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カインの宴

主民主義の持ち出したルーマは、ブルーシグナルズの共民兵を恐怖させ、すっかり戦意を失わせるほどの破壊力があった。


しかし、それは更なる攻防の泥沼化と、メカニロボになると言う究極の選択を彼らにさせてしまうのだった。


「なぁ、俺らはどうするんだ??」

「共民主義の西コーディアスに加勢するしかない・・!」

「俺らの目的は戦争反対じゃないのか・・!」

「もう戦争反対とか、ハッキリ言って時代遅れだよ!遠い国の遠い戦争から、コーディアスを二分する戦争に突入してしまった!!」


「いまこそサーダ将軍と歪んだ主民主義をコーディアスから追い出そう!!」



共民兵達の言い争う声が学校の至る所で聞こえる。

ビタミン不足で子ども達が死に絶え、老人がスパークライフルを磨く。



皮肉な事に破壊されたルーマは、僕が学校を卒業してから就職する筈だった会社の部品で作られていた。





「トオル君・・気分はどう??」

「・・・・。」

僕はガルディア学校にある劇場の座席に座っていた。

ここは別名『ロボの間』と呼ばれ、キュラーによって志願した者達をメカニロボにする為の即席の手術室になっていた。

誰か執刀し、何が行われているのかは謎だが、手術が始まると音楽が流され、その音はガルディア学校の内部に嫌でも響いた。



「まさか頑固なトオルくんが、ロボになる事を承諾してくれるなんて・・はっきり言って私は驚きましたわ」

キュラーがカナコちゃんの肩に手を添え、カナコちゃんは右手でそれを受け止めた。


「トオルくんに賛同した多くの共民戦士達もロボになると志願してくれましたし。

事実、ゾーン3では同輩達がロボになる事で数々の武勲をあげていますのよ?」


鎮痛剤を貰ったとは言え、失った左腕が痛みで熱を持って疼く。

他の座席には緊張した面持ちのカネダやトシヲ。

そしてタルマの姿もあった。


「アイツらは兵器ルーマを使ってきやがった。それだけじゃない・・!アイツらはコーディアスの同輩ですらなかった!アルム軍だ。立派な兵隊が戦闘に参加していたんだよ!」

「そうですの・・」

「あぁ!奴らが武力で解決するなら僕らだってそれに応えなければ。他の共民兵達も同じ志だろう!」


「そうだ!!同輩!!」

「そうだ!そうだ!!」

「コーディアスの未来の為に!!俺らの身体は鋼鉄になるのだ!!」


僕の意見に他の共民兵達が声をあげる。

僕は内心ロボになるのが怖かったが、皆も同じ事を思っているのか、叫ぶ声に覇気がなかった。


しかし、僕を始めとしてきっとルーマが怖かったのだろう・・。

あの圧倒的な軍事力に怯え、それを『ロボになるから怖いのだ』と自分自身に言い聞かせていたのかもしれない・・。


「トオルくん。プラティカル溶液を・・」

「えっ??」

いつしか舞台の幕が降りて徐々に薄暗くなる。

そこへ『プラティカル溶液』なるものをカナコちゃんが配っていた。

気付いたら緑色の外骨格のメカニロボも配膳用の銀のワゴンから溶液を配っている。



僕は本能的にニオイを嗅ぐ。

「クスクス。大丈夫。毒は入っていないよ。でも・・もしかしたら・・クスクス」

カナコちゃんが僕の横に立つ。

どうやら僕が飲み終わるのを見届けたいらしい・・。

まるで少女が何か楽しいことを打ち明ける時の様に、カナコちゃんは笑っていた。


「クスクス・・。怖いの?トオル君」

僕はカナコちゃんに答えるようにプラティカル溶液をグイと呷った。

液は無味無臭だが・・

「あっ・・!うわぁあ・・」

呑んだ瞬間、世界がグルリとまわり。

僕は腰を抜かすように座席に深く座り込んでしまった。


「クスクス・・クスクス」

カナコちゃんが笑うのが聴こえる・・そして。

「・・・!!」

カナコちゃんの柔らかい唇が僕の唇に重なった。

そして妖艶に微笑むと、耳元でこれから起こるであろう『身体の変化』を教えてくれた。


耳元でカナコちゃんの生温かい息が当たる。

息はマザーコンピュータを冷ます為に排出される電子基盤のような匂いがした。






