大地を駆けるルーマ
暴力を憎み、戦争に反対する心の優しき国コーディアス。
しかし強制排除をしない代わりに、ビタミンを排除した静かな栄養の制裁は、平和的だったコーディアスの市民の政府に対する信用を失墜させ、反戦思想すら打ち砕くものになってしまった・・。
ゾーン3
コーディアス国立収容所。
小雨の振る薄暗い昼下がり、一機のカルダ軍機のオスプレイが降り立つ準備をしていた。
管制塔でコーディアスの軍人がポカンとそれを見ていた。
オスプレイが飛来する事を一切聞かされていなかったからだ。
2人の兵士がお互いを見る。
「このオスプレイは一体・・!?」
「いいや。いいや。俺は聞かされて無いぞ?」
「これは大変な事じゃなかろうか??」
「まさか・・侵犯か!?」
「共民主義国のカルダ軍機だ・・。どうしよう同輩?」
そうこうしているうちにオスプレイが着陸し、少し遅れて非常事態のサイレンが鳴った。
武器や鎧を慌てて着た兵士達がバタバタとオスプレイに駆け寄り、後方の開くハッチに慌ててスパークライフルを向けた。
共民主義ではあるが、中立国であるコーディアスにおいて、同じ共民思想ではあるがカルダ側の機体が着陸するなど異例であったのだ。
「サイレンを鳴らしたものの、どうしたらいいのだ!?」
「とりあえず、俺らは迎えないと!」
「ええ!!」
慌ててピロトカを被り、2人の兵士が小雨の振る滑走路に駆け出す。
武装して伏せる兵士のヘルメットと叩き、自分達がオスプレイを迎える事を伝えた。
ハッチから人が降りて来て、2人が敬礼しながら迎える。
コツコツと機械的な足音でハッチを降りてきたのは全身をメカニロボ化した大柄な将軍だった。
「コーディアスの同輩達よ。我はカルダ連邦国のエスダガレー・サーダだ」
「・・!!」
2人の兵士が硬直したまま敬礼した。
「カルダ側の将軍が・・わが領地へ何事でありますか?」
サーダ将軍はスキンヘッドの頭にベレー帽を被ると、ニコリと笑って言った。
「ここは共民主義、カルダ派の西コーディアス国になったのだよ」
「「はっ!?」」
「我は命ずる。ゾーン3の囚われているブルーシグナルズを解放せよ。旧コーディアスの軍人は即座に武装を解くこと。でなければ、アルム派とみなし射殺する」
「は!?えっっ!?」
「返事は?」
「・・・・!!」
「返事は??」
サーダ将軍は正面の扉を開けさせると、両手を広げながら監獄の中心にある廊下で囚われたブルーシグナルズに挨拶した。
「同輩達よ!!聞こえるか!!ブルーシグナルズの魂の叫び!このサーダがしかと聞いた!!共に共民主義を貫こうぞ!!全ての民に平等を!汗を流さぬ者に死を!!」
「うぉおおお!!!!サーダ将軍に栄光あれ!サーダ将軍に栄光あれ!!」
カンカンカンカン!!
ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!
サーダ将軍の言葉に、牢獄から無数の手が伸び食器で檻を叩いた!
そして誰ともなく『労働の歌』を歌いだした。
『剛鉄を叩く音がする♪ 東の国から西の諸国まで♪
人々は歓喜し、理想郷と呼ぶだろう♪我らコーディアスの大地を!!この大いなる思想を!!♪
剛鉄を精錬する音がする♪北の要塞都市から南の密林まで♪
人々は歓喜し、教えを乞うだろう♪我らコーディアスの教育を!!この大いなる思想を!!♪
共民主義の名の下に橋が掛かり、人々は手を取り、ロボ達は手の平で伝える♪
共に励もう共民を!共に戦おう共民と♪♪!!』
『次のニュースです。コーディアス国 ゾーン3においてカルダ派の票が過半数を取得。カルダ派の議員達がサーダ将軍を第4次アルムシュアの戦いにおける最高顧問として招待し、就任させました。サーダ将軍はコーディアス国立収容所に収監されているブルーシグナルズの解放を要求、同日『西コーディアス国』としてカルダ派の議員と共に独立を宣言致しました。
政府は『誠に信じられない』とし。
カルダ派の議員に正式に抗議しました』
いやはや、すごい時代である。
僕は学校内にある校長室でジャンク品から組み立てたモニターでニュースを観ていた。
タバコに火を点けると灰皿に立てる・・。
すぐに甘い香りが立ち込め、僕は思い切り吸い込んだ。
「失礼します。トオル君」
「カナコちゃん」
しばらくするとカナコちゃんが入って来る。
久しぶりに会った彼女は、お洒落にタオルを首に巻き、手袋をしていた・・。
きっと政府直属の同輩に『食わせて貰っている』のだろうか・・。
どことなく肌がテラテラと光り、色っぽさがあった・・。
「カナコちゃん、大変な事になった。ゾーン3でサーダ将軍がブルーシグナルズの心を掴んで西コーディアスを造ろうとしている・・アルムシュアの戦闘に加担しようとしている。あれほど戦争に反対してきた僕らブルーシグナルズがだよ?」
「トオル君」
気付いたら僕は堰を切ったようにカナコちゃんに話ていた。
「僕らのやっている事は一体なんだって言うんだろう!?
