破戒する悩み
ロロアは数々の死闘を繰り広げ、そして何事もなく学園生活に戻ってきた。
しかし、ロロアが撃ち放ったバスターはやがて煤となって心のフィンにこびりつき、ロロアの無意識の内に忍び込む。
ロロアの願いは、ただ一つ・・。
いつもの朝。
校庭には双胴式のプロペラ機と物騒な高角砲が朝の太陽の日差しに輝いていた。
「おはようございますマナツさん!」
「おはようございます!」
「おお!ロロアちゃん!メリルも!!おはよう!」
「俺もいるぜ!」
「リクト君も!おはよう!!」
マナツがトーストを食べながら飛行機の翼に洗濯物を干している。
それから1週間過ぎ、いつもと変わらない日常が待っていた。
時たま空襲警報のサイレンが鳴って体育館に避難する事はあっても、高角砲やパラボナビームを前に小型のストリームマンの戦闘機は高高度に留まるばかりで直ぐにいなくなった。
ビーーー!ビーーー!!
突然の入電にマナツがコーヒーを噴き出す!
『空襲警報発令!!!!』
ホラ、また来た。
「みんな!早く体育館に避難するんだ!!敵対象!ストライクホークス!」
見ると、雲ひとつない快晴の空に一機のストライクホークスが飛んでいた。
この機体は鷹型の戦闘機で翼を拡げて滑空して飛ぶのが特徴だ。
遠くで(キュアーーーッ)と聞こえるのは、彼らが脅しの為に鳴いているらしい。
「ちぇ、また空襲警報かよ?どうせ爆弾なんて落として来ないんだ。ゆっくり行こうぜ??」
「リクト!何言ってるの!?早く行くわよ!!」
「へいへい」
他のクラスメイトは避難したり、硬い校庭の遊具の中に入った。
私は伏せてバスターに切り替えて身構える。
「高角砲を撃つぞ!!」
隊員の3人が弾を装填し、右手のダイヤルを回して高角砲の高さをあげる。
しかしもの凄い高高度な為、高角砲のダイヤルは振り切り、マナツがナイフで傷つけた即席のメモリまで引き上げていた。
「撃てー!!」
マナツがサーベルを向けて指示をする。
ドンドンドンドン!!!!
発射する衝撃でマナツさんの軍帽が吹き飛ぶ。
「効果なしです!」
「構うもんか!撃ち続けるのだ!!」
高角砲は綺麗な曳光を煌めかせた後、旋回するストライクホークスの遥か下で虚しく爆発した。
ミドルバスターなら撃ち落とせなくもないけど、私の存在やバスターをあまりストリームマンに知られたく無いらしい・・。
暫くすると、キラリと太陽の光を反射させて、パカン!と言う空気の壁を作って走り去ってしまった。
しばらく伏せて警戒。
『敵機なし!!空襲警報解除〜!空襲警報解除〜!!』
空襲警報の解除と共に学校のチャイムが鳴った。
登校している生徒達は何事も無かったかのように立ち上がり、私も膝に付いた砂を払いながら立ち上がる。
メリルがツカツカと私に駆け寄る。
「もう!ロロアちゃんも体育館に避難しなきゃダメだよ??」
「ごめんなさい!」
「ユミルなんて早めに登校して、体育館でお茶会を開いて居るんだから!」
「えー!!」
「行くよ!ロロアちゃん!」
あれからメリルも驚くべき早さで立ち直り、ブルーシグナルズの事は2人だけの内緒にする事にした。
「ユミルー!おはよう!!」
「おはようロロアちゃん!」
見ると、ユミルが廊下の水道でティーセットを洗っている。
「私も手伝おっか?」
「ん?ありがとうロロアちゃん。でも、大丈夫よ?」
ユミルが洗い終わったティーセットを布巾の敷いてある所に置く。
彼女にならブルーシグナルズの事を話しても良いと思ったけど辞めておく事にした。
ユミルはユミルだ…。
ユミルに日常で居てもらわないと私の帰る所が無くなってしまう気がした。
教室に着くとリクトが手を振る。
「お!?どうしたんだよロロアちゃん!早く椅子に座らないと先生に叱られるぜ!?」
「うん!今座ろうと思っていた所!」
「メリル様ぁー!タッチペン貸して!」
「はぁあ?また家でゲームやってたんでしょ!?」
リクトとメリルが言い争う。
「ふふふ!」