タタタンタタタン♪

タタタンタタタン♫

軽快な音と共に舞台の幕がゆっくり上がり、後ろ向きの1人の女性が音楽に合わせて立ち上がった。


後方の照明が焚かれ、白いツナギの国民服が透ける。

女性は小刻みにステップを踏みながら正面を向こうとする。


「・・・!」

他の共民兵達が身を乗り出して、顔や照明で透けた肌を見ようとする。

どうやら下着を着ていないと見えて、女性特有の輪郭が露わになる。


僕は身体の火照りと、左腕の痛みでそれどころではない・・。


「(プラティカル溶液はね・・。毛細血管に作用するの。心臓の拍動に合わせて届けられるのね)」

カナコちゃんが言った事を夢うつつに思い出す。

熱を冷ますようにスッと溶液を出され、水分を求めるように口にする。


「ぐ!!」

ドァン!!

タララ♪

タララ♪

タラッタ、ラーラ♫!!


呑んだ瞬間吐きそうになり、軽快な音楽から重いオーケストラに変わった!


舞台では目眩とともに舞台の女性が狂ったように体を回し、遠心力も手伝って白いツナギを脱ぎ捨てた!

外骨格が露わになり、恥を厭わぬデフォルメされていないメタリックな乳房が照明でテラテラと光った。

共民兵達がその官能的な乱舞に釘付けになり、時に顔を毟らんばかりに恐怖し、時に本能のままに食い入るように目を見張っている・・。


「(それでね・・末端から真にかけてじっくり置き換わって行くのよ・・まるで万物の理から外して行くように、腐敗とは無縁の身体になるの)」

「ぐ・・ぐううう!!」

僕は苦しみのあまり呻めき、胸を押さえた。

すかさず救いの手のように溶液が渡され、拒絶反応を起こす身体に鞭を打つように口に流し込んだ。


気付いたら舞台の下には、白衣を着た痩せ細った科学者が教壇の前で演説を初めていた。


「皆様の共民思想はメルヴィアで花開きました!!

カイナは歌い!演奏し!

私の娘もスクスクと育ちました!!

あなた方の意思を受け継いだ愛娘は理想の未来を生きるでしょう・・!!

 

まるであなた方が行っているのは私達の信仰している聖典の一節のようです!ご覧ください!!!!」

科学者は古の聖典の一節である絵画を見せる。


「アデン700年に描かれたシルヴゥール・レデエの作品であります!」

僕は痛む頭を抱えながら作品を見た。


そこには倒されるアカナ神とテテュリスと呼ばれたロボットを従えたメルヴィア神がいた。

沢山のテテュリスと、その上に閉じた貝殻のような物にのったメルヴィア神がポーズをきめている。

その下に、無惨に散ったアカナ神が悲痛な顔をして倒れていた。


音楽が激しくなり、カナコちゃんが踊り狂う。

舞台を煙が立ち込め、カナコちゃんの下から巨大な貝の形をした『メカニロボにするための手術台』が迫り出した。

その下に即席で付けられた神輿を見たこともないアステロイド達が担ぎ、カナコちゃんは貝の上で変わらずに踊り狂う!


「あ!!」


頭痛が見せる幻影か。

絵画のテテュリス達が僕らに変わり、貝殻の上にいるメルヴィア神が、カナコちゃんに変わった!!

「うぅ!!うぷっ!!」

溶液が差し出せれ、僕はなかば強制的に口に流し込まれる。

もうこの最後で、僕は気を失うだろう・・!

最後に・・最後に・・どの科学者が執刀するのか、この眼で見たい・・!!

あれは一体誰なんだ!?


あれは・・あれは・・!!


「ドクター、カイン・メリアス!!」

僕が叫び、貝の上に乗ったカナコちゃんが絵画の絵と同じポーズを取った!


次の瞬間、僕は座席に倒れ込むように座り込み、そのまま気絶してしまった!



ブルーシグナルズの話が長くなっていますが。

この一連の出来事は、後にロロアが思春期になり、父であるカイン博士や私を嫌う家庭内の問題になっていきます。


つまり反抗期でありますが、ロロアは如何に世界の憂鬱を見据え、国防と言う大前提に取り組み、成長してゆくのか。

見守ってあげてくださると幸いです。



カイナ・メリアス

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