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71 捜索依頼

-2時間後

@死都 ノア6近郊


 あの後、ジュディを入れた箱を開けてみたら、なんと彼女は生きていた。だが、箱の中という閉鎖的な環境は、彼女の精神を大分すり減らしたらしい…。箱の中から出した時の彼女は、幼児退行したかのような態度で泣きじゃくっていた。


 身体の方には異常は無いようにみえたが…その、女性に言う言葉ではないが酷い匂いだった。3日間も箱の中にいたのだ、当然、排泄物などもそのままということになる…。車に積んであった水や、消毒用のエタノールで身体を拭いてやったら大分マシになったが、ノア6に帰ったら先ずは身体を洗ってもらおう…。


 そんな彼女だが、次第に元の強気な態度に戻るかと思いきや、そんなことは無かった。箱から出た時よりかは、いくらか調子が戻っているようだが、先程から助手席で静かに泣きながら不安げな顔をしている。


「ぅぅ…グス…。」

「おい。」

「ヒッ!…な…何ですか?」

「そう怯えるな。もうすぐ到着するが、さっきの話…本当にいいんだな?」

「グス…は、はい。わ、私は…あなたの奴隷となることを誓います。ご主人様に身も心も捧げ、一生仕えさせていただきます…。」

(…さ、さっきより話が重くなったんだけど?)


 ジュディが生きていた以上、彼女にはこのまま死んでもらうか、俺に利用されるかの二つの道があった。俺としては後者がいいのだが、彼女はそれをよしとしないはず…。そう思ってジュディに「俺の仕事を手伝う気は無いか」と尋ねたら、何と彼女は「俺の言う事を聞く」と即答したのだ。

 ジュディには気を使って、ノーラの時のように「俺の奴隷になれ」とかは言ってないはずなのだが、今のように急に奴隷になるとか言っている…。まあ、都合が良いからそれでいいか。


 その場の勢いというのもあるし、箱の中に入っていたストレスでおかしくなっている…もしくは、反撃の為の演技という事もある。見たところ、抵抗する気は無いようだが、万が一の保険にも、ジュディの拘束首輪は外さないでおくとしよう。



 * * *



-数分後

@ノア6


「お帰りなさいませ、ヴィクター様。」

「「 お、お帰りなさいませ、ご主人様! 」」

「…ロゼッタ、これは?」

「はい。二人には現在、ヴィクター様に仕えるに当たっての、基本的な事を教えておりますので…。」

「そ、そうか…。」


 ノア6に帰るなり、ロゼッタ達に出迎えを受けた。事前に連絡を交わしていたので、出迎えてくれるのは分かっていたが、皆でお揃いのメイド服を着ていたので驚いてしまった。


「さらに、各自の適性に合わせた戦闘訓練も始めるところです。」

「あっ、ノーラにはまだ無理はさせるなよ?右腕はあと3日は安静にしておけ。」

「では、しばらくは座学にて、戦術の講義などを施しますね。」


 彼女達には、俺の夜の相手の他に、今カティア達のいる秘密基地の管理をしてもらうつもりだ。その為にも、ある程度の知識や戦闘力は確保したい。

 だが、彼女達の脳は電脳化されていない。俺とロゼッタのようにマイクロマシンを介した「学習」で知識を身につけたり、VR訓練などの同調支援システムが使えないのだ。そこで、ロゼッタに【障害者教育】の項目を学習させて、彼女達の教官をやってもらっているのだ。


「あ、あの…。」

「ああ、ロゼッタ。こいつも頼む。」

「はい。ではジュディさん、こちらにいらして下さい。大浴場を使いますので、二人は準備をお願いします。」

「「 はい! 」」


 ロゼッタの指示を受けたカイナとノーラは、準備とやらに向かった。かつての仲間の一人を前にしても、ロゼッタの指示を優先した事を見るに、ロゼッタに教育を任せて正解だったのだろう。

