74 俺達の理想郷1
地図…作ろうかな…。
あの後、捕まえた賞金首をギルドへ引き渡した。俺と戦った執行官の二人組が賞金首を引きずっていったが、そのうち一人は包帯が巻かれていた…。急所は外したが、ナイフで色々チクチクしたからな…。彼らも、俺と戦ったのは不本意だったのだろうが、相手は俺の事を殺しに来ていたので、これは正当防衛というものだ。
あの時の事は仕方ないとはいえ、彼らと会うのは何となく気まずかったのだが、そんな俺の心を見透かしたのか、奴らはニヤリと笑いながら親指を立て、人差し指を伸ばしてバキュン!と発砲する仕草をして来た。
…気にしてないって事なのか、はたまた再戦希望ということなのか。奴らがボリス以上に無口なので、真意はわからなかった。
ギルドで報奨金を受け取り、スカベジングステーションにて本日二度目の武器の換金を行った。係員の人には驚かれたが、仕方ない。
約束通り、カティアに武器の売却益を全部やったら、大はしゃぎだった。そんなうるさい女を助手席に乗せて、ガレージへの帰路へとついた。
* * *
-日没後
@ガラルドガレージ
「も〜、ヴィーくん!あの時は本当にビックリしたんだよ!? 1日の内に依頼達成と、賞金首まで捕まえるなんて前代未聞だよ!」
「まぁ、偶然が重なっただけだよ。…それよりフェイ、明日は休みなんだって? 泊まってけよ。」
「え…うん…♡ 実は準備もしてきちゃった♡」
「し、信じられない…あのフェイがあんな顔を…!?」
現在、俺達のガレージには客が来ていた。俺の女の一人、フェイだ。彼女はギルドの仕事を終わらせると、ここへとやって来た。何でも、俺とカティアが上手くやれているか聞きたいのと、チーム結成を祝いに来たらしい。
…カティアは、フェイが俺とデキてる事が未だに信じられないらしく、唖然として間抜けな顔を晒している。
「まあ、そんなことより腹減ったな。フェイ、早いとこ出してくれよ!」
「は〜い♡」
フェイは、持ってきたバスケットをテーブルの上に置くと、蓋を開けた。すると、抑えられていた料理の匂いが辺りに漂いはじめる。俺達を祝う為に、持って来てくれたのだ。
「すごいな、フェイが作ったのか?」
「うん!…でも、ブレアにも手伝って貰ったけどね。」
「ブレア…って、あのギャルかッ!? な、なんでアイツが?」
「ギャル…? ええと、あの口の悪い子よ。あの子ああ見えて、料理上手なのよ。寮のご飯とか、皆んなの分まで作ってくれるし。」
「し、信じられん…!」
マジか…。人は見かけにはよらないんだなぁ。
「ねぇ! 食べないの? 私先に食べちゃうわよ?」
「あっ、待ちなさいカティア!それはヴィーくんの為に作った…!」
「うまっ!美味しいッ!! これ店出せるわよ!」
「カティア…貴女って子は…!!」
「ま、まあまあ落ち着けってフェイ。まだあるだろ?それを食べるから大丈夫だって!」
「ヴィーくん…♡ 分かった、じゃあ…はい、あ〜ん♡」
「あ〜ん。」
「…ッ!フゴッ!!」
「おい、カティア…汚いぞ。」
「全く、この子ってば…!」
カティアが、喉を詰まらせたようで暴れ出した。相変わらず、騒々しい女だ…。
「…ングッ、プハァ! あ、アンタ達…何人の前でイチャついてんのよ!? てか、ここ私ん家!!」
「…例え話をしよう、カティア。」
「えっ、何よ急に…。」
「ある新婚夫婦がいました。その家では、犬を飼っています。夫婦は毎晩イチャつきますが、その時飼い犬のことを気にするでしょうか?」
「ん〜、しないんじゃない?」
「だろ?」
「…えっ、ちょっと待って! 私、犬!?犬ってことなの!? えっ、私ってそんな扱いなの!?ここの家主なのに!?」
「…よく考えたら、犬の方がいいかもしれないな。犬は問題起こして、借金抱えたりしないし…。」
「ま、待って!ちょっと待ってよヴィクター、そんな遠い目をしないでよッ! ちゃ、ちゃんと働くから見捨てないでっ!」
「やめろッ!縋り付くな! フェイもコイツを何とかしてくれ!」
「新婚…夫婦…エヘヘ♡」
(…くそッ、何でこういう時に限って、いい例えが浮かばないんだッ!!)
