82 俺の機関銃
-翌日 夜
@BAR.アナグマ
「しっかし、この組み合わせはいつ見ても意外だよなぁ…。」
「何だよ、クエント。羨ましいのか?」
「何? ヴィーくんとくっついちゃダメなの?」
「いや…レンジャー達の間で話題になってるぞ、お前達…?」
今日は一日、フェイとバザールを見て回ったり、映画を観たり、フェイの買い物に付き合ったりして過ごした。平たく言えば、デートだ。
それで、一日人混みの中にいて疲れたので、ここアナグマにて静かに飲もうと思っていたのだが、先客がいた。クエントとミシェルである。
クエントが言うには、俺とフェイの関係がレンジャー達の間で噂になっているそうだ。俺は、クエント達以外のレンジャーと関わる事は殆ど無い。パーティーを組むことが少ない上に、組むとしてもクエント達くらいなのだ。その上、変な噂のおかげで、俺に絡んでくる奴もいない。
カティアも、乱射姫とかで色々と避けられている為、他のレンジャーとの接点が少ない。その為、俺達のチームは謎に包まれた不気味なチームという印象がある。
それが、変な噂を呼ぶ事になる要因でもあるのだが、今さらどうしようもないだろう。
「はぁ…俺も彼女欲しいな…。」
「クエントさんはまず、女性の身体を触る癖を何とかしないとダメですね。」
「ミシェ〜ル! こいつめ!」
「ああっ! ぼ、僕のサンドイッチがッ!」
クエントが、ミシェルのサンドイッチを奪って食べてしまう。相変わらず、仲は良いようだ。
「そういやクエント、お前あのギャル狙ってたよな?」
「うん?…ブレアちゃんの事か?」
「ほらここに、その同僚がいるだろ?何か聞いてみたらどうだ?」
「そ、それは名案だ! 流石はヴィクターっ!!」
「えぇ〜、なんか私そういうの苦手だな…。お酒も切れちゃったし…。」
「奢らせて頂きやすッ!! ボリスさん、フェイさんにプランテーションのお代わりを…!」
「……ああ。」
クエントは、フェイから色々と話を聞いているみたいだ。俺ならブレアは選ばないが、フェイ曰く、意外と家庭的らしいので、見直すべきか? ともかく、友人であるクエントの恋が上手く実る事を祈るばかりだ。
「しっかし、バザールって言うくらいだから、色々あると思ったんだがな…。」
「何か探してるんですか、ヴィクターさん?」
「ああ、機関銃…それも、車に積むような奴とか。あとは、遺物とかか。」
「そういうのは、大抵オークションに出されるんですけどね。ヴィクターさんも、参加したんですよね?」
「ああ、だがそういう類は無かったな。」
オークションには、遺物や崩壊前の武器が出品されると聞いていたのだが、残念ながら今回は出品が無かったのだ。
「どっかに売って無いもんかねぇ…。」
「……ウチにあるぞ?」
「何?…そういえば、ここ武器屋だったな。」
普段は、バーとして利用しているから忘れていたが、ここはギルドの武器屋だった。
「どんな奴だ!?」
「……明日の昼に来い。」
* * *
-翌日 昼
@BAR.アナグマ
「私は、別に今のままでも良いと思うけど…。」
「ダメだ…。いざって時のことを考えると、車に積む武器が有った方がいい! 命あっての物種って言うだろ?」
「ま、まあそうかもしれないけど…。」
バザール最終日。カティアを連れて、アナグマまで来ていた。ボリスと約束していた、機関銃を買う為だ。
『ただいま閉店中』という看板を無視して、バーのドアを開けると、中には意外な人物がいた。
「ん?これはヴィクター君にカティア君…。」
「「 …支部長? 」」
何と、中にはギルド支部長、シスコがいたのだ。
「…何でアンタがここに? 仕事はいいのかよ?」
「私だって人間です。休みも取りますよ?」
「そうか…。で、何でここにいるんだ?」
「そ、それは恥ずかしい所を聞いてきますね…。」
「……デロイトさん、待たせたな。」
店の奥から、ボリスが酒瓶を抱えてやって来て、シスコへその瓶を渡す。
「ほっほ〜、これは!? 中々美味しそうですね。」
「酒を買いに来た……のか?」
「…そう見えるけど。」
「それでは、失敬!」
シスコは、酒を受け取ると風のように去っていった。
…そういえば、この店は支部長の趣味で作られたとか言ってたな。本来武器屋のはずだが、ギルドの経費で酒を買う為とか何とかで、バーのようになっているとか何とか…。職権濫用…汚職…そんなものは、崩壊後に存在しないのだろうか?