私は小さく笑いながら椅子に座ると、机のデバイスの電源が点いて私のデータが出た。
生体反応とバイタル。
そして、先生をデフォルメしたマスコットキャラクターが出てきて心配そうに私を見た。
『ロロアちゃん、セロトニンの数値が不安定ですね。悩み事ですか?』
私はリクトやメリルに見られないようにアイコンを消して笑顔を作った。
「はーい!理科の授業は終わりー!」
チャイムが鳴り、行間休みになった。
私はメリルと目を合わせるとお互いに頷いて立ち上がった。
先生は黒板に映し出された文字を消し、立体電子顕微鏡やホログラムを消して壁に収納している。
メリルはボソリと先生の背中に呟いた。
「この…アルダンス」
「キャッ!!※2級暴言を検知しました!!生徒の心のケアをお願いします※!!ビーー!ビーー!ビーー!!※2級暴言を検知しました!!※生徒の心のケアをお願いします!!」
突然の予期せぬ暴言に先生がバグる!
乳白色のボディの胸の部分が色々な色に光り、悲劇のヒロインのように額に手を添えてクラクラと倒れる。
「れ、先生!!」
「はぁあ!メリルさん!!『仲直りのおまじない』をしましょう!ね!?」
「えー!!」
先生はメリルの腕を胸の前でクロスさせると優しく抑えこんで歌いだした。
「メルヴィア塔はどこだろうー♫歩けばわかるよ探そうよ♫!!みんなー!ともーだちー♫!さぁー歩こうー♫♪!!」
「ロロアちゃーん!タスケテ!」
メリルと先生は暫く歌った後、ようやく解放された。
「それでメリルさん、どこでそんな汚い罵り文句を覚えたのですか!?サイバースペースですか?先生は悲しいです!」
「はぁ、はぁ。ブルーシグナルズです」
「ブルーシグナルズ!?」
私は先生の手を合わせると情報を共有した。
一部トオルさんとのやりとりをプロテクトしながらだけど…。
「ロロアちゃん…!メリルさん!!」
先生は私達を抱きしめる。
「こんな怖い事を打ち明けてくれてありがとう。先生とても嬉しいわ!」
「それで・・先生、聞きたいのです」
「ブルーシグナルズやコーディアスがどうなったのかを・・。」
「・・・」
先生は私とメリルを交互に見る。
「世界史は中学生に入ってからです・・何故だかわかりますか?」
「・・わかりません」
「・・でも、この世の中です。そしてロロアちゃんは理解した方がいいかもしれませんね。今日の社会はこれにしましょう」
先生が決心したように立ち上がり、黒板に3D映像が映し出される。
他の生徒達が椅子に着席し、私達も着席する。
「今日は共民主義国家コーディアスを説明します」
「コーディアス??」
先生後ろの黒板に、規則正しいバーククーヘン状の巨大な居住区が規則正しく立ち並び、同じ髪型、同じ服装の人達が仲良く歩いていた。
「えぇ。別名、理想国家コーディアス。
国民は戦争を嫌い・・皆が平等で、貧富の差が無い・・誰しもが富を分かち合い。誰しもが苦労を分かち合う国。
私たちの国メルヴィアは『メルヴィア神の過去の過ち』と言う宗教上の問題でアルムシュアの戦いに参加していませんが・・コーディアスは『社会の工場』になることでアルムシュアの戦いに参加せず、世界のトップを走るブランドとして名を馳せていました」
「過去の過ち?」
私が聞くと先生は唇に人差し指を立てる。
「ではリクト君。コーディアスの問題は何処にあったと思いますか??」
「え・・!?うーーーん。皆が平等で、貧富の差が無いなら・・俺は不満が無いと思うけどなぁ・・」
「では、ダイチ君は??」
「俺は賛成です。俺のこの服も共民主義の時代の物だし・・みんなが平等で病気の心配も無いなら、俺はコーディアスに住みたいです!」
「おおおお」
ダイチの言葉に生徒達が驚きの声をあげる。
先生はあたりをゆっくり見回し、そして語る。
「しかしダイチくん。例えば皆が洗面器に顔を浸していたとしましょう。洗面器は社会の歯車で、そして怪我や障害のあるものは休む事を許されます」
「はい」
