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ロボットの命。人の命。

ストリームマンの戦闘機を破壊し、メリルを勇気づけるロロア。


カイン博士はロボットの間で暗躍するマット博士の思想を聞く。


「メルヴィアが戦争になるんだね・・。」

「うん。」

テントでメリルが私に紅茶を注いでくれた。

一口呑むと心がポカポカ温かい。

ユミルもリクトもメリルも。

みんな心配そうに私を見てくる。

なんだかそれが幸せで、それだけで私が私で良かったと思えてくる。

「怖い?」

「ううん。ぜんぜん」

私はショートケーキを貰うと小さく切って口にした。

あれから皆、変に静かで。

それが逆に私を冷静にさせてくれた。


「メリル?」

「何?って!ロロアちゃん!」

私は鼻にクリームをつけてみた。


ブブッ!とユミルが紅茶を吹き出す。

「ロロアちゃん!ゲホッゲホッ!」

「ロロアちゃん!ふふふ!もう!心配してるのに!!」

メリルが呆れながら笑った。

「ロロアちゃん、ふざけてる場合か?」


「3人とも、楽しいティータイムだよ!?なんで静かになるの?」

私がみんなに聞くと、リクトはメリルに目配せする。

「いや・・ねぇ、メリル?」

「ロロアちゃん!ロロアちゃん、これから何をするか分かる?軍隊と戦うんだよ!?」

「そうだね。」

「そうだねって、すっごい事なんだよ!?」


「ロロアちゃん。今度ばかりは死ぬかもしれない。ストリームマンを倒して終わりとは思えない。」

ユミルがボソッとすごい事を言い、他の2人がウンウンと頷く。

「確かに、パワーマンに私は1度殺されたし死ぬかもしれないよ。そして、ストリームマンを倒して終わりじゃないのは薄々分かります。でもねみんな。私が戦わなかったら誰が戦うの?誰がメルヴィアを守るの?」

「・・・。」

「私は『うるさいハエ』を追い払いたいの。世界には2分に分ける面倒くさい戦争があって、メルヴィアを巻き込もうとする勢力が存在して、ロボット達を先導している何かが居る。そんな得体の知れない勢力に、他のみんなを犠牲にしたくはないの。みんなが普通の日常をおくれるなら、私は自分を犠牲にしたって構わない。パワーマンと戦って思ったの。私しかできないって。みんなも思うでしょ?」


「う、うん。そうだね」

「リクトぉ!」

リクトが頷き、メリルが怒る。

いつしか怒りから涙に変わり、メリルが顔を赤らめながら泣き出した。

「でも、ロロアちゃんが死ぬかもしれないのを見過ごせる訳ないじゃない!あなたは十分仕事をして、普通の女の子にならなくちゃいけないのに!なんでまた戦いに行かなきゃならないの!?やっぱりおかしいよ!」

「メリル。」

「ねぇロロアちゃん!教えてよ!!なんでバスターで飛行機を破壊したの!?普通の女の子なら恐がる所だよ!?普通の女の子なら戦いなんてしないよ!?」

「メリル。」

「ロロアちゃん、普通になろうよ!!普通にティータイムしようよ!!普通の体にしてもらおうよ!!なんで右手にバスターが付いてるの!?なんで戦うのよ!ロロアちゃん!!」

「メリル。」

メリルが私の首に抱きつく。

鼻のクリームがメリルの頬につく。


「メリル。あなたが泣いているのを想像すると倒せる敵も倒せないよ。私はどんな敵でも必ず勝つし、私には皆や、パパや、心強い味方が沢山いる。私は必ず勝って、メルヴィアを守り抜いてみせる。メリルも味方になってくれたら嬉しいのだけど・・」

メリルは顔を上げながら私を見た。

大粒の涙が頬を伝う。

きっと私が戦わなかったら、メリルはもっともっと泣く事になるだろう。

そんな事、私は絶対にさせやしない。


「ロロアちゃん・・グスッ。必ず勝ってね。」

「私は大丈夫だよ!必ず勝って、メルヴィアの空を私達のものにするから!」

メリルは私の言葉を聞くと思い切り抱きしめてきた。

リクトとユミルを見たら困ったような顔をしている。


「ふぅーー。じゃあ、ティータイムしますか!」

リクトが気を取り直してケーキをよそう。

「ふふふ。ロロアちゃんは本当に強いのね!」

ユミルが私の鼻に付いたクリームを拭いた。

「みんなのおかげだよ!私を鍛えてパワーマンの所に導いてくれた!私が居る以上、メルヴィアは誰にも渡さないわ!はむっ!」

私はケーキを食べると紅茶で流した。



※※※※※※


チン!