「……来たな。」
「えっと、合言葉…だっけ?何だったかな…。」
「『戦士の武器庫』でしょ?ヴィクターって、本当に物覚えが悪いんだから!」
「……違うぞ。」
「うぇ!? 嘘ッ!!」
「ああ、思い出した!『戦士の火薬庫』だったな。」
「……。」
ボリスは店の入り口に鍵をかけると、カウンターの奥の酒が並ぶ棚を、そのままドアを開けるように手前に引き、隠し部屋へと案内する。
「…誰が物覚えが悪いって?」
「うっ…ふ、ふんっだ!!」
隠し部屋に入り中を見渡すが、機関銃のような重火器は見当たらない。
「…無くね?」
「……こっちだ。」
ボリスは、武器が陳列されていた棚を動かす。すると、新たな隠し部屋へと続く通路が出てきた。
「また、隠し部屋かよッ!?」
「…私、初めて見た。」
中に入ると、普通の家庭のガレージのような空間が広がっていた。広い空間と、シャッター。考えてみれば、酒や武器を納品する際に、バーの入り口からだと狭すぎる。ここは普段、納入口として使っているのだろう。
中を見渡すと、壁際にバイクが一台と、床の上に布で包まれた何かが置かれていた。ボリスは、ガレージの作業台のような机の上に、布で包まれた物を置くと、布の包みを解いた。中身は銃器のようだ。
「これか?」
「……ああ。【ビッグダム】だ。警備隊やキャラバンなんかが良く使ってる。」
「何か、カティアの銃に似てるな?」
「ああ、それダムのお兄ちゃんみたいな奴よ。」
確かに、カティアの使っている奴よりはマシのようだが、わざわざ買うほどじゃないな…。
「他のはあるか?」
「……これならどうだ?」
「…さっきよりもゴツくなったが、何か変わったのか?」
「……ああ。【キングダム】だ。街の門や検問所でよく使われてる。」
「ああ、それダムのお父さんみたいな奴よ。」
「またダムかよッ!? もっと他に、高威力の弾を持続発射出来るのは無いのかよッ!?」
「……あるにはある。」
ボリスは、台の上にドカッと布に包まれた物を置き、包みを解いた。そこにあったのは、崩壊前よりもっと昔…戦車や航空機が登場したような時代に作られた、大昔の機関銃だった。といっても、100年近く使われていたので、優秀といえば優秀な物だが、あまりにも古い…。
「なあ、ボリス。これどうしたんだ、かなりの骨董品だろ?」
「……話せば長くなる。」
ボリスが話すには、今から10年以上前…ボリスがレンジャーだった頃に、これを連合軍基地跡にあった戦車から、もぎ取ってきたらしい。
おそらく、基地に展示してあった古い時代の戦車だと思われるが、それからもぎ取ったこの銃を、ボリスは長い年月をかけてレストアしたらしい。
…ていうかボリス、お前レンジャーだったのか。
「……本当なら、戦車ごと持ち帰りたかったんだがな。」
「いや、多分無理だと思うぞ…。」
基地に展示してある戦車は、エンジンなどの機関部が無い。…所謂ガワだけなのだ。その為、動かすことはできないだろう。積んであったこの機関銃は、耐腐食処理されたモスボール品だったのか?
「で、他には無いのか?」
「……残念ながら。」
崩壊後の世界で、機関銃はほとんど出番が無い。大規模な戦争そのものが無いのだ。出番があるとすれば、キャラバンの防衛や、街や村の防衛といったところだろう。少なくとも、一介のレンジャーが所持するのは珍しいはずだ。
「一番マシなのが骨董品とは…。」
今回見た3つの内、選ぶとしたら最後の骨董品だろう。不本意だが、これが一番マシだ。
「じゃあ、それをくれ。」
「……本気か?」
「ん、ああそうだが?」
「……高いぞ?」
「構わないが?」
「……本当に?」
「…もしかして、手放したく無いのか?」
「……。」
…あっこれ、めんどくさいパターンだ。正直、機関銃くらいノア6から持ち出せば事足りる。だが、俺が注目されてる以上、急にそんな物を所持するようになると、変な奴に言い寄られる恐れがある。
さらに俺が決めた、ノア6から必要以上に物や技術を持ち出さないというルールにも反してしまう。この時代にとってオーバーテクノロジーとなる物を、世の中に出す訳にはいかないのだ。
その後、ボリスを説得して200万Ⓜ︎で譲ってもらう事になった。説得には困難を極めたが、俺の「そいつも火を吹きたいって思ってるんじゃ無いのか⁉︎」が効いたな…。
「たぶん、壊れた遺物の銃を見つけたら持って行くって言ったのが効いたのね!」
「……そうかもしれないな。」
俺たちは、受け取った機関銃を荷台に積み込むと、ガレージへと戻る。
…それを見送るように、ボリスはバーの入り口からその様子を窺うのだった。
「……達者でな。」
そう呟くと、ボリスはバーの中へと引っ込んでいった…。
* * *
-夜
@ガラルドガレージ
