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ストリームマンステージ(3)

ロロアの進撃は2隻の轟沈で休止した。


様々な命が犠牲になり、脅威に晒され、恐怖する。

戦争と言うのはかくも虚しいものなのか・・。


爆撃機が墜落した事による火災で、山脈がボヤッと明るく輪郭を作る。

たまにつぎはぎのオンボロ船が走るのは、主民主義国であるテルザリアの 落武者スカベンジャー狩りだ。




鬼の顔の足場は2号艦を失った後も脱出する兵達を待つように宙を止まり続けた。

蜂型ガンナーがロロアを探すサーチサイトを点けながら旋回しており、生き残ったマンタ型爆撃機も上空にサーチライトを照射して敵襲を警戒していた。



「・・・マナツさん・・どこ・・」

ロロアが寝言を言う。

よく見るとライトに照らされて涙が光る。


「・・・」

ママがロロアの涙を拭うと、静かに満月を見る。

時刻は夜の22時。

たとえ戦場と言えど、ロロアの睡眠の時間は変わらないのだ。





──────



「テリンコさんテリンコさん!」

「何??」

「ストリームマンの艦隊であるマンタ型爆撃機が2隻、轟沈したそうよ!」

「それは大戦果ね!!」


テリンコらメルヴィアの地上部隊は、都市の使われなくなった地下鉄を利用して防衛陣地を構築していた。

そこには物流資材の移動ネットワーク網が走っていて、それをそのまま兵員輸送機として使い、地下鉄の貨物列車を旧式の宇宙遠方ロケットを搭載した移動式迎撃ミサイルとして展開。


また、メルヴィア国内の巨大なストリートを滑走路とすることで、まさに都市型要塞を成していた。


ここ、チームガンバの作戦本部は破棄されたストームドレーンの内部に作られており、その深層にある貯水地下空間に住人達も避難する手筈になっていた。


テリンコと作戦兵長のノノコは即席のワイヤーを伸ばしたインクラインと言うエレベータで物資の運搬を行っていた。


「飛行隊が時間稼ぎをしてくれたお陰で、メルヴィアの防衛力を高める事ができた・・」

「後はロロアちゃんね」

「うん。ロロアちゃんがストリームマンを討つ事が出来たら・・メルヴィアの戦争を回避できるかもしれない!」

「ロロアちゃんは無事に乗り込む事が出来たのかしら・・?」

ノノコがヘビーパークライフルを担ぎながら言う。


「きっと乗り込む事ができたと思う・・ロロアちゃんはチームガンバの誰よりも強いもの。カインナンバーズだからと言う訳ではなくてマッドナンバーズがどうと言う訳でもない・・。ロロアちゃんは真に強い女の子だわ」

「それは・・」

「カイナ・メリアスの血が確かに息づいているのかもしれないわね・・でも、ロロアちゃんは共民主義者にならず・・立派にメルヴィアを守ってくれている。自分の意思で、戦いに身を投じる事を決意してくれている」