俺の例えが悪かったせいで、カティアは捨てられると騒ぎ出し、フェイは何か蕩けた顔して、自分の世界に入ってしまって反応が無い。場が落ち着くまで、しばらく時間を要する事態になってしまった…。
俺はただ、カティア何て気にしてないと言いたかっただけだ。…フェイがいたから、ちょっとカッコつけようと例え話とかしてさ。失敗だったけど…。
やっぱり、慣れない事はするもんじゃないな…。
-夜
「あっ♡ だ、ダメよヴィーくん…隣にはカティアが…!」
「アイツなら寝てるさ。寝付きは良いらしいからな。」
「で、でもぉ…。」
「だいたい、そんな下着着けてきて、お預けはないだろ?」
「いやぁ…♡」
(…起きてるっつーの!全く人の隣でイチャイチャと…!)
-ギシッギシッ…。
「んっ…やぁぁ…♡」
(えっ、嘘…コレって…!! う、嘘でしょ…///)
…夜は更けていく。
* * *
-翌朝
「ふぁ〜あ、よしっ起きるか!」
「…おはよう、ヴィクター。」
「なんだカティア、起きてたのか? 早起きだな。」
「…誰かさんのおかげでね!」
「何だよ、夜中起こしちまったか? つい激しくなっちまった、悪いな!」
「…ッ!! もう、知らないわよッ!!」
「ふみゅう…おはようヴィーくん。どうしたの?」
「何かカティアがご立腹らしくてな?」
「どうしたの?お腹すいた?」
「ち、違うわよッ!!」
「もう…今から作ってあげるから、待ってなさい。」
「ムキーッ!」
買ったベッド…やっぱり、値段分の仕事はするもんだ。カティアが暴れる前に買えて、正解だったな!
カティアが、俺達の情事のせいで眠れなかったと文句を言ってきたが、お前寝付きがいいって言ってたじゃん…。嘘かよ…。
ま、カティアが文句を言おうが、関係ない。俺はヤることヤらないと、精神に変調をきたしかねないからな。ないとは思いたいが、カティアの事を襲ってしまうかもしれない…。これは、カティアの貞操を守る為でもあるんだ。昨日、ギャンブルで処女がどうのこうの言ってたから、よほど大事なんだろ。
「〜♪」
「ご機嫌だな、フェイ。何かいい事でもあったか?」
「えぇ〜、もう…分かってる癖に♡」
「コイツめ!」
「あんっ♡」
「…もう、諦めよう。」
フェイが作った朝食を平らげると、カティアと今日の予定を話し合う。
「カティア、今日はどうする?」
「あっ、ごめん。私、行きたい所があって、今日は依頼受けたくないんだけど…。」
「そうなのか…? 借金抱えた奴が言う言葉じゃないが、まあいいか。俺もやりたい事があるし、今日は休みにするか。」
「本当に!? ありがとうッ!」
「…あっ、でもギャンブルはするなよ!昨日の金で、何するかは知らんが、ギャンブルはだめだ!」
「し、しないわよ!」
「それから、酒もダメだ!」
「飲まないわよ!もう、ヴィクターのバーカッ!!」
カティアは、俺に怒号を浴びせると、ガレージから飛び出して行った。
「…怒らせちったかな?」
「ねぇ、ヴィーくん。やりたい事って何?私も手伝おうか?」
「ん〜、んッ!? そうだな、手伝って貰おうかな!」
* * *
-1時間後
@街 南門
「よう! 朝から女連れ回して、羨ましいな弟子!」
「よう、おっさん! ちょうど良かった、アンタに会いたかったんだ。」
「俺にか…?」
俺は、警備隊長のおっさんに詰所に案内してもらうと、難民キャンプの代表者達を呼んでもらう。
しばらくして、難民キャンプの代表者達がやって来る。5人…皆トラックの運転手をしてくれた、俺の素顔を知っている者達だ。
「「「「「 ま、マスク様ッ!? 」」」」」
「…マスク様?何だそりゃ?」
「気にするな…おっさん…。」
「慕われてるのね…ヴィーくん…。」
今日、俺はカティア救出の際に救助した者達…難民の問題について話し合いに来た。難民達は現在、街の南門のところにキャンプをつくっているが、いつまでもそうしていられる訳ではない。
現状、警備隊から食糧を提供して貰ってはいるが、当然限りがある。その上、難民達も仕事がない為収入が無い。街で仕事を探すというのは、とても難しいのだ。
「何人かは、自分達の村に帰れたのですが…。」
「大部分は、帰る村が無くて…。」
「…なるほど。」
狼旅団により、村を潰されているのだ。そういった者達は、帰る場所が無い。
「で、だ…弟子…何か考えてきたんだろ?」
「ああ、お前達…新しく村を作る気は無いか?」
「「「「「「 新しい村ァ!? 」」」」」」
「…いや、おっさんも混ざるなよ。」
「お、おい…弟子! お前、正気か!? 村を作るだって? 場所はどうする?それに、金が必要だぞ!?」
「…金ならある。」
その時、詰所の扉が開かれ、警備隊員の青年が入って来る。頼んでいた物を持って来てくれたようだ。
