真の共民兵と敗北者と・・
『ゾーン2 学生連合』の一派は『ブルーシグナルズ』と名前を変えて過激さを増してゆく。
評価が無くなり、共同住宅を追われた民衆が占拠した学校に住み着き。
食糧を確保するために、大義名分を盾に略奪に走る。
警察組織は、その神出鬼没の電撃戦に恐れ慄き、情け
容赦ない残虐性は他の学生連合の尊敬を集めた。
その尊敬はブルーシグナルズを活気付かせ、さらに精強で屈強な肉体と冷酷な革命家を求めた。
学校の占拠から2年後の
3022年8月の事だ。
蹄の音が荒廃した街に響く。
僕とマイキーとカネダとトシヲの4人は、食糧を貰いにゾーン2とゾーン3の境界にある小さな田舎町に来ていた。
「この町も、じきに死にますね」
僕らは鹵獲した馬型メカニロボに乗って街中を闊歩する。
右手にはサブ・スパークガンを携えており。
道路には放置された労働用ワゴンや、エネルギーを失った清掃用メカニロボが箒を持ったまま放置されていた。
ときおり砂丘のように降り積もっている砂は、近くの海から吹きつけたものだろう。
この町には、こうした砂を除去するメカニロボを派遣する余裕すらないのだ。
僕は解説した。
「僕らの戦いはコーディアスの社会に多大な影響をもたらしたようです。
評価を失い『再開発』となったら、そこの住人は抹消される。
大幅に働き手を失った工場は政府からの評価を失って縮小を余儀なくされる。
やがて首が回らなくなって倒産し、他の集合住宅の住人が働き口を失って評価を失う。
評価を失い『再開発』となったら、そこの住人は抹消されるのです」
「・・それで。抹消されるのを逃れてきた人がブルーシグナルズに入ると言う事ですね」
トシヲが言う。
「そうです。本来、老朽化や高齢化で再開発されるはずの集合住宅が、いきなり再開発なんてされたら不本意でしょうから・・社会に対する不満は若ければ若いほど燃え上がるものなのかもしれませんね・・」
今では再開発から逃れてきた住人を如何に飢えさせないかばかりが悩みの種だ・・。
そして一番の問題が『病気』だ。
もちろんキュラーが持ってきた物資の中で医療品があるものの、分析の結果『慢性的なビタミンの欠乏』がその原因とされた。
集合住宅内にある物流の供給が得られないので食料がもらえず。
政府関係に勤める同輩から、闇市で購入する他無かったのだが・・。
共民主義国のコーディアスは通貨と言う個人資産の概念が無く。
政府直属の同輩を、女性の共民兵に接待させると言う僕でも吐き気を催すような選択を選ばず得なかった。
それも・・あの、カナコちゃんをだ・・・・。
カナコちゃんは、他の共民兵の女性を接待に使うのを嫌い・・自ら進んで同輩の相手になる事を選んだ・・。
「トオルさん。あのワゴンです・・トオルさん??」
僕はカネダから双眼鏡を渡されて我に帰る。
気付いたら町が一望できる小高い丘に来ていた。
双眼鏡を覗いて見ると荒廃した町に一台の貨物用のワゴンが走っていた。
5両編成の半球ポリマーでワイドに見える運転席は、どことなく芋虫を連想する。
「あれですか?」
「えぇ。集合住宅に届けるワゴンでしょう」
「こんな荒廃した町でも、機能している住宅があるとは・・」
見るとマイキーがカタカタと震えていた。
「大丈夫かい?マイキー?」
マイキーは僕の声を聞いてピクンと反応すると、こちらを見ながら頷いた。
動機はどうであれ、初めて人から物を奪うのだ。
そういえば学校を占拠した時もマイキーは暴力を振るわなかった・・。
しかし、それではダメなのだ。
時にこの革命は、痛みを伴うものなのだから・・。
「マイキー、これから僕らはコーディアスを真の共民主義に導くんだよ。時にそれは・・マイキー?」