「ではダイチ君。あなたは、もしも健常者が洗面器から顔を出していたらどうしますか??」
「え!?それは・・怒ります。サボりだし!」
「そうですね。許せませんね。というか・・サボりですものね。一部の人間が洗面器に顔を漬けず、苦労をせず、財を成している。それも戦争を行わないと誓った国で戦争の兵器を作って、分かち合う事なく私腹を肥している。
しかし働ける大人達は洗面器に顔をつけるのが手一杯で、そんな違犯者を裁く余裕はないのです。
しかしコーディアスの学生達は、そんな大人の社会に疑問を持ち、尚も用意される自分が使うであろう洗面器に疑いを持つようになったのです。
学生達は怒り、次第に政府が信じられなくなり、やがて学生を中心とした抵抗へ発展していきます。共民主義は皆の信頼と協力があってこそ成り立つ社会制度なのですよ」
黒板には先ほどとはうって変わって、共民服をだらしなく着こなした若そうな男の人が、道路の真ん中で狂ったように踊る姿が映っていた。
「ダンス!?」
「えぇ!エレフィックサウンズ。まるで社会に対する不満を発散するように・・まるで政府の敷いたレールから逃れるように・・彼らは学校に行かずに踊り狂った。そして、あることに気づいたのです。
彼らは歌を作る中で『特定の言葉』を言うと口が勝手に『タチツテト』と変換されることに気づいたの。彼らは、自分たちが政府に言語統制と言う名の得体の知れない規制をかけられていた事に気づいたのよ。それは彼らの抵抗の起爆剤となり、やがてダンスからより過激な抵抗へとシフトして行くの」
「わぁああ・・」
黒板の映像はダンスをする人達から、ヘルメットや即席の武器を持った集団に変化した。
そして1人の男が放った火炎瓶がパトカーに炸裂する。
ぐったりする警察官。
警察官に囲まれて袋叩きに合う男性・・。
まるでニュートリノ発電所の戦いを思い出すような地獄の映像が広がっていた。
「そしてダンスをしていた一団は、学生連合と名を改め、やがてエレフィック・サウンズの父と言われたトゥルーマン・エディオンと、相方のアステロイドが破壊され、逮捕された事でブルーシグナルズとして暴力的な抗議にでました。
青派と呼ばれた彼らは同じ住民達にも牙を剥き、やがて『真の共民主義国』として独立を夢見るようになります・・。
そして、彼らを支援する者が現れたの・・その名はエスダガレー・サーダ将軍よ」
黒板にはベレー帽と軍服を着た屈強そうな男が映し出され、やがて軍人達がコーディアスの建物を破壊する映像に切り替わった。
「サーダ将軍はコーディアスのゾーン2に巨大な国境を建設し、共民主義国・西コーディアスとして独立を宣言した。
投獄されていたブルーシグナルズを解放し。彼らの意志に応える様に政府の官僚達を殺害していったの。そして、彼はアルム派としてアルムシュアの戦いに参加できる大規模な軍需工場を作ったのよ・・。
真の共民主義で世界を覆い隠す為に!!」
巨大な国境の壁が建設される中、西コーディアスで市民が揉めている映像に切り替わった。
突然建設された壁に困惑したのだろう。
西コーディアスの軍人がライフルで脅して引き返すように促し、ピカッと映像に閃光が走った。
その瞬間に住民は顎から地面に着地するような不自然な体勢で倒れるとその場で動かなくなった・・。
「こうして共民主義国 西コーディアスと、主民派議員が獲得した 主民主義国 東コーディアスが誕生しました。
西コーディアスは戦争需要で裕福になりましたが、西コーディアスの市民に行き渡る事はありませんでした。
やがてアルムシュアの戦いに住民そのものも駆り出されるようになり、第4次アルムシュアの戦いが終戦した際には莫大な資金が外国に流出し。
多額の負債が住民に直接流れ込む形になったのです・・」
映像が切り替わり、みすぼらしい国民服を着た人達が壁を登ろうとしたり有刺鉄線を抜けようと、もがいていた。
西側の建物が廃墟のようにボロボロになり、それを隠すようにサーダ将軍の自画像が描かれている。
