊急事態の警報が鳴り、ロロアを内側に閉じ込めたまま防御シールドがホワイトスペクター全体に張り巡らされた。
「ロロアちゃん!!今だよ!!」
「うん!!ロロアハイパーカノンバスター!!!!」
ロロアのバスターが防御シールドの内側に当たり、バスターの反動でロロアを押し出す。
「ロロアちゃん!!減圧室のハッチがある!!」
「わかってる!!」
「掴んだ!!」
ロロア達は展望シールドの下についている装甲と装甲の繋ぎ目を左手で必死に掴むと、減圧室のハッチまで両腕の力で進み出した。
「ママ、減圧室ってなに!?」
「外の気圧と、人間の住める気圧と調節する部分だよ!すごいわ!!このホワイトスペクター、宇宙まで行けるのね!!」
ロロアが減圧室のハッチまで行くと、口から親指ほどのCX爆弾を吐き出し、減圧室の駆動部に貼り付けた。
ママが雷管を差し込み、あわててロロアのリュックに隠れる。
「ママ!いくよ!!サンダーブレイク!!!!」
減圧室のハッチが破壊され、内部の防護スーツごと外に吐き出される!
ロロアは外と内部の気圧が同じになったのを見計らうと、内部に侵入した。
「や・・やったぁ!!」
「ふう・・」
緊急ハッチが閉まり、外の空気が遮断される。
「それじゃあ、ホワイトスペクターの駆動部に行こう!!」
「うん!!」
ロロアはホワイトスペクターの駆動部を目指し、走り出した。




