絶対的な沈黙
10:45
コーディアス国内、ゾーン2にあるカルディア学校通り。
僕らブルーシグナルズの共民主義義勇兵、略して共民兵の50人は
タオルを口に巻き、手製の盾を持つ班とその後ろに棍棒や研ぎ澄ました金属をナタにして街を練り歩き、カルディア学校を目指していた。
すると横断してきたパトカーが急ブレーキをし、中から警察官が出てきた。
その到着の早さから一同は絶句したが、すぐに巡回中の交通隊のパトカーだと気づいた。
「あ、あなたたちは何をしようとしているのですか!!どうか物騒なものを持つのはやめてください!!」
「僕らはこの国に抗議しているのです!誰も傷つけるつもりはありませんから!!そこをどいてください!!」
「わ。わかりました!!」
警察官がパトカーを破棄して逃げ出し、僕らはホッと胸を撫で下ろして進む。
他にも運送用ワゴンに乗っていた労働者達が、他の共民兵の言葉に説得されて逃げ出す。
路上に車が放置され、武器を取って僕らの決起に参加してくれる人も出てきた。
そう。
口に出して接得すれば武器なんて使わなくて良いのだ。
共民兵の一員である通信兵達が言う。
「トオルさん!アルガ同輩が警察署を抑えたようです!僕らも遅れてられませんよ!!」
「トオルさん、ザマ学校の占領が完了したようです!!死傷者ゼロ!」
僕は通信兵の吉報を聞き、憶測でしか無かった一つの仮説を現実のものにして話した。
「みなさん!警察は中立であるので暴力は禁止されているのです!
あの逃げる様をご覧なさい!
奴らが口先でしかない事が、ここに実証されたのです!
政府は国外の暴力に対し『誠に信じたい事態です』しか言わないし、僕らの真の敵は国外の世界を二分する勢力です!
さぁ、さっさと学校を占領しましょう!!」
僕はパトカーに放置された交通隊のヘルメットをこれみよがしに地面に叩き落とした。
「こんなチンケなヘッドホンから交通整理の指示が出るだけの!これが管理された社会なのです!!」
恐ろしいことに誰も僕らに反撃してこない・・!
誰も反論してこない!
誰も僕らの進撃を止められない!
これが中立国と言う名の平和慣れというものなのか・・!!
通りを歩いて、警備用ロボと入り口の改札を破壊すると、そのまま噴水のある学校の敷地内に侵入した。
「すんなり入れたな!!よし、革命の為にブルーシグナルズの旗を学校に掲げようぜ!」
タルマが意気揚々と旗を持って駆け出す。
「僕は講堂内で生徒達に話をしてきます!!」
僕が言い、マイキーが奇声をあげる。
正面エントランスのホールから堂々と入り、校内に僕らの安全靴の音が響く。
あぁ、廊下内に革命の足音がする・・。
僕は学校の生徒達に、いかにコーディアスが間違っているかを肉体で語りかけるのだ。
そこへメカニロボの講師と鉢合わせる・・。
「あなた方は何ですか?今BSSの授業中です!!部外者は出て行くよう・・・」
「うおらっ!!!」
共民兵が僕の横で講師を殴打する。
講師の頭が不自然に震え、ドタッ!と廊下に大の字に倒れる。
講師は飛び出した眼球のパーツを探しながら地面を這う。
「ソ・・ソレデハ授業ガデキマセン・・授業ヲ・・。」
「お前らの授業は気に入らなかったんだよ!!俺のことをコケにしやがって!!!」
「そうだよな!!」
「くそが!!」
5〜6人の共民兵達が倒れた講師を袋叩きにする。
「おい!暴力は振るわないでください!!」
僕が共民兵の一部を止める。
しかしすぐさま共民兵の一員であるトシヲとアキラが僕に食ってかかった。
「やらせてくださいよトオルさん!!俺らは学校の腐った形態を変えるために革命に参加しているんだ!!講師の破壊こそ俺らが革命に参加した理由なんだ!!やらせてくれ!!」
「トオルさん、ブルーシグナルズはいろいろな理由で革命に参加している人が多いんです!これではタケノコ族時代と逆戻りだ!自由にさせてあげてくれ!こんなメカニロボの、無機質な講師こそがこの国の共民主義を阻害しているんだ!!」
