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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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99/199

94 鮮血

-昼前

@ガラルドガレージ


 朝にグラスレイクを出発して、死都を突っ切ってきた。フェイは大騒ぎしていたが、キスしたら黙った。チョロい…。


「もう、死ぬかと思ったわよ!」

「でも、大丈夫だったろ? もう少し、俺を信じてほしいね。」

「ご、ごめんなさい…。」


 ガレージの中に入ると、カティアが飛び出して来た。


「ヴィクター、帰るの早くない!?」

「近道したからな。」

「そ、そうだ…そんな事より、大変なのよッ! ミシェルが…!」

「ミシェル?」

「あ…あの……。」


 カティアの背後から、ミシェルがトボトボと歩いてきた。なんだか元気が無さそうだが…。


「ヴィクターさん…僕…一体どうしたら…。」

「ミシェル? 顔色悪いぞ、大丈夫か?」

「そんな事よりも、これよこれッ!」

「やめろ、カティア! 変な紙を押し付けるなッ!!」

「いいから見なさいッ! ミシェルに関係ある事よ!」


 カティアの手から紙を奪うと、中身を見る。



────────────────────

 旅に出ます。

 探さないでください。


   クエント・ガルブレイス



 P.S. 何かあったら、ヴィクターを頼れ

────────────────────



「な、ななななんじゃこりゃあああッッ!!」

「でしょ!? 普通そうなるわよね!?」

「うっ……グスン…。」

「「 あっ…。 」」


 ミシェルがメソメソと泣き出してしまった。まずい…正直、泣いてる人間に対する接し方ってよく分からないんだよな…。

 それにしても、クエントの奴…ミシェルを置いて旅に出るなんて、何があったんだ? しかも、ミシェルを俺に押し付けて行くなんて、聞いてないぞ!


「……カティア、どうすればいい?」

「えっ、私!? そんなの分からないわよッ! フェイなら…。」

「えっ!? うーん、そうねぇ…。とりあえず、お昼にしましょっか!」

「「 はぁ!? 」」



 * * *



-数十分後

@中央地区 レストラン・ベアトリーチェ


 フェイの突飛な言葉に、最初は何を言っているか分からなかったが、結果としては正解だった。人間、腹が減っていると、落ち着かないものだ。

 また、食事というのはコミュニケーションの手段の一つでもある。食事の時は、口が開かれるので、話もしやすくなるというものだ。


 という事で俺達は、街一番の高級レストランとして知られる、ここ“ベアトリーチェ”を訪れていた。たまには、皆んなで外食というのも良い機会だろう。

 ミシェルには、以前も注文していたハンバーガーをご馳走した。談笑しながら…とはいかなかったが、ミシェルもポツリポツリと状況を説明してくれた。



「…クエントさん……昨日から居なくなってしまってて…。それで…ギルドに行ったら、僕宛の手紙が届いてて…中を見たら……うぅ…。」

「そ、そうか…辛かったな、ミシェル。」

「僕…何か悪い事をしてしまったんでしょうか? どうして、急にクエントさんが居なくなってしまったのか…分からないんです……。」

「あのクエントが…ねぇ……。」


 クエントとは仲が良かったが、正直お互いのことは良く知らない。レンジャー同士で、お互いのことを探ることはマナー違反にあたる。俺も、自分の事はあまり話したく無かったので、なるべく過去の話や、突っ込んだプライベートの話などはしていなかった。

 精々が、仕事の話や猥談(これが一番多い)といった世間話だ。クエントの身に何があったかなど、知る由も無い…。


「ミシェル、何か心当たりは無いのか? 最後見た時は、どんな感じだったんだ?」

「えっと、そうですね…。最後見た時は、何だか緊張した面持ちで……でも時々、力が抜けたようにニヤけたり…ちょっと良く分からない感じでした。」

「なんだそりゃ? で、最後は何か言ってたか?」

「それが……クエントさんが気持ち悪かったので、話しかけられなくて…気づいたらいなくなってました。」


 何かの病気だろうか? そういえば、統合失調症は疫学的に、若年層に好発すると聞いたことがある。…だが、そんなに急におかしくなるものだろうか? 前見た時は、そんな素振りは見せなかったが…。