 ちなみに、ジュディの調教期間中に、はじめに一緒の部屋にいなかったノーラとは、説得の為に対面させていたりする。


「では、ジュディさん。こちらへ…。」

「は、はい…よろしくお願いします…。」


 ジュディをロゼッタへと引き渡し、カティアに渡す銃を車に積み込むと、俺はノア6を発った。早く帰らないと、心配されるからな。



 * * *



-3時間後

@死都 秘密基地


「あっ、来た! ちょっと、遅いじゃない!心配したわよ?」

「ヴィクターッ!良かったぁ〜、生きてたのかぁ!!」

「お、お帰りなさいヴィクターさん!」


 秘密基地の地下駐車場に帰るなり、3人に取り囲まれた。クエントにいたっては、泣きそうな顔をしている。全く、大の男が情けない…。聞けば、俺が帰ってこないから、死都のど真ん中で置き去りにされると思ったらしい。

 外はもう陽が落ちて来ている…帰るまでに、かなり長い時間を要してしまった。実は、ノア6からこの秘密基地までは、直線距離だとそう遠くは無い。だが、ミュータントなどを避けて迂回したり、通れない道などを迂回すると、どうしても時間がかかってしまうのだ。

 今後の為にも、真剣に安全な経路の確保を考えてみるか…。


「悪いな。ちょっと寄り道しててな…。ほら、お土産だ…荷台見てみな?」

「何? って、これって鹿!?」

「マジかよヴィクター! 鹿なんて久しぶりだ!な、ミシェル?」

「そうですね! あっ、血はちゃんと抜いてあるんですか…。凄く綺麗に仕留めましたね。」


 俺の帰りが遅くなった理由として、鹿を狩っていたからということにした。…偶然にも鹿を見つけたので、1匹だけ仕留めてきたのだ。俺も食べたかったし…。


「さてと、じゃあ今夜は鹿肉だな。皆んな手伝ってくれ!…あっ、カティア。お前は絶対に手を出すなよ!」

「何でよッ!?」

「お前が手を出すと、せっかくの鹿が消し炭になるだろうがッ!!」

「ひどいッ!?」

「ほら、約束してた銃を渡すから、それでも眺めてろ!」

「…何これ?」

「レゴリス…の親戚みたいなもんだ。」


 カティアに、持ってきた銃を渡した。その銃は、ガラルドが使っていたカービンを基に、銃床(ストック)を折り畳み式にして、拡張パーツを取り付ける為のレールを組み込んだものだ。

 これは、俺が作った銃の中でも命中精度が高く、信頼性も高い。外見も、崩壊後の世界にマッチしていると思うのだが、セミオートなので大型のミュータント相手に火力不足だと考えたことと、命中精度が高くても射程距離が俺の担いでいるアサルトライフルより短かったので、利用価値が見出せずに埃をかぶっていたのだ。


 …だが、作った以上は誰かに使ってもらいたいものだ。実は、カイナ達にも俺の作った装備を使ってもらうことで、俺の試作兵器の在庫処理…もとい有効活用をしようと考えていたのだ。

 ロゼッタには「職人気質というものでしょうか?」と言われてしまったが、まさにそうかもしれない…。



 その後、カティアを除いた3人で、鹿の処理をする事にした。カティアは、俺の渡した銃が気に入ったのか、構えたり、弄ったりしている。

 鹿を解体し終わると、クエントが皮の処理、ミシェルが料理をする事になった。クエント曰く、ミシェルは料理が上手いらしいので、全て任せてみる事にした。俺も手伝おうとしたのだが、鹿狩りの功績で休んでろと言われた。

 料理ができるまで、カティアに銃の説明をするか…。




-数時間後


「「「「 頂きます! 」」」」

「ッ!美味(うま)いッ!!」

「おいしいッ!」

「だろ?ミシェルは料理が上手いんだ!」

「実家が大家族なので、家事を手伝っていただけですよ!それに、鹿を狩ってきたヴィクターさんの方が偉いですよ!」


 ミシェルが作った料理は、どれも美味であった。料理が出来る金髪碧眼イケメンボーイ。スペック高すぎだろ…。


「ったく…カティアも少しは見習えよ、なあ?」

「ガツガツ…ん、何か言った?」

「もういいや…。」


 カティアに何かを期待するのはよそう。そんな気がする…。



 * * *



-翌朝

@死都


「どの辺だ?」

「もうすぐ!確か、その道を曲がってすぐのところだったと思う!」


 俺たちの依頼…行方不明の自治防衛隊員の捜索だが、カティアが以前、野盗に捕まる前にそれらしき死体を見たと言うのだ。半信半疑で、カティアに言われた所まで車を走らせていたが、目的地に到着すると確かに死体があった。