壁にはメカニロボ達が睨みを効かせ、時よりロボを混乱させるパルスが炸裂すると一斉に西側の住人が走り出して亡命をはじめた。
「そして幾年が経ち、サーダ将軍の政策の失敗こそが真の共民主義の貧困を招いていると訴える一派が現れます。彼らはサーダ将軍の幹部達との間でクーデターを起こし、やがて無理がたたったサーダ将軍は病死。西コーディアスは混乱の中で徐々に崩壊して行きます。そして・・」
映像では西コーディアスの住人が壁を破壊し、制止するメカニロボを押し倒して東コーディアスに雪崩れ込む様子が映っていた。
東コーディアスの装甲車が駆けつけて即席の防衛ラインを作って住人を入れてゆく。
しかし、西コーディアスの反撃が無いと分かるや、他の住人と壁を壊し始め、やがてお祭りのように破壊活動が始まった。
共民主義のスローガンを破る者、軍需工場を破壊する者。
そしてサーダ将軍の像が装甲車によって倒された時、住人達は歓喜し喜びの笑みをカメラに向けた。
珍しく小さく音声が入っていて、装甲車の上によじ登っていた2人の男の声が収録されていた。
“おいマイキー!カメラがあるぜ!?”
“ヒサヒコさんも写りましょうよ!”
”そうだな“
「マイキー。ヒサヒコ・・」
私は胸を押さえる。
メカニロボ達は途方に暮れて銃を持ったまま佇み、群衆に酒をかけられたり塗料を塗られていた。
私は静かに映像を見ていた・・。
「ロロアちゃん・・」
隣でメリルが私を見て、右前のユミルも私を見ている。
開け放たれた窓から渇いた風が吹き抜け、私の前髪を優しく揺らした。
その風はメルヴィアの国の何処かで発生したもので、そしてその風は外国で危険な思想や問題を抱え、この国で暗躍している者達の顔すらも撫でたのかもしれない・・。
私はブルーシグナルズと言う共民主義の亡霊と戦っていたんだ。
そして私と言う力の前に滅んだのだ。
「ロロアちゃん・・大丈夫??」
メリルが心配する。
「うん。少し考えてた」
先生が教卓に向き合って説明する。
「みなさん。今回は共民主義国の話をしましたが・・共民主義と言うのは思想であるので、決して何が間違って、何が秀でていると言う考えでは無いという事を一つ頭の中に入れておいて下さい。
共民主義は平等を愛し『文学を愛する者が信じる考え』と言いますし、主民主義は実力を評価し『数学を愛する者が信じる考え』と言われています。
BBSと言う、脳に直接情報を入れる事が可能になった昨今、勉学による知的能力の格差はなくなりました。
また、メカニロボの労働力の登場により、より身分格差や貧富の差がなくなりつつあると報告があります。
共民主義は『人類が早すぎた概念』とも言われています。
なぜなら現在こそ世界の万民が平等になり、共民主義を広めるには相応しい世界だと言う意見もあるのです。
しかしです。
だからこそ私たち先生が居るのです。
私達は立場上、あなた方に共民主義の素晴らしさ、主民主義の素晴らしさを説き、生徒達を導くことも出来るでしょう。
他の学校ではアカナ神話によるメルヴィアの解釈から、国家を歌うことすら禁止にさせようと署名活動する団体も居ます。
学校の外には様々な人の考え、思想、宗教があり、それを教育の場に持ち出す人もいます。
私達先生は公平的で主観的な観点から生徒達を満18歳まで、外的な思想や概念から守らなくては行けない義務があるのです。
ですから、何が間違っていて何が正しいのか。
正義や悪と言った根本的な概念は私たちが教えるより“皆さんの判断に委ねる”と言う形で教育しています。
これは『アルムシュア条約12項 教育の平等』に該当するものとします」
先生が語り終わると生徒から小さなざわめきが起こった。
私はいても立ってもいられなくなり手を挙げた。
「先生!」
「はい、ロロアちゃん」
「先生・・では聞きます。今、空を飛んでいるストリームマン・・私が撃破した場合、私は正義と言えるのでしょうか??また、先生は私を何と言って生徒に説明するのでしょうか??
