54 カティア救出作戦2
注:今さらですが、この作品では登場するキャラクターが酷い目に遭うことがしばしばあります。ご注意下さい。
「え…きゃあッ!!」
「ゲヘヘへへッ!!」
「ちょっと、どきなさいよ!! ク…ソッ、こいつ…重いぃ…。」
「ヒヒヒ…これでこの女を自由に…」
「い、いやぁッ! やめてッ!」
地下への入り口を見つけて地下へと降りてきたが、独房の1つから男と女が揉めている声が聞こえてくる。独房の扉を開けると、ブサイクなデブが女の上に馬乗りになっており、その手には拘束首輪が握られていた。
『…あ〜、お取り込み中ですかね?』
「だ、誰だッ!」
『うわっ、とんでもねぇブサイクだな…親の顔が見てみたいな…。』
「ぎ…ぎざまぁッ!!」
デブが女から離れ、立ち上がると、俺に向かってきた。てか、何かキレてんな?煽らなくても良かったかもな。
俺は迎撃しようと構えをとったが、デブが立ち上がった直後に、女が背後からデブの股ぐらを蹴り上げた。デブは苦悶の表情でブサイクな顔に磨きをかけ、奇声を発する。それにしても、かなり強烈な蹴りだった…タマタマが無事に済めばいいが…。
「ポピョォッ!!」
「うわぁ…プチっていった…気持ち悪…。」
『…うわぁ、痛そう!』
…ダメだったみたいだな。俺は絶対にあんな目には遭いたくないな…。
女はこちらに目を向けると、訝し気な顔をする。
「…あなた、誰?」
『…お前がカティアか?』
状況的に、この娘がカティアで間違いは無いだろう。俺は、ガラルドとの会話を思い出しながら、ガスマスクを外す。
(まあ、街に帰ったら良い女でも紹介してやるよ!)
(え、マジ!?どんな娘なんだ!?)
(俺の弟子みたいな奴でな、髪は綺麗な栗色で、瞳は緑色だったな。元気でかわいい奴よ!お前さんのレンジャーの先輩って事になるのか。)
(俺、金髪で巨乳な娘が好きなんだけど…。)
(……なんか、わがままな奴だな。まあ、出るとこは出ててな、いいケツしてるぞ!)
女の顎を掴み、瞳と髪を見る。確かに瞳は緑色だし、髪も栗色だ。…だが。
「そ、そうだけど……ふぇ!?」
「緑の瞳に、明るい栗色の髪…そして…。」
「きゃっ!」
「…出るとこは出てる…のか?うーむ…。」
女の胸を触ってみる。あるにはあるのだが、さっき戦った野盗の女の方が大きかったな。もちろん、ロゼッタとは比べるまでも無い…。本当にこの娘、カティアなのか?何か、期待してたのと違う気がするんだが…。
「…ガラルドの言ってた通り…なのか? あんた、ガラルドの弟子のカティアであってるか?」
「…いつまで触ってんのよッ!!」
そういえば、いいケツとか言ってたな…と思い、女の尻に手を伸ばそうとしたら、縛られた両腕を振り上げてきた。咄嗟に避けられたはいいが、なんか危ない奴だなコイツ…。確か、ガラルドもやんちゃな奴って言ってた気がする。やはり、この娘がカティアで間違いなさそうだな。
「危ないなぁ…。」
「な、何なのよアンタ!? 人の胸揉みしだいておいて!」
「俺? ガラルドの弟子、ヴィクターだ。お前を助けに来た。」
「あ、あなたが!? ちょっと、詳しい話聞きたいんだけど!?」
「後にしてくれ。今、忙しいんだ。」
「はぁ!?」
「これから、このアジトを制圧しなくちゃならないからな。」
「あ、アジトを制圧って…あなた正気なの!?」
「じゃ、ここで待っててくれな。終わったら呼びに来るから…。」
「ま、待ちなさいよ!私も行く!!」
「いや、お前丸腰じゃん。待ってろよ…。」
「そ、そうだけど…。い、行くったら行くの!」
「はぁ!?」
俺は独房を出ようとするが、カティアがついて行くと言って聞かない。カティアの無事が、俺の依頼の成功条件なのだ。安全な場所にいてもらわねば困ると思ったが、良い事を思いついた。
俺はカティアに付いてくるように言って、カティアの拘束されていた腕を解放してやる。
「ふぅ~やっと自由だぁ!ん~肩凝ったぁ!」
『…行くぞ。』
「あ、ちょっと待ってよ! …ねえアンタ、またそのマスクして…何なのソレ? ちょっと不気味よ?外したら?」
『…必要な物だ、そのうち分かるさ。』
「ふ~ん?」
俺はカティアを連れて階段を上り、本部への連絡通路へと向かう。
「え…ジュ、ジュディ!?」
『ん?』
カティアが、廊下の端で倒れている先ほど俺が眠らせた女に駆け寄ると、その肩を叩きだす。
「ちょっ、ちょっとジュディ!しっかりしなさいよッ!!」
『無駄だ。そんなことしても(しばらくの間)起きることは無い。』
「ッ! そ、それって!……この娘、あなたがやったの?」
『ああ、抵抗されたからな。仕方ない…。知り合いだったのか?悪かったな…。』
「ええ…でも、大丈夫。…うん。ジュディ…どうか安らかに。」
『……なんかお前、勘違いしてないか?』
「さあ、行くわよ!」
