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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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68 乱射姫

-昼

@ガラルドガレージ


 チーム登録を済ませた後、少し買い物をして、購入したベッドの設置とガラルドのベッドの処分などを行った。その後、二人でチームに関する打ち合わせをした。具体的には、使用する武器や戦闘時の配置などだ。

 カティアのポジションは、バックアップマンらしい。これといって特徴の無い役割だが、パーティーの主力とも言えるポジションだ。と言っても、彼女もガラルドの弟子らしく、場合により偵察・工作を担うスカウトや、狙撃を担うマークスマンといった他のポジションもこなす事が出来るらしいが。


「で…ヴィクター、貴方はどうなの?」

「ああ、俺も似たようなもんだな。基本的に何でも出来ると思うぞ。」

「へ〜貴方も? ま、それがあのオヤジの良い所よね~。枠に囚われないから、最悪一人でも活動できるし…。」

「…普通は一人じゃ活動しないんだな?」

「そりゃそうよ! 普通は役割分担するもの。あのオヤジがおかしいだけよ?」

「その言い方だと、俺らも十分おかしいんじゃないか?」


 通常は、レンジャーとして活動する際は、ある程度の人数でチームやパーティーを組むものらしい。人手不足ということもあったが、クエント、ミシェルと俺だけのような少人数で依頼を受けるのは、珍しいそうだ。そういえば、俺がクエント達と出会った時も、他にパーティーメンバーがいたな。…まあ、駆けつけた時は既に死んでいたが。


 俺達のチームは、基本的にパーティーを組まない方針でいくつもりだ。依頼を受けた時に、レンジャーの頭数が少ないほど一人当たりの報酬は高くなる。また、依頼達成時の一人当たりの功績も高くなるので、ランクアップも早まるらしい。もちろん、依頼の難易度は人がいない分高くなるが、金を稼ぎたいというカティアと、ランクを上げたい俺の思惑が一致したので問題ないだろう。


「じゃあ、俺がポイントマンをやる。カティアは後ろから援護してくれ。」

「ふふん♪ 背中は任せなさいな!」

「そういや、カティアの得物…どんなの使ってるんだ?」

「?…これだけど。」


 カティアは、ダムという世紀末突撃銃を掲げた。見た所、ヒートジャケットやフォアグリップなどを取り付けて、ガラルドと同じ様な、独自のカスタムを施しているのは窺えるが、俺の背中が一気に不安になった。

 この銃は、崩壊後の世界では広く流通しているようだが、俺にとっては信頼できない不安な武器なのだ。


「な、何よ? そんな変な顔して…。」

「いや…俺の背中、大丈夫かなって…。」

「はぁ!? あ、アンタの銃だってボロボロじゃない! コレの予備あげるから、使ったら?」

「いや、大丈夫だ。少なくともそれより高性能だからな。」


 俺の銃は、今でいう遺物だ。崩壊前の銃を、ボロボロに塗装しているので、外見は今にも暴発寸前のガラクタに見える。…まあ、ボリスの様に見る奴が見れば、見抜けてしまうのだろうが。


「ふ~ん。まあいいわ! じゃあ、ご飯作るから待っててね。」


 昼は、カティアが歓迎の意を込めて、何か作ってくれるらしい。カティアは先ほど買って来た食材を持って、キッチンに立った。

 キッチン…埃を被っていたから、カティアは料理をしないと思っていたが、そんなことはなかったのか。そりゃ女の子だし、料理くらいはするか…俺のカティアに対するイメージを改めないとな。そういや、ガラルドの作った飯は美味かったな…弟子のカティアも期待できるんじゃないか?


「カティア、すまんな。」

「な、何!? 急にどうしたのよ?」

「カティアは、料理しない人間だと勝手に偏見持ってたわ。キッチンが埃をかぶってたからさ。」

「あ~、確かに普段は外で食べてるわね…。まあ、私だって料理位できるわよ?」

「ああ、期待してるぞ! 俺も腹減ってきたわ!」

「はいは~い!」



 * * *



-30分後


「はい、どうぞ!」

「……。」


 何だこれ?これは料理…なのか? …とてもそうは見えないのだが。

 テーブルには、何やら黒く焦げた様な物と、茶色く濁ったスープ?が並んでいる。


「…カティア、これは何だ?」

「チキンステーキと、野菜スープだけど?」


 チキンステーキ!? まさか、この黒く焦げた奴か!? いや待て…もしかしたら、崩壊後に新たに生まれたソースか何かが絡んで、焦げてるように見えるだけかもしれない…。焦げたような匂いはするが、実は味は良いかもしれない…詳しくないが、料理でタレを焦がすというのが、確かあったはずだ。恐らくこれもその類だろう…いや、そうに違いない!