「そ、そうか・・。」
正直いうと、僕はロボットであっても物に暴力を振るったことは一度もないし、この革命が必ずしも暴力を伴って遂行されるべきであるとは思っていなかった。
しかし・・。
「うおおお!!!ブルーシグナルズ万歳!!!」
アキラが講師の首を捻じ切ると槍にくくりつける。
そうか・・僕は彼らを止めるほど立派な存在ではないのだ。
僕らは形がどうであれ『国に革命を起こし、本当の共民主義』に向けて突き進んでいるのだ。
その上では多少の痛みがあっても仕方がないのかもしれない。
廊下に青い塗装がぶちまけられ、僕らの白い国民服も青く染める。
そして僕らは講師の首を持って講堂内のドアを開けた。
「みんなちゅうもーく!!!!!」
「みんな止まれーー!!!」
僕らは扇型の講堂内の階段を降りると黒板のある教卓に陣取った。
「きゃーーー!!!」
「なんだ君たちは!!!うわああ!!!」
トシヲがメカニロボの講師を棍棒で殴る。
講師は教卓の後ろに立てかけてあったコーディアスの旗もろとも教段から転げ落ちた。
共民兵の兵士達が一斉に生徒達を取り囲み、自分たちの座席に座らせる。
動きに無駄がなく、まさに訓練通りだ。
僕は教卓で生徒に聞こえるように話しかける。
「君たち!我々はブルーシグナルズだ!この学校は我々ブルーシグナルズの配下となった!意義のあるものはいるか!?」
僕の問いに生徒達の間でざわめきがおこる・・。
その中、僕に質問してくる生徒達がいた。
「あ・・あの・・。僕らの受験はどうなるのでしょうか?」
「そんなもんはねーよ!!!」
「キャア!!!」
アキラが叱責し、生徒の一人が悲鳴をあげる。
「アキラ、やめないか!!!僕らは学校と戦争しに来
たわけじゃない!!武器を置け!!」
僕が叱ると、アキラは睨みながら研ぎ澄ました金属のナタを机に振り下ろした。
ガキン!
と言う音と共にナタが机に突き刺さる。
僕は共民主義と官僚の腐敗、そしてコーディアスの現状を話した。
生徒たちは静かに僕の主張を聞き、補助の情報はないか机の画面で検索する。
「生徒諸君、検索してもでて来ないだろう?」
「・・・はい」
僕がこれ見よがしに手を広げると共民兵達が笑った。
「それは政府が関与しているからだ。『自由と安全』の名の下に人工頭脳が常に君達の行動や趣向を監視している。例えば僕らがブルーシグナルズとして破壊活動をしている事。そして世界が無用な戦争をロボットを駆使して行い、そして僕らも加担していると言うことだ。
そして僕たちは無意識のうちに言語規制を受けているのだ。
例えば・・‘’たちつてと“だ!」
「たちつてと??」
僕の言葉に生徒達が反応する。
「言語規制で無理やり変換された支離滅裂な言葉さ。活動家のエルディア・ルメイが、言語規制された何らかの革命的な事を叫び、トゥルーマン・エディオンがエレフィックサウンズに乗せて歌にしたのだ。
しかしそれは『たちつてとの歌』として革命家の共通ソングになった。
外国人が歌えば革命の歌として、同輩が聴けばノリの良いサウンズとして・・。君たちは、この国で世界の無意味な戦争に加担し、無意識に言語規制され続けるのだ。
そして歯車として働いた後、破棄される。
産業廃棄物として、反旗を翻す体力もないままに・・。
国に対して疑問に思った頃には体力も精神も持っていかれているんだ!」
生徒達が検索するのを辞め、一斉に僕を見た。
通信兵が僕に耳打ちする。
「トオルさん、警察の一派、装甲隊が到着しました。どうやら外部から学校のマザーコンピューターにハッキングしたようです!」
「・・・。」
僕が頷く前に背後にあった講堂の分厚い外壁が強制的に開く。
陽の光が講堂内に差し込み、僕は目を細めた。
目が慣れて学校の外が一望できる・・。