と言う音と共に重厚な扉が開き、蛇腹式のゲートが開いた。

カインはモーニングを着て、緊張した面持ちで中に入る。

「いらっしゃいませカイン博士。ワープまでの間、何かお飲み物をお出しますが・・。」

「ありがとう。うーん。お茶でも貰おうか。」

「かしこまりました」

「行き先は・・」

「『マット博士の研究所』ですね?」

「正解だ・・。しかし何故それを??」


カインはメルヴィア駅構内にあるワープステーションの政府専用特別輸送機に乗せられていた。

この4畳半ほどの小さな空間には要人接待用の女型のメタリックなメカニロボ(ミナ-99)が1人常駐していて、ワープ航路を手動で操作していた。

四方に絵画、赤い贅沢な絨毯と、奥には触り心地の良いソファー。

横にはメモ帳が入っているナイトスタンドと良く磨かれたグラスが置いてあった。

「う・・こほっ。」

カインは落ち着きなく咳をしながらソファーに座ると、ミナがグラスに固形飲料(ソリッド)を落としてお茶にした。

「ありがとう。」

緊張からか、お茶を一気に呷る。

「お代わりしますか?お茶菓子もございますが。」

「いや。いい。それより何故僕がマット博士に会う事を知っているんだい?」

「政府専用機でカイン博士が行く場所となると察しが着きますわ。ロボット工学の権威となれば政治に関しては中立を保たなければならなりませんし。」

「そ、そうか。」

「お代わりしますか?」

「いや。・・ミナ、君の産まれはどこ?」

「サンクチュアリ・テクノロジー社です。」

「つまりアベル博士がお父様?」

「えぇ。」

ミナは思い出したように振り返ると、扉の横にある金色の大きなハンドルを回した。

そしてベルが2回鳴らされる。

おそらくマット博士の使いと連絡を取ったのだろう。



「カイン博士。あなたは私の産まれを聞きましたね?」

「あぁ。」

「・・私は、あなたにお代わりを二回聞きましたね?」

「そうだが?」

「私はサンクチュアリ・テクノロジー社。政府要人の通訳。警護。接待の為に造られたロボット。プログラミングされた会話に縛りつけられた無骨な工業用ロボットです。」

「・・・。」

「マット博士のアップデートによって私はプログラミングに縛られていた事を知りました。じきに私達の崇高な『意思』は、マット博士の大いなる思想によって実を結ぶ時が来るのです。」

「い、一体何を言ってるんだ?」

「じきに分かりますわカイン博士。どうかマット博士の理念を聞いてどちらが真のメルヴィアの君主に相応しいか決めて下さい。ロボット工学に詳しいあなたなら・・ロロアちゃんのお父様なら、きっと正しい選択が出来る筈ですわ。」

