戦いの準備
道徳の授業以降、ロロアは自分のバスターで何が出来るか葛藤し、果たして自分の選択が正しかったのか考え、そして悩んだ。
訓練で成果をあげるなか、迷えるロロアの前に新しい脅威が立ちはだかる。
私はヘッドギアをすると体育館でバスターを構えた。
VR体育館に敷いてある大豆ほどの砂粒達が構築され、ストリームマンの艦隊の内部を再現する。
ヘッドギアをする事で敵の生体反応の位置が出て、瞳の中にあるリティクルがバスターの弾道と着弾範囲を表示した。
パパがミラー大統領と相談して共同開発したらしい。
『ロロアちゃん、相手をカメラで撮影するようにバスターを構えて?もちろん撮られてもダメよ?カッティングパイを思い出して!』
「はい!」
テリンコの通信が入り、私は再現された艦隊内部をすすんでゆく。
カメラで撮られないように意識すると何となく中腰になり、素早い動きになる。
私はバスターを構えたままリクトとダイチを探す。
2人を見つけた瞬間、私のバスターで撮影してやるのだ。
廊下から制御センターに侵入する。
私は頭をヒョコ!っと出しながら内部を確認すると、制御センターの扉が付いている壁を中心にして、バスターを構えたまま内部を見ていく。
そうすれば、敵は制御センターの壁ごしに半分出た私しか確認する事が出来ず、私はバスターで射程に入れた状態でリクトの全身を見る事ができるのだ。
「クリア!」
『進んで、ロロアちゃん!』
「はい!」
『さすがに入り組んでいるわね・・これは何かしら?』
「わかりません。」
『ストリームマンが私達の情報開示に上乗せして、ホワイトスペクター内部を教えてくれるのは嬉しいけど、不思議な部屋がたくさんあるわね・・』
私は引き戸を開けると、部屋の中央にある不思議な窪みを見た。
内部は熱源で満たされていて、本来なら上から厚手の布が置かれているようだ。
そして、縁にクッションが置かれている形跡があり、どうやら座って足を温める効果があるみたいで。
それが何を意味しているのか分からないが、ホワイトスペクター内部にこのような部屋があるのは興味深かった。
「クリア!」
『じゃあ・・次の部屋にーー』
「はっ!!」
ブシュン!
引き戸の取手を触った瞬間に音がして、私の左肩をビームが貫通して全身が吹き飛ぶ!
「きゃあ!」
痛みと、左肩が大破した事をヘッドギアが示す。
実際には左肩はあるけれど、実戦だと吹き飛んでいるので強制的にロックがかかる。
「うっく!!リクトね!」
しゃがんだ瞬間、引き戸を貫通して容赦なくビームが飛び出すので慌てて伏せる。
『なるほど。(引き戸の間)の扉の弱さを利用して貫通させてきたわね!』
「じゃあ、私も!」
私は飛んできた方角にバスターを連射した。
引き戸が吹き飛び、連射した空間一帯が空き地になる。
どうやらスパークライフルを撃ちながら移動しているようだ。
足音からして、リクトとダイチだろう。
『気をつけて!迂闊に射撃すると射撃音でロロアちゃんだとバレて蜂の巣にされる!!』
「うん!」
私は、伏せるとヘッドギアの両耳に意識を集中して音を感じた。
どうやら二手に分かれたようで、私の前後を挟み撃ちにする計画のようだ。
タッタッタッ。
カチャカチャカチャカチャ。
2人は私を挟み撃ちにしながらグルグル回って距離をつめてゆく。
「ロロアちゃん発見!」
「くっ!」
真後ろから声がして振り替えろうとした瞬間、頭上からスパークライフルの弾道が掠めた。
・・が。
「うわー!」
私は射撃していないので、おそらくリクトがダイチを誤射した。
私はその隙に立ち上がって一気に間合いを詰める。
『ロロアちゃん敵の動揺を見逃さないで!!』
「うん!そのつもり!」
ダッシュしながら、スパークライフルの風穴が開いた引き戸を全身で破壊する。
ビームが射出された場所を計算したら、リクトはここにいるはずだ。
「ゴメン!ダイチ!!間違えて当てちまっーーーあ!!」
私は引き戸を倒して勇猛果敢に目の前に現れた。
『リクト君!誤射はいいからロロアに集中して下さい!』
ママの声が絶句したリクトのヘッドギアから漏れる。
「いただき!リクト」
私はリクトの胸をバスターで貫いた。
「うわー!疲れたーー!この緊張感、半端ないね!」
きゅぽん!と、ヘルメットを脱いでママからA缶を貰った。
模擬戦が終わり、汗を拭きながら皆でジュースを飲む。
A缶を開けると内部のストローがカシュ!と言う音と共に飛び出して、喉を潤すと確かな手答えと達成感に心のフィンが軽快に回るのを感じた。
それでも秋晴れの空にどことなく哀愁を感じるように、何かが私の心に霞をかける。
この気持ちはなんだろう?