しかし、そこには見たことのない無骨な緑色の装甲車がいくつも停まっていた。
「おぉおお・・・!!」
どこからともなく共民兵が声をあげ、武器を持ち、口にタオルで隠す。
それは革命を押し進める産声か、強者達の合唱か。
アキラがナタを机から引き抜き、トシヲが盾を持った。
僕もヘルメットを被り、ナタを手にもつ。
「さぁ、諸君どうする?我々と共に戦うか、このままコーディアスのインテリの歯車として一生を終えるか・・。選ぶんだ!!僕らは入隊を待っているぞ!!」
僕は講堂の階段を駆け上り、廊下に出た。
「行くぞぉおお!!コーディアスに革命を!全ての世界に革命を!!」
アキラが叫び、トシヲや共民兵も僕に続く・・。
「来たな!来たな!!来たな!オイ!!」
タルマが階段を駆け降りて僕に言う。
「どこから来ると思う?」
「おそらく、正面玄関からでしょうね!」
「なんでわかるんだ?」
「それがマニュアルですから!」
大学のメインホールには開け放たれた観音開きの扉が4つあり、噴水のある園庭には緑の装甲車や警察隊のパトカー。
そして野次馬や報道車がいくつも停まっていた。
僕らを認めると装甲隊の盾が見事な4列の隊列を組んで陣形をとる。
慌てて扉を閉め、トシヲとアキラが僕の隣で話す。
「もはや俺らを説得しようとか考えていないみたいだ・・」
「当たり前だ!革命を起こそうだなんて政府の都合が悪いに決まってる!」
「あいつら何か始めたぞ!?」
噴水の水が止み、隊列の間からホースを持った隊員が出てきた。
そして隊長(?)が軍配を挙げる。
「来る・・!!突撃してくるぞ!!警察の威信をかけてこの大学を奪還するつもりらしい・・!」
タルマが叫び、皆が慌てて扉にソファーや椅子を置く。
「そんな事したら、例えば僕らが逆上して生徒を殺害したらどうなるのでしょう?」
「そうしたら・・嬉々として報道するだけだ『ゾーン2学生連合の没落』ってな!メディアが好感的に取り上げ、やがて嫌悪し、警察に制圧される・・最高のシナリオじゃないか」
「制圧ーー!!!!」
「せいあーーーつ!!」
装甲隊の号令がかかり、たくさんの足音がする。
「まさか僕らに暴力を振るうわけじゃないですよね?」
僕は嫌な予感がしてタルマに言った。
タルマが意外そうな顔をして僕を見る。
「なんで暴力が無いと思うんだ?」
「だって暴力なんてしたら共民主義の根本がありません。それは国家の在り方そのものを否定することになりますよ?」
「はぁ。トオル。世界はな・・そんな優しい世界じゃ────」
「あっ!!」
僕とタルマの眼前を、扉を突き破って一本の缶が通り抜けた!
そして────
パン!!
と言う渇いた音と共に、もの凄い閃光と音が五感を塞いだ!!
「────くそ!アイツら!───やりやがった・・!」
タルマの苦しそうな声が聴こえる・・。
頭がいたい・・。
冷たい水が、横になった頭を撫でる。
破壊された扉の隙間から放水車の水が入ってくるのだ。
扉が破られており、緑色の装甲隊が扉から飛び出して僕を飛び越えた・・。
「全員動くな!!」
そして隊員の1人が僕に背を向けてしゃがむと気絶しているタルマをワイヤー手錠で拘束する。
マイキーも兵器の直撃を受けたようで、後ろ手に縛られながらポカンと明後日の方向を向いている。
他の隊員は、見事な隊列で盾の防御陣地を扉の周りにグルリと展開すると、僕とタルマとマイキーを陣地に取り込んだまま共民兵達の前に対峙した。
しゃがんでいる隊員が邪魔をして、僕が気絶していると思っているのだろう。
機械を持った装甲隊が叫ぶ。
鎧を身に纏っていたので気付かなかったが、黄色いサンバイザーとジャーナルマシーン(小型のスーパーのレジスターのようなもの)を持っていることから国家直属の『粛清官』のようだ。
覚悟はしていたが、いざ粛清官を前にして僕の体は硬直した。
ジャリジャリ!チーン!