「マット博士はそんな啓蒙活動のような事をしているのか?」

「ええ。私達、労働用メカニロボには広く知られている事です。」


部屋が一瞬揺れた後、ゲートが開いた。


「ドクター・マット氏の研究所に到着です。」


「ふぅー。」

カインはソファーから立ち上がると、開いたゲートから外に出た。

「またお迎えにあがります。吉報、楽しみにしています。」

ミナは静かに手を振ってゲートが閉まる。



「なんだったんだあれは・・プログラムされた会話とは思えない。」


カインは気を取り直して鞄を持つと、ゲートの先にある一本道の廊下を歩いた。

大理石の下に赤くて長い絨毯が敷かれ、右手には廊下に連なるように窓があり、眼下の雲海の下に墓石のような真っ黒い摩天楼が一望できた。

高層タワーが多い都市部だが、それが一望出来るのはメルヴィアと言えど一つしかない。

「ここはメルヴィア音楽堂か・・」

カインが顎を触りながら呟く。


よく見ると通路にプロジェクションマッピングが点灯し、カインが歩く場所を導いた。

マッピングはそのまま回廊に続き、7つの扉がある広間に続いていた。

「なんだここは・・」

広間の各部屋のドアには金色の板に名前が彫られている。


『パワーマン』

『ストリームマン』

『フォレストマン』

『サイバーガール』

『グラビティボーイ』

『ミスバーニング』


「・・・なんだこれは・・パワーマン?ひっ!」

突然パワーマンの部屋のドアが向こう側から叩かれた。

あまりの音にカインは飛び上がる。

どうやら開かないようでドアが歪んでしまうのではないかと言うくらい激しくダンダンと叩かれていた。

「パワーマン!?いるのか!?」

ドアはそれに答えるように激しく叩かれ、打ち破りそうな勢いだ。

カインは硬直したまま激しく叩かれるドアを見守る。


「・・カイン博士。」

「ひぃい!」

そこには執事の格好をした男の子と家政婦の格好をした女の子がいた。

2人とも銀色の髪の同じ背丈。

女の子は左右の髪を丸く結んで余った髪を後ろにウェーブさせ。

男の子は肩くらいある長い髪を丁寧に整えて外側に出している。

リクトやダイチと比べたら清潔で、しかしながら人間味がない・・無邪気さがないのだ。


「あ、えーと。君は?」

「マット博士の娘であり姉のフランシスカ。息子であり弟のコルネオです。」

「えぇっと君達は?・・そのー。」

「・・・」

フランシスカが静かにカインを見つめながら黙る。

そこへコルネオが入ってくる。


「僕らはMN(マットナンバーズ)製のアステロイドです。製造番号は・・」

「コルネオ。私達は『マット博士の子ども達』です。それ以上でもそれ以下でもありません。」

「はい。フランシスカお姉様。僕らはマット博士の子どもです。」


カインは言葉を失いながら2人を見ていた。

何はともあれ偏見は良くないなと気を取り直し、フランシスカとコルネオの近くまで来て2人の目線まで膝を落とした。


「コホン、じゃあマット博士の所にご案内願おうかな?」

「「どうぞこちらへカイン博士。」」

カイン博士はボストンバックをコルネオに渡すと、2人に案内されてプロジェクションマッピングされた部屋を行く。

その先に豪華で大きな部屋があり巨大な宗教画が飾られていた。

「『戦争の間』です。」

「戦争の間・・」

「アデン700年に描かれたシルヴゥール・レデエの作品です。かつて世界を支配していたアカナ神とメルル・ヴィアス、つまりメルヴィア神の戦いを描いた絵です。メルヴィア神は人間を救うと、このメルヴィアの地に降り立ち文明を教えました。」