「う・・うん」
「マイキー、時にそれは言って聞かせる事が出来なければ手荒な真似だってするさ。それは決して本気ではないけれど・・。僕らはコーディアスのより良い未来のために弱い者を踏み台にする時だってあるんだよ」
「そうだ。ブルーシグナルズの為に。真の共民主義の為に!」
カナダがマイキーをバシバシ叩いて鼓舞する。
「・・さぁ、諸君。買い物の時間と行こうではないか!」
僕は口にタオルを巻くと、サブスパークガンのエネルギージェネレーターを装填した。
マイキーは緊張した面持ちで手製のブルーシグナルズの旗を馬の背中に固定する。
「よし。いくぞ!」
「うおお!!行くぞ!!」
僕は自分に言い聞かせると、馬の手綱を叩き、小高い丘を飛び降りた。
ワゴンはスケジュール通りに大通りを規定内のスピードで向かってくる。
僕は手を広げて、周りに合図した。
「ヒーハー!!」
「ひゃっほーー!!」
横一列になるとサブスパークガンを空に照射しながら突撃した。
「止まりなさい!!我々はブルーシグナルズです!!食糧を渡さなければ反逆行為とみなします!出てきて下さい!」
ワゴンがガタガタと止まり。
半球の運転席から驚いた顔をした2人組が降りてきた。
僕らも銃口を向けながら馬から降りる。
「えっと・・僕らは同輩の為に物資を運んでいるだけで・・何も悪いことはしていませんが」
運転手は窪んだ眼孔で答える。
その目には精気は無く、歯茎は血が出ているのか赤かった。
きっと僕もそうだろう。
「いいえ。我々ブルーシグナルズは食料を必要としています。あなた方の選択によっては敵対行動とみなし攻撃します!大人しく物資を渡してください!」
僕の言葉に運転手が突然顔を上げ興奮しだす。
「はぁ!?言わせておけば、ちょっと待てよ!?
俺らはお前らと違って真面目に働いているんだよ!!この物資は、実直で勤勉な同輩の為の物資なの!!なぜタケノコ族として遊び呆けていたお前らに、命の糧を渡さなきゃならんのだ!!共民主義の国としておかしいだろう!?」
男が唾を飛ばしながら取り乱すのでカネダが言う。
「お前はブルーシグナルズを理解していないな?我々は───!」
「お前らの何を理解したらその様な反乱分子になるか教えて欲しいね!!“”マイキー“”も何か言えよ!!」
憤る運転手の言葉に、俯いていた隣の運転手の“”マイキー“”がビクンと反応する。
コーディアスでは、名前が被るのは決して珍しいことではない・・。
きっと、この“”マイキー“”も、マイキーと同じ誕生日なのだろう。
「・・とっとと消えろよ・・アルダンスめ!!」
「ひっ・・!!」
”“マイキー”“の暴言に取り乱していた運転手が戦慄する。
カネダとトシヲ、マイキーがハッとした顔で僕を見る。
そう『アルダンス』と言う言葉は僕に向けられたのだ・・。
アルはアルアンで『老人』。ダンスは『盲人』と言う意味だ。
この言葉には『働けない者』と言う意味の他に、引きこもった女性が、働ける者に媚を売って生きると言う意味も含まれている。
コーディアスの言語規制を潜り抜けた、この国で口に出来る最大の侮辱的な言葉だ。
僕は深呼吸をして空を見た・・。
これは何かの運命か・・。
「マイキー?」
“”マイキー“”が自分の事かと僕を見る。
僕はマイキーに優しく言った。
「・・頑なに暴力を振るわない君と、同名の””マイキー“”が僕に暴言を吐いた。君ならどうするね?」
「え・・えっと」
「僕ならね・・こうするね!!」
バシュッ!
「うわー!!」
僕は躊躇う事なく”マイキー“を撃った!
銃の衝撃で右肩が吹き飛ぶように仰け反り、間髪入れずに撃った傷口を前蹴りした!