ガタンと言う音がして、ストームドレンの深層に到着した。

テリンコ達を確認した円形の装置が反応し、照明である光の棒を出現させた。

あたりが照らされるもストームドレンの全てを照らす事は出来なかった。



まだ隊員達は来ておらず、インクラインのゴンドラに積み上がった物資を区分に分けて運び出す。


「えっと食糧は向こうに置くのね?ノノコは武器をお願い!」

「わかりました!」

ノノコとテリンコが物資を浮遊型運搬マシーンで浮かして運び出す。


六角形の分厚いバリケード。

電源の入っていないバンガシラやガーディアンスピリッツが配置されていた。

テリンコはメカニロボを避けながら乾燥食材の箱を置いてゆく。


「・・わっ!!マナツ!!」

テリンコが上を向いた瞬間、そこにはマナツが居た。

マナツはテリンコを見るとニコニコと笑みを浮かべている。


サーベルも軍靴も磨き上げられ、まるでハルミオ小学校を飛び立った時のようだった。


「マナツ、こんな所で何をしているの!?もう帰って来たの!?」


「テリンコさん?誰と話をしているんですか!?」

「マナツだ!!マナツが帰ってきた!!」

テリンコは驚き、マナツを指差しながらノノコに叫ぶ。


どう言う訳かマナツは笑みを浮かべたまま微動だにしない。

テリンコはマナツの不自然さに気づかずに駆け寄った。


「マナツ!聞いたぞ?マンタ型爆撃機を2隻落としたって!あとでダーパ作戦長に自慢してやろうよ!!」

「・・・」

マナツは静かに笑みを浮かべる。


「な!?マナツ!!どうした黙りこくって・・マナツ?」

テリンコから笑みがなくなり・・全てを察したように息を呑んだ。

「マナツ・・!まさか・・」


ノノコは背を向けながら武器の整理をしていた。

「テリンコさん・・チームガンバの飛行隊は給油手段のない片道飛行に出かけたの・・きっとマナツさんは・・」

「・・・そんな!!」


テリンコは慄きながら後ずさる。

しかし、そこには恐怖心はなく・・。

怨念と言う物を感じなかった。



ただただ静かな空気が流れていたのだ。



テリンコは胸をはり、霊体になって蘇ったマナツに向き直った。


「マナツ・・私に最期の挨拶に来たのね。あなたは立派だった・・!!」

テリンコが敬礼し、マナツが笑みを浮かべたまま暗闇に消えた・・。


「でも、こんな最期ないよ・・!!マナツーー!!」

「テリンコさん・・!!」

テリンコがしゃがみこみ、ノノコが抱きしめ、泣き出した。




─────



深夜3時。

マンタ型爆撃機、1号艦と4号艦。

艦内ではメルヴィアの空襲で名声を得たい爆撃隊と兵力を温存させたいツェッツが独自に動き出し、ロロアを討つ為に着飾ったウィング達が武器を手に取り。

マッド師団を失ったZMシリーズがロロアの亡霊に悩まされていた。


それはホワイトスペクター内も例外ではなく、艦内の長廊下を煌びやかな鎧を着たウィング達がドタバタと駆け回り、袴の裾が慌ただしく畳を擦る音がそこかしこから聞こえた。

ツェッツは予定していたメルヴィアの空襲の遅れを恐れ、ロロアの奇襲に兵力を注ぐストリームマンを無視

して当初の作戦である『メルヴィアの空襲作戦』を独断で敢行しようとしていた。


この作戦の予定どうりの遂行は、今後メルヴィアの戦いにおいて勝利した際、ストリームマン側はアルムシュア条約に則った公平で大義の為の戦争であると言う主張を示す為であり、メルヴィアでフォレストマンの討伐に向かった主民主義国であるアメルア共和国をメルヴィア政権下で正式に追い出し、ゆくゆくは共民主議国メルヴィアとして世界に進出するための重要な意味を持っていた。


もちろん、それはストリームマンも理解している事ではあったが・・ロロアと言う謎の脅威を背面に残したまま作戦を実行することも出来ず、命令を無視したツェッツの処刑と、ロロアの出方を静かに伺っているに留まった。


「ツェッツ様・・ストリームマン様の意向に反する事になりますが本当によろしいのでしょうか??」

「うむ」

1号艦の甲板にはツェッツの束ねている、たくさんのストライクホークスが出撃の準備をしており、攻撃隊のシンボルである赤いスカーフをツェッツが直々に巻いてまわった。


「マンタ型爆撃機はストリームマン様の指揮が無い以上、動くことは出来ないだろう。君たちには何としても予定通りの空襲を行って貰いたいのだ」


「しかし・・攻撃目標がメルヴィア音楽堂ではなく、小学校や市街地と言うのは何故ですか??」

「市街地の多くはチームガンバの飛行隊が飛び立った場所だ。そして小学校は・・ロロアの乗った双胴機が飛び立った場所でもある」


「しかし・・民間人も攻撃目標というのは・・そもそもマンタ型爆撃機の本来の理由も、圧倒的な軍事力による威圧で降伏を促すのが目的ではなかったのですか?」


「君の言いたいことも分かる。しかしロロアが登場した以上、第二のロロアや新たな脅威がメルヴィアには存在する可能性が大いにある。

本来の作戦である空襲を予定通り行うのだ・・本質は何も変わってはいない」

「・・・はっ」

「しっかりするのだ!!我々は決死の戦闘を仕掛けてきたチームガンバ・・またはメルヴィア国民の『精神』と戦っているのだ!これ以上の戦闘の損害は、これからの予定すら大いに狂わせる可能性がある。民間人と言えど、未来のチームガンバである事は変わらない!!」