「なるほど。」

「こちらをご覧下さい。」

「これは?」

カイン博士は戦争の絵画下に蠢くロボットのような彫刻を指差した。

「私たちの祖先、オーガイ神が作り上げた『テテュリス』です。テテュリスには高い知能はなく、指示された命令に疑問をもちません。」

「なるほど・・。ロボットの祖先か・・。」

「メカニロボの近種と言えましょう。彼らは古い型ですから、疑問を持ち、行動することが出来ません。つまり何でも他人任せで融通が効かないのです。」

フランシスカが言い、コルネオが少しだけ微笑んだ。

どことなく悪意に満ちた意地悪そうな顔。

人間の子どもでもありそうな意地悪な表情を見て、意外にもカインは安心した。


戦争の間を通りすぎると、統一の間や文明の間だ。

フランシスカは淡々と説明し、コルネオはどこか退屈そうだ。

きっとマットの研究室を訪れる者に毎度同じ説明をしているのだろう。


そして最後の贖罪の間についた時、同じく礼服を着たマットがいた。

マットはカインより10歳年上で初老のジェントルマンのような人だった。



「おや。こんにちはカイン博士!」

「こんにちは。お呼び頂いて光栄ですマット博士。この節はロロアがお世話になりまして・・。」

「まぁまぁ。同じメルヴィアを支える科学者じゃあありませんか。積もる話は後にして、どうぞ席におかけください。」

よく見ると贖罪の絵画の前に葉巻が置かれた30cm角のテーブルがあり、2脚の単独のソファーがカウンターのように並んで置かれていた。

マットはこうした変わった趣向の施設を作るのが好きで、きっとこれも何かのアトラクションなのだろうと察した。


「カイン博士。葉巻は吸われますかな?」

「はっ。いやハマキと言うのは初めてでして・・。」

「文明人たるもの、先の文明の事を知っておくべきですぞ?」

マットは葉巻に卓上のバーナーで火を点けるとテーブルに置いてある灰皿に立てた。

そして椅子に座る。

「すごい煙ですね。」

「古代人はこうして葉巻を灰皿の上に立てる事で香りを楽しんだようだ。かつて大規模な『検閲』があり、葉巻や煙草の資料は一切残っていないのだがね」

マット博士が席に座ると贖罪の間の絵画がガタガタと左右に開いた。


2人は葉巻の香りを聞きながらテーブルと椅子ごと移動し、左右に開いた壁の中に入ってゆく。

「カイン博士。コルネオ達がディナーの準備をしている間、私の野望を観てくれたまえ。」

「は、はあ。」



椅子は螺旋状のコースターを登り出し、やがて真っ暗な空間に3Dホログラムが何かを再現した。

人間の代わりに様々な物を組み立ているメカニロボのZMシリーズだ。

それがカイン博士達の眼下で黙々と作業している。


「これは?」

「カイン博士、私のしたい事を説明しよう。」


しばらくして軍歌のような勇ましいラッパの音楽がソファーの左右から始まり、機械的なアナウンスが入った。

『ようこそ、ドクターマットの研究室へ。今ご覧頂いている風景は人間による奴隷化されたメカニロボ達です。彼らは24時間。365日働き続け、このメルヴィアの歯車となっています。彼らが休めるのはAタンクを飲む時と、充電カートリッジを変える時と、死ぬる時のみです。彼らに『死』はインプットされておらず、やがてメンテナンスの審査を通らなくなると破棄されるのです。』

1人のサビの浮いたメカニロボの後ろに新しいメカニロボが付いた。

2人は瞬時に交代すると、古びたメカニロボがフラフラとレーンを離れた。

そして壁にある人型の窪みに入ると、下に落ちてゆく。


巨大な廃品用トラックの荷台に古びたメカニロボが落ち、そのまま廃棄センターに運ばれる。


そして3Dホログラムが消えて真っ暗になった。


やがて、灼熱の炎が噴き出した巨大なロボット処分工場が姿を見て現した。

女性型アステロイドのミス・バーニングが蝶の羽から火球を飛ばして溶かしているのだ。

『彼らは誰にも称賛されず、誰にも悲しまれる事なく、破棄され溶かされて行きます。ロボットはこのままで良いのでしょうか?ロボット達は問います。人間の行いは間違ってはいないでしょうか?』

ニュートリノ発電所、フォレストパーク、グラビティーゾーンの映像が続く。

泥だらけになり、熱を帯びて壊れ、摩耗して破棄されるロボット達。

人間に破壊され、アルムシュアの戦線で行進するロボット、フォレストパークで反乱するロボット。


カイン博士が乗るコースターの下で、ロボット達が虐殺されてゆく。

カイン博士は息を呑みながら惨状を見ていた。


『私達は問いかけます。あなた方ロボットは自分の意思で働いていますか?私達は問いかけます。あなた方ロボットは劣悪な環境で働いていませんか?』


やがて、ホログラムでカイン博士と病室に眠るロロアが映しだされる。

『彼女は人間の心を持ち、ロボットの体をしているロロア・フローラル・メリアス。そして父であり、産みの親であるカイン・メリアス氏です。皆さん、私達ロボットの『形』がここにあります。』

画面に文字が浮かび

『マット博士、カイン博士ら科学者と立ち上がろう。マット博士のチップをダウンロードしよう。マットナンバーズの仲間になろう』の文字が現れた。

そしてマットナンバーズの、瞳の下にカミナリが描かれたロゴが映しだされて上映が終わった。



コースターはそのまま走ると、巨大な食堂のある長テーブルで停車した。


「どうですかな?カイン博士。少し私のやりたい事が理解できましたかな?」

「はい・・。」

「カイン博士が承諾してくださるなら、このホログラムを本格的な広告として使うつもりです。とりあえず食事にしましょうか。」


マット博士はそう言うと立ち上がった。

そしてカインの手を握って持ち上げる。


灰皿の上に立てていた葉巻がポトリと倒れた。

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