カティアが連絡通路へと駆けていく。連絡通路を見ると、鉄格子が付いた窓があるが、ガラスが割れてほぼ吹きっ晒しになっている。…つまり外のガスが中に入ってきているはずだ。
「ん、んん? ッ!……な…うっ……きゅぅ…。」
『……計画通り。このマスクが必要な理由、分かってくれたか?って聞こえないか。』
カティアはガスを吸い込んだようで、フラフラして足元がおぼつかなくなっている。ガスが効いて、意識が遠のいているようだ。
カティアの身体が倒れないように肩を貸して、近くの安全そうな部屋に寝かせる。うまいこと気を失ってくれたようだ。これで良し、今のうちにロゼッタとの合流を急ごう。
本部に入ると、いたるところに人が倒れている。作戦は上手くいったようだな…。歩いていると、ロゼッタから通信が入った。
≪ヴィクター様…。≫
≪ロゼッタか…。こちらは目標の確保に成功したぞ。≫
≪流石です、ヴィクター様。それと、御無事で何よりです。≫
≪ロゼッタもな。…で、何か問題か?≫
≪はい。本部は大方制圧し、最上階でリーダーと思しき人物を拘束しました。ですが、まだ最上階の制圧が完了していません。何故か人口密度の高い大きな部屋がありまして…。どうやら、最上階まではガスが届いていなかったようで、今後の判断を仰ぎたく…。≫
≪分かった。これから向かう、合流しよう。≫
≪了解いたしました。≫
* * *
-ヴィクターとロゼッタが通信している頃
@拘置所本部棟5F 入札室
拘置所の最上階には、かつて入札室として使われた広い部屋があった。今では、狼旅団の構成員が使う食堂や酒場のような所として利用されているようだ。
「ヒック…何だぁ嬢ちゃん達、子供は寝る時間だろ〜?眠れないなら、おっちゃんが添い寝してやろうかぁ~?」
「…酒臭い。」
「いやぁ~、勘弁してほしいっす!」
「ハハハ、自分の子供と同い年みたいな娘を抱きたいのか、お前?とんだ変態野郎だな!」
「へへ。女は若い方がいいに決まってんだろォ! …ヒック。」
「おいおっさん、酔い過ぎだろ…。」
カイナとノーラの二人組は、ガス散布が始まる直前に外の見張りのシフトを終えて、この食堂で遅めの夕食を摂っていた。食堂とは言うものの、そこは略奪してきた食料や酒で溢れてほぼ酒場と化している為、こうして酔っ払いに絡まれることは多かった。このアジトには女性の構成員が少ない為、絡んでくる男が多いのだ。いつもは二人にとってのリーダー格であるジュディが、そういう輩を追い払ってくれていた。だが、今日は彼女の不在をいい事に、こうして3人の男達に絡まれてしまった。
(ジュディ、遅いっすね~。この人達、ちょっとしつこいっす!何とかして欲しいっすよ…。)
「…お酒臭い。どっか行って欲しい。」
「悪いな、嬢ちゃん達。このおっさん、酔っぱらうといつもこうでさ。…そういえば、今日はあの娘は一緒じゃないのか?」
「?…ジュディのことっすかね?」
「そう、その娘! 俺、あの娘タイプなんだよ!あの腹筋、くびれ…そして筋肉質でしなやかな身体に似合わぬ、あの女性らしい豊かな胸ッ!!」
「は…はあ……。」
「是非とも、紹介してほしいんだ!」
「う~ん、でもジュディ…自分より弱い男はダメって言ってたっすよ?」
「ハハハ! 農場暮らしが嫌で、村から逃げ出してきた若造にゃあの娘は無理だな!!」
「うっせぇ!万年Dランクレンジャーだったおっさんに言われたくないね! 俺はこれから強くなって、立派な野盗になって、彼女をものにしてやるんだ!」
「…無理だと思う。」
「まあ、頑張ってみるのがいいんじゃないっすか?」
「ハハハ!この嬢ちゃん達にも馬鹿にされてるぞ?若造?」
「くっそ~! おい、変態のおっさんも何か言ってくれよ!」
「…zzz」
「って、寝てんのかよ!?」
カイナとノーラの二人は、いつもここでジュディを待って、三人で夕食を共にしていたのだが、今日はなかなかかえって来ない。もう交代の時間は過ぎているはずなのだが…。
「ジュディ…遅いっすね。何かあったんすかね?ねえ、ノーラ?」
「…分からない。」
「ジュディ、今日のシフトどこだったっすかね?」
「…倉庫番。」
「倉庫…そういえばカティア、元気にしてるっすかね?」
「…多分。」
「あ! もしかして、カティアと何か話してるから遅くなってるんじゃ!?」
「…そうかも。」
「カティアか……。ねえノーラ、ウチらこのままでいいんすかね?」
「…ダメだと思う。」
「そ、そんなハッキリ!? でも、他に何をすればいいんすかね?」
「……。」
二人は野盗になったものの、まだ割り切れておらず、日々罪悪感を感じていた。
確かに、他に食べていけるような仕事も無いし、レンジャーをやっていた時よりも食料には余裕がある。だが、このまま野盗として生きていって、本当に良いのだろうか?