たとえば私の戦う事が外的な思想による物だったら、私は誰の為に戦っているのでしょうか?」
クラスメイトが先生と私を交互に見る。
先生はあたりを見回し、ゆっくりと語った。
「ロロアちゃん、あなたは自分の意志で道を見つけ、あなたの道の為にクラスメイトは訓練の練習をしたのです・・その中で誰かに強制された。誰かに指示された事はあったでしょうか?先生の知る限り、皆は自ら率先してロロアちゃんを手伝っているように見えました。
ならば、先生・・いいえ。“わたし”の想いはただ一つです。“見守ること” これに尽きます。
例え、それがアカナ教において『過去の過ち』だとしても、それは生徒を守る私達の使命である事は変わりません。
そして、私個人の意見としては、一人の子供の自立した意見を守りたいのです。
・・・では、ロロアちゃん。あなたは自立した考えで『戦う事』を選びました。それはなぜでしょうか??」
先生に聞かれ・・。
皆が私を見る。
私は息を吸い込んで言った。
「私は・・みんなの笑顔を守りたい。ニュートリノ発電所で私が初めて任務に着いた時。彼らは対話ではなく破壊を持って私達に対峙しました。彼らの背後にあったのはメルヴィアを揺るがす程の強力なエネルギーです。
それを盾にされて対等な話し合いができたでしょうか??
そして今、彼らは強大な武力を持って私達の日常を脅かしています。これに屈した時・・彼らはさらなる要求をしてくるでしょう」
私はメリルを見ながら続ける。
「私はこうして一緒に皆と歩む日常を取り戻したいの・・例え私の身体が破壊されようとも。ユミルの紅茶、メリルやリクトと食べるケーキ。みんなと給食が食べれない未来なんて私には必要ない!」
「私は、ロロアちゃんについて行く!!」
メリルが弾かれたように立ち上がり、私の横で言う。
そして、いつの間にか切り替わってしまったバスターに優しく触れた。
「お、俺も!!ロロアちゃんを応援する!これは誰の指示でもない!俺の意思だ!そうだよなみんな!!」
リクトも立ち上がり、私のバスターに触れる。
「おう!!」
「ずっと変わらないぜ!」
ダイチとカイセイ、トモヤが言い、私のバスターに触れた。
皆が私を見て力強く頷く。
「ロロアちゃん。これは紛れもなく皆の意志です。あなたの道、あなたの戦う意味と言うなら・・先生は応援します!」
先生は私の所に歩み寄る。
「でも・・教室でバスターに切り替えるのは辞めましょうね??」
先生が言って、周りから和やかな笑いが起きた。
「はい、先生」
私は照れながらバスターを切り替えた。
昼休み。
「ロロアちゃん、どこ行くの??」
「ちょっとルルを探しに・・。」
メリルの質問に私は早口で答えた。
アカナ教の神官の娘であるルルリア・メルヴ・ミウ(ルル)に話を聞きたかったのだ。
「ルルだったら温室に居るはずだわ!」
「ありがとう!」
メリルが廊下にあるコントロールパネルで『温室』を選択する。
すると温室に繋がる最短ルートが開かれた。
廊下の天井が開き、階上に続くグラスの階段が出現する。
どうやら温室は屋上にあるらしい。
「私も行く!」
メリルがついてきて、私は手を握って歩いた。
「ロロアちゃん、ルルに『過去の過ち』の事を聞くの?」
「うん。私、ずっと入院していたからアカナ教の事をあんまり理解してなかった。いつも神殿には行ってけどルルは教えてくれなかったし・・」
「そっか・・」
私達が通るとムーティショナルグラスで出来た即席の階段が消えてゆく。
上を見ると何か緑色の空間が見えた。