攻撃隊のウィングはお互いを見る。


「わかったか!!これ以上の損害は、我々の本来の作戦・・ひいてはメルヴィアの将来にも陰りを落とす物となるだろう!!君たちには是非とも、この攻撃目標を攻撃してもらい、メルヴィアに圧倒的な軍事力と、刃向かった者がどうなるかを力を持って示して貰いたい!!」


「「はっ!!全てはストリームマン様の為に!!!」」

「頼んだぞ!」


「行くぞ!!みんな!」

ウィングの攻撃隊がストライクホークスに乗り込んで敬礼する。


コックピットのシールドが閉まり、巨大な翼を羽ばたかせて歩き出した。

青いシグナルの電灯が甲板の道筋を作り出し、ZMシリーズが手を振る。

ストライクホークスの足にスターターがセットされ、甲板を滑るように加速を始めた。


そしてスターターから解き放たれた瞬間、翼を水平にし、一気に揚力で浮かび上がったかと思えば、後部についている4つのブースターからジェットが噴き出して目にも止まらぬスピードで飛び去った。


それを合図にしたのか他の攻撃隊もスターターの位置に歩いて飛び立って行く。

ツェッツは全ての攻撃隊が飛び立つのを静かに見ていた・・。

そこへ静かに、ツェッツ前に2体の武装したウィングがやって来た。


「ツェッツ様」

「ストリームマン様の使いか?」

「はっ。ストリームマン様からの伝言です。その様子ですと・・どうやら申し上げなくてもご存知のようですね」

ツェッツが向き直り、烏帽子を整える。


「・・ストリームマン様!!万歳!!!!」

サブスパークガンの銃声が響き、両手を挙げたツェッツが吹き飛んだ。



ツェッツの処刑はすぐさまホワイトスペクター内にある本陣に伝えられた。

「報告致します。ツェッツ様を1号艦で発見。処刑致しました」

障子が開き、ウィングが跪いて報告する。


「おおお・・」

アウルが驚きの声をあげて緑茶を口にしたまま固まり、ストリームマンは報告に動じる事なくカツレツを食べていた。

「・・遺体はホワイトスペクターの避雷針に突き刺しておけ。一番見えるところに」

「はっ!」


ウィングが障子を閉め静かになった。


カツレツをナイフとフォークで切り分ける音が静かに聞こえる。


命令に反したとは言え、ツェッツはストリームマンと共にキグナスの大艦隊に所属し、数あるウィング達の間から勝ち上がり、アルムシュアの戦いを勝利に導いてきた歴戦の勇者だった。


「アウル。私が冷酷な人間に見えるかね?」

「いえ・・」

「もう一度言うが、我々に必要なのは団結力だ。ロロアと言う得体の知れないロボットがいるなかで、ツェッツは私の命令を無視して独断で命令を行った。

もちろん、メルヴィアの降伏を促す事は間違いではない。しかしツェッツは私を無視して臆病風に吹かれ、ウィングの温存と撤退を独断で行ったのだ。マッド師団とZM。そしてウィングでロロアに対抗していれば勝ててた物を・・いまではマッド師団とメカニロボを失って、マンタ型爆撃機を2隻も失う大失態として実をつけた・・!!」


「してストリームマン様・・この後はどのような作戦をお考えで・・?」

「ロロアの動きを見る。おそらく彼女は1人だ。見つけた瞬間すぐさまZMが駆けつけ、武装したウィングがこれを打ち砕くだろう!下手に動かず、山のようにロロアを見据える・・それが作戦よ!」

