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終末世界へようこそ -目覚めたら世紀末でした-  作者: ウムラウト
本編

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62/199

57 決着

 反撃開始…と言っても、相手を殺しはしない。対峙している相手達は、一応ギルドの関係者だし、一連の事件に関与してるようにも見えない。もし、ギルド関係者を殺した事で、指名手配されたりなんかしたら堪らない。

 ここは銃器を使わずに、格闘戦で相手を無力化する必要がある。服のお礼もしないとだしな…。


 問題は、男達の戦闘力だ。先程の陽動と連携は見事だったが、先程の動きだけでは彼らの戦闘力が測れなかった。

 それを確認する目的も込めて、手始めに俺は腰からカランビットナイフを抜いて、前衛の男の首元に斬りかかった。すると、男は上体を反らして俺の攻撃を避けると、手に持つ警棒で反撃してきた。その動きは素早く、無駄が感じられない。

 やはりコイツ等、相当な手練(てだ)れだ。恐らく、俺がノア6を出てから戦った人間の中で、一番強いんじゃないか?反撃開始だ!と意気込んだものの、そんな奴を二人も相手にしなくてはならないとは、想定外だな…。


-パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

「おっと!」


 前衛の男と攻防戦をしていると、突然、前衛の男が後ろに飛び退き、後衛の男が再度俺に向けて拳銃を発砲してきた。俺は、前衛と後衛が重なる直線上に自分が来るように動き、後衛の男の銃撃を回避する。こうすると、俺を狙う射線が前衛に重なるので、後衛は発砲できないはずだ。

 だが、これでは俺の行動が限定されているようなものだ。


「だったらッ!」


 ナイフを構え直して、再び前衛の男に接近する。

 俺は、先程の前衛とのやりとりで確信した。コイツ等は確かに強い…が、俺の方が強い。このまま前衛に肉薄し、前衛を格闘戦に持ち込む。前衛に張り付けば、後衛も味方への誤射を避けるために発砲できないはずだ。先程は、トドメを刺す前に距離を取られてしまったが、今度は瞬殺できるはずだ。

 しかし、敵もそんな事は想定済みのようだった。俺が接近するのを見て、前衛の男は警棒を持つ手とは逆の手で、後衛の持っている物と同じ型と見られる拳銃を構えると、後退しつつ俺に向けて発砲してきた。


「マジかよ!?」

-パンッ!パンッ!パンッ!


「クソッ!以心伝心ってか!?」

-パンッ!パンッ!パンッ!

-パンッ!パンッ!パンッ!


 俺は、後ろに飛び退きながら前衛からの銃撃を避けるが、すぐに前衛は横に移動し、後衛はその逆の方向に移動した。そして二人からの、拳銃の十字砲火を受けるはめになった。このままでは、避けきれずにいずれ被弾するかもしれない。体は強化服が守ってくれるが、頭は無防備だ。絶対に当たる訳にはいかないし、これ以上服に穴を開けたくもない。

 俺は、隙を見てギルド入り口の扉に突進すると、扉を蹴破る。そして扉が外れ、建物の中へと倒れると同時に、俺も建物の中に飛び込んだ。


-ドバァンッッ!!

「な…なにっ!? …ってヴィクターじゃない!!」

「ああ、カティアか…。」


 ギルドの中に飛び込むと、中にいた職員や人間がこちらを見つめてくる。…どうやら敵も中までは追ってこれないようだ。職員や無関係の人間を誤射でもしたら一大事だからな。卑怯かもしれないが、あの場から逃れるには建物の中に逃げるのが手っ取り早かった。


「ねえ、さっきから何なの? 銃声がしてたから、出るに出られなかったのよ…フェイもいるし。」


 カティアは、心配そうにこちらを見つめるフェイを指さす。フェイの頬は、先ほどの平手打ちのせいか赤くなってしまっている。


「…副支部長が旅団の連中とグルだったみたいでな? 指摘したら逆上して、襲ってきやがった。」

「マジ!?」

「…やっぱり。」

「…知ってたのかフェイ? 俺は何も聞いてないが。」

「え、ええ…実はカティアに頼んだ依頼も、あの男の裏を取る目的もあったの…。狼旅団のアジトから、対象のレンジャーを見つけて、捕まえて、事情聴取すれば…と思ってたの。」

