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ロロアの隠し事

テリンコがブルーシグナルズの事件の報告を行う。


ロロアの母であるカイナ・メリアスは分析結果に気が気ではない・・。

時にそれは娘のロロアの心情を無視するものであったのかもしれない・・。

メルヴィアの第一種居住区はセル型ユニットハウスと言う建築物で出来ていた。

広い庭にガレージが付いており、リビングや個人部屋が六角形や四角形に区画されていて、家ごとにカスタムされている。



そして一軒の3階建ての家に軍服を着た女性がチャイムを押した。

銀髪を後ろに流し、ピロトカと言う軍帽を被ったテリンコだ。


「私です。テリンコです」

「あぁ!テリンコさんね?どうぞ」

「失礼します」


門を開けるとすぐに玄関のドアだ。

ドアの開く音がして、テリンコを迎えるように抗菌のエアシャワーが降り注ぐ。

しかし玄関先で迎えてくれる人は無く。

天井のスピーカーからロロアの母であるカイナの声が聴こえるばかりだ。


テリンコが歩くと歩調に合わせて通路に光が灯り、固形飲料ソリッドがコップに落とされて飲料を作る音が聞こえた。

六角形のフロアをなぞるように3段下がった所がダイニングテーブルになっていて、そのテーブルにクマのぬいぐるみが座っている。

ぬいぐるみの目が光り、命を吹き込まれたかのように動き出す。

「ロロアがお世話になっています。ようこそテリンコさん」


「ご無沙汰しております、ロロアちゃんのママ」


テリンコがテーブルに置いてあるメロンソーダを口にする。

ママはテリンコを見ながら言った。

「こうしてテリンコさんが飲み物を呑んでいるのを見るとニュートリノ発電所の水盃を思い出すわ・・パパから聞きましたよ。ロロアちゃんを助ける為に尽力してくれたと」


「あれは・・この世の地獄でした・・」

テリンコがメロンソーダに自分を映しながら言った。



「あなたはロロアちゃんの誇りです。今もマナツさんやあなたの事を話すのよ??」

「そうですか」


テリンコがコップを置き。

遂に話の本題を切り出そうと口火をきった。

「それで・・ブルーシグナルズの事ですが・・」

「ええ・・管制センターの話ね??・・・それで・・実況見分の結果は??」

「まず、制御センターを再現します」


テリンコがテーブルの操作板を触って記録スティックを差し込むと、リビングが薄暗くなってホログラム化した制御センターが映し出された。

“ママ”は緊張した面持ちで深呼吸する。


破壊されたモニター、こじ開けられた扉、飛び散る外骨格の一部が忠実に再現されてゆく。

テーブルには分解された兵士が横たわり、即席のバリケードや壁などにロロアのバスターによるクレーターが出来ていた。



「手ひどくやったわね・・」

ママが破壊されたロボを見ながら言う。

「ええ」


「テリンコさん、このテーブルに置かれた兵士のメカニロボは??」

「おそらくロロアちゃんが仕留め損なったロボですね」

「つまり・・ここで手当てをしていたの??」

「いいえ。味方を解体していたのでしょう・・」

「なぜ??」

「おそらく、兵士の記憶デバイスを強制的に取り出そうとしたのです。ロロアちゃんの戦う映像をメロディアス新聞に持ち帰ろうとしたと推測できます」

「それで?」

「ロロアちゃんのバスターによる外傷性ショックでデータは破壊されていました。きっと取り出せたとしても失敗に終わっていたでしょう」


テリンコとママが破壊されたロボを見て回る。

扉をぶち抜き、敵の胸を吹き飛ばしたのはロロアの放ったミドルバスターだろう。


扉正面には即席のバリケードが作られ、1体の女性型メカニロボが重スパークマシンガンを装備したまま頭を吹き飛ばされていた。

もう1体は胸を掻きむしりながら隣で絶命し、その上からバスターでとどめを刺されている。


ママは観察しながら言った。

「これが最初ね。しばらくロロアちゃんは銃撃戦を行った。みて?ポイズンバレットの跳弾を利用して2人を仕留めているわ・・」


テリンコがコントロールパネルを指差しながら言う。

「ここで格闘をしていますね。突撃してきたロロアちゃんに飛びかかったのでしょう」

ロロアに飛びかかったロボットは後ろに抱きついた後に腕を掴まれ、そのまま両腕をもぎ取られてしまったようだ。

そしてロロアに掴まれたロボットは、そのままコントロールパネルを突き破る形で投げ込まれてバスターを受けていた。



トオルことアルガを除いて執拗に顔や胸などにバスターを浴びせている・・。

それは武器を持っていなかったメロディアス新聞のサルダも例外ではなく。

しゃがみ込んだ頭にバスターを打ち込んだ『処刑スタイル』の銃創があった。


「おそらくメリルを奪われた恨みによるものでしょう」

「私の娘ながら凄いわね・・」

「人は殺すのに自身の罪悪感と戦わなければなりません。しかし、簡単にリミッターを外す事が出来るんですよ」

「・・・それは?」

「怒りです。相手が悪ならば、その悪に比例して人を殺す事ができる。ロロアちゃんの友達を想う強さが強い程、相手が悪ければ悪い程、好戦的になれる。一番の問題は、ロロアちゃんが自分の内なる怒りに勝てなくなり、破壊の連鎖を止められなくなる事。また敵がロロアちゃんを説き伏せ、本来持っている身体能力を抑え込んでしまう事です」