カネダも笑顔で運転手の男の肩を持つと、強烈な右ストレートで男の頬を殴り倒した。
倒れた”マイキー“の後ろに男が倒れ込み、恐怖の形相を浮かべながら僕らを見た。
「なにも撃つこと無いじゃないか!!!!大丈夫か!“”マイキー”“!!」
「うわーー!!」
男の言葉にマイキーが頭を抱えてしゃがみ込んだ・・。
その顔は蒼白で、ガタガタと震えている。
「しっかり立て!!マイキー!!立つんだよ!!」
僕はマイキーの背中をバシバシと叩き、首根っこを掴んで無理やり立たせる。
「ううーっっ!!」
いつしかマイキーは情けなく泣いていて、自分で立つのがやっとなくらいだった・・。
僕はマイキーに思い切り平手打ちを食らわすと胸ぐらを掴んで男達を見せた。
これはマイキーが真の共民兵になる試練だ。
「マイキー!これはお前の過去だ!!タケノコ族に入る前の、エレフィックサウンズを聞く前のお前だ!!」
「ううーーー!!」
「聞け!マイキー!!銃をとれ!!過去の自分と決別するんだ!!」
「トオルさん・・!!」
「何だ!?」
僕は涙でグシャグシャになったマイキーを見た。
「僕は・・“”みんな“”の為に革命に加わったんだ!!同輩を傷つける為に革命に参加したんじゃない!!」
マイキーが叫んだ瞬間、ワゴンの後方の貨物室から子ども達が駆け出した。
「共同住宅を追われた未就学児です・・!」
トシヲが銃を向けようか迷うと、子ども達は“マイキー“と男を庇うように立ちはだかった。
”マイキー“は血だらけの肩を抑えながら呆けたように辺りを見回し、男は泣きながら子らを抱きしめた。
無数の小さな茶色い瞳に、痩けた僕が写る・・。
子どもと言う未来に銃を向けている僕は・・果たして革命を志すブルーシグナルズの共民兵だろうか?
それとも、同輩に暴力を振るい狼藉にはしるアルダンスなのだろうか??
「このアルダンス!!」
「どうはいを傷つけるなんて卑怯者だ!!」
「僕らだって言うぞ!?」
「アルダンス!!」
「アルダンス!!」
「この卑怯者!!」
カネダもトシヲも狼狽える。
馬に付けられた青い旗は風を失って下がり・・マイキーは泣いてばかりでひどいザマだ。
マイキーは僕らにトドメとばかりに叫んだ。
「いつしか同輩を救うどころか・・傷つけるようになってしまった・・!
ちゃんちゃら可笑しいやな!
何が革命か!ねえトオルさん!僕らのしたかった事って本当にこんなことかな!?」
「マイキー」
「なに!?」
「言いたいのはそれだけかい??」
僕は手をあげると、カネダとトシヲに銃を向けさせた。
そしてマイキーにも分かるようにハッキリと伝えた。
「彼らはね・・政府の味方であり敗北者なんだよ。彼らの答えはよく分かった。だから・・ブルーシグナルズとしての答えを伝える事にする」
「えっ!?」
僕は銃を向けると、息を吸い・・同輩達に答えを述べた・・。
これはカナコちゃんや、僕らを信じて付き従ってくれた他のメンバーに対する答えだ。
「反乱分子に死を!!ブルーシグナルズ万歳!!!!」
「えっ!!」
そこから先は、本当にゆっくりだった・・。
サブスパークガンから光線が放たれ、腰だめ撃ちした腕にダイレクトに振動が伝わる。
トシヲとカネダもそれに続き、容赦の無い光線の嵐が同輩に降り注いだ!
「サルデェイアァアアア!!」
子ども達が叫びながら、まるで空間がスッポリ丸ごと無くなるように身体の部分部分が吹き飛んだ!!