「本当にあったよ…。」

「な、何よ!信じてなかったの?」

「うん。」

「即答ッ!?」

「なあ、ヴィクター。なんだか嫌な気がするんだ。」

「どうしたクエント。何かあったのか?」

「いや…何だか胸騒ぎがして。ここは何かヤバい気がするんだ。」

「そうか…じゃあ、早めに切り上げよう。行くぞ!」


 俺たちは、車を降りて自治防衛隊員の死体へと近づく。自治防衛隊…コイツらは、赤いシャツに鎖帷子やプロテクターを装備しているが、依頼を受けた時に聞いた話では、行方不明の隊員は黄色い腕章を付けているそうだ。


「黄色い腕章…コイツらで間違いないな。」

「おい、カティア、クエント。さっさと全員分回収しちまおう。」

「ああ。ヴィクター、俺はあっちの奴らを見てくる。」

「じゃ、私はこっちね。」


 カティアの話では、死体は並べて弔ったと言っていたが、死体は辺りに散らばっていた。死体によってはバラバラになっていたり、所々喰われた跡もある。ミュータントに食べられたのだろうか? 周りにもミュータントの死骸が散らばっており、腐敗臭が凄い。

 クエントが言うように、気分が悪くなる前におさらばした方が良さそうだな。


「…これで全員か?」

「ヴィクター、こっちは回収終わったぞ!」


 クエントが回収した腕章を掲げて、こちらへ向かってくる。腕章は、本来なら黄色いのだが、物によっては乾いた血で黒くなっている物もあった。


「後はカティアか…。」

「ヴィクター、こっちも終わったわよ!」

「丁度いいな…。お前、何持ってんだ?」


 カティアは腕章の他に、背嚢やら装備やらを抱えていた。恐らく、死体が持っていた物だろう。


「いや〜、前は回収出来なかったけど、車があれば全部持って行けるわね!あの時、まとめておいて良かった♪」

「じゃあ、荷台に積んで置いてくれ。収入の足しになるだろう…。」


 未だに、死体から物を頂戴する事には若干の抵抗はあるが、崩壊後の世界では普通の事だ。そう自分に言い聞かせて、納得させる。金に困ってるのは事実なのだ…なりふり構ってはいられない。

 そんな事を考えていると、ロゼッタから通信が入った。


《ヴィクター様…。》

《何だ、ロゼッタ。ジュディに何かあったのか?》

《いえ、そちらに生体反応が接近しておりますのでご報告致します。》

《数はどのくらいだ?》

《恐らく1匹…または1人です。対象がまもなく交戦距離半径に入ります、お気をつけて…。》

《ああ。》

「み、皆さん!あそこッ!!」


 車の荷台に待機していたミシェルが、声を上げる。ミシェルが指差す方向を見ると、ズングリとした人影のようなものが道路の先に見える。


「ッ!デュラハン!! あいつ、あの時のッ!」

「デュラハンだって!? 嫌な予感はこれか!! どうするヴィクター!?」


 デュラハン…。ガラルドと一緒にいた時も、何度か遭遇した事はあった。だが、いずれも倒した事は無かった。デュラハンは、高い戦闘力と耐久力、再生力を持っているので、依頼でもない限り戦うべきではないと言われていた。

 わざわざ危険な橋を渡る必要が無いのと、デュラハンを倒すまでの弾薬の消費が激しいからだ。


「…逃げよう。早く車に乗れ!」


 俺は急いで車に乗り込むと、エンジンをかける。それと同時に、デュラハンもこちらに向かって走り出した。


「ヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!」

「ぜ、全員乗ったぞヴィクター!」

「了解!飛ばすぞッ!」


 アクセルを踏み込んで、タイヤが急回転する。タイヤは高い音を上げて地面を擦り、一瞬空回りしたかと思うと急にグリップが入り、車を急発進させる。


「うわぁ!来た来た来た来たぁッ!! こっちに来てるゥゥ!!」

「情け無い声を出すな、クエント! 騒ぐ余裕があるなら、何かしろ!」

「ヴィクターさん!この車、何か武器は積んでないんですか!?」

「……!」


 その手があったか!…いや、俺も考えなかった訳では無い。確かに軍用車なんかには、車載の機関銃何かが取り付けられていたりした。だが、街に入る際に色々と問題がありそうだったので、車に武器を積むのは躊躇ったのだ。

 だが、問題は無さそうだし、武器の搭載も考えてみるか…って、今はそれどころじゃないな!