本来僕らの行動って『戦争反対』では無かったのか?権力に対する不服従。そして真面目に働く者が馬鹿を見ない共民思想では無かったのか・・?
これじゃあマイキーの言っていた事と同じじゃないか・・!!
僕らは・・戦争や暴力に反対しながら、真面目に労働をしている同輩に暴力をふるい・・。そして、あまつさえ僕も、こうしてモニターを観ながらタバコを灰皿に立てて道楽に耽っている・・!!
僕らの嫌悪するインテリそのものじゃないか・・!!
いや!それ以下だ!!
アルムシュアの大戦に加担してる将軍がブルーシグナルズの一つを掌握してしまったのだから!!」
「トオル君・・少なくとも私たちは、きっと間違ってはいないわ。キュラー様が仰っていたもの・・私達の勇気ある行動がメルヴィアを奮い立たせ、原動力になっていると・・。そうだわ、お茶を淹れましょう」
カナコちゃんは、そう言うと異国のお茶を入れようと前にかがんだ。
僕の心臓は、サーダ将軍の事で不安と怒りで高鳴っている・・。
キュラーに仕草や作法を教わったのだろうか?
カナコちゃんは茶立てで粉乳を素早く掻き混ぜると、コーヒーミルクを熱する準備をする。
その手際の良さと、色っぽさに見惚れる反面、僕は胸が張り裂ける想いだった・・。
共民主義の大義名分があるとは言え・・彼女は他の男に弄ばれているのだ・・。
この作法だって、きっと男達の為に覚えたのだ。
あの政府直属の同輩にカナコちゃんを渡すときのギラギラとした獣のような顔・・。
僕はカナコちゃんに相手をさせる度に、苦しくなり・・
時に鬼になり、他の共民兵達を鼓舞し、残虐的な略奪に手を染めた。
全てはカナコちゃん、君のためなのだ。
ニュースは話が変わり、労働の美しさを説いた番組に変わった。
「おまたせ」
「ありがとう」
僕はモニターに興味がある素振りをしながら、泡立てたお茶を口にした。
カナコちゃんをどんな目で見たら良いのか忘れてしまった・・。
ぼくは他の同輩の様な目でカナコちゃんを穢したくなかった。
しかし悲しいかな、僕だってコーディアスの男なのだ。
自分でも嫌気がさすが “”そう言う目“” でカナコちゃんを見てしまう・・カナコちゃんの服に隠された美しい肌を想像してしまうのだ。
「カナコちゃんは、呑まないのかい?」
僕は気まずくなって話しかけた。
「私はいらない」
「喉・・渇いてないのかい?」
僕がモニターを観ながらお茶を口にする。
しかし啜ろうとしたその時、ふと察した。
「カナコちゃん・・まさか・・君」
「トオル君・・気づいたんだね」
カナコちゃんがゆっくり立ち上がり、僕はコップを持ったまま思わずカナコちゃんに釘付けになった・・。
「トオル君。いままで黙っていて御免なさい・・。いつか言おう言おうと思って居たのだけど・・なかなか言い出せなくて・・。」
「そ・・そんな・・。辞めるんだ!」
僕はコップを置いて立ち上がると国民服(白いツナギ)を脱ごうとするカナコちゃんの右手を制した。
嫌な予感が的中しようとしている・・!
そんな運命、受け入れて良いはずがない!
嫌だ!!