「よしっ! これでいいかな?」
車の荷台部分にロールバーを追加して、機関銃を取り付けた。だが、車を組んだ時は機関銃の搭載を考えていなかった為、無理矢理な感じがする…。
射手が無防備な上に、取り付け位置の関係上、前方と後方に砲身を向ける際に、射手がロールバーの下をくぐる必要がある。今度、ノア6に帰ったら、車をカスタムするか…。
「…でも、無いよりはマシか。」
「ね、ねぇヴィクター。ちょっと触ってもいい?」
「ん? ああ、いいぞ。」
カティアは、ウズウズしながら荷台へと登り、機関銃を触り出す。
「ねぇヴィクター! これどうやって使うの?」
「ん? ああ、ベルトは入ってるから、レバーを引いて引き金を引けば…って撃つなよッ! 絶対にやめろ!」
「う、撃たないわよッ!」
「皆さん。夕食が出来ましたよ〜。」
「カティア、騒いでないで上がって来なさい!」
モニカとフェイが、夕食の準備を済ませたらしく、二人が声をかけてきた。
「お、飯だってよ。行こうぜ!」
「あっ、ちょっと待ってよ!」
今日はバザール最終日。この日の夜は、御馳走を食べるものらしく、モニカとフェイが朝から色々と買い出しに行ったり、料理の準備をしてくれていた。二人は、奴隷とそれを売る側だったのだが、仲良くしているようだ。
ガレージ内の階段を登り、リビングスペースに行くと、テーブルには街で買ってきた惣菜や、家で作られた料理が並べられている。
「美味そうだな!二人とも、ご苦労様!」
「ヴィーくんの為に、真心込めました♡」
「ねぇ、早く食べましょうよ!」
「焦るなカティア!」
4人でテーブルについて、酒や飲み物を注いでいく。……もちろん、カティアはアルコール禁止だ。
「よし、準備できたな? …モニカにとっては、色々と辛い事があって、まだ引きずってるだろう。」
「ッ!」
「だが…まあ、なんて言っていいか…俺たちを新しい家族とでも思って欲しい。長い付き合いになると思うしな?俺たちもモニカを頼りにするし、モニカも俺たちを頼って欲しい……。」
「…何それ、ヴィクター。」
「な、何だよ。これでも、必死に考えたんだぞ!?」
「素敵よ…ヴィーくん♡」
「えっ…嘘でしょ…!?」
「何だと!」
わいのわいの3人で騒いでいると、モニカが口を開いた。
「あ、あの…皆さん…ありがとうございます。わ、私も…皆さんの為に、頑張ります!」
「…じゃあ、乾杯するか。飯も冷えちまうしな。」
「ええ。」
「そうね。」
4人は、グラスを持って準備をする。
「よし、じゃあ乾杯ッ!」
「「「 乾杯! 」」」
その夜は、豪華な食事に舌鼓をうった。…カティアは食べ過ぎて、トイレに駆け込んだり、一晩中唸ってうるさかったが、俺たちも騒いでたからおあいこだ。
ちなみに、カティア以外は俺のベッドで寝た。流石に3人だと色んな意味であついので、どうにかしないとな…。
【ビッグダム】
崩壊後の代表的な突撃銃:ダムを改良した崩壊後の分隊支援火器。ダムの機関部を強化し、信頼性を高めており、銃身を長く肉厚にしたことから、命中精度と射程の改善が図られている。ダムの保弾板も使用できるが、専用の大型保弾板を使用する事で、装弾数を増やすことができる。
また、大型保弾板を使用する為に、保弾版の挿入口左右に、保弾版を支える為の支持器が飛び出しているのが特徴。
全体的にダムより大きく、重たいが、携行して使用する事は可能。
使用弾薬 5.45×39mm弾
装弾数 30発/45発(大型保弾板)
発射速度 600発/分
有効射程 400m
新品価格 約300,000メタル
【キングダム】
ビッグダムの高威力モデル。使用弾薬を7.62×51mm弾に変更して、それに伴って機関部や銃身を強化した為、重量が重くなっている。その為、主に車両や防壁などの上に三脚などで固定して用いられる。
ビッグダムとは異なり、引き金は押し込みレバー式。
使用弾薬 7.62×51mm弾
装弾数 30発
発射速度 500発/分
有効射程 600m
新品価格 約600,000メタル
モデル ブレダ M37
【骨董品の機関銃】
骨董品の機関銃。ヴィクターが生まれる遥か以前に、傑作機関銃として使われていた。
ボリスが旧連合軍基地に展示されていた古い戦車から、この銃をもぎ取り、長い年月をかけてレストアしたもの。ボリスの腕が良かったのか、はたまたかつて傑作と言われていただけあってか、崩壊後もその威力を存分に発揮することができる。
ベルト給弾式。ベルトリンクは、ボリスが資料を元に一つずつ作製した物で、1000発分の弾薬ベルトがヴィクターの手元に渡った。
使用弾薬 7.62×51mm弾
装弾数 250発
発射速度 600発/分
有効射程 600m
モデル ブローニングM1919A4