「はぁ…どうしたもんすかねぇ…。 ん?」
「…どうしたの?」
カイナは食堂の入り口に目を向ける。扉が一瞬開いたかと思ったら、金属の球のような物が飛んできて、食堂の床に転がる。
-カランコロン…。
「何すか、あれ?」
「…ん、よく見えない。」
「ああ!ノーラが立つと、ウチも見えないっすよ!」
-ドガァンッ!!
「「 ッ!! 」」
ノーラが椅子から立ち上がり、カイナの視線を塞いだと思ったら、突然飛んできた金属の球が爆発したのだ。爆風により、2人の身体は吹き飛ばされる。灯りが消え、舞い上がった埃により辺りが灰色になった。
「けほっけほっ…な、何が起こったんすか!?」
キーンと耳鳴りがするのを感じつつ、カイナは周りを伺う。周りには倒れて動かなくなった者や、呻いている者、身体の一部が無くなったと騒いでいる者がいた。先程絡んできた酔っ払い達も、床に倒れている。
ジュディを紹介して欲しいと言ってきた青年も、全身が血まみれで、右手が無くなっているように見える…。
「て、手がぁ!俺の手がァ!!」
「ひ、酷い! な…なんなんすか、これは!?」
「カ、カイナ…!」
「ノ、ノーラ!? 大丈夫っす…か……。」
ノーラの右腕はズタズタになっており、ドクドクと血が滴っていた。よく見れば、腕以外にも身体のいたるところに傷がついて、額からも血が流れている。
「カイナ…カイナっ! 痛いッ!痛いよぉ!!」
「ノーラ!大丈夫っすかッ!? なんでこんな…。」
「痛い痛い痛いッ!! カイナ、カイナ!助けてッ!助けてよッ!!」
「えっえっえっ!? ああッ!ど、どどどどうすれば!?」
普段感情を表に出さず、いつも無口で冷静なノーラが取り乱している。ズタズタになった自分の腕を見て、痛みに泣き喚いている。
突然の出来事と、親友の惨状と変貌ぶりに、カイナの良いとは言えない脳みそはパンクする。
-ズダァン! -ズダァン!
「な、なんなんすか!?」
オロオロしていたカイナであったが、突如響いてきた銃声に思わず振り返る。そこには、2人の不気味なマスクをつけた人間が、倒れている者に対して、拳銃を発砲していた…。
「イデェ、イデェよ…。な、なんだ…お前!?や、やめ…。」
『赤ですね。』
-ズダァン!
「いやだぁ!死にたく…。」
『黄色か?まあいいか。』
-ズダァン!
「う…うう…。」
『これも赤ですね。』
-ズダァン!
手負いの者に対してトドメを刺しながら、カイナ達の元へと近づいている。このままではマズい!
「ノ、ノーラ!逃げるっすよッ!!」
「痛いよぉ…死んじゃう。死にたくないよぉ…。」
「ノーラ、動かすっすよ!?」
「ッ! あががががッ!痛い痛いッ!!」
「ああ、ごめんなさい! で、でもこのままじゃ!!」
「た、助けてくれッ!」
「ッ!?」
背後から悲鳴が聞こえてきた。振り返って見ると、先程の青年の近くに不気味なマスクが近づいてきていた。
「嫌だぁ!!し、死にたくないッ! 悪い事なんてするんじゃなかったッ! …そうだ帰ろう!帰って実家の農場で働くんだ!今年は豊作になりそうだし、人手もいるはずだ。きっと親父も許してくれるはず…。」
『コイツは黄色だな。…じゃあ初めから野盗になるなよ。』
-ズダァン!