 ということは、隣の野菜スープも崩壊後に新たに生まれた料理か? なんだか、楽しみになってきたぞ!


「食べないの? 先食べちゃうわよ?」

「あ、ああ。いただきます!」


 俺はチキンステーキを口に運び、咀嚼する。…苦い。そして、ジャリジャリとした食感がする。何だろう…肉というより、炭を食べているような感じだ。そう思っていたら、胃袋が急激に暴れだしたような激しい吐き気に襲われた。


「「 ッ! オエ〜ロロロ~ッッ!! 」」

「はぁッはぁッ…な、何なんだこれは!? って、作ったお前も吐いてるじゃねえか!?」

「ゥぇ…ペッペッ! な、ナニコレ~ッ!!」

「俺のセリフだわ! なんてモン人に食わせてるんだッ!!」

「ま、待って! 私は、オヤジのレシピ通りに作ったわよ!?」

「んな訳あるか! どうしたら、こんな消し炭ができるんだよ!?」

「や、焼き加減をちょっと間違えただけよ!? スープの方は大丈夫よ!…多分。」

「ちょっとだと!? ってか、多分って何だよ!?」

「味見してないから、分かんないの! けど、レシピ通りに作ったから、多分大丈夫よ!」

「信用できるか! 味見くらいしろや!」

「何よ、美味しいに決まってるじゃない!ほら……うっ…オエッ!」

「ダメじゃねぇか!何入れたんだよ!?」

「た…玉ねぎと、トマトに…それからニンニクとか?」

「…普通だな。」

「あと、それからキッチンにあった調味料、適当に全部入れてみたんだけど…。」

「原因それだよ!レシピ通りつくれよッ!」


 カティアは俗に言う、アレンジャーだったようだ。女の子の手料理が食べられると、油断していた…。


「ガラルドに料理を習わなかったのか?」

「言ったでしょ?いつも放置だったって。」

「…なんで、レシピ通りにしないんだ?」

「だって、他の調味料を入れたら、入れた分だけ美味しくなると思わない?」

「カティア…お前は今後、料理禁止な!」

「なんでッ!?」

「うるさいッ!」



 * * *



-夕方

@街東部地区 歓楽街


 あの後、吐いた物を片付けをしたり、残っていた料理を外で穴を掘って埋めて処分したり、俺が住むにあたっての模様替えなどをしていたら日が落ちてきた。昼飯は食欲が失せて食べてなかったが、流石に腹も減ってきた。


 俺たちは、少し早めの夕食にしようと、東部地区の歓楽街に来ていた。歓楽街は夏が近づいている為か、酒場の外などに屋外席が設置され、仕事を終えたであろう人間で賑わっていた。

 その内の一件の酒場に目をつけ、中に入る。店内は丸テーブルが並び、店の奥にはカウンターがある、古き良き酒場といった内装だった。違和感があるとすれば、テーブルの上にナイフや拳銃を置いていたり、椅子にライフルを立て掛けている者が少なくないことか。…皆、レンジャーなのか?


「…お、おい…あれ…!」

「ん〜?ゲェッ!?あ、あいつは…!?」


 店に入ったら何人かの客が、こちらを見るなりヒソヒソと話し出した。心なしか、店内の空気が張り詰めた様な感じがする。

 今朝も、ギルドで似たようなことがあったな…ほんと、すっかり有名になっちまったんだな…。


「ヴィクター、ここ空いてるわよ!」


 空いているテーブルに着いて、ウェイトレスに酒と料理を注文する。


「…以上で。よろしく!」

「は、はい…。あの、大丈夫なのですか?」

「え、何が?」

「あ、あの…お酒の事です。」


 酒…メニューに、『店で一番強い酒』と紹介されていたものを注文したが、その心配をされているのかな?