「何それ、私も聞いてないわよ! え…もしかして、私ってそこまで信用されてないの!?」

「ご…ごめんなさい…二人とも…。ち、違うの…騙すつもりは無くて…その…。」


 フェイは、恐らく副支部長の不審な行動に気が付いていたのだろう。彼女なりに色々と調査していたようだが、俺がカティア救出の依頼を受けた時も、この事は伝えられていなかった。敵を騙すにはまず味方から、とも言うしな。万一、疑っていることが副支部長にバレても、カティアのような協力者に累が及ばぬように…という思いでもあったのだろう。


「まあいい。で、今は外にいる敵さんをどうするかだな…。」

「…敵は何人? 私も加勢しよっか? こう見えて私、“英雄の弟子”だからね!頼ってもいいのよ?」


 カティアは、持っていた突撃銃(ダム)を掲げて笑顔…ドヤ顔をしている。


「それを言うなら、俺だってガラルドの弟子だぞ。」

「ハッ、どうかしらね? 車の中での話だけじゃ、いまいち信用できないんだけどねっ!」

「…敵は、二人だ。でも俺一人で大丈夫だぞ。」

「何でよ? ここに逃げ込んだって事は、苦戦してるんでしょ? いいから、敵の情報教えなさいよ!」

「敵の武器は、警棒と拳銃だな。あと、二人とも体格がいい男だ。…確か、副支部長が執行官?とか何とか言ってたかな。」

「え…し、しっこうかん? マジ?あの二人の相手してんの!?。やっぱり私、遠慮しとこうかな…。」

「そんな…まさかあの二人が相手なんてッ!?」

「何だよ、二人とも。あの男達、知り合いか? やっぱ、殺さなくてよかった…撃ち返さなくて正解だったな。カティア、これ預かっといてくれ。」

「え。あ、ちょっと!なによこれ…って何脱いでるのよ!?」

「きゃあ!」


 俺は、カティアに担いでたアサルトライフルを預けると、着ている衣服を脱ぎ強化服だけになる。そして、腰にぶら下げていたガスマスクを装着する。これは、服が破けないようにするためと、光学迷彩を使用するためだ。とりあえずギルドの建物内に逃げ込んだが、このままでは建物を出たとたんに狙い撃ちされる。

 邪魔な荷物をカティアたちに預けると、俺はギルドの入口へと走る。


『じゃあカティア、荷物頼むわ!』

「あ、ちょっと! …また変なマスクしてるし。」


 そして、ギルドの正面玄関に近づいたところで光学迷彩を起動させる。俺が蹴破った時に外してしまった扉を踏みつけながら外に出ると、例の執行官の男達が片膝をついて拳銃を構えている。俺が出てくる瞬間を狙っているのだろうが、光学迷彩で不可視化しているお陰で気付かれていないようだ。

 俺は足音を立てないように男達の背後に回ると、光学迷彩を解除し、マスクを外す。普段だったら、背後からこっそり…とやっていたが、溜まっているせいもあるのだろうか、この時の俺は好戦的になっていた。それに副支部長のクソ野郎に、俺が戦って勝つ所を見せつければ、頼りにしている用心棒?を失って大人しくなるはずだ。


「おい!どこ見てんだ!? 敵に背後晒すなんて、随分余裕なんだな?」

「「 ッ! 」」


 二人が振り向いた瞬間、俺は動き出した。後衛だった男に接近し、拳銃を持った手を(ひね)って拳銃を地面に落とし、蹴って男から遠ざける。拳銃を失った男は警棒を取り出すと、俺の鳩尾(みぞおち)向けて突き出してきた。俺はナイフを引っ掛けて、男の警棒を持った手を抑えると、そのまま手首を捻ってその手を斬りつけつつ、反対の腕で男の後頭部を抑えて、腹に向けて膝蹴りを叩き込む。その後、男の足を引っかけて俺の後方へと引き倒した。

 倒れた男は気を失ったようで、再び立ち上がることは無かった。これで、あと一人…。俺は、前衛だった男に対峙する。


「これでタイマンになったな?」

「……。」

「無口な奴らだな…。」


 今までに起きた事(俺が被弾しても平気な事、突然俺が後方から現れた事、相棒が一瞬でやられた事)に驚いているのか、コイツ等は今まで一言も喋っていない。ただ無口なだけかもしれないが…。