カナコちゃんは静かに微笑み、僕を見ながら左手の手袋を口に咥えてスルリと脱いだ。
そこには白くて透き通った肌とは不釣り合いの、白銀の外骨格が露わになった。
指が小さなモーターの音を立てて曲がったり開いたりを繰り返し、メカニロボになってしまったと言う現実を残酷にも突きつけた。
カナコちゃんは国民服のマグナシュータ(ツナギのジッパー)を人差し指で下げると、スルリとロボになった上半身を露わにした。
「トオル君・・。私もね、理想的な共民思想に近づきたいと思ったの。
でも、頭より先に身体が・・精神がもたなかったの。
私は一度、敗北した。
でも・・キュラー様がそんな私を受け入れてくれた。
新しい力を授けてくださったの」
「カナコちゃん!!」
僕は思わずカナコちゃんを抱きしめてしまった。
人間とは程遠い固い外骨格に、内部の体液が循環するフィンの振動を感じた。
「ごめんよ!カナコちゃん!僕がもっとしっかりしていれば君に負担をかけずに済んだのに!!
君に究極の選択をさせてしまった!
僕がメカニロボになれば良かったのに!!
一番の敗北者は僕だ!!」
僕は男泣きに泣き。
カナコちゃんがそっと背中を撫でてくれた・・。
ダン!
その時、けたたましい安全靴の音と共にタルマが入ってきた!
「トオル!そんな所に居たのか!!わ!カナコちゃん!!」
カナコちゃんは、慌ててマグナシュータを上に上げて赤面する。
「そ、そんな事より、えらい事になったぞ!ニュースは観たな?アルム派が攻めてくるぞ!!」
「は?アルム派??」
「主民主義者だ! サーダ将軍が西コーディアスを宣言した途端、反対のアルム派の議員たちが動き出したんだよ!!」
「そ、それってつまり・・」
「アルムシュアの戦いの代理戦争が、ここコーディアスで始まろうとしている・・!!」
タルマが叫んだ瞬間、後ろの廊下で共民兵達が走り出した。
その中で武器を持ったトシヲがやってくる。
「トオルさん!!調達に行った仲間が帰ってきます!!それもヤバイのを『連れて来てる』らしいです!!」
「ヤバイのって!?」
「ルーマです!!!!」
「ルーマァ!?何だよそれ!?」
タルマがパニック気味に叫ぶ。
ルーマ・・。
ルーマ・・何処かで聞いたことある・・!
僕は朧げな記憶を辿りながら青くペイントされた装甲隊の鎧を被って、武器を取った。
カナコちゃんは手袋をしながら僕を見る。
彼女はひどく冷静だ・・。
「トオルくん。キュラー様が付いているわ。彼女の慈悲があれば恐怖も痛みもない・・本当よ?」
「カナコちゃん。君は子どもを連れて対処壕009号(避難場所)へ!」
カナコちゃんは口角を上げると微笑む。
僕はスパークライフルにジェネレータを装填すると調達に戻った仲間を迎えるために正門の防衛陣地に向かった。
───────
「油臭いオッチャン!!油臭いオッチャン!」
「お?お?なんだいチビ?」
共同住宅で未就学児だった時に、中庭でよく遊んでくれたオッチャンが居た。
本名は分からない。
ただ、共民主義では珍しく『油臭いオッチャン』と言う名前で親しまれていたんだ。
オッチャンの白いツナギは洗剤を使っても油臭くて、手のみならず顔の皺にも黒い油が染み付いているような人だった・・。
「油臭いオッチャンは何を造っているの!?」
「お?へへへ!チビに言ってもわかんねーよ!」
「教えてよー!!」
「お??そんな聞きてぇか??へへへへへ!こっち来てみろチビ!!」
オッチャンは僕をヒョイと持ち上げると肩車した。
「これよ!!オッチャンなぁ!これを造ってるんだ!!」
「うわー!!」
「二足歩行のルーマって言うんだ!!第3次アルムシュアの戦いではアルム派を勝利に導いた!!ガコーン!!」
オジチャンが肩車しながら立ち上がる。
その瞬間僕の周りがひらけ、オッチャンが歌い出した。
「ガラガラ コロロン!キッキッ♫
ガラガラ コロロン!キッキッ♪
ひとたび乗りゃあ背が高い〜♫
進ぞ走るぞ何処までも〜♫
ぶぃっと川超え山越えりゃ♪
見えたそ〜れがハルガ山♫
あぁ〜〜〜〜♪
そ〜れが天下の!ル〜〜マだぁ〜よ〜〜♫
」
───────
「あっ!!調達隊だ!!」
広場に火を噴き出した輸送車が到着し、噴水に正面衝突すると停止した。
つかさず堅牢な門が閉まり、外の脅威を遮断する。
停止した瞬間、調達に行っていた共民兵達が飛び出す。
みな黒焦げで、ほとんど裸だ・・!