「いや、無い!…そうだ、さっきカティアが拾ってきた武器を使え!ミシェル、お前が弾を込めてクエントに渡せ!クエント、お前が撃てッ!撃ち続けるんだッ!」

「わ、分かりました!」

「わ、分かった!」

「カティアも、窓から撃て!車体に当てんなよ!」

「任せてっ!」


 クエントに攻撃を任せて、ミシェルにリロードさせる。銃は何個か回収してあるので、弾が切れたら武器ごと交換させて、火力を上げる作戦だ。デュラハンの足止め位にはなるだろう…。


「うわぁ、来るなよー!!」

-ダダダダダダダダッ!カチッ、カチッ!」

「クエントさん、これ!」

「お、おう!これでも喰らえ!」

-ダダダダダダダダッ!!


「こんな時、銃床(ストック)が折り畳めるのって便利ね!」

-パァン!パァン!


 荷台では、クエントとミシェルによる分業体制による発砲、助手席からはカティアが窓から身を乗り出して発砲している。その成果があったのか、脚に被弾したデュラハンは転倒し、俺たちは距離を取ることに成功した。


「た、助かった…。」

「はは…僕なんて足がガクガクですよ…。」

「やったわ!逃げ切れたわよッ!」

「…カティア。そういえば、さっき『あの時の』って言ってたよな?どういう事だ?」

「えっと…前に狼旅団のアジトを探してる時に、遭遇したのよ。多分同じ奴だと思うけど、あの時も逃げ切れたから、デュラハンにしちゃ鈍臭い奴なのかもね!」

「「「 ……。 」」」

「えっ、何?」

「そういうことは、事前に教えろやッ!!」

「わ、忘れてました!ごめんなさいぃ!!」


 デュラハンは、個体により縄張りのようなものがあるらしい。前回遭遇したのなら、その周辺がデュラハンの縄張り内である可能性は高い。そうした情報は、命にかかわる重大なものだ。しっかりして欲しい…。

 まあ、予想よりも早く依頼は達成出来たので、さっさと街へ帰るとしよう…。

【障害者教育】

 障害者に対する教育や、指導行為のこと。主に健常者が、マイクロマシンを介して習得した項目を、マイクロマシンが使えない人間に効率よく習得させる技術のこと。

 崩壊前は、ほぼ全ての人間が出生前に、何らかの遺伝子検査や治療を受けている為、先天性疾患はほぼ0となっていた。また、崩壊前の高度な再生医療技術により、後天的な障害などもほぼ完治できた。崩壊前で言う障害者とは、マイクロマシンに適合できなかったマイクロマシン不適合者のことを指している。


【レゴリスE Mk.1】

 ガラルドが使用していたレゴリスを基に、ヴィクターが再設計を施して完成度を高めたもの。拡張パーツを取り付ける為のレールを取り付けた他、銃床を金属ワイヤー製の折り畳み可能な物に変更し、ピストルグリップを採用した事で、携行性を向上させている。

 銃身は、冷間鍛造で形成し、元のレゴリスよりも若干短く肉厚にしている。機関部のパーツも、高精度な物を作製し組み上げ、これらに加え、着脱式のスコープを用いることで、元のレゴリスよりも射撃精度が向上している。

 崩壊後の世界でも、違和感なく使用出来そうだが、火力と射程距離が微妙だった為、ヴィクターが使うことは無く、ノア6にて埃を被っていた。

 “E”は“Enhanced”の略。Mk.1を作った際に、ヴィクターはより強化したMk.2も考えていたが、結局使わないと悟り、Mk.2は設計だけして作ることはなかった。

 カティアが使用。


使用弾薬 7.62×33弾

装弾数  15発

有効射程 300m

モデル  M1A1カービン

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