「おぉ。さすがはストリームマン様!!」




ストリームマンの号令のもと、ZM達はロロアを探し出す作業を続けていた。


しかし、ロロアの放つバスターを耳にしたその時から

ZMの記憶デバイスの深層に隠されていた恐怖を呼び覚ました。


「ロロアが居たって本当か!?」

薙刀を持ったウィングが他のロボを押し退け、見回りをしていたZMに詰め寄る。

「俺はこの目で確かに見たんだ・・!女の子だった・・!!」

「何処にいた・・?」

「4号艦の艦橋で笑っていた・・!!手を振ってた!!」

1人のZMの目撃情報に武装したウィング達が聞き入る。

「こうしてはいられん!!ロロアを討って名をあげるぞ!!」



この深夜の誤報は30件に及び、ウィング達や警備用メカニロボ達を混乱させた。


“ロロアの笑い声が4号艦の兵舎で聞こえた”

“ロロアを甲板で見かけたが、呼びかけた瞬間ビュウと言う音がして消えてしまった”

“ロロアが正座してオイルを盗み飲みしていた”

”何者かが密かにロロアの内通を行なっている。空に放射されるスプライトがその証拠だ“

”外骨格の胸のパーツにロロアが写ってニヤリと笑った“

”ロロアが鬼火を吹き、甲板を焦がした”


神出鬼没。

変幻自在のロロアの目撃談は疑心暗鬼を生み出し。

ロロアの意図しないところで一人歩きを始め、メカニロボ同士の誤射を発生させた。

ZM達は怪しい所や物陰に行くと『合言葉』を言い合い、分隊を作って行動を始めた。



この混乱の中で、ZMの1人はフォレストパークで防衛している仲間達に原始的な伝言ビームを放射していた。

伝言ビームはZMシリーズ内の独自のネットワーク回線で閲覧できる状態になっており、それはメルヴィア国内に居る善良なZMシリーズの耳に入る事となった。


『皆、ロロアの捜索に躍起になり目をギラギラさせているよ。疑心にまみれ、隣の仲間すら疑う者もいる。

(中略)

これならいっそ、フォレストマンと共にアメルア共和国の相手をしていた方がよっぽども良かった。

パワーマンの方が自分たちを大切にし、マッド師団の方がロボを大事にしてくれた。

これじゃあ勝とうが負けようが俺らの扱いは変わらない。

ウィングに使われるか人間に使われるか・・決起前と何も変わらない扱いがそこにはあるよ』


それがフォレストパークで闘うZM達に向けられたメッセージである事は確かだが・・誰しも閲覧できるビームで照射したのは疑問だった。

ウィング達の厳しい検閲があったのか・・単なるZMの愚痴だったのか・・。

『何も変わらない扱いがそこにはあるよ』と言う言葉が当時のロボ達の心に刺さったのは確かだ。




───


夜中の4時。

『ロロアのママさん!聞こえますか?我々はチームガンバ作戦室のアステロイド、アベルです!ウエストドラゴの麓の中継基地で指揮をとります!ロロアちゃんの様子は?オーバー』

「ロロアちゃんは、ぐっすり寝ています。私は朝ごはんを支度しています。オーバー」



「・・・マナツさんが居なくても代わりなんていくらでもいるのね」

私は寝返りをうつと、ママとチームガンバの話を聞きながら言った。


「ロロアちゃん、そんな意地悪を言わないの」

『どうかしましたか?オーバー』

「いいえ!こっちの話です!!オーバー!」

『中継基地は私と、数人のアステロイドしか居ません。もしも有事が発生した際は救助ビーコンを!作戦が成功し、避難ポッドで脱出した際は直ぐに駆けつけます!オーバー』

「アルシウス公国の救助船はどうしたのですか?オーバー」

『アルシウス公国飛行旅団は、チームガンバの飛行隊の全滅を見届けた後に撤退しました。オーバー』

「全滅・・」

『軍人として立派な最後でした・・』


「・・・」

ママは小さなビストロトミーの機械を取り出すと栄養が詰まったサイコロ状のキューブを出した。

それを皿に盛り付けると紅茶を淹れ出す。


・・・。


『──しかし、彼らの犠牲を無駄にしてはいけません・・!ロロアちゃん、そしてママ!我々はあなた達と共にいます!一緒にメルヴィアを守りましょう!』


「ロロアちゃん聞いた?一緒にメルヴィアを守ろうって!頑張れる??」

「・・・うん」


私は頭を掻きながら起き上がると下を向いた。


バイパーイーグルスの編隊が遠くで飛び立つ音がした・・。


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