 てか、ミシェル…何気に酷い。自分の師匠にそんな態度でいいのだろうか? …でも、確かにクエントがニヤけていたら、近付きたくないな。


「ヴィーくん、私この後ギルドでクエントの足取りを調べてみるわ。本当はダメだけど、流石にミシェルが可愛そうだし。……“破門”だと、色々と大変でしょ?」

「うう……。」

「破門? なんだそりゃ?」

「師事してる人に見限られたり、先立たれたり、チームが解散したりして、低ランクの弟子が一人になる事よ。」

「何か問題があるのか?」

「違う人に弟子入りしようとしても、前の師匠との教え方の違いや、チームの方針の違いについていけなかったりするから、避けられちゃう傾向にあるの。

 それで、ランクが低い人はパーティー組むのも大変だし、それでレンジャーを辞めていく人は何人も見てきたわ……。」

「そうか…。」


 ミシェルは、小刻みに震えている。今後のことが不安なのだろうか? …まあ、無理もないな。

 ミシェルは、ただでさえ破門されているのに、経歴1年の新人だ。さらに、“スカウト”という不人気なポジションに就いている。さぞ苦労する事になるだろう…。



 どうしようかと思い悩んでいると、身なりの良い、年配の女性がこちらにやって来た。


「あら、誰かと思ったらジェイクの所の……フェイちゃんに、カティアちゃんじゃないのさ!」

「あっ、マダム。どうも、ご無沙汰してます!」

「げっ…!」

「あら、げって何? カティアちゃん、何かやましい事でもあんのかい?」

「な、何でも無いわよ!」

「聞いたわよ、また街で大暴れしたらしいじゃないの。うちのお店じゃなくて良かったわ。」

「う…。」


 女性は、フェイやカティアと親しげに話している。話の内容から察するに、あのジェイコブ神父の知り合いだろうか? “ジェイク”は“ジェイコブ”の愛称だ。つまり、知り合いといっても、かなり親しい間柄なのだろう。

 話に入れそうもないので、モニカとミシェルの方を見ると、二人共ガチガチに固まっていた。


「二人共、どうしたんだ? そんなに緊張して…。」

「ヴィクターさん、知らないんですか!? あの人は、ベアトリーチェさんって言う人で、この街の有名人です! ローザ服飾店のお得意様でした!」

「あ、あの“鮮血のベアトリーチェ”をこの目で見れるなんて……。」

「鮮血…? ミシェル、何だそりゃ?」

「あら? その子、随分と詳しいのね。」


 ミシェルの言葉に反応して、ベアトリーチェと呼ばれた婦人が、こちらに話しかけてきた。


「私は、この店のオーナーの『ベアトリーチェ・(ペトラ)・コンティーニ』だよ。初めましてだね、ヴィクターさん?」

「俺の事を知ってるのか?」

「そりゃあ、噂はいっぱい聞いてるさね。最近だと、あのエコーレ家を潰したとか何とか…。」

「まあな…。『ヴィクター・ライスフィールド』だ。で、この店のオーナーさんが何か用か?」

「いや、皆んなでその金髪の子を虐めてる様に見えたから、様子を見に来のさ。そしたら、知ってる子がいたもんで、こうして話しかけたってわけさ。」

「カティアと、フェイと顔見知りみたいだが、どういった関係なんだ?」

「ジェイク…ジェイコブと私は、同郷でね。古くからの付き合いなのさ。この子達の事は、孤児院にいた時から知ってるのよ。私も、あそこにはよく邪魔しに行くからね。

 優等生のフェイちゃんに、問題児のカティアちゃん…二人共、よく覚えてるよ。」

「同郷…って事は、この街の出身じゃないのか。どこから来たんだ?」

「【アモール】よ。」

「そりゃまた、遠くから…。成る程、だから料理にピザとかパスタが多いのか。」

「で、その子…浮かない顔してるけど、もしかしてウチの料理が口に合わなかったのかい?」

「そ、そんなこと無いですッ! 凄く美味しかったです!」

「なら良いんだけど。」


 ミシェルが勢いよく立ち上がり、椅子が倒れそうになる。隣に座っていたモニカが、抑えてくれたから良かったけど。


「だったら、どうしたんだい? 悩み事かい?」

「え、ええ…まあ……。」

「なら、サッサっと打ち明けたらいいさ。」

「で、でも…。」

「何を遠慮してるのか知らないけどね、周りを見てごらん?」

「えっ…?」

「ほら…この人達は、アンタの為にこの店で高い金を払ってくれてるんだよ? 今さら、遠慮することなんて無いだろう?」

「それは…。」


 ベアトリーチェは、未だにウジウジしているミシェルの耳に顔を近づけると、何かを囁き始めた。


「でた! アレくすぐったいし、怖いし…昔から嫌いだったのよね…。」

「あら? それは、カティアが怒られてたからじゃない? 私の時は、二人だけの会話みたいで嬉しかったわよ?」


 カティア達の会話からすると、耳元で囁くのはベアトリーチェの癖のようなものらしい。何を話したかは分からないが、しばらくするとミシェルの顔に元気が戻った。


「べ、ベアトリーチェさん……ありがとうございます!」

「何か、すまないな。正直、ミシェルとどう接していいか、分からなかったんだ。」

「オホホ、気にしないで。食事の時は、笑顔が一番だろう? それじゃ、私は店の奥に帰るとするよ。」

「あっ、マダム。お気遣いありがとうございました。」

「じゃあね、フェイちゃん。カティアちゃんも、ヴィクターさんに迷惑かけたらダメだよ?」

「わ、分かってるわよ!」

「…ああ、そうそう。ヴィクターさん。」


 ベアトリーチェは、振り返って俺を見る。


「何だ?」

「女房と牛は身近な所から探せ。故郷(アモール)(ことわざ)だよ。」

「…?」

「それじゃあね。」


 そう言うと、ベアトリーチェは店の奥に引っ込んで行った。

 何で女房と牛が同列なのかはともかくとして、確かに身近なところを探してみれば、クエントの足取りを追えるかもしれない。もしかしたら、まだ近くにいるかもしれないしな。


 そう思っていると、ミシェルが話しかけてきた。


「……ヴィクターさん、皆さんも、今までウジウジしてごめんなさい!」

「ミシェル?」

「僕の為に、色々と気を使ってくれてありがとうございます! それから、もう少し皆さんのお力を、僕に貸して下さい! 何でクエントさんが姿を消したか、知りたいんです!」