「私が付いてます。私がロロアちゃんを導きます」


「ありがとうございます。ロロアちゃんのママ」


「ママでいいわ」


そしてテリンコとママは1つの死体と対峙した。

胸に穴の空いたトオルことアルダの死体だ。

テリンコはトオルの死体に触れると宙に浮かせ、回転させながら言った。

「そして、一番の問題は彼ですね」

「・・・」

「記憶デバイスが抜かれています」


「・・・・!」

ママは言葉にならない深い溜息をついた後に項垂れる。

「信じられないのですが・・トオルはロロアちゃんの突入時には戦闘を辞めています。ロロアちゃんもそれを知っていて・・二言三言会話を交わしたと推測できます。おそらくトオルはコーディアスの兵士が全滅したあたりから諦めていたのではないでしょうか・・『自分たちには未来がない』と」


「そして、トオルは自ら記憶デバイスを外してロロアちゃんに渡した・・??」

「ええ」


「ロロアは・・うちの娘はどこまで『知ってしまった』のでしょう!?」

「トオルが自身でプロテクトしない限り全てでしょう・・。しかし、ロロアちゃんも馬鹿ではありません。もしかしたら悪性のウイルスを警戒して預かっただけで・・読み取ってはいないのかもしれません」

「・・・」


ママは3階のロロアの部屋を見た。

ドアにはクマの顔をした看板がかかっていて『ロロア』と書かれていた。

ロロアのママなら今すぐ部屋まで駆け出して、学習机を探すことも出来るはずだ。


暖炉インテリアの棚の上で、ロロアが優しく微笑む。

リビングの大きな掃き出し窓からはメリルが持ってきたブルーベリーが植えられているのが見え、キッチンにはロロアが食べたいリクエストが貼られていた。


ママは静かに上を向くとポツリと言った。

「・・・これは家族の問題であり・・かけがえのない家族の歴史です。もしもロロアが・・私達の過去に絶望するのならば・・私は・・私は・・」

「ママ・・」

テリンコがママを抱きしめる。

ママの黒い瞳が白く点滅し、小さく泣いているのが確認できた。

「私は・・あの娘を失うのが怖いの・・!たとえ血の繋がりが無くとも、あの娘は私の娘なのです・・!でも・・もしも全てを知ってしまった時、あの子が世界に絶望して暴力バスターに呑まれてしまったらと思うと怖いの・・!身が裂かれる思いなのよ・・!!」


「大丈夫よママさん・・!ロロアちゃんは優しいもの!きっと暴力バスターに呑まれたりしないわ!」

「あの腕に付いている兵器はロロアちゃんを助け、滅ぼしもするわ・・!」

「でも、それで助けられているのが私達、チームガンバです!ロロアちゃんに何かあっても、私達がサポートしますから!」



ビーーーッビーーーーッ




「もしもし・・?」

テリンコが耳に手を当てて通信を受ける。

管制センターのホログラムが消え、いつものリビングに戻る。


「───ごめんなさいママ。今すぐチームガンバのベースに戻らないと」

「ストリームマンね??」

「ええ。動きがあったようです!失礼します!ご馳走様!」

テリンコガ素早く敬礼し、残りのメロンソーダをグイと飲むと小走りで行ってしまった。

玄関の扉が閉まり、静寂が訪れる。


「・・・」

ママは放心状態のまま掃き出し窓を開けると縁側にポトリと腰をかけた・・。



どれほど『クマのぬいぐるみ』としてオンラインだっただろう?

家の前の道路をクリーンロボが音楽を流しながら走る。


「♪メルヴィアを綺麗な街に♫ひとりひとりの心掛けが大切です♪私達はメルヴィアクリーンアッププロジェクトの一員です♫」



バイクの走る音。


そして巨大な装甲車と兵士が歩いた。

「キュアッ───こちらは、チームガンバ・リコールチームです。次のメカニロボのリコール、情報の提供をお願いしています。クロイツェル社製ZMシリーズ、ドミトリー社製YWシリーズは所持を禁じられております。申告の無い所持、または運用を発見した場合、アルムシュア条約に則り罰せられます。繰り返します───」




「〇〇くん、バイバーイ!」

「またねー!」

ハルミオ小学校の子らが帰る声がする。



そして。

カシャン(玄関の扉が解除される音)

バタン!