粛清官が記録を打ち込む。
「諸君の評価を発表する!!
欠勤90日!マイナス1800ポイント!!
労働者に対する脅迫!マイナス20ポイント!!
労働循環の阻害!マイナス500ポイント!!」
忙しくレシートが吐き出され、地面に付いた。
粛清官の評価が大学のホールに響く。
子供の頃からの刷り込みか・・共民兵達も盾を持ったまま聞きいる。
ちなみに評価と言うのはコーディアス国内の集合住宅には必然的に存在し。
住人が真面目に働き、出勤回数や成績によってプラスのポイントして加算されると言うものだった。
それは医療や福祉。
娯楽やライフラインにも反映され、部屋で人工授精して人員を作ったり。
集合住宅内の修繕にも当てられる。
つまり、建物や人員が老朽化や高齢化すれば修繕費や医療費が高くなり、欠勤数も増えるので必然的にポイントは少なくなる。
やがて、人員を作れず。
働けない高齢者が多くなった集合住宅はライフラインもポイントに割けなくなり・・。
やがて『再開発』の名のもとに住宅ごと抹消されるのだ。
一見すると冷酷であるように感じるが、集合住宅としての団結力は何事にも変え難い物であり、これはコーディアスが共民主義たらしめる絶対的な誇りである筈なのだ。
「教育備品の破壊 −2500ポイント!
メカニロボの殺害 −50000ポイント!!」
しかし、見よ。
今、僕らの前で粛清官が評価を読み上げて裁いている・・。
しかし、本来裁かれる筈の政府の官僚は、僕らが汗水働いているなかで甘い汁を吸い続けているのだ。
それは評価に関係のない贅沢品の購入から始まり、天下りや、海外勢による土地売買と再開発。
そして、戦争の加担だ。
「このワイヤー手錠はどうやって使うか分からないな・・」
僕はタルマを拘束しようとしている装甲隊を静かに通り過ぎると、手製の磨き上げたナタを拾い上げた。
そう。
裁かれるべきは僕らではないのだ。
僕は粛清官の横に静かに歩み寄る。
ジャーナルは忙しく吐き出され、放水された水を吸い込んで黒く湿る。
「・・よって!!
評価が全て消失したので『再開発』とする!!
この事に異論のあるものは速やかに──」
僕は粛清官にナタを振り下ろした。
研ぎ澄まされたナタは風をも切り裂き、粛清官は驚いた顔をしたまま僕を見て硬直している。
しかし、張り詰めたビニール袋が裂けるように傷口が開き・・見たこともないような赤くてブヨブヨした物が粛清官の首から晒け出た。
「ぐ!?ぐあーーー!!!!」
粛清官の悲鳴がホールを駆け巡り!
僕の顔を赤く染めた!
粛清官は血に染まったジャーナルに躓きながら装甲隊を押しのけて絶叫する!
「うわっ!血っ!!」
血の付いた装甲隊の兵士達は戦慄し、初めてみる鮮血に恐怖した!
そうだ・・!この武器さえ使えば全てを黙らせる事が出来るのだ・・!!
武器さえあれば、全ての運命、全ての矛盾を、鋼鉄の鎖から解き放つ事が出来るのだ・・!!!!
「共民兵よ!!!!俺らの評価を下してやれ!!!」
トシヲがハッとした顔をして、装甲隊の脳天に棍棒をブチのめす!!
「ぐえあ!!!!」
と言う断末魔と共に白目を剥き、ツンと跳ね上がると大の字に倒れ込んだ!