「ヴィ、ヴィクターさぁん!これ、重いですよォ!!」
「ああ、悪かったな。」
「おい、新入り…お前何持ってんだ?」
青年は、昨日カティアに回収させた賭博場の金が詰まった麻袋を抱えていた。
「どれ…うおっ!結構重いじゃねーか! …だが新入り!この程度で弱音吐いてんじゃねぇぞ!!」
「ええっ!そんなぁ〜!」
「ほら、用が済んだらさっさと出て行きな。とりあえず、腕立てでもしとけよ。」
「た、隊長ォ〜酷いですよぉ〜!」
新入りと呼ばれた青年は、ヒエーッ!と詰所から飛び出して行った。
「で、弟子。これは何だ?」
「金だ。」
「金だと!? ほ、本当だ!これだけあれば、最低限全員が住める家を建てる資材が買えるかもしれない!」
この金の使い道は、カティアと話し合って決めた。かなりの大金だったので、俺たちだけで使うよりも、もっと有意義に使うべきだと思ったのだ。ちょうど、難民達のことも気がかりだったし…。
…まあ、カティアは何やら納得いかない顔をしていたが、頑張って説得した。カティアの借金は、自分で働いて稼いで返して貰わないとだしな。
「ギルドの方でも、何らかの援助ができないか検討させていただきます。」
「あ、アンタは…!? …って、弟子の女か、何の用だ?」
「えっ…あっ!フェイ、メガネメガネ!」
「あっ、忘れてた!」
「あ、アンタ…ギルドの…!?」
「ええ、受付嬢のフェイです。」
フェイとおっさんは、仕事で面識がある筈なのだが、フェイの事を知らないみたいだった。おかしいと思ったら、フェイが眼鏡をつけていないことに気がついた。
フェイは、眼鏡を外すと大分印象が変わる。あの時は俺も性欲が爆発寸前だったこともあるが、初めて眼鏡を外しているのを見て、別人だと思ってしまったほどだ。それに、今は私服だし、おっさんが気がつかないのも無理はないか。
「ギルドが援助を検討してくれるのは助かる!…だが、場所はどうするんだ? この辺りにそんな場所があるとは思えんが…。」
「それを今から話し合おうと思ってるんだ。」
難民達は、色んな村からの寄せ集めだ。滅ぼされた村を再興する場合、人数が分散してしまい、村が維持できる人数にならない。だから、難民キャンプをそのまま村にするのだが、そうなると場所の選定が問題になる。
滅ぼされた村の跡地を使う場合、どこを使うかで問題になる。土地によって、生産できる作物や、製品が決まってくる。そうなると、元から住んでいた者は住みやすいかもしれないが、別の所から来た者は慣れないだろう。
これらの問題を解決するには、皆の妥協が必要になる。俺の考えとしては、新たな場所に村を作ることなのだが…。
「我々は、マスク様に従います!」
難民達のリーダーだと言う男が、俺の考えを聞いて即答した。
「お、おい…よく考えてくれ! 新しい場所だぞ?生活が軌道に乗るまで、きっと苦労することになるぞ?」
「構いません。マスク様が選んだ土地は、我々の安住が約束された土地になるでしょう。」
「他の奴らと仲良く出来るか? 色んな村からの寄せ集めだろ?」
「我々、皆マスク様を信頼しております。団結力はありますよ?」
「そ、そうなのか…。」
な、何か怖いんだけど…。変な宗教の人と会話してるような、ヤバい人間と会話してる様な感じがする…。
「で…アテはあるのか、弟子? ここいらの良さげな土地には、既に村があるぞ。」
「ああ、ある。ここだ。」
「ここ…って、死都の奥じゃねぇか!?」
俺は地図の上に指を置く。俺が指差したのは、街から見て死都を超えた、南東の山の麓にあたる地点だ。
ソルトマウンテン国立公園…かつてはそう呼ばれていた地域だが、森林豊かで綺麗な湖があり、湖畔には大きなキャンプ場があった筈だ。
それに、人間は死都より北にしか住んでいないらしい。つまり、この辺りは他に人間がいない…つまり、野盗の襲撃の危険が少ないのだ。
確かに、ここカナルティアの街に行くには、死都を迂回しなくてはならない為、遠回りになる。だがそれ以上に、この治安の悪い世界において、安住の場所というのは、何よりも得難いものなのではないか?
「…という訳だ。どうする、お前達?」
「「「「「 マスク様の仰せのままに! 」」」」」
「…まるで狂信者だな、弟子? お前何したんだ?」
「もうやだ…。」
そんなこんなで、新しい場所に村を作ることが代表者レベルで決まった。最終的には、難民の希望者のみが移住する事になるだろうが、俺としては全員が移住して欲しいと考えている。新たな場所で何かをスタートさせるのだ…人手は必要だろう。
と言っても、まだあの場所にするとは決まっていない。昔と今では、状況が変わっているかもしれない…。とりあえず、状況を把握する為にも、現地に視察に行かなくてはなるまい。