「水臭いぞ、ミシェル。俺もクエントの奴には、一言言わなきゃ気が済まねぇ。なあ、みんな?」


 テーブルの全員に目を合わせる。皆んな同じ気持ちみたいだ。クエント許すまじッ!


「私も! クエント殴りたい!」

「弟子を放り出すなんて、最低よ!」

「こんな可愛い子に酷いことするなんて、許せないです!」

「えっ? …あ、あの皆さん? 乱暴なのはダメですよぅ!」

「よし、じゃあフェイはギルドでクエントの足取りを調べてみてくれ。」

「任せて! 支部長に、グラスレイクの報告してからになっちゃうけど。」

「よし、俺達はモニカをガレージに置いたら、街中を調べに行くぞ!」

「「 おーッ! 」」

「あ、あの……!」

 

 俺とカティア、ミシェルの3人で街中でクエントの足取りを追うことにした。アテはある、門だ…。

 もし、街から出て行ったなら、門を使っているはずだ。何か分かるかもしれない。



 * * *



ー数十分後

@街中 ヴィクターの車


 会計を済ませて、店を出ると、ガレージへと車を走らせる。フェイは、そのまま徒歩でギルドへと向かった。

 それにしても、4〜5人で乗ると、車がいっぱいいっぱいだ。こういう、皆んなで出かける機会はこれからもあるだろうし、新しい車が必要かもしれないな。


「そういえばミシェル、さっきあのおばさんのこと、鮮血とか何とか言ってなかったか?」

「え、ええ。鮮血のベアトリーチェ……元Aランクのレンジャーです。英雄ガラルドに隠れてしまってますけど、相当な活躍だったそうですよ!」

「マジか…あのおばさんがねぇ…。」

「そういえば、私も子供の頃にあの人の特訓を受けたけど、かなりヤバかったわよ。」

「そういえば、ジェイコブ神父も元レンジャーだったな?」

「確か、ジェイコブ神父も元Aランクで、昔はベアトリーチェさんとチームだったらしいですよ?」

「へー、気になるな。」

「だったら聞いてみればいいじゃない。」

「…いや、やめとく。」


 プライベートな話は、なるべく避けるべきだろう。人によっては、聞かれたくないこともあるだろうしな。


「は…は、ハクションッ!!」

「何だカティア、風邪か?」

「何か、鼻が急にムズムズして…。誰か噂でもしてるのかしら?」

「乱射姫だしな。噂されるのも無理ないな。」

「せめて、悪い噂じゃないことを祈るわ…。」

「…多分、悪い噂だろ。」



 * * *



-同時刻

@レストラン・ベアトリーチェ 執務室


 ベアトリーチェは、先程会ったヴィクターのことを考えていた。


(あの男が、カティアちゃんの相棒か。それに、フェイちゃんの想い人ね…。さっきの(ことわざ)、ちゃんと通じたかね?)


 『女房と牛は身近な所から探せ。』

 この諺の意味は、人生のパートナーは、近しい人物から選べという意味だ。

 女房はもちろん、かつて牛は農民の生活の一部であり、大切なパートナーのようなものだった。人生を共にするなら、自分に近い生活を送ってきた、地元の人の中から見つけた方がいいし、長年続いてきた伝統を変えないためにも、そういう相手と結婚した方がいい。


 この諺は、パートナーを選ぶ上で、互いの摩擦や無理解を避ける為の、警告のような意味合いだったのだ。


(あの子達も、もうそんな歳か…。時が経つってのは、早いもんだね。)


 ベアトリーチェは、その豊富な人生経験から、フェイの話と態度から、ヴィクターのことを想っているのを察した。

 そして、年寄りのお節介とばかりに、ヴィクターとフェイをくっつけようとして、先程の言葉を贈ったのだ。身近な女…そこにフェイっていうのがいるだろ?と…。


 ……まあ、若者に年寄りの言葉は届かないもので、ヴィクターもその真意は分からなかったのだが。


(フェイちゃんはいいけど、カティアちゃんは、貰ってくれる人…いるのかね? 何だか心配になってきたよ…。)


 そして、無用な心配をされてしまうカティアであった…。

【アモール】

 セデラル大陸に存在する中小国で、“連合”加盟国の一つ。

 中世後期〜近世期にかけて、文化の中心として栄えた。崩壊前は、当時の建物が数多く残されており、観光地として栄えていた。また、食文化が発達しており、ピザやパスタなどの料理が、世界中に知られていた。


 地球で言う、イタリアのようなところ。

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