「ああ、大丈夫。俺は酒には強い方だ。」

「そ、そうなんですね…。」


 ウェイトレスは、チラリとカティアを見ると、席を離れていった。


「おい…あれ、やっぱヤバいんじゃないかッ!?」

「お、俺は帰るぜッ!」


 相変わらず、店の中は俺たちに視線が集まってる様だ。


「何か、皆んな俺たちの事見てないか?」

「まあ、こんな可愛い娘がいたら、視線集めちゃうかもね!」

「…鏡見てこい。」

「酷ッ!…まあ冗談は置いておいて、やっぱり有名になってる事は否定しないわ。これから、色々な人間から絡まれるでしょうね。」

「はぁ…めんどくさ…。」

「でも、これだけは忘れないで!私達はチームだから!何かあったら、私に相談して。わかった?」

「ああ、そうするわ。」

「だから、他の人間がチームを組みたいとか、パーティーに参加してくれとか言って来ても、私の承諾なしに応じないで!! どうせ、貴方の事を金ヅルにしか考えてないから!」

「……カティアも同じこと、さっきギルドで言ってたよな?」

「うっ…それは…。ごめん…。」


 クエントとミシェルと仕事をしてた時も、俺と仕事をすればいつもより稼げると言っていた。俺はレンジャーとしては優秀らしい。…崩壊前のハイテク技術の恩恵を受けてはいるが。

 まあ、知らない奴らと組むよりも、ガラルドの関係者の方がよっぽど信用できる。カティアにはああ言ったが、確かにカティアは可愛い。…身近に最高の女(ロゼッタ)がいるせいで(かす)んでしまうが、むさい野郎と組むよりは絶対に良い。


 だから、カティアと組んで良かったと思っていた。…この時までは。



「お、お待たせしました〜…。」


 しばらくして、先程のウェイトレスが料理と酒を運んできた。


「じゃ、私達のチームの結成に乾杯しましょ!」

「ああ、そうだな。」


-チンッ!


 お互いのグラスを合わせて、酒を口に運ぶ。酒は、『店で一番強い酒』という銘の通り、最近飲んだ物の中では一番酒精が強く感じられた。…だが、俺の口には合わなかった。もう飲みたくないな。


「…ん? う〜ん…?」

「なんだ、カティア? 急に唸りだして…。」

「いや、何か…。ねぇ、これちゃんとお酒入ってるの?」

「は、はい!確かにお酒ですよッ!!」


 カティアが、近くにいたウェイトレスを捕まえて、何やら問いただしている。


「どうしたんだ?」

「いや、何かお酒っぽくなくて…。」


 カティアは何かのカクテルを注文していたようだが、甘いカクテルはアルコールが感じられないこともある。きっと、そんな感覚なのだろう。


「まあ、カクテルだからな。あ、お姉さん!ウイスキー、ストレートで!」

「…まあ、いいや。料理食べましょ!」

「そうだな。」

「あれ、そういえばヴィクター…今注文してたけど、それ飲まないの?」

「ああ。アルコールは強いけど、それだけだな。何かで割って飲むのがいいかもしれないが、俺の口には合わなかったよ。」

「ふ〜ん。じゃあ、私に頂戴。勿体ないし。」

「ああ、ほら。」


 カティアは俺のグラスを受け取ると、一気に飲み干した。その瞬間、店内がどよめいた。


「あ、あの野郎ッ!やりやがった!!」

「決めた!俺は帰るぜッ!!」

「畜生ッ!せっかく楽しく飲んでたのに!!」

「ヤバいぞ…おいおい、冗談抜きでヤバい…!!」


 席を立って店を出る者や、こちらの様子を窺っている者で、酒場は急に騒がしくなってしまった。

 …カティアみたいな娘が、店で一番強い酒を飲み干したもんだから、皆んな騒いでるのかな?出て行った者は、自分より酒が強い娘に腹を立てたとか?まあ、そんな感じだろう。



 * * *



-10分後…


「……ヒック!」

「なあ、カティア…大丈夫か?」

「うぇ?にゃ〜にぃがぁ?」

「顔真っ赤だし、呂律回ってないし…何か目が据わってるぞ!」

「らいじょ〜ぶれ〜す!かてぃあちゃんは、つよいこらからッ!」


 これは完全に酔っ払ってるな。成人(崩壊前の成人は16歳)してるとはいえ、まだ18だ。強い酒に慣れていなかったのだろうか?