「だ、誰か助けてくれーー!!」
「奴らが来る!!俺らは蜂の巣を突いてしまったみたいだ!!はっ!!!うわーーー!!!!!」
調達隊が腰を抜かして炎上した輸送車を指さした。
助けに行こうかとも思ったがタルマが鎧を掴んで僕を瓦礫のバリケードに引き戻した!
「あっ!!」
ガラガラ!
と言う音がして門が強制的に開く。
誰が開けた訳じゃない!
強制的に外側から誰かが開けているんだ!
そして次の瞬間だった!
ブシュン!!
「トオル!あぶねぇ!」
門の上の部分がオレンジ色に輝いたのを認めた瞬間、僕とタルマの間を青い光線が高速で駆け抜けた!!
その刹那、左腕の手の感覚がプツンとなくなり。
添えていたスパークライフルがブラリと足下に落ちた。
(あれ?ちゃんと持っていたのに)と思って左手を見たら、そこには二の腕を残して腕がすっかり消えていた。
「うわー!!トオル!!腕がっ!!」
「えっ!うわーー!!ぐぁああああ!!」
腕が無いのを見た瞬間、筆舌にも耐え難い激痛と熱さが走った!!
脂汗が出ると良く言ったものだが、器具を高速洗浄する時の滝のような汗が流れ出し、熱さの中にある不気味な寒さが全身を支配した!
不思議と血が出ないのは、高出力のレーザーが焼き切ったからだろう!
僕は土嚢に倒れ込むとフラフラしらがら、ライフルだけは門に向けて身構えた。
とたんにレーザーで焼き切った門が開け放たれ、大人3人分の大きさの巨大な2脚が突き破って入って来る!!
二足歩行で楕円形の胴体に、腕にあたる部分に丸い対人センサーとガトリングが搭載されていた。
「ルーマだ!ありゃ、ルーマだ!初めて見た!!俺達は殺される!!皆殺しにされる!!」
タルマがしゃがんで狂ったように叫ぶなか、僕は必死に真っ二つになった同輩からツナギの布切れを剥がした。
「トオルさん・・!!たすけてーー!!うがぁあああーー!!」
調達隊の共民兵が僕に助けを求め、そのままルーマに下半身を踏み潰される!
それを見た途端、破壊された門から兵士達が雪崩れるように入り込み、嵐のようなスパークサブマシンガンのビームが僕らに降り注いだ!!
「散開!!反乱分子を一掃せよ!」
「コーディアスのためにーー!!」
それはベレー帽を被った見慣れない兵士達だった。
僕は激痛に喘ぐ体に鞭を打ちながら絞り出すように叫ぶ
「きょっ!共民兵よ!!動く物は全て撃て!!情けは無用だ!!」
「おぉお!!」
僕の号令で共民兵の反撃が始まり、ビームが四方八方に飛び交う!!
「せーのっ!!」
火炎瓶がいくつも投げ放たれ、ルーマの足下が炎上し、兵士達も火炎に巻き込まれる!
兵士達は悲鳴をあげながら灼熱の高温の餌食になった。
「うぎゃあ!!」
隣で爆風がしてルーマのランチャーが味方に当たり、
トシヲが手製のロケットランチャーを撃ち放った!
パシュッ!!
と言う音がして、ランチャーがルーマをかすめて味方の即席の櫓にあたり、大爆発をおこしてルーマの胴体に覆い被さった。
ルーマは突然の上からの衝撃に驚いてバランスを崩す。
そして鈍い音を立てて跪くと、僕らの前に無防備なコックピットをお辞儀をするように露わにした!
僕はその一瞬の隙を見逃さなかった!!
「今だ!!突撃だ!!それいけーーー!!」
「それいけ!!やれいけ!!うおおおお!!!!」
「突撃ーー!!」
タルマが正気に戻り、我先に飛び出す!!
そして落ちている火炎瓶をお辞儀しているコックピットに投げつけた!!
「うわっ!!うわああああ!!!!」
操縦席の男が座席に着いたまま燃え出し、ルーマは頭を燃やしながら暴れ出した!!
足下にいた兵達が蹴飛ばされ、たまらず数人が逃げ出す。
「ひゃああああ!!ひゃあああああ・・・!!」
コックピットから最後の断末魔が聞こえたあと、脚を広げて轟音をたてて倒れた。
「わーーー!!わーー!!」
「撤退しろ!!」
「撤退ですか??」
「たすけてくれ!」
一人が逃げ出すとまた一人・・
兵士達が攻めるのを諦めて、武器を放りなげると逃げ出し始めた!
───────「コードを巻いて逃げ出すぜ!!」──────
タルマの声が木霊する。
僕は土嚢袋に腰をかけたまま倒れてしまった・・。