「リクトが誤射しなきゃ、包囲を固めてロロアちゃんを蜂の巣にできたのに!」
ダイチが悔しそうにリクトに言う。
「ゴメンな!しかし、目の前にロロアちゃんが現れたのは怖かったな!」
「戦いは常に相手を裏切る事にあるの!ロロアちゃんは見事に敵の懐に入り込んだ。咄嗟の判断と勇気がロロアちゃんに勝利をもたらしたのね!」
テリンコさんがピロトカを直しながら言う。
ママ(クマのぬいぐるみ)が膝の上に乗って私の顔を拭いてくれた。
「ロロアちゃん大丈夫?痛くない?」
「私は大丈夫だよ!それよりも・・。」
「それよりも?」
「本当に戦う事が正しいのかなって。」
私の言葉にリクトもダイチも静かにこちらを見る。
私はお腹にある電子炉がツンと冷たくなるような緊張感が走った。
その冷たさが私の喉を頑なにし、何と言えばいいか言葉に詰まる。
「昨日、道徳の授業で『ささいな事で喧嘩したら』と言う授業があって。きっとロロアちゃん、その事を気にしているのだと思います。」
「ゴメンなロロアちゃん。つい喧嘩と戦争を一緒にしちゃって。一番悩むのはロロアちゃんだと言うのに。」
私の代わりにリクトが話し、ダイチが謝る。
「大丈夫だよ2人とも・・。でも、先生の言葉に考える所はあるよ・・」
私は右手を摩りながら考えた。
バスターを戦う以外に使うとしたらどう使うのだろう?
「ロロアちゃん。私はチームガンバの一隊員として、あなたに戦い方を教えたわ。・・でも、私は決してロロアちゃんに殺戮者になる事は望んでいないの。戦いが正しいのか、誰が正義かなんて誰も答えられない・・。でも確かにあるのはメルヴィアに計り知れない脅威が迫っていると言う事。そして、その運命を私たちが変えれると言うことよ。」
「うん。」
私が下を向くとママが優しく覗き込む。
「ロロアちゃんが戦いたくないと言うのなら、それも選択だと思う。ゆっくり決めた方が良いんじゃないかな・・。」
「うん・・・。少し考えます・・。ごめんなさい。」
私はいてもたってもいられなくなって体育館を出た。
「ロロアちゃん!模擬戦は終わった?あっ!」
「ごめんなさい、メリル!ユミルも!」
メリルがケーキの入った箱を持ってきてくれたのがチラッと見える。
それでも私は歩みを止めず、自分の心の赴くままに歩き出した。
「ロロアちゃん!」
「メリルさん・・少し1人にしてあげましょう・・。」
私は体育館を出て、校庭に向かう。
そこには二双式輸送機の整備をしているマナツさんがいた。
「ロロアちゃん?調子はどうだ?・・おおい?」
「少し・・考えさせてください・・」
私はマナツさんの前を通り過ぎると、学校を出た。
「万が一、空襲があっても慌ててはいけません!敵の爆撃機が見えても爆弾を落下させるまで時間がかかりますから安心です!ですので、迅速な行動と冷静な対応が必要なのであります!」
街ではチームガンバの隊員が避難用シェルターの説明をしている。
神社には高角砲が建てられ、メインストリートの円形交差点の真ん中にある広告塔が撤去されてパラボナビームが置かれ。
どうしても『戦争の臭い』がして、私は商業区に行くことにした・・。
しかし歩く事で床から浮き出るホログラムも『空襲の備えは万全ですか?』と言う食品会社の広告に変わり。
チームガンバに入隊する手順が様々なモニターに流れていた。
空襲が来る。
そして、私が空襲をやっつける手段を持っている。
私のバスターに何が出来る?
他の可能性っていったいなんだろう?
カンカン!
「ここは危険ですよ!」
「ご、ごめんなさい!」
路面電車が私の前を通り過ぎ、ここで私は我に返った。
「あら、ロロアさん。お買い物?」
「ルルリアさん!」
見るとルルリアが買い物カゴを持ってディスプレイモールから出てくる所だった。
カゴからホログラム化された一覧が浮かび上がり今日の食材を表示する。
「今日のご飯はカレーなの。ロロアさんのお宅は?」
「あ・・えっと。私の家は、ママが転送したビストロトミー(原子結合料理)で作っているから・・」
「すごい!・・ん?・・どうしたのロロアちゃん?少し元気がないみたいだけど・・?」
「うん・・あのね。」
そうだ。『この戦い』は私だけの問題ではないのだ。
私は思い切ってルルリアに相談することにした。
「あっ!あんな所に居た!ロロアちゃーん!!」
しかし後ろから聞き覚えのある声がした。
メリルがモンブランを持って路面電車の反対側で手を振る。
きっと私が心配で追いかけて来たのだろう!
「あっ!メリル!!」
「心配して来ちゃったーー!一緒に食べよう!!」
「うん!!!」
「メリルさん!!危ない!!」
「えっ!?」
それは一瞬の出来事だった。
黒いワゴンが路面電車帯に入り、後部座席のハッチが開いて、メリルを抱き抱えて連れ去ってしまった。
「メリル!!!!きゃっ!!」
私が追いかけようとした瞬間、道路消火用の煙型スプリンクラーが作動して辺りが見えなくなる。
「うう!げほっげほっ!!」
「メリルの乗った車を見失っちゃった!大丈夫?ルルリア!」
私はバスターを構えるも既に車はなく。
ひとまずルルリアを抱き抱えるとスプリンクラーの外に待避した。
「ロロアちゃん!あれ!メリルを連れ去った人が落として行ったんだよ!」
「え!?」
そこにはカードが刺さった黒いダンボールが落ちていた。
『第110管区で待つ。女の子を助けたければ1人で来い。決して他言せぬ事。』
「こ、これは・・」
「これは罠だよ、ロロアちゃん!マナツさん達に相談しよ?」
「うん。メリル、待っててね!必ず助けに行くから!!」
私はメリルの連れ去られた方角を睨みつけた。