「ただいまぁーー!!」

ロロアの元気な足音が廊下に響いた。


すぐさまランドセルをスタンドに嵌め込んで充電する

「はぁ、喉渇いた!!ママ!ちょっとメリルの所行ってきていい?5時には帰るから!」


ママは静かに縁側で外を見ている。

ロロアはママのいつもと違う様子に、心配するように歩みながら聞いた。


「誰か来ていたの?・・・どうしたのママ?」

「ロロアちゃん、おかえり」

「どうしたの??」

「ロロアちゃん、ブルーシグナルズとの戦いで敵から何か貰わなかった?」

ロロアは少し驚いた顔をした後に少しだけ唇を絞めた。


「ロロアちゃん?隠しても無駄だよ?・・出しなさい」

「・・・いやだ」

「なぜ!?」

「『トオルさん』は最後に心を開き、私にデバイスを託したの。彼の命を無駄にしない為にも私の中に預かっておきたいの!」


ママはそれを聞くと弾かれたようにロロアに詰め寄った。

「ロロアちゃんの中に入っているのね!?ウイルスの心配があるのに!?」

「ウイルスは検出されなかった!」


「ロロアちゃん!出しなさい!」

ロロアが口をキュッと締めて首を横に振る。


「ロロアちゃん!」

ロロアが口を横に広げてイーッとする。


「ロロアちゃん!ママも同じ戦場にいたのよ!?ママに隠し事なんてフェアじゃないよ?」

「・・・!!」

ロロアが驚いた顔をして『イー』を止める。


そして下を向いて右耳を触ると、右耳の円型ディスクが開いてスティック状の古びた記憶デバイスが飛び出した。


「ロロアちゃんありがとう。読み終わったらすぐに返すわ」

「うん・・」

ママは記憶デバイスの差し込み口にフッと息を吹きかけると、自分の胸にあるスロットに取り付けた。


「カカカカッ────ヒュウイーーン────」


ロロアはソリッドを飲みながら見ている。


ママは分析を終えてポツリと言った。

「・・・コーディアスの言葉で厳重にロックがかかっている」

「うん。ママでもダメだったんだね」


「ホ・・」

ママは小さく溜息をついた。

ロロアはママに叱られると思い、あの日の出来事を打ち明けはじめた。


「────でも、トオルさんから色々聞いたの。共民主義の思想。コーディアスの生活。自分たちの置かれている事・・。

そして自分たちが『過去の遺物』である事。そして

自分たちが時代の変化で『退く存在』である事も言っていたわ・・」

「・・・」


「だから・・せめて私の中で世界を見て欲しかった・・トオルさんの会話にあったのは合理性を重視した無機質な灰色の世界だった。メルヴィアでは到底想像もつかない閉鎖された世界だったの。いずれトオルさんはイレギュラーとして処分される・・でも、せめて記憶デバイスは私の中で生きていて欲しくて・・それを話したらトオルさんがくれたの」

「・・・っ!!」


ママは思わず絶句した。

そして恥じた・・。

自分の保身ばかり気を使うあまり、大切な事を忘れていたのだ。

ロロアはロロアなりに、戦って散った戦士を供養をしていたのである。

そして言葉として表現せずとも、自分の道が鬼神メルヴィアの修羅の道であると言うことも理解していたのだ。



「おいで、ロロアちゃん。ごめんなさい。」

「・・・私も隠していてごめんなさい・・」


「・・返すわ」

「うん」

ロロアはニコリと微笑むとデバイスを内部に入れた。

「こうしてしまっておくと・・トオルさんを感じるの。確かにトオルさんは過ちを犯したのかも知れない・・でも、そこから学ぶこともたくさんあった。彼はとても仲間想いで優しい人だったのよ」

「ロロアちゃん・・ブルーシグナルズを赦すの??」


ロロアは静かに頷いた・・。

ママもロロアに何を語る訳でもなく静かに見つめた。


「・・行ってらっしゃいロロアちゃん。晩御飯を用意して待ってるわ」

「うん!行ってきます!」

ロロアは踵を返すと玄関を開けて飛び出して行った。

トオルの記憶を内部に秘めながら・・。




────




「うおおい!ボールなげるぞー!!」

「いいよー!!」


放課後、校庭で子供たちがドッヂボールに興じている。

マナツはそれを見ながら、時よりかかる敵機来襲の入電に備えていた。


一緒に上を見ていたタカハタは不安そうにマナツに聞いた。


「マナツさん、自分ら勝てるのでしょうか?」

「え?なんだって?」


「自分ら!勝てるでしょうか!?」

「も、もう一回」


「じぶんら!!勝てるでしょうか!!」

「すまん『自分ら、勝てるでしょうか?』しか聞こえないのだが…」

「聞こえてるじゃないですか!!」


ヴン!