「皆も続け!!!やれぇええ!!!!」
「うおおおおお!!!!!」
「捜査本部!!スパークガンの使用許可を!!ぎゃあ!!」
トシヲが銃を向けた装甲隊の頬を棍棒で打ち据える!
『決定的な暴力が確認できない為、発泡を許可できない!!』
ヘルメットのマイクから話し声が聴こえる・・。
「お前ら辞めないかっ!!こんな事をしても何も解決はせんぞ!?」
「うるせぇ!!」
意識を取り戻したタルマが、装甲隊にドロップキックを喰らわせ、ヘルメットが脱げて思い切り吹き飛ぶ!
吹き飛んだ装甲隊は学校の案内板を頭から盛大に叩き割り、歯を食いしばりながら頭を抱えて悶絶した!
他の装甲隊も袋叩きに合い。
装甲を脱がされ、辱めを受ける。
粛清官は既に息が絶え。
そこらじゅうに苦しみの血痕が床を濡らしていた。
「さぁ!!来い!反乱分子よ!」
僕は頭から血を流して悶絶する隊員の後ろ襟を掴むとそのまま引き摺って歩いた。
タルマが僕に聞く。
「そいつをどうするんだ!?」
「ここの生徒に教えてやるんです!!ブルーシグナルズのやり方をね!!」
心の何かが外れ、頭の中に残虐な気持ちが支配してい
た。
「全ての能書きは暴力で解決出来ます・・!
時に革命は、武力を行使しないといけない時もある!
僕は蚕のような生徒達に、行動する力を見せてやるのです!!」
「おお!!その通り!!トオルも変わったな!」
「さぁ!!来いっ!!」
僕は装甲隊を引き摺って歩く。
どうやら足首が折れているらしい。
引き摺る僕の横を共民兵達が駆ける。
「共民兵各位は、正面ホールへ集まれ!!」
「監視カメラは破壊しとけよ!!」
「ザマ大学を占拠した一団が援軍に加わるらしい!ここが共民兵の天王山だ!!」
先ほど居た講堂に着くと、火炎瓶や槍や剣などの武器庫になっていた。
その隅で生徒達が固まり、ヒソヒソと話をして睨みつけている。
「うぉらっ!!」
「ぐあっ!!・・ひぃっ!!」
僕は装甲隊を生徒達に放り投げた。
折れた足でバランスを崩して、破壊された講師の隣に倒れ込む。
「諸君!これが『政府』だ!」
「こ・・これは・・!!」
生徒達がタブレットを取り出して検索を始める。
そしてショックのあまりタブレットを落とす・・。
ディスプレイには大学を包囲した警官隊は映っているものの、装甲隊は映し出されていなかった。
「・・・・。何も映ってない・・!!何なんですか?この人は!?」
「何も映ってないだろう?この装甲の蛍光カラーはクロマキーと言って、カメラには映らないんだ。武力で制圧したら共民主義に反するからな!!・・しかしどうだ!?」
「うごっ!!」
僕は興奮しながら装甲兵を蹴飛ばす。
「コイツは武器を携えてやってきた!!これは共民主義への冒涜だ!!政府はこうして国民を共民主義で縛り上げ、平然とルール違反をしてきたのである!!」
「・・・!!」
生徒達がザワザワと相談し合う。
「・・お前ら・・!!」
沈黙を破ったのは装甲隊だ。
「お前ら!国の秩序を破ったらどうなるか知っているよな!?共同住宅の評価が落ちるぞ!?『大粛清』の許可が出たらお前らだってタダじゃ済まない!!」
「ダダでは済まないんだとよ!!そうだ!!政府が揉み消す筈だ!!僕らも!!君たちも!!僕らの思想ごと消し去るんだ!!それが政府だ!!」
「耳を貸すなっ!!反逆者の言葉を聞くとマイナス評価の対象になるぞ!?君たちは既に『戦闘区域内に居座る』と言うルール違反を犯している!!本来ならばガイドラインに則り、早々に外から出なければならないと言うのに!!」
生徒達が僕と装甲隊を交互に見る。
「僕らの革命に参加するなら装甲隊を殴って、武器を取って戦闘に加われ!!」
「そ・・それ以外は!?」
「ここから脱出するまで減点され続けな!!そして一生をかけて減点を取り戻し続けるがいい!!インテリに搾取され、偽りの情報を抱いたまま一生を過ごせばいい。僕らは自由の為に戦う!これは君たちへの救いの梯子だ!」
・・・・!