「あの、お客様…。」

「ああ、ウェイトレスさん。お水貰えます?」

「何、呑気な事言ってるのよッ!? せっかく、アルコール抜きにしてたのにッ!! なんで、乱射姫にお酒飲ませちゃうのッ!?」

「ん、抜いてたって…この店、酒薄めてるのか!?詐欺か!?」

「そんな次元の話じゃないのよッ!!」


 この店は、意図的にアルコールを抜いていた。…それも、話の流れ的にカティアを対象にして。


「うぃ〜…はれ?野盗だぁ!!」

「ああ、もうお(しま)いよッ!! 私は逃げるわッ!!」

「あっ、おいッ!」


 ウェイトレスは、酔っ払ったカティアを見ると、店の外へと逃げ出した。それを契機に、店内の客が店の出入り口に殺到した。


「どけッ!どけぇぇッッ!!」

「ヒィーッ!!た、助けてくれぇぇ!!」

「嫌だぁ!死にたくねぇゾ!!」

「お、お助け〜ッ!!」


 その光景に、俺は呆然と眺めるしかできなかった。


「…一体何なんだ?なぁ、カティア?」

「うぇへへへへ〜!」

「…お前、何やってんの?」


 カティアは、自前の得物を構えて、コッキングレバーを引いていた。あの状態だと、引き金を引けば発砲できる…。


「野盗めぇ〜!くらえ〜!」

「…マジ?」


-ダダダダダダダッ!

「「「「 ウワァァァッ!!! 」」」」


 俺は瞬時に床に伏せた。その直後、カティアは店内に向けて、銃をフルオートで乱射し始めた。

 店内の窓ガラスが割れ、カウンターの奥の酒瓶が割れ、テーブルのグラスが割れ、逃げ遅れた人達が床に伏せ悲鳴を上げている。


 そして弾が切れ、銃声が止んだ瞬間に、人々は立ち上がり再び入り口に殺到する。


「おいカティアっ!!テメェ、何やってんだッ!!」

「ふぇ?だ〜れ〜?」

「ヴィクターだ!お前、いい加減にしろよッ!!」

「ヴィクター?あ〜わたしのかねづる〜!何でおこってるのぉ〜?おっぱい揉む?」


 カティアが俺のことをどう思ってるかは、よく分かった。カティアは、テーブルに寄りかかり、両腕を締めて胸を強調している。前も揉んだけど、コイツ意外と着痩せするんだな。…って、そうじゃない!

 カティアは今、銃をテーブルの上に乗せて無防備だ。やるなら今しかないッ!!


 俺は素早く、テーブルの上からカティアの銃を奪った。


「よし!これでもう大丈夫だ!」

「あ〜ッ!!わたしの〜!かえせ〜ッ!!」

「お前はいい加減に、目を覚ませッ!」

「む〜、だったら!」


 カティアは、腰のポーチから金属の筒とライターを取り出した。…見たことある。スラムの拠点襲撃の際に使った、パイプ爆弾だ。


「ま、待て!落ち着けってッ!!」

「アハハハッ!」

「ぎゃあ!火つけやがったッ!!」


 カティアは導火線に火をつけると、店の奥のカウンターの中へと、笑いながら飛び込んだ。


 俺は、腰に装着していたポーチ状に折り畳まれた防弾シールドを展開させる。これは、かつて警察が使っていた物で、遮蔽物のない場所に即座に身を隠せるシールドを展開することができるものだ。

 本来なら、小口径の小銃弾クラスの防弾性能だが、爆発の破片くらい防ぐことも出来るはずだ!


「クソッタレ!!」


 俺は、シールドをカティアの投げた手榴弾に向けると、その場に伏せて、腕でシールドの底部を抑える。


-ドォンッ!!…パラパラ。


「…勘弁してくれ。」


 どうやら助かったらしい。シールドを見ると、大量の破片を受けてズタボロになっており、再使用は絶望的だった。

 俺は立ち上がり、カティアの隠れたカウンターへと歩みを進める。


「…カーティーアーッ!!テメェ、なんて事してくれるんだッ!!」

「…むにゃ、〜ん。」

「クソッ!幸せそうな顔で寝やがってッ!」


 カウンターの中を見ると、カティアは床に丸まって寝息を立てていた。


「…これ、どう後始末すりゃいいんだ?」


 こうして、乱射姫の異名の意味を理解したヴィクターであった。

【ポータブルシールド®︎】

 連合陣営の産学協同研究で開発された、折りたたみ式携帯バリスティックシールド。後に強化服にも応用されたとされる、特殊な防弾繊維と、それを支える為の軽量なチタンアルミニウム合金製の骨組みから成る。

 ポーチ型の人間一人をカバー出来るタイプや、箱型の大型タイプが存在する。ポーチ型は携帯性が高いが、防弾繊維が薄い為に防弾機能が限定される。箱型の物は、大きさに余裕があり、防弾繊維が多層構造になっている為、高い防弾性能を誇る。



モデル  BYU  Bullet Proof Origami

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