「うわーーすごい!こんな施設が学校にあったなんて・・!」
「ゴメンねロロアちゃん。もっと早く連れてあげてれば良かったね」
温室には通路をなぞるように腰上高さの透明なガラスが伸びていて、沢山の種類の植物達が水耕栽培によって植えられていた。
その中でカエル型メカニロボが元気に飛び跳ね、時より苔やシダに向かって霧を吐き出している。
電子形成層で所々光を放つ巨大な幹のパキラが葉を伸ばし、鬱蒼と垂れ下がるカジュマルの木の根から水が流れ出して滝になっていた。
私たちは水が滴る階段を、目を細めながら登る。
「すごいね」
私が思わず言う。
「ヒーリングイオンがすごいでしょ??」
「ヒーリングイオン??」
滝の横の階段を登る時、メリルが驚いたように言った。
「ロロアちゃん知らないの?水の分子が強い衝撃を受けると、ヒーリングイオンが空気中に漂うんだよ??」
「え!?そうなの?」
私は鼻に入る成分を分析した。
しかし、分析結果の中にヒーリングイオンは検出されない。
「どう?感じる!?」
「うーん・・もしかしたら微細すぎて検出されないのかも・・」
「そう・・うちのママがヒーリングイオンマシンを買ったから、今度持ってきてあげる!」
「ありがとう!すごく楽しみ!」
「きっとロロアちゃんの顔も潤うわ!」
メリルは振り向きながら笑顔を見せた。
ピンクの髪がなびき、天井の陽光と飛沫が反射してキラキラと光る。
私はその美しさに息を呑んだ。
階段を登ると違う学年の子達が通路から身を乗り出して植物の手入れをしていた。
しばらく歩くと赤玉土の畑が広がり、ユミルとルル達が何かを積んでいた。
「あ、ユミル!!」
「ロロアちゃん!メリルちゃん!」
メリルが呼びかけ、ユミルが振り返る。
「それは??」
「ハーブよ!レモングラス!ハーブティーにするの!」
ユミルが私に長い葉っぱを見せる。
嗅ぐと葉っぱなのにレモンのような香りがする。
「いい匂い!」
「いつも昼休みに居ないと思ったら、こんな所にいたのね!?ユミル?」
メリルが悪戯っぽくいう。
「ごめんなさい。でも、ピクニックで呑むハーブティーだから!」
「ロロアさん」
「ルル」
メリルとユミルの会話をよそにルルが立ち上がった。
「『過去の過ち』の事を聞きたいのですね?」
ルルは察するように聞いた。
「うん。でもルル。なぜ教えてくれなかったの??」
「それはね・・メルヴィアの神話を紐解く必要があるわ」
メリルとユミルがハーブを摘む。
私とルルを見ながらハーブを摘む。
オーデコロンミントと言うらしい。
「ロロアちゃん、マザー・アカナを知っていて?」
「もちろん。この国の最高神でしょ??」
「そう。その名はマザー・アカナ。でも、人間を創ったのはマザー・アカナではないの。マザー・アカナは同じく生まれた荒ぶる神々を滅ぼして遂に頂点に達した。マザー・アカナは自分だけの楽園を創り、やがてアカナによって産み出された神々は忠誠心として夫婦になる事、子どもを作る事を最初から奪い服従した」
「恐ろしい神様・・」
「しかし、ある時転機が訪れるの。マザー・アカナの創り出した神々が創造を始めたの。
最初マザー・アカナは温かい目でみていたのだけど、
やがて神々は自由に愛する事の出来る『知能を持つ者』を創り出すことに成功する。
その知能を持ったデルマは何代も世代が変わり、種族が変わり・・いつしか知能を蓄えて進化した人間が自分の力でマザー・アカナの楽園へ来てしまうの。
これに激怒したマザー・アカナは、楽園に侵入した人間を殺し。