青年にトドメを刺した不気味なマスクが、こちらを向く。その顔は、血も涙も無いような恐ろしい顔だった。焦ったカイナは、ノーラの身体を抱き起こそうと振り返る。が、振り返った先にはもう一人の不気味なマスクがおり、カイナの額に銃の先を当ててくる。いつの間にか回り込まれてしまったようだ。カイナの脚は恐怖で震えて、何かを喋ろうとしても、呂律が回らなくなる。
「あ…ああ……あわわわ…。」
『…緑ですね。』
「ッ!」
殺されるッ! そう思って、目を瞑るカイナであったが、目の前からくぐもった声が聞こえ、恐る恐る目を開く。すると、目の前の不気味なマスクが、今度はカイナの足元にいるノーラに銃を向けていた。その光景に、カイナは恐怖を忘れ、不気味なマスクにノーラの命乞いをする。
『こっちは、赤…いや、黄色ですね。』
「ヒィッ!いや、嫌だよぉ…痛いよぉ…死にたくないよぉ…撃たないでぇ…。」
「ノ、ノーラ!? お、お願いっす!や、やめて欲しいっす…です!撃たないでッ!!」
『あ、そいつは撃たなくていいぞ。』
『はい、了解致しました。』
不気味なマスクが、銃を下ろした。ノーラは、先程までの死の恐怖が過ぎ去ったことと、痛みに耐えながら荒い呼吸をしている。もしかしたら、命だけは助けてくれるかもしれないと、少しだけ希望が湧いたカイナであったが…。
「はぁッ…はぁッ…はぁッ…。」
「あ、ありがとうございます!ノーラはウチの大切な…。」
-ドシュッ!
『お前は寝てろ。』
「…えっ?」
その後カイナが覚えていたのは、不気味なマスクがこちらに拳銃のようなものを向けていたところまでだった…。
* * *
-数十分後
@死都郊外 平原
俺とロゼッタは、最後に残った部屋に手榴弾を投げ込んだ。手榴弾といっても、崩壊後で使用されてるようなパイプ爆弾ではない。崩壊前の高性能なやつだ。それを部屋の中心部に向けて放り投げた。部屋は大きめだったが、これ一つで充分な効果は得られるはずだ。
だが、野盗であっても、殺さずに済むならそれに越した事はない。俺は虐殺者ではない。それに、生け捕りにした方が金になるしな。とは言っても、こちらが安全に部屋を制圧するには、この手段が最適だろう。どうせ相手は野盗だ。俺の恩人を…ガラルドを…他の真面目に生きている人間の人生を奪うような奴らだ。話が矛盾しているように感じるが、仕方ない…容赦無くやらせてもらおう。それに、外で眠っている野盗はかなりの数がいた…そいつらを連行すれば、十分に稼げるはずだ。
手榴弾の爆発後、食堂に踏み込むと部屋の中の人間は殆ど無力化できていた。即死した者、重症を負った者などがいたが、俺とロゼッタは軽傷者以外の者にトドメを刺して廻った。
赤や黄色と言うのは、怪我の状態を見てトリアージをしていたのだ。緑は生かしておいて、黄色や赤はその場でトドメを刺してやる。崩壊後の世界では、碌に医療環境が整ってない為に、重症患者の殆どが死んでしまう。長く苦しめるべきではない。大きな怪我や欠損の場合も同じだ。また、犯罪奴隷として後遺症を抱えていると価値が下がるので、わざわざ街まで連れて行く手間をかける必要もない。
途中、必死に命乞いしてくる者もいたが、だったら初めから野盗になんか、ならなければ良かったのだ。どんな理由があろうとも、それが野盗の存在を許す理由にはなるまい。
そして現在、効果の切れたガス散布装置を回収し、先程の女の子2人と廊下で戦った野盗の女を連れて、ロゼッタが着陸させたハミングバードの元まで来ていた。それらを積み込み終わると、ロゼッタがコックピットに乗り込み、キャノピーが閉められる。
-キュイイイイン!
《今日は助かった、ありがとうロゼッタ。》
《お役に立てて、良かったです。》
《俺も近い内に帰る! 詳しい指事は後で送るから、その3人の事は任せたぞ!》
《はい、お任せ下さい!》
ハミングバードが、ノア6へ飛び立っていく。
捕獲した娘…特に、食堂にいた娘の1人は重症だった。もう一方の奇跡的に無傷だった娘をダートピストルで眠らせた後、重症の娘の応急手当を行ったが、痛み止めの麻薬を注射したら、落ち着いたのか意識を失ってしまった。この娘も、ノア6でなら治療が出来る筈だ。
それにしても、まさか中に女の子が2人もいるとは思っていなかった…手榴弾を投げ込んだ事に少し後悔したが、結果的に3人の女の子を確保できた。彼女達は、後で色々と利用させてもらおう。
「さてと、俺も後始末しなくちゃな!」
俺は踵を返すと、拘置所跡へと戻って行った。