その時、ホールの方で銃声と爆発音がした。
装甲隊が勝ち誇った様に言う。
「武器の行使が始まった・・本格的な排除が始まったのだ・・!!お前らも終わりだな!!」
「くっ・・!」
ホール防衛に加勢しようか迷う・・。
「お・・俺は・・共民兵に加勢するぜ!!」
「は!?何を言って・・グハッ!!」
生徒の1人が装甲隊を蹴飛ばして、火炎瓶を手に取る。
「俺の知らないところで搾取され、老いて、使い捨てにされる・・。そんな毎日、耐えられるかよ!!」
「そうだ!その意気だ!!自由の為に闘え!!動き出せ!!」
生徒が廊下に飛び出す。
僕がそれを見届けた瞬間、後ろで蹴る音が聞こえた!
「ごふっ!!」
「BSSした時に、私は世界の経済学を学びました!
しかし『検閲済み』のページしか開けません!!私は世界を知りたい!!この国がおかしいなら、それを知りたい!!」
女の生徒2人が火炎瓶を持って講堂を出ていく。
それを見た生徒も弾かれたように飛び出した!
この生徒は一見控えめそうな外見の割に、胸ぐらを掴むと数回余分に殴りつけた。
「・・や!けめ!!ごほぇぇえー!!」
「もともと集合住宅なんか気に入らなかったんだよ!!」
「ゴホッ!グェーーー」
「なんで僕が!」
「ゴホッ!!」
「評価ばかりマイナスになる年寄りの面倒を見なくちゃ行けないんだ!!」
「グホェ!!」
「はぁ・・はぁ・・」
控えめそうな外見の生徒が息をはずませ、火炎瓶を取って僕を見る。
「・・もし、ここで死んでも。悔いはないよ・・!こんな社会、もうたくさんだ!」
僕が何か言おうとした瞬間、生徒は飛び出してしまった。
その後も生徒達の魂を込めた一撃は続いた。
「この正義の鉄槌は、エレフィックサウンズの熱いビートであり!
それは革命という新しい生命が、生まれるために必死に胎内を蹴る胎動のそれなのである!!
僕らは試験管で産まれ、新しい思想をコーディアスに産み出そうとしている!!
さあ、生徒諸君!!
答えを教えてやれ!!」
それから僕らの猛攻が始まった。
装甲隊達はスパークガンで応戦するも僕らの盾には歯が立たず。
僕らの後方から生徒達の火炎瓶の猛攻撃がそれを支えた。
「あ!おい!!奴らが尻尾を巻いて逃げ出すぜ!!」
「こりゃあ見ものだ!!」
「撤退だ!!撤退しろ!!!!」
「うわーーー!!助けてーー!!サルデェイアーー(※コーディアス国内の悲鳴)!!」
「ぎゃああーー!!熱い!熱い!!置いて行かないでくれー!!」
装甲隊が盾を棄てて逃げ出し、火炎瓶と容赦ない攻撃で我先にと扉から逃げ出す。
恐怖で腰を抜かした者には容赦なく棍棒が振り下ろされ。
遂に警察隊と装甲隊が敗走し、僕らを見ると恐怖の表情を浮かべた。
「奴らが逃げていくぞ!!」
警察官とメディアがもつれ合い、カメラを落として三脚からテレビ局の人間が落ちる!
どいつもコイツも嘘ばかり吐き出す嘘つき共だ!!
「地獄の果てまで追いかけろーーー!!」
「トオルさん!!」
僕が火炎瓶を受け取り、敗走するパトカーに投げつける!