 男は拳銃をしまうと、警棒を握り直して、俺に攻撃してくる。さらに警棒だけでなく、空いた手でパンチやキックが飛んでくる。俺は、攻撃を捌きつつナイフでチクチクと、重症にならない程度に攻撃を加えていった。

 しばらくして、男の動きが傷のせいで悪くなり、隙を狙って俺は相手の背後に回りナイフを首に当てる。もちろん、脅すだけで斬りはしない。


「…俺の勝ちだな。」

「…ふっ、見事。」


 男を解放すると、その場に座り込んだ。負けを認めたのか、もう戦うつもりは無いようだ。


「ヴィクター!」


 声がする方を見ると、カティア達が外に出てきたようだ。どうやら、戦いの一部始終を見ていたらしい。


「そ、そんな…執行官を倒すなんて…。」

「凄いわね、あんた何者よ!?」

「おい、フェイ!コイツらの手当てしてくれ。」

「え、ええ…。アレッタ、中から救急箱持って来て!」

「は、はい!」

「それからこうなった以上、報酬は増やしてもらわないと割に合わないな。」


 俺の言葉に、フェイはビクッと身体を震わせて、両手で自分の肩を抱いた。そして、キッ!と俺を睨んだ。


「なっ!これ以上、私に何を要求するのッ!?」

「フェイ?ヴィクター?なんの話してるの?」

「カティア、あなたには関係な…。」

「お前の救助…実は、フェイから依頼受けててな?その報酬の話だ。」

「くっ!…空気読みなさいよッ!」

「ちょっと!関係なくないじゃない! てか、ヴィクター…あんた、どんだけフェイに吹っ掛けたのよ…。」

「いや、金は要求してないぞ?そうだなぁ…。じゃあ、報酬はその格好…受付嬢の制服で渡しに来い!それで勘弁してやる。」

「なっ…!?」

「それよりカティア、副支部長のクソ野郎をとっちめに行くぞ。」

「あっ、行く行く!」


 カティアを連れてギルド前に停めていたトラックに近づくと、トラックの運転手達が副支部長を抑えてくれていた。…こんな事ならやはり、あの男達とわざわざ戦う必要無かったな。


「クソォ!! 離せぇ!」

「お、何だよ。こんな事なら、さっさと済ませりゃ良かったな…。」

「マスク様! この男が逃げ出そうとしていたので、捕らえておきました。」

「ご苦労様。」

「き…貴様!執行官を倒すだと…一体何者だ!?」

「あ? 人に物を聞くときは、そんな態度でいいのかよ?」

「私は支部長だぞ! 貴様、こんな事して…」

「うるせぇ!」

「だぶぇ! な、何をする!!」


 副支部長は俺に気が付くと、突っかかってくる。ムカついたので、顔に平手打ちをしておいた。フェイの分ってやつかな?

 それにしてもピートといい、コイツ等悪人はやたらと尊大な態度をとるが、この状況を何とか出来ると思っているのか…。


「いやぁ~、普段から胡散臭くてムカツク奴だったけど、まさかこんな事してたなんてね。」

「…ん?確か貴様は…。そうか、そういう事か!」

「…何よ?」

「小娘!貴様、あのガラルド・ラヴェインの弟子だろう?」

「あら、今まで分からなかったの? それでよくギルドで働けるわね?」

「うるさい! ええい、忌々しい!! この娘と一緒にいるという事は、貴様もやはりガラルドの弟子だったんだろう!?」

「…だったら何だよ?」

「貴様!私が聞いた時は、否定したではないか!?」

「あ~、今思い出したわ。俺、ガラルドの弟子だったわ。」

「ク…クソォ! こんな事なら、早急に処理しておくべきだった!!」

「処理? 穏やかじゃないな…やっぱコイツ、野盗共とグルで間違いないわ。」

「うっわ、最低!」

「ふん!ただのレンジャーに何ができる? 貴様らの証言なぞ、信頼性に欠けるから簡単に握りつぶせるわ!それよりも、ギルド関係者に手を上げた事と、この街の有力者であるスカドール家を敵に回して、ただで済むと思うなよ!!」


 有力者の犯罪というのは厄介だ。崩壊前も、交通事故を起こした政治家が、『逃亡の恐れなし』として逮捕されることなく、そのまま裁判になった事件があった。…当然、市民の感情を逆なでする事となったが、警察も裁判所も本人を拘束することは無く、当の本人は休日にゴルフに勤しむ姿がパパラッチされるなど、社会的な問題になっていた。

 その事を思い出した俺は、少しマズい状態だと感じた。俺は今、この街の実力者の二人を捕縛している。さらにその二人は、ギルドと自治防衛隊という、崩壊前における司法機関に相当する組織の長に近い。似たような組織である警備隊は俺の味方になってくれるだろうが、警備隊はギルドに頭が上がらないし、自治防衛隊とは犬猿の仲だ。とても期待できない…。どうしたらいい?