人間の前のデルマ人を創った神々を、マザー・アカナの一番の側近であるメルル・ヴィアス。つまりメルヴィアに神々の処罰と月の天宮からの追放を命令した。
しかし、メルヴィアは自分の側近さえも追放を命令するマザー・アカナの薄情さに恐怖を覚えるわ・・。そして、テテュリスと言う戦闘に特化した使い魔を使ってマザー・アカナと戦争をしたの」
「それで・・??」
「メルヴィアは敗北した後に、この星に追放された・・降り立った地はメルヴィアと言う国になり、メルヴィアは君主であり産みの親であるマザー・アカナに戦いを持って叛いた事を悔いるの。そして、マザー・アカナは戦いの神でありながら戦わない神になったのよ・・それが・・」
「『過去の過ち』??」
「そう」
私はワートと言うハーブの香りを鼻に近づけ、土のような無骨な臭いに顔をしかめた。
「だから、この国は信仰している宗教上、戦争は禁じられているの。アルムシュアの戦いは宗教戦争の意味合いが近いから、別の宗教とは言え戦争を禁じているとなれば他の国々は口を出しては来なかった。
そしてアルムシュア条約という約束事をメルヴィアに約束させて大量破壊兵器の生産と戦争に参加しない事を約束した」
私はバスターを見ながら言った・・。
「じゃあルル。戦争して大量に殺戮している私はルールや宗教を破戒しているの??」
「それが難しいのロロアちゃん・・。とても言いづらい事なんだけれど・・あなたに難色を示すアカナ教の人や学校の人も少なくはないのは事実だわ・・。
でも、直向きに戦うロロアちゃんに私が口を出すほど私は立派ではない。だから、私個人としてはロロアちゃんを否定しないし。ロロアちゃんが進むなら、私は出来る限り背中を押そうと決めたの。
ロロアちゃんを否定する事なんて過ぎてしまえば幾らでも出来る。
でも、今ここにある危機を打開できるのは紛れもなく貴女だもの・・」
ルルの言葉に私は幾多の修羅場を思い出す・・。
そして少し怒るようにルルに言った。
「・・確かに会話ができるメカニロボも居た事は確かだよ。
でも、とてもじゃないけど対話なんてできないし、なによりあのような地獄で戦闘を回避するなんて出来る事じゃない・・。
私がしている事がこの国の戒律に反している可能性もゼロじゃないのね?」
「ロロアちゃん・・私は・・」
「ルル?ゼロでは無いのね??」
「・・・だから・・」
「ユミル?」
私の胸のフィンの高まりをよそにユミルがガラスのティーポットを持ってやってきた。
「だからロロアちゃん。私はルルと話をして、ロロアちゃんにお茶を出す事に決めたの・・。何も聞かず・・何も詮索せず。ロロアちゃんの心の安らぎになるように・・」
「ユミル!」
ユミルは優しく微笑むとガラスのコップにハーブティーを注ぎ始めた。
「ワートは安らぎと浄化を与え、松のシロップはクセがあって、ほんのり甘い。きっと心の安定の助けになるわ。呑んでみてロロアちゃん」
「うん」
松の香りと、不恰好な土のニオイがして・・わたしは雨上がりの西洋東屋を想像した。
そこにあるのは安らぎと、絶対的な孤独だった。
でも、そこに淋しさは無く。
春の風のような希望に満ちた暖かさと、陽の光のような安心感が私の心を満たした。
その穏やかな大気と、そよ風の中に確かにユミルやルルの声がする・・。
それは言葉という型にはめるには大きく、文字で表すには表現し難い『優しさ』そのものだった。
「ユミル、ルル・・。ありがとう」
ユミルとルルが私の右手に触れる。
それは確かに温かく、暖かかった・・。