と言うホログラムが映し出される音がして、即席のテーブルにアステロイドの女性が写し出される。

『マナツさん、マナツさん!ストリームマンの最新情報です!チームガンバのベースに来て下さい!』

「お!?みんな来てくれ!」


マナツが隊員を集め、ハルミオ小学校にあるチームガンバのベースを目指す。

ベースはメルヴィアの格地方に点在しており、正面に巨大なホログラム発生装置と、防衛拠点として単独でも機能できるように武器と食糧があるのが基本だった。

ハルミオ小学校の教室をまるまる貸し切ったベースにはアステロイドの隊員を合わせた50人が集まった。


「ダーパ作戦長。マナツ隊、全員集合完了です」

「よし!」

「マック隊、全員集合です」

「よし!」

「テリンコ隊、全員集合完了です」

「よし!みな、ご無沙汰ですな!」


ダーパ作戦長の巨大な顔がホログラムに映し出される

「ダーパ作戦長、ニキビができたのですね?」

「あ?あぁあ!!顔が大きく表示されてる!!恥ずかしい!!」

ダーパ作戦長は機械に疎いらしくホログラムが巨大化したり小さくなったりする。


「ゴホン!では始めるとしよう!」

ダーパ作戦長が号令をかけ、女性アステロイドのミーティーがストリームマンの説明を代わった。


ミーティーは作戦司令用に作られた女性型アステロイドで、水色の外骨格のボディーに青いボブカット。

様々な情報を探知する大きなスカートに、そして宙に浮いた眼鏡が特徴的なロボだった。



「まずストリームマン率いる艦隊がメルヴィアの主要都市から少し離れたウエストドラゴと言う巨大な山脈に居ると言う情報を掴みました。

彼らは定期的に各地方に偵察機を飛ばし、脅威となりそうなものを攻撃することもあったようです。

そして脅威なのは、その防衛力です。

ホワイトスペクターの停滞している山脈にミサイル連隊カチューシャ向かわせた所、探知されて破壊されてしまいました。

その際、20機のストライクホークと対峙しカチューシャとその護衛隊は全滅しました・・」


「カチューシャは1発も撃たなかったのですか??敵側の損害評価は??」

マナツがミーティーに話しかける。

「敵側は3機を撃墜。のち1体を捕獲しました」

「それで??」


「アルムシュア条約に則り、厳重注意と・・」

「厳重・・注意!?」


「回路違法改造による疾病により、再教育センターで治療を受けています」

ミーティーが眼鏡型のデバイスを傾けながら淡々と説明する。


「アルムシュア条約に則り、捕虜として捕まえる事ができないのだ。なので回路の違法改造として捕まえているのだよ」

ダーパが補足し皆が納得する。


「それで、ストリームマンはウエストドラゴで何をしているのですか??」

テリンコがミーティーに聞く。



「衛星カメラによるとストリームマンは歌舞伎を楽しんでいると・・」

「カブキ!?」

隊員がざわめく。


「おそらく彼らは舞う事で、これから始まる総攻撃の鼓舞をしているのです。・・おそらく歌舞伎の演目が終わった頃に総攻撃を仕掛けてくるものと」


「なんて奴らだ!!これが主民主義のやり方か!!」

隊員が叫ぶ。


「ええ。共民主義と違い、主民主義者は己の実力でのし上がる社会です。殺人や戦いにも美学を追求しているのでしょう」

「それが歌舞伎!?」

「ええ」



“”狂ってる!!“”


隊員達が言葉を失う。

マナツは思わずテリンコを見る・・。

「・・ストリームマンの戦いに関する動機が不明瞭ですが、いずれにせよメルヴィアに敵対するのであれば戦わなけばなりません。よって、私達はウエストドラゴに停滞している間に素早くロロアちゃんを戦場に送らなければなりません・・ですので『ロロア・ストリーム作戦』を行うものとします!!」


「ロロア・ストリーム作戦!!」


「決行は明日!!敵艦が全て集結し終え、動き出した時!!彼らの意表を突きましょう!」



────


「ハックシュ!!」

「ロロアちゃん、風邪??」


チームガンバが恐るべき作戦内容を立案している時に、当のロロアはメリルの家でレースを編んでいた・・。

「ううん。ロボだから風邪なんてひかないよ」

「そうだったね!!」

「ふふふふ!」


ロロアがレースを編み、ユミルが紅茶を注ぐ。


「いただきます!・・ふぅ。おいしい!」

ロロアは紅茶を呑んでニコリと笑った。


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