VH燃料で出来た火炎瓶はパトカーの半分開いた窓に入り、瓶が割れたと同時に内部で空気と燃料が混ざり合って化学反応を起こし、白い高温の炎を上げた。
「うわっ!うぎゃぁああ!!」
1人が炎上するパトカー内で虚しく暴れ回り、もう1人が炎の衣を纏った様に暴れ回りながら飛び出した!
僕は警官隊に駆け寄り、後から追いかけて来た生徒達も静止させた。
もう、こうなってしまえば死ぬのは時間の問題だ。
僕は警官隊が悶絶するのをジッと見ていた。
「うぎゃああ!!!うがぁあああーー!!」
警官隊は熱さのあまり、地面を転げ回る。
化学燃料は簡単には消えず、水をかければ激しく燃え上がる恐るべき特性を持っていた。
背中に燃え上がった炎がメラメラと触手を広げ、思わず警官隊は吸い込んでしまう。
「グエぁ!グオーーー!!ゴオーーーー!」
そして仰向けでのたうち回ると、必死に胸を掻きむしりながら、肩を大きく動かす独特の呼吸を始めた。
人体が、酸素を求めて本能的に筋肉を使って動かしているのだ。
やがて肩を大きく動かして生死を彷徨う呼吸を始め・・・・それを嘲笑うかのように灼熱の炎が包み込んだ。
内部の脂が爆ぜ、服が燃え、赤黒くただれていく・・。
その炎の中で、口だけが酸素を求めて動いていた。
そしてゆっくりと縮こまって、焼死体になる。
まるで、共同住宅に新しく産まれた胎児のように赤黒い肉の塊が形成されてゆく。
これが敗者か。
これが人類が幾千年も見てきた戦いの成果か。
僕はここに、データや教育にない本物の勝利を見た。
これが戦いに勝利する高揚感か・・!
「えい、えい、おーーー!!!」
「えい!えい!!おーーー!!」
気付いたら共民兵の勝利の雄叫びをあげていた。
僕は呆然としながら学校を見回す・・。
生徒が逃げ遅れた野次馬を槍で突き刺してトドメを刺し、装甲車が燃え上がる・・。
(ぎゃああああー!)
敗走するパトカーにテレビクルーが轢かれる。
その獄炎の炎と渇いた血の臭いの先に、確かにヘリの羽音が聞こえた。
黒い煙が立ち込める空に、クマンバチ型のヘリが着陸する。
そしてピンクの外骨格のアステロイドがヘリの尻の部分から出てきた。
黒いバイザーで目は見えないものの、口にはハッキリとした笑みをたたえている。
「・・見事です。あなた方は私の想像を遥かに上回る働きをしてくれました」
「・・キュラーさん」
キュラーは笑みを浮かべたまま、太ももの収納部分からジュースの入った瓶を取り出した。
キュポン!と言う涼しげな音と共に、小さな水飛沫が飛ぶ。
僕に差し出して来たが、直ぐに右手で制した。
「僕は・・。他の共民兵に与えてください」
「ふふふ。そうとは言わず・・わたくしは、志す者に出資は惜しまず。また、労いも忘れません。もしも貴方が更なる強さをお望みであれば強化をする事も可能ですわよ」
「強化?」
「えぇ!マットとカイン博士による『肉体のロボット化』です。メルヴィアでは既に、マット博士の愛娘であるロロアちゃんがロボット化を検討しております」
「人間の・・娘を!?」
「えぇ!そうです!彼女は産まれながらに難病を患っていた・・しかし、新しい肉体で不死鳥の如く復活を果たすのです!」
ズズメバチ型のヘリの編隊が次々と着陸し、黒い外骨格のメカニロボが大きな箱のオカモチを運ぶ・・。
どうやら医療器具のようだ。
もしも武器なら、国境のレーザーに撃ち落とされていただろう。
僕はキュラーを見ながら冷えたジュースを口にした。
もしもロボットなんてなったら、このジュースの味すら分からない筈だ・・。
僕は微笑むキュラーから目を離さずにジュースを飲んだ。