子ども達が消し飛び、男が顔を腕で防御したまま後ろに崩れ落ちる。
たちまち背中に穴が空いて赤く染まり、光線の熱で黒く変色した・・。
僕らは倒れる男の近くで集中砲火を浴びせ続けた。
おそらく“”マイキー“”も男の体内越しで貫通して、絶命している事だろう・・。
男達の身体は、たちまちボロ雑巾のようになり。
虚しく燻る炭になった。
「トオルさんをアルダンスと罵った罰だ。さっさと物資を渡せば良かったものの」
トシヲは呟くと貨物室のロックを破壊した。
カネダとトシヲが貨物を探り、マイキーは死体の前でしゃがんで俯いたまま微動だにしない・・。
僕はマイキーの隣で、彼がどう出るか観察することにした。
この国は共民主義だ。
時に力による搾取や叱責ではなく、自分で考え、切り拓く力が必要なのだ。
「トオルさん!!食糧がありましたよ!!」
カネダがパックに入った食糧を投げ渡す。
共同住宅の、最低評価に与えられる合成肉だ。
「マイキー・・。マイキー」
僕は勤めて優しくマイキーのうずくまる背中を小
突いて食糧を渡す。
マイキーは黙って俯いたままだ。
「ちぇ。シケた物しかねえ・・」
「全部、最低ランクの品物だ・・。見ろよ、分子結合させた再生水だ」
「ひでえな・・服も薄っぺらい。向こうが透けて見える」
カネダとトシヲがブツブツ言いながら探る。
「クソ!合成肉、合成肉、合成肉!!最近、合成肉しか食ってねぇ!」
「政府がゾーン2に配られる食糧を意図的に操作しているとしか思えない・・!僕らは政府に抵抗しているつもりがジワジワと苦しめられているんだ。奴らの唱える『共民』の綺麗事の中でな!」
僕は2人のやりとりを聞きながら、火炎瓶を手にすると、これみよがしに死体にぶちまける。
ゴウッと言う音がして死体がバチバチと爆ぜ、僕はマイキーの頭をパンッと叩いた。
「いつまでクヨクヨしているんだマイキー。もう一回言う。
コイツらは共民思想に敗北した敗北者だ。良い加減大人になれ!」
「・・・・」
「ハァー・・もういい。馬に乗って帰れ。僕は、車を運転する」
マイキーは弾かれたように立ち上がると馬に乗ってそそくさと行ってしまった。
このくらいの歳の子を知っていた筈ではあったが・・ここまで反抗的だとは思わなかった。
────
「トオルさんが戻ったぞー!!」
学校に後から付けられた頑丈な門が開く。
運送用の5両編成のワゴンと、カネダとマイキーが馬を引き連れて中に入る。
勇者の凱旋だ。
あれから占拠した学校は、僕らの拠点になり・・やがて大規模なコミュニティーに進化した。
「キュラー様!!トオル達が帰りました!大戦果です!!」
あれからキュラーの立ち位置も変わり、女性の同輩の支持を大きく得て『キュラー様』として信仰の対象になった。
キュラーは巨大な貝の形をした『メカニロボにするための手術台』に、鉄パイプで6人で担げるように神輿にし・・。
その上にゆったりと座るような形で鎮座した。
・・医療の面で助かっている部分もあるが、何より皆は自分達の未来が不安だったのだろう。
キュラーの周りには常に神輿の担ぎ手が集い、政府の同輩の “”相手“” をする女性達の相談役を買って出た。
そして戦闘員には惜しげもなく戦術や・・メカニロボ化にして強化する事を推奨した。
しかし・・
キュラーが推奨する『人間をメカニロイド化』する事にどうしても賛同できない自分が居た・・。
確かに飢えや病気や、痛みに耐えられる身体になるのは助かるが・・口角を上げたキュラーの微笑みの奥に、なにか別の思惑があるのでは無いかと疑わずには居られなかった・・。
「トオルさん!」
「トオルさん!!トシヲさん!!」
「おぉ!チビ達!!」
「元気してたか!!わははははは!!」
トシヲが座る助手席に、子供達が飛び乗る。
すぐに運転席は満席になり、ハンドルが握れなくなるほどだった。
僕は咄嗟に、運転席に掛けてあった写真の入ったロケットペンダントを放り捨てた・・。
すぐに子ども達のボサボサの茶髪が胸にあたる。
その体温は温かく・・僕は帰ってきたのだと実感した。
「トオルさん!!今日は何か収穫はあった??」
「そうだな・・合成肉とパンがあったぞ?」
「果実パックは??」
「・・・・」
子どもが僕を見る・・。
その瞳に僕が映る・・。
僕はそんなつぶらな瞳を隠すように頭を撫でた。
「栄養を取らないとな・・」
僕は掠れる声で言った・・。