 そこへ、執行官の男達の手当を他の者に任せたのか、フェイがこちらにやってきた。


「副支部長…いえ、パンテン・ルーンベルト!! ギルドへの裏切りは重罪です!分かっているのですか!?」

「ふん!それで? それを裁くのは君ではないだろう?支部長たるこの私を裁くことができるのは、ギルド本部の幹部役員クラスの人間だけだ!」

「くッ…!」

「フェイ、何とかならないの!?」

「……ダメ。どれだけ証拠があっても、この男より上の身分の者が出て来ないと裁けない。」

「そんな!」

「はっはっは!よく勉強してるじゃないか! さあ、早く私の拘束を解いて、そこの野盗二人を捕まえろ!」


 くそ、調子に乗りやがって…。別に、ここでコイツを殺してしまってもいいんじゃないか?別に、このままレンジャーを続ける必要もないし、大抵の奴は返り討ちに出来る。この街から逃げるなんて、造作もないだろう。

 俺は、気がつくと腰の拳銃に手を伸ばしていた。が、俺の行動を(いさ)めるように、ロゼッタからの通信が入る。


≪ヴィクター様。≫

≪何だ!? 今ちょっと取り込み中だ。≫

≪申し訳ありません。ですが、付近を飛行中の航空機を発見したので、ご報告をと思いまして…。≫

≪航空機?≫

≪はい。申し訳ございません…施設でトラブルが発生した為、発見が遅れました。≫

≪トラブル?…まあいい、その航空機は?≫

≪恐らく、連合軍の【MV-88】ティルトローター機です。そちらに接近しています。≫

≪なに!?≫


「はっはっはっは!」

-グゥオォォン!

「私に歯向かった事、後悔するがいい!!」

-バタバタバタバタ!

「ん?騒々しい、何の音だ!?」


 ヘリコプターなどに特有の、ローターが風を切る音が空から聞こえてきた。その場にいた全員が、口を閉ざし、空を眺めていた。空を見るとロゼッタの報告通り、連合軍の使用していたティルトローター式垂直離着陸機の姿があった。どうやら、ギルド前の広場に着陸するようだ。

 皆が見守る中、航空機は広場に着陸する。そして着陸時に巻き上がった風により、ギルド前は一時騒然となり、しばらくして航空機はエンジンを止める。

 航空機の胴体には、ギルドのエンブレムが塗装されており、ギルドの航空機だということが分かる。


(何で、こんな物が崩壊後の世界にあるんだ!?)


 航空機は整備が欠かせない。運用するにはそれなりの技術力が要求されるのだ。ギルドには、それだけの力があるのだろうか? だとしたら、何故その技術を用いて世界を再建しないのか?様々な疑問が浮かぶ中、航空機から一人の老人が降りてくるのが見えた。

【MV-88】

 連合軍の使用していた多用途ティルトローター機。電動で、電力は外部電源方式を採用し、衛星から電力を受信する事で、超長大な航続距離を実現している。

 崩壊後の世界でも、ギルドによって数機が連絡用として用いられているようだが、何故ギルドがこの高度な機械の整備や運用ができるかは現時点では不明。


モデル  ベル V-280 ヴェイラー



ロゼ≪ヴィクター様。収容者の一人が暴れておりますが、いかがいたしましょう?≫

ヴィ≪誰が暴れてるんだ?≫

ロゼ≪赤毛の女性です。≫

ヴィ≪あ~、あのアスリート系の娘ね。出来るだけ傷つけないように痛めつけてくれ。あの時のガスマスクは忘れずにつけてな。≫

ロゼ≪痛めつける…とは、どのようにすればいいか、具体的にお教えくださいますか?≫

ヴィ≪う~ん。攻撃してきたら、全て捌いて実力差を理解させればいい。それで多分、大人しくなる。≫

ロゼ≪承